憑依とか転生とか召喚されるお話 第三章 春蘭と朱然
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 第三章 春蘭と朱然

 

 

 

 

「起きろ――――ッ!」

 

「姉者……それは……」

 自室にて久しぶりに野宿では無意識に周囲を警戒し続けていたために蓄積された疲労を解消すべく睡眠を貪っていた朱然は、二人の唐突な侵入者に叩き起こされた。

 しかもその侵入者の一人があまりにも勢いよく開けた、というよりもブチ破ったという方が合っている行動によって、ドアはその役目を果たせそうにないほどに壊されてしまう。

 

「俺の眠りを妨げる者は許さん……」

 

 というか、久しぶりのきちんとした寝具での眠りは何よりも貴重だ!

 故に、それを妨害する者は敵!

 

 朱然は春蘭の強制起床の声に瞬時に跳ね起きて跳躍。

 壁、天井と二段跳躍し、春蘭に襲いかかる。

 

「何ッ!」

 

 驚愕しつつもやはり武将、きちんと反射的に反応して迎撃に入る春蘭にあきれる秋蘭。

 朱然は天井から春蘭に対して脳天に踵落としする。

 頭上からの強襲という奇を衒った攻撃に反応した春蘭は咄嗟に頭上で腕を交差してガード。

 

 む、頭上からの強襲を防いだか……だがッ!!

 

 朱然は受け止められた左足を起点に身体を強引に捻って回転し、回転によって得られた遠心力によって、もう片方の足で春蘭の胴に蹴りを放つ。

 

 な?!

 こんな身軽な芸当が人間には可能なのか?!

 

「ぐはッ……きゅぅ」

 

 今度は春蘭は反応できず壁に叩きつけられ、朱然は春蘭が吹き飛ぶ寸前に起点となった左足を抜いて軽く春蘭を蹴って再度跳躍。

 足をつかず、ふわりと宙返りをしてベットに着地した後、布団を被り直し寝る。

 

「ぐぅ……」

 

 一瞬にして不意を突かれたとはいえ、姉が意識を刈り取られたという事実に秋蘭は唖然としていたがすぐに気を持ち直して朱然へと言葉を投げかけた。

 

 姉者はあれでもかなりの手練……華琳様が勧誘するのも頷ける。

 

「……はッ?! 朱然、起きてくれ」

 

「何?」

 

 因みに朱然は寝起きがそこそこ悪い。

 侵入者を倒して二度寝するくらいには。

 朱然はシーツから少しだけ顔を出して不満げに声を発する。

 

「微妙に性格が違わないか?」

 

 微かに覗く朱然の気だるげでいてなお鋭い双眸に臆さず、秋蘭は問う。

 

「気にするな。 もう少し寝かせて……」

 

 目元まで下げていたシーツを朱然は頭まで被って三度寝に興じようと瞼を閉じるも、秋蘭は更に言葉を続ける。

 

「いや、姉者が戦いたいと五月蠅くてな……」

 

「決着は今さっきついただろー?」

 

 未だ朱然の部屋の片隅で目を回している春蘭を朱然がシーツから指差し示す。

 

「私や他の者も戦いたいらしい」

 

「知るかよぅ……」

 

 せっかく久しぶりの布団を堪能すると決めていた朱然は布団の中でイヤイヤと首を振る。

 

「華琳様のご命令なのだ」

 

「はぁ、それを早く言ってくれ。 客将だし、華琳の言う事なら聞くよ……」

 

 まあ、一応雇い主みたいなものだしなぁ……。

 

 個人的な趣味の延長線上での戦いだと思っていたからこそ、朱然は駄々を捏ねていたのだ。

 が、華琳――――曹操の命令とあらば、客将の朱然は可能な限り従う義務がある。

 

 流石に気の向くままに食っちゃ寝をし続けるのは気が引けるし、義母さんにも働かざる者食うべからずとか、そういう風に躾けらたし。

 

「そうか、助かる」

 

 秋蘭はほっと胸を撫で下ろす。

 それから朱然は身支度を整え、春蘭を強引に叩き起して調練場へと向かう。

 ちなみに朱然が真名で呼んだのは華琳が“一時とはいえ私の将になるのだから、教えるのは当然でしょう?”と華琳が言ったからで、華琳の部下達全員の真名を預からせてもらった。

 更に言えば、朱然が真名ではなく姓名のままなのは華琳に“貴方が使えるに相応しいと判断した時、仕えるその時に真名を預けなさい”と言ったからだ。

 

 

 

 

 

 修練場には朱然、華琳、春蘭、秋蘭、凪、真桜、沙和、季衣の八人が集まっていた。

 本来であれば、数百人以上で使っているために実際の広さよりも更に広く感じてしまう。

 

「で、来たんだけど……華琳さん?」

 

 まさか全員と戦うのか?

