超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第31話
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「それで今後の計画なんですけど――」

アイエフは少し口元をひくつかせながらなおも言葉を続ける。

しかしながら目前の人物達に果たして彼女の言葉が通じているのかと言うとそれは誰しもが必ずNOと言えるであろう状態であり、アイエフの横に座るコンパですらも苦笑を浮かべてしまうほどに目前の状況はそれと言えば荒れていた。

一人の人物を中心に彼女たちは他の事態に目もくれずにただ一心に彼を弄んでいた。

「テラ、ケーキ食べるー?」

「いや、自分で食えるから!」

「テラ? このリボンどう思う?」

「い、いいんじゃない?」

「テラ、肩揉んでくれない?」

「ちょ、ちょっと待って!」

「……テラ、一緒にこの本読む?」

「わ、分かった! 後でな!」

アイエフが身体を小刻みに震わせて次に顔を上げたときは(ノ`□´)ノ⊥⊥みたいな感じでテーブルを華奢な身体の何処にそんな力があるのかと言いたくなるぐらいの勢いでひっくり返した。

「人の話を聞けェ――!」

おおよそ神様に対して似つかわしくないような言葉遣いでアイエフは叫んだ。そんな彼女を怒り狂った母親を見るような目で一同は身を寄せ合って畏怖の念を込めて視線を向けた。

「アンタらもう少し危機感ってモノを持ってくれる!? 何、この妙な空間!?」

嵐のように矢継ぎ早に向けられる言葉にネプテューヌは焦りながら弁解する。

「ほ、ほら、折角家族が揃ったわけだし久しぶりのスキンシップをね……?」

「思いきり私情が挟まってるじゃない!?」

怒りも有頂天かと思われたときにテラの助け船が入る。

「アイエフも混ざりたかったのか?」

「ちが――――――――うッ!!!」

しかしながらテラの思っている助け船とは一般には助け船になり得ないのでそこら辺は主人公クオリティだろう。

「もう! 話が進まないからテラ没収!」

『えぇ〜!』

「文句言うな!」

女神4人からのブーたれる声にアイエフは声を張り上げて叫んだ。

ソファに端にテラを座らせて話を切り出そう、と思い立ったところで――

「テラさん、紅茶いるですか?」

「ん、じゃあお願いしようかな」

と、無意味に身体を密着させる伏兵コンパの存在を見つけてアイエフは更に叫んだ。

「だーかーら! もうテラは部屋の隅に立ってなさい!!」

何ら悪いことはしていないのに最も損な役割を回されたテラは涙目になりながら指示通りに部屋の隅に甲冑のように佇んだ。

コホン、と気を落ち着けるように咳払いを一つしてアイエフは女神4人に向き直る。

「それで今後の計画なんですけど――」

「テラ、立ってるの辛くない? だからこっちに――」

「いい加減にしろ―――――――ッ!!」

アイエフは渾身の力を込めて叫んだ。

 

 *

 

閑話休題。

アイエフが数十分に上る叱責で女神4人はショボーンな表情で身を固めてソファに腰掛けていた。

ようやくまともに話が出来ると思ったのだが、これはこれで人の話を聞かなそうだなとアイエフが心中の片隅で思ったのだがあれこれ考えても始まりそうになかったので溜息を吐きつつ、口を開く。

「それで、女神様に……鬼神様? も全員集まったわけだけど、これでマジェコンヌに対する戦力としては十分なモノが得られたのよね?」

「まあ……たぶん?」

イマイチ自分のコトがよく分かっていないテラがそんな曖昧な答えを出した。というかそもそも自分が鬼神なんて呼び慣れない、いや呼び慣れているわけではあると言ってもこのパーティに呼ばれるのはむず痒い感じがしたのでやめて貰うように口を挟んだら何故か怒られたのはどうでもいいことである。