 

 全員が各々の得物を持ってスタンバッている。

 やる気満々といったところだ。

 

「単純に言えば朱然、貴方の本気の実力が知りたいわ。 だから、春蘭や他の者と戦ってもらうの。 拒否はできないわよ?」

 

 ソウデスカ……。

 傍から見れば朱然が集団リンチに合うものだと誤解してしまいそうなくらいに臨戦態勢。

 

 流石に全員でこられたら死ぬしかないんだけど……。

 

「わかったよ。 というか、全員対俺?」

 

「まさか? さすがに数百人を一人で倒せるといっても、それは雑兵や賊だけでしょう? この中から一人選んで戦いなさい。 因みに凪、真桜、沙和は三人で一人よ」

 

「ん〜……それでは春蘭でお願いします」

 

 内心で朱然は七対一でどうこの場を逃走するかの算段を立てていたのだが、役に立たなくて本気で胸を撫で下ろした。

 ともあれ、朱然の指名に対して春蘭は了承し、互いに鍛練場の中央で春蘭と対峙する。

 

 

 

 

 

「私を選んだことは褒めてやろう! だが、私の本気の剣を受けて立っていた者はいない!」

 

 自信に満ちた顔で豪語した春蘭は己の得物を構える。

 今、朱然の手には鎖付きの巨大な両刃の大剣、大牙が両手正眼に構えられ、対する春蘭の手には黒い大剣の七星餓狼が朱然と同じく正眼に構え対峙する。

 共に大剣、共に正眼。

 が、朱然の大牙は春蘭の大剣よりも1.5倍ほど剣身の長さと幅、柄が長く超大であり、威圧感があるが、春蘭は気に求めない。

 何故ならば、戦場には朱然よりも巨大な剛剣を振るう者もいない訳ではなかっただけのこと。

 

 流石は曹操の右腕、隙が見当たらない……なら――――

 

 只者ではない……不用意に隙を見せれば――――

 

 ――――作るまでッ!!

 

 ――――負けるッ!

 

 互いに構える得物を握る手に力が篭った瞬間、華琳が開始の合図をする。

 

「では、始めッ!」

 

「「ハァァァァッ!!」」

 

 動いたのはほぼ同時、大剣と大剣が打ち鳴らして幾度も火花を瞬かせる。

 金属同士の不協和音は六度目にして噛み合い続ける事で不意に止まり均衡するが、朱然が大牙という超重を片腕でも振り回すほどの胆力、それを支える身体強化、加えて大牙の武器重量で均衡は朱然が押し勝っていく。

 

「ぐ、ぅぅッ! なんてッ、重さだッ!」

 

「ォォォォオオッ!」

 

 まともに押し返し続ける春蘭を、朱然がそのまま押し潰そうと力を更に込めたところで受け流された。

 当然、いきなり力を抜かれたために轟音を轟かせて地面に大牙をめり込ませた朱然に隙ができる。

 

 今ッ!!

 

 そこに受け流した反動を利用して跳ね上げつつある七星餓狼を春蘭は胴薙ぎとして朱然へと叩き込む。

 

「貰ったぁぁぁぁッ!」

 

 間違いなく、地面へと突き刺さった大牙を抜いて即座に反撃とはいかない。

 故に、この場の朱然以外の誰もが朱然の敗北を予想した。

 

 そう、思うよなァ……ッ!!

 

 しかし、朱然は気の密度を引き上げ大牙を、地面に刺さったままに地面すら砕いて斬り上げる。

 

 馬鹿な、有り得ないッ!

 

 春蘭は朱然の常軌を超える攻撃に一瞬だけ、思考を空白に染めながら、今までの経験によって半ば意識の埒外から動いた自身の体によって命を繋ぐ。

 またしても剣身と剣身がまたしても火花を散らすが、朱然の大牙の他にも礫が春蘭に襲いかかる。

 それを認識した瞬間に、すぐさま春蘭は裂帛の気合で大牙を跳ね除けて距離を離す。

 

 七星餓狼を超える重量武器ならば、速度ではこちらに分があるぞ!

 

 春蘭が思う通り、朱然は大牙の剣身側面を背中にくっつけるように担ぎ追撃するが、春蘭に比べれば鈍重と言わざるおえない。

 既に体制を立て直した春蘭に追いついたところで右手で持って、背負っていた大牙を止まる慣性と一本背負いの応用で振り上げ、上段から物理法則そのままに重力に任せ斬り下ろす。

 春蘭はその一撃を喰らえば間違いなく七星餓狼でさえ粉砕されることを察し、更に剣身よりも十分に空間を空けて後退。

 だが朱然も逃がすまいとするがやはり距離が若干足りない。

 

 ならッ!!

 

 朱然は振り下ろされている柄を持つ右手の力を緩める。

 

 な、あッ?!

 

 唐突に春蘭には大牙が伸びたように見えたことだろう。

 だが二人の戦いを見ていた観客達にはその種が見えた。

 大牙は柄が異常に長い。

 だから咄嗟に持ち手を緩め、長い柄を滑らせることによって距離を離した春蘭に届かせただけのこと。

 驚愕の表情を浮かべた春蘭は咄嗟になりふり構わずに真横に飛び、無様に地に倒れたと同時に今日最大の轟音が修練場に木霊した。

 

 力比べも、鈍重な動きを感じさせない技量の持ち主だ!!