「けど以前に女神様が言ったように各大陸のモンスター被害も無視できないわね……」

「女神様が不在の時にモンスターさんが暴れ回ってたら大変ですぅ」

「ってことはある程度大陸のモンスターを掃討してから神界に向かえばいいんじゃないか?」

「簡単に言うけど、モンスターの掃討ってかなり大変よ?」

「分かってるさ。けど、そうも言っていられないだろ?」

ちなみにこの間、女神達はショボーン化して口を挟むようなテンションではない。

「イースンさんはどう思うです?」

「……5にんのカミさまがチカラをあわせればたいりくのモンスターたちをけしてしまうことはできますよ?」

とんでもないチート行為発言に三人は衝撃を受けた。

「そんなことができるの?」

「はい。ぜんいんのショウダクがえられればシショのキジュツをかきかえることができます。モンスターをなくしてしまうことなんてゾウサもないですよ?」

何というチート。

そんなどうでもいいことをテラは思ったが、いち早く復帰したネプテューヌが横やりを入れたのでそんな思考は宇宙の彼方に消えた。

「ダメダメ! そんな卑怯なの神様らしくないよ!」

と、手でバッテンマークを作って否定するネプテューヌだが、同じく復帰したノワールが発言する。

「でも、モンスターを消せるのなら楽な方法でいいじゃない? 私はそっちの方がイイと思うわ」

ノワールの意見に賛同するようにベールも頷く。

「ノワールの言う通りですわ。モンスターをいち早く消せるのならそちらの方がいい。これは大陸の方々のためでもありますわ」

「むぅ……」

もっともなことを言われてネプテューヌが少したじろぐ。

しかし、意志を固めたようにブンブンと首を横に振って対応する。

「でも、そんな方法でモンスターを消したって大陸の人達にしめしが付かないよ!」

「「うっ……」」

こちらももっともなことを言われてたじろぐ。

女神様ってプライドとか高いのかな、とコンパは変なことを思った。

喧々囂々な中、助けを求めるようにテラはブランに視線を向ける。

「ブランはどう思う?」

「……私はモンスターが消せるのならどんな方法でもいい」

「むー……」

中立という答えが出てテラはますます頭を悩ませた。

ただ、現状を鑑みればノワールやベールの意見に賛同できるのだが、ネプテューヌの意見だって間違いではないし、寧ろ正しいようにもテラには思えた。

まさか神という職業がこんなに大変なモノだったとは! とかテラは心中の片隅でそんなことを思ったがさして重要なことでもないし、寧ろどうでも良いことなので考えるのをやめた。つーか神の仕事が大変なのは当たり前であるが。

その後、数時間に及ぶ侃々諤々の会議に末に保留という何とも後味の悪い、というかこの数時間に及ぶ会議は何だったのかという中途半端な結果を残したまま一時解散となったのである……。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

気分でも変えようとテラは散歩のために外に出向いたのだが、周りに広がる瓦礫の山は更にテラの心を重くさせた。

ざっと変わらない景色を見回した後に向きを変えて比較的損害の少ない地域で何か食べようと思い立ち、そちらに向けて足を進める。

ふとテラの視線の先に見慣れた少女がいる。

瓦礫を除けたり、被害者救助やらに骨を折っている少女だった。

顔見知りと言うこともあり、テラは気軽に声を掛ける。

「久しぶり、えーと……日本一だっけ?」

自称:ヒーローの少女にテラはできるだけ爽やかに振る舞ったが当の日本一はと言えばテラの姿を発見するなり大口開けてテラに指を突きつけてきた。人を指すのはやめましょう。

「でたわね! ここで会ったが百年目よ!」

「いや、たぶん三度目」

「いいの! 大事なのはインスピレーションなんだから!」

なんかだいぶ扱い馴れているような感じがしないでもないが、厄介者を抱え込むテラとしてはこの程度の厄介はお手の物なのかもしれない。

「んで、日本一は何してんの?」

「見てわかるでしょ、復興作業よ」

「へー。流石ヒーロー、やることが違うな」

「でしょ? だから私はヒーローに相応しいのよ」

そんな日本一の言葉に「はいはい」と適当にあしらって日本一にポカスカと軽く殴られるのだがそれすらも軽くあしらってテラは周りに視線を向ける。

「……俺も復興作業手伝おうかな」

「んなっ! アンタ……なんか悪戯とかする気じゃないでしょうね!?」

「いや……違うだろ」

この子、もしかして人間不信なのかなー、とかテラは関係ないことを思った。まあ、彼の昔の所行を知っていれば日本一の言い分も少しくらいは理解できると思うのだが。

というか、復興作業に悪戯もクソも無いと思う、とテラは今更ながらもっともらしいことを思った。

そんな思考の中でテラは真横から聞こえる不思議な音に?マークを頭上に浮かべてその方向に視線を向けた。恥ずかしそうに下腹部に右手を当てる日本一を見てテラは表情を変えた。

「お前……」

「何よ」

ごくり、と喉を鳴らして息を呑み、そして重々しく口を開いた。

「妊娠したのか……」

「違うでしょ――がっ!」

どこをどう聞き取ったらそんな答えが導き出せるのかと第三者が聞いていたら120%の確率でそんなことを言うだろうが、テラのマイペース度は意外にも高いのである。

日本一の不意打ち回し蹴りをモロに受けてテラの身体が宙を舞う。

「どこをどう聞き取ったらそんな答えが導き出せるの!?」

ナレーションと一字一句違えることなく叫ぶ日本一にテラは頬をさすりながら驚きの表情のままで続けた。

「え……だって声がしたし」

「聞こえるわけないでしょ!? 普通にお腹が鳴ったんだってば!」

「あー……そうか」

普通はそっちの答えの方が先に出てきそうなものだが、これもネプテューヌのオーラに当てられたのかどうかは分からないがともかくテラは最近ボケることが多くなってきたが、これは一体どういうことだろうか。

「ならあっちに出店があったし、そこで何か食う? 奢るけど」

大して気にした感じもなくテラはよっこいしょと立ち上がり、数m先の臨時の出店らしきものを指した。

それに少し迷ったような素振りを見せた後に日本一は無言で頷き、ひょこひょことテラの後に付いてくる。

テラはさして気にした風もなくポケットの財布を取り出し残金がいくらあったかを確認して、日本一の変化に気付かない。

日本一の頬は少しずつ、紅に染まっていった――。

 

 *

 

出店とはいえ結構大きい敷地を構えるテントにはそこそこの人数の客が集まっていた。やはり近くに店がない所為か、こういった食品系の出店は繁盛するらしくテラは躊躇いなく日本一の手を握って人々の間を縫ってカウンターに向かう。

「ちょ……!?」

「んあ?」

さして気にもならないという風にテラは背後の日本一を見る。しかし対する日本一は口をパクパクと金魚のように開閉させて更に表情を紅くしている。

「どした?」

「手……手!」

恐らく一時的な失語症に陥っているのか、しきりに自分のつながれた右手を指してそんなことを言っていた。

暫くその奇行を見ていたテラが数秒のやりとりの後にようやく視線を繋いだ手の方に移し、更に数秒要した後に事態を把握した。

「あー……。だって、ほら。人いっぱいいるし、はぐれたら危ねーだろ?」

「ぐ……」

そんなテラの言葉にますます顔を紅くして俯く日本一を見てテラは頭上に?マークを大量に浮かべたが何でもないことだろうと思い、またカウンターへと歩き出す。

数分、人混みを掻き分けてようやくカウンターに辿り着いた。

「すいませーん」

テラはがやがやと声で聞こえづらい中で手をメガホン代わりにして呼びかけた。すると奥にいた小さな少女がひょこひょこと二人の元に歩いてくる。

「いらっしゃいですの」

「え……? あ、はぁ……」

こんな小さな子が働いているのかとテラは一瞬、呆気にとられたがなんだか微笑ましい光景でもあったので気を取り直してカウンターに配置されているメニューから適当な弁当を選んでニッ歩日に視線を向ける。

「お前は?」

「え?」

「いや、だから飯食うんだろ?」

「あ、そ、そうね……」

ボーッとしているなんてらしくない、とテラは思ったが取り繕うように笑ってメニューに視線を落とす日本一を見て何でもないのかと勝手に納得して考えるのを止めた。

何となく手持ちぶさたなテラはまたカウンター内の少女に視線を向ける。いくら何でもこんな小さな子が働いているなんておかしすぎる。いや、おかしくはないのだがテラとしては何とも違和感に駆られる光景であった。

「なんですの?」

「え、あ、いや何でも」

テラに視線を送られていることに気付いたのか、少女はテラにそんなことを尋ねたがテラは慌てて誤魔化す。

傍目から見ればどうにも怪しいのテラの方であるのだが、そんなことは関係なかった。

「じゃあ、これ」

「ん、決まったか?」

「うん」

迷った末に結局テラと同じモノを頼んだらしい日本一が頷く。

「じゃあふたつあわせて150クレジットですの」

「へぇ、安いな」

「おてがるかかくなんですの」

「ふぅん……」

そもそも金を取るのかと言うことが第一の疑問であったのだが、こっちも商売なら仕方ないのかと流されやすい性格であるが故に流されてしまった。

「ソルジャーのひとなんですの?」

「はい?」

そう声を掛けられて一瞬テラは戸惑った。

「何故に?」

「みていればなんとなくわかるんですの」

「そうなんだ……」

テラはひとしきり自分の身体を見回してから『俺ってそんなに危ない感じ出てる?』とかそんな視線を日本一に送ったが当の本人は『知らないわよ』とかいった視線を送り返していた。

「それで、おもしろいしょうひんをうっているんですの」

「ほぉ」

面白い商品と聞くと何故だか好奇心が刺激されてしまうのは人間の性かもしれない。テラはおろか日本一までもがそれを覗き込む始末だった。

「『フルパワー錠8012』〜」

少女は何処かの未来のロボットみたいに腹のポケットから怪しげなカプセル錠剤を自信満々に取り出した。

日本一はどうにも胡散臭そうな表情をしたがテラは「うおー凄そう」とか言っていた。

「これをのめばいちじかんだけステータスがふつうの3ばいになるんですの」

「マジで?」

「しかもふくさようはいっさいないんですの」

「マジで?」

少しばかりテラが壊れてきた。

「胡散臭いわねー……。やめといたら?」

「でもなー」

「買う気!?」

ここのところのテラはおかしい。

「いまならおとくな10000クレジットですの」

「高ッ!」

「あ、50足りない」

テラは財布を漁ってそんなことを呟いていた。そんな彼に日本一は奇異の視線を送った。

買うのか。

「ザンネンながらうれないんですの」

「えー、50くらいオマケしてくれてもいいじゃん」

「ダメですの。おカネはだいじなんですの」

「がめついわねー……」

日本一は心中で『ダメだ、早く何とかしないと……』とかテラに対して思ったがそれ以上に少女の細かさに意識が持って行かれたためにそのことは忘れた。

「でも、ツケならはなしはべつですの」

「お、マジで?」

何をそこまで喜ばせるような成分が含まれているのかは誰も知らない。

「こんどあったときにはらってくれるのなら、いまはうってあげますの」

「そか、俺はテラバ・アイト。ヨロシク」

「がすとはがすとっていうんですの。ヨロシクですの」

握手を交わしたがすとがポケットからメモ帳を取り出してテラにペンを渡す。

「ここになまえとサインをかいてほしいんですの」

「しっかりしてるなー……」

若干引きつった笑顔でテラは感心した。

がすとはメモ帳をポケットに仕舞い、ニッコリと満面の笑みで発言した。

「ケイヤクセイリツですの」

「ブラックな子供ねー……」

日本一としては、もうこの間は呆気にとられまくっていた。

 

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行きと同じように人混みを縫って簡易テントを脱したテラは背後の日本一を振り返る。

「どうする? どっか落ち着けるところで飯でも食うか?」

特にこれと言って何も気にしていないテラが適当に空いている場所を指して日本一に問い掛ける。

「な、なんでアンタと食べないといけないの!?」

多少取り乱した風な日本一がなおも頬を赤く染めながら少し力んでそう言ったが、テラはきょとんとして返答した。

「え? だって俺ヒマだし」

別段、その答えに他意のなさそうなテラが相変わらずの表情で答える。それを見て日本一はなんだか呆れた風な表情を浮かべて額に右手を添えた。

「ハァ……」

「ん? 何?」

日本一の溜息にテラは多少心配そうに表情を覗き込む。急接近したコトで更に日本一の頬が紅くなり、ここまで来てようやくテラは彼女に異常があることに気付いた。

ぴと、と彼女の額に右手を当てて自分の額に左手を当てる。

「む……少し熱いか?」

「な、ななな……な!?」

「働き過ぎじゃね? 少し休んだ方がイイって」

半ば無理矢理な形で日本一の手を引っ掴んでテラは近くにあった無事なベンチに腰掛ける。日本一もそれに並ぶ形で腰掛けて、辺りをキョロキョロと見回すテラを横目で盗み見る。自販機を見つけてラッキーという感じの表情を浮かべて、そこで待っているように指示を出してそっちに飲み物を買いに行った。

数分してお茶のペットボトルを二本持ってきたテラは右手に持った茶を日本一にパスした。慌てていたモノの、しっかりとそれをキャッチして日本一は小さく声を上げる。

「ありがと……」

「いいってコトよー」

どっかりと勢いよくベンチに腰掛けたテラはすっかり冷えているお茶を喉に流し込み、渇きを癒していたが、さっきからまともに動いていない日本一が流石にただ事じゃないと思ったか声を掛ける。

「大丈夫か? 何か今日はおかしくね?」

「へ? た、確かにおかしいかも……しれないけど」

「適度に休むのも大事だぞ? もしかしてお前、今まで働きづめだったんじゃねーの?」

図星を疲れたように日本一が顔を俯かせるのを見て、テラは左手で彼女の頭を軽く小突いた。

「何するのよっ」

「バーカ。ヒーロー気取ってんだか何だか知らねーがよ、テメェが調子崩してどうすんだ」

ぐびり、とまた茶に口を付けるテラがベンチの背もたれに身を預けて嫌に青い大空を見上げながら口を開いた。

「高い目標見積もるより、地に足付いた目先のことからやってかねーと何も上手くいかねえぞ? お前がなんでヒーロー目指してんだか俺は知らん。けどな、自分はそんなだから無茶してもいいなんて絶対無いんだよ」

「む……」

「人間、適度に動いて適度に休む。単純だけどこれ重要な」

そんな口弁を垂れるテラであったが、そんなことを出来ていなかったのは自分だと心中で皮肉めいたように呟く。しかし、無理に背伸びして何もかも成し遂げようと、何もかもをこなそうという彼女は何故だか少しだけ自分と重なったような気がしていたのだった。

護らないといけない存在を見つけて、実力もないのに背伸びして護って、庇って、無理をして。違うようで同じコトをしている彼女を放っておけそうになかった。それがテラという人間だったから。

「ま、そういうことだな」

自分で納得させるようにそう呟いて、テラは弁当に手を伸ばす。横から送られる日本一の色を帯びた視線に気付くことなく――。

 

 *

 

昼食を終えて、何故だか異常に距離をとられて『何かしたか……?』とテラは不安になりながら日本一の後を追っていた。

やがて、先程に日本一が作業をしていた場所に到着して日本一がくると振り返ってその場を指した。

「ここ……」

「ん……ああ、作業場か。じゃあここでお別れだな」

「そうね……」

なおも頬が少しばかり紅くなっているのにテラは少し不安を覚えたが何度聞いても『大丈夫』としか言わなかったのでこれはもう無駄だろうと思い、足を突っ込むのは止めた。

「それじゃ、またな」

テラはニコと微笑を浮かべて小さく手を振る。それを見て日本一の心臓はドキリと跳ねたのだがそんなことは傍から見ても気付くわけがない。

「ま、また……」

「おう」

踵を帰して、臨時住居となっている協会へとテラは足を向ける。しかし、背後からの日本一の呼び声に振り返る。

「つ、次会うときは――!」

「……何?」

そこで何やら押しとどまった風に口をつぐんで、もう一度日本一は叫んだ。

「な、何でもない!」

そう言って踵を帰して作業場へと戻っていく日本一をしばらくキョトンと見ていたが、テラの表情に次第に笑みが零れてまた向きを変えて歩き出す。

(『また』――か)

自然と彼の足取りは軽くなっていった。未来への約束、それが彼にとってそんなにも嬉しいモノだったのか、きっと本人にもそれほど理解は出来ていないのだろう。

ただ、それでもテラの中には幾程かの決心が生まれつつあったのは確かだった――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ただいま」

軽々しくドアを開けたテラに一同は少しばかり変な感じの視線を向けた。

出かける前と後で随分と雰囲気が違うなと、感心と同時に何やら言いしれぬ敗北感に駆られたような感じが少女達を襲ったのであるがそれは彼女たち自身にも理解は出来なかった。

妙な視線を送れれているコトを、部屋の隅に配置されているコーヒーを入れて椅子に座って一啜りして、適当に投げられていた本に目を落としてそれを置いて外を眺めて再び部屋内に視線を戻したところで気付いたテラがキョトンとした表情を浮かべて尋ねた。

「何? 俺に何かある?」

「……テラ、なんかあった?」

ネプテューヌが何故だかジト目で視線を送ってくることに多少なりの疑問を感じながらテラは答えた。

「何って、特に何もなかったけど?」

と、テラは本当に何でもなさそうに答えるのだが、『この鈍感星人め』とか少女達は心の隅で思いながら、ベールが次に口を開いた。

「テラのことだから、何もないと思っていても何かあるの。『詳しく』話してくれる?」

何故だか、矢鱈と『詳しく』を強調してきたので、あと背後に佇むどす黒いオーラが怖かったのでテラは少し身を縮こまらせながら先程に散歩中にあった出来事を指示通りに詳しく説明した。

その後の反応は以下のとおりであった。

「やっぱりテラさんには何かあったですぅ!!」

と、可愛らしく腹を立てるコンパの言動をよく理解できないテラは冷や汗を垂らして口を開いた。

「え、だって普通に話しただけだし……」

「そう思ってるのはアンタだけよ……まったく」

ノワールはもう完璧に呆れた風にテラに視線を送る。しかし、テラとしては彼女たちの物言いの意図が全くと言っていいほどに理解できないので頭上に?マークを大量に浮かべるのみである。

「もうテラは女の子に話しかけるの禁止……」

「えぇ!? そんなことしたら日常生活に支障が出るんだけど!?」

ブランに無茶なことを言われてテラはガビーンとショックを受けるが、何故か他のメンツはそれに頷いていた。

「じゃあ、打開案として私に話しかけることだけはOKしますわ。私はテラだけの通訳として一生傍にいるから……」

ベールがふふふ……、と上品に微笑むがそれをアイエフが遮る。

「ダメです! 女神様が他人を贔屓にするなんて器がしれますよ!?」

「あいちゃん、ここは信仰する私のためにも大目に見てくださいな♪」

「いいえ、これは女神様でも譲れません! テラの通訳には私がなります!」

どうでもいいが通訳って何か言葉の通じない人みたいで嫌だな、とテラは少し悲しくなったがここはぐっと堪えた。

「じゃあもういっそのことテラが私のお嫁さんになっちゃえばいいんじゃないの?」

『絶対却下!!!』

ネプテューヌの突飛すぎる答えに一同は大声を張り上げて答えた。更に突っ込むべきコトがあるとすればテラは一生お嫁さんには成り得ない。

というか、ほとんど蚊帳の外となっているテラは傍らに座ってニコニコと微笑んでいるイストワールに視線を向けた。

「これって何てカオス?」

「しいていうなら『しゅらば』です♪」

『なんて修羅場?』とか浮かんだのだがテラはそれを口の中で押しとどめた。ギャーギャーと言い争う少女達を見て、テラはクスクスと次第に笑みが零れる。かつて自分が最も幸せだと思っていた時期に見ていた光景が、再び目の前で繰り広げられているということに言葉では言い表せないほどの幸福感を感じてテラはその幸せの中に暫し浸っていた。

「もう! こうなったらテラさんに決めて貰うです!」

「へ? 何が?」

全く話を聞いていなかったのでテラはそんな声を上げた。

「私達で誰が好き!?」

ネプテューヌがいつになく怒ったような声を張り上げているので、テラは少々戸惑った感じになったが、全員を見回して答えた。

「俺はみんなのこと好きだけど」

笑みを携えて答えるテラに全員(イストワール除く)の心がズギュ――――ン! と揺れ動いた。

が、すぐに我に返ったノワールが声を上げる。

「って、そんな優柔不断な答えは認めないわよ! 一人に絞って!!」

「えー……でも一位とか二位とかってそう簡単に決めていいモノなのか?」

そもそもの話題を把握しているのかと問われれば、120%の確率でYESと答えるのだろうが、ロクに話題を把握していなくても答える辺りがテラのテラたる所以であるだろう。

「これは一位二位を決める大事な勝負ですわ! 早く!」

ベールに急かされてテラはうぅん、と唸るのだが、イストワールは心の中で『まず話題を把握しましょうよ……』とか半ば呆れ気味になって思っていたのだが、これはこれで面白そうだと思ったので黙っていたらしかった。

「えぇ――」

『モンスターが来たぞ! 逃げろ―――!』

何処かのオッサンの声でテラの言葉は遮られた。モンスターと聞いて一同は身体を跳ね上げて開かれている窓から一斉に飛び出した。

見据える先には巨大でゴツゴツしい体躯を持つゴーレムの姿があった。

「こんな街中にモンスター……?」

ブランがハンマーを構えて訝しげにそれを見る。テラはだいぶ達観した様子でそれを見上げて声を漏らす。

「大方、この混乱に乗じてマジェコンヌの信者か何かが違法ディスクで召喚したんだろ」

テラは腰のナイフに手を伸ばそうと右手を動かしたが、何故か自分の右手には大剣が握られていることに気付いた。

「んお、何じゃこら」

大剣を両手でもってブンブンと軽く振り回すテラを見て一同は少し震撼した。

「それって鬼神形態で持ってた剣じゃない?」

ノワールが落ち着いた見解でそう述べる。確かに言われてみれば、形状が全く同じだし、模様も酷似している。というかもう、あの大剣そのものであった。

「何でまたこんなモン……」

とか何とか不毛なやりとりをしていたところで業を煮やしたゴーレムが雄叫びを上げて突っ込んでくる。

口もないのに何処で叫んでいるんだろう、とか何とかそんな疑問は彼方に消え去り、テラは大地を蹴ってゴーレムの頭上に跳び上がる。相手としてもこれは予想外であったかテラの姿を見て驚いている(らしい)。

右手だけで軽々しく大剣を振るい、ゴーレムを頭から一刀両断、テラは静かに大地に降り立ち、剣を軽く振るって肩に担ぐ。

「何か妙に扱い馴れた感じがするんだよな……」

テラがまじまじと大剣を見る。

「あれじゃない? ずっと使ってきたからでしょ」

アイエフが至極まともな意見を出した。確かに言われてみればずっと持っていても何ら違和感もないし、寧ろ懐かしささえ感じられた。

しかし、そんなゆったりとしたやりとりを繰り広げていると背後から獣のような鳴き声が幾つも入り混じって、更には地響きまでも起こしている。

気になってそちらに視線を向ければ、大なり小なりのモンスターの大群が一同に向かって突っ込んできている。

「ぅげぇっ!!」

流石にこの光景には鳥肌モノであった。

しかし、テラの背後から光が迸り、4つの機影が脇をすり抜けていく。

「……!」

守護神擬人化形態となったネプテューヌ、ノワール、ベール、ブランがモンスターの大群に向かって突っ込んでいた。

「め、女神様が4人も……」

「何だか凄い光景です……」

二人もそんな彼女たちに見惚れている。もちろんテラも。

そしてそれと同時に己の中に沸き上がる高揚感が何とも言えないものに膨れ上がっているのも確かだった。

「この森の中なら……見つからないよな」

テラはそう呟いて、左手を突き出す。

 

 

『――変身!』

 

 

テラは叫んだ。

途端に、テラの周りを漆黒の風が取り巻き、黒い頭髪は銀に、衣装は黒き装備に変わっていく。

ただ、一つ違うのは無に近かった藍色の瞳に決意の色が込められていることだけだった。

「テラ……」

「テラさん……」

かつて見たこともないような『軌跡』を描いて、テラは地面に降り立った。

「ん……成功だ」

自分の姿を確認してテラはきゅっとガントレットに包まれた拳を握る。

モンスターの一群に視線を向けてテラはにやりと不敵に笑う。

「テラ――鬼神『グレイハート』! やってやるっ!」

テラは剣を構えて地面を蹴り、巨大モンスターが群れを成す一群に突っ込み、剣を振る。衝撃波と共にモンスター達の身体が浮き上がり、それを見据えてテラは更に大地を蹴って跳ぶ。

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

剣を振り、モンスター達の身体がブレて地面に落下する。空中で身動きの取れないところでモンスターの魔法弾がテラを狙うが一つを剣で切り裂き、もう一つを空いている左手でなぎ払う。まるで空気の壁を蹴ったように空中で加速して一気に地面に近付く。剣を両手で構えて振る。

テラは音もなく地面に落ち立ったとき、傍にいる複数のモンスター達の身体がブレて倒れる。

全員がモンスターの中心に、背中を合わせて円上になる。

「取り囲まれちゃったですね」

「でも、何故だか負ける気がしないわ」

コンパもアイエフも、いつも以上の笑みをモンスター達に向けている。

「そうだな、この程度で負けるワケねえ」

「全くですわ。こんな数で私達が討てるとでも……?」

「甘く見られたわね、守護神も」

「そうね……全く以て心外な話ね」

一同は武器を構えてモンスターに向かう。

「……俺達の前に立つ野郎共は切り伏せるだけだ」

テラは不敵に笑い、目の前のモンスターを切り伏せた。

 

 

 

 

 

灰の守護神・グレイハート。

パープルハート、ブラックハート・グリーンハート・ホワイトハートと共に名を連ねる5人目の守護神(ハード)。

絶望を集める存在として、遥か昔より大陸の均衡を保ってきた彼がこうして彼女たちと並んだのは実に何百年が流れたかの後のことだった。

彼は決して、争いたかったわけではない。ただ、ひっそりと平穏に居たかっただけだった。大切な家族と共に――。

しかし、今や家族だけではない、大切な仲間を手にした彼は――――

 

 

 

 

 

 

 

笑っていた。

 

 

説明
31です。
コラボの方もよろしくあれ
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コメント
こんにちは!さらっと嫁に来るとか言っちゃうネプテューヌまじ天使!(無邪気的な意味で)前向きなテラ君かっこいいです!頑張って下さい!(東の和菓子屋さん@蒼)
超トマト畑サマ> テラ「だーかーら!あいつら家族だから嫁とかそんなんはねーの!(赤面)」 可愛くないよ? テラ「可愛い可愛くないを目指してるわけじゃねえよ!」 ハーレムエンドねえ…作者って基本的にバッドエンド好きだからなー テラ「…冗談だよな?」 思い描いてる限りはvまでいかないとハッピーじゃないなあ テラ「ジーザス」(ME-GA)
四人まとめて嫁にしちゃいなよテラ君! ユウ「修羅場が日常にならない?」 それが良いんだよ!!ハーレムエンドをお願いします先生!(トマト畑)
藾弑サマ> テラ「け、けけけ…けっこん///」 うわきもっ テラ「た、確かに姉貴は綺麗で優しいしブランは超絶可愛いしーー」 まあ、元は一つの存在を五つに分けただけだしねえ… テラ「ノワは天邪鬼だけどあれで素直だしネプはちょっとお馬鹿で愛らしいしーー」 聞いてねえ テラ「でもでも…結婚とか///」 スリップしてやがる(ME-GA)
クァム「ヒロインが皆ヤンデレになったのかな?」うーん… クァム「て言うか女神の誰かと結婚してアレしたら近親相姦だよね」アレって(汗)… クァム「そして売り子がすとちゃん超可愛いよな!」ね〜(駆蘭)
燐サマ> テラ「…ゴールしてるってどういう意味だ?」 さあね?自分で考えたら? テラ「むかつくな、その言い方」 んで、女神に対して鬼畜な空君が送られてくるそうだけど? テラ「ほう…ならばめっためたにしてやろう(豹変)」 おー怖い怖い…(ME-GA)
空「こっちもやるね〜」レイス「そうだな……」空「こっちは『家族』だから、もうすでにゴールしている物と同じだね」レイス「思ったんだがテラ君からすれば空は憎むべき相手だな」空「まぁ、女神に対しての僕の行動はかなり鬼畜だったからね」レイス「ということでやられてこい、必要ならくうちゃんにも”お仕置き”を頼む」空「(それ死刑判決大差ないよ?)」(燐)
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超次元ゲイムネプテューヌ 二次創作 ご都合主義 

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