 最小限の動きでかわしつつ、必殺の一閃を叩き込むッ!

 

 春蘭はここで不利と思ったか、受けずに避け徹してカウンターの一撃を狙うつもりのようだ。

 朱然の斬り上げ、一回転して胴薙ぎ、袈裟斬りと果敢に攻めるが、それらを冷静にいなされていく。

 

 く……ッ!

 

 焦った朱然が袈裟斬りで地面にまたしても、大牙を突き刺してしまう。

 

 狙うとすれば……ここだッ!

 

 朱然の地面に叩きつけてしまった大剣から、地面ごと切り払うまでの隙。

 それを好機と見た春蘭が七星餓狼を水平に払い斬る。

 

 呼吸は合わせたッ、躱せまいッ!

 

 春蘭の決定的とも言える必殺の呼吸に合わせて繰り出される天性の直感によって実現する派手さはないが、必殺と呼べる一撃に対し、大剣という重量武器を獲物として操る朱然は、筋肉に力を込める際に逆に一瞬だけ筋肉が緩むことで反撃も防御に動くことのできないはずだった。

 

 そうくると思ったよ……ッ!

 

 だが、予想済みだと口元に笑みを浮かべた朱然は咄嗟に身を沈めて脇をすり抜けると同時にすれ違いざまに春蘭と切り結ぶ。

 

 武器を捨てた……?!

 いや、確かに剣で打ち合った感触だったッ!

 

 振り返った春蘭の目に飛び込んだのは未だ地面に突き立ったままの大牙の剣身。

 普通の長さの直剣・牙と短剣・爪を分離させ、二刀流のように構えた朱然の姿だった。

 

「仕込み剣かッ! 小賢しい真似をッ!」

 

「やっぱり大牙だけじゃ、力はあっても決定打は打ち出せそうになかったからなッ!」

 

 二人は共に再度ぶつかり合う。

 春蘭は真正面からの幹竹割り、朱然も左の爪で春蘭が降り下ろす大剣に少し遅れるように振るう。

 朱然の短剣の方が重量が軽いために春蘭の七星餓狼よりも早く振るわれて誰しもが先程まで聞こえていた金属と金属の不協和音が鳴り響くはずだった。

 正面からぶつかる寸前、朱然の瞳が一瞬輝きを放つ。

 

 見えたッ!

 

 朱然は微かに見える己の辿るべき軌道を爪でなぞるように、大剣の後ろに回り込むようにして円を意識しながら振り抜いた。

 

 ―――――シャォォン……!

 

 透き通るような独特の残響音が響き、気付けば春蘭の大剣は左に逸れていた。

 否、朱然が逸らした。

 これこそ流れを見る事ができるが故に、とある漫画を基に編み出した左手の爪のみで繰り出す奥義が一つ、((届かざる左の護剣|マンゴーシュ))。

 春蘭はさぞ奇妙な感覚に囚われているだろう。

 朱家の武術の先生や義母さんにも言われた美しい残響を残す、奇妙であり、朱然の眼をして始めて実現する鉄壁の防御技。

 何せ、自身の力によって振り抜いているのにも拘らず、決して当たることはない。

 

 何だ、この感覚は……。

 初めは弾かれただけかと思ったが、私は間違いなく自分の力で振りぬいた……勢いはそのままに何故、軌道だけが逸らされる?!

 

「くッ! 何故だッ!? 何故当らんのだッ?!」

 

 二度、三度と繰り出される春蘭の斬撃。

 その悉くを朱然は答えず、その代わりに金属の擦れる奇妙な音だけが響き渡る。

 この透き通るような独特の残響音。

 それはさながら一種の楽器の音のようだ。

 春蘭は奇妙な感覚に苛まれながらも、己の振るう斬撃に目を凝らす。

 そこで気がついた。

 

 私の剣に合流して……剣の軌道だけを逸らし続けているのかッ!

 

「くッ!」

 

 魏武の大剣と謳われたこの私がッ、これほど容易く剣の軌道を読まれるのか?!

 

「後れを取るわけにはいくまいッ!」

 

 何度も、何度も、あらゆる角度から春蘭は朱然を斬ろうと奮起するが、鉄壁の短剣に防がれる。

 

 何故だ……まるで次の手が見えているかのように……!

 

 春蘭は己の武に誇りを持っていた。

 

 だがどうだ?

 幾人も屠ったその大剣を何度振るった?

 何故、奴は未だに健在している?

 どうして右手の剣を使わない?

 

 元々堪え性とは言えない春蘭の頭には、長い膠着状態からくる苛立ちによって頭に血が上っていた。

 だからだろう……ほんの僅か動作が遅れた。

 

「誰も左手は防御だけだとは言った覚えはない……ッ!」

 

 その言葉と共に朱然は防御に使った短剣・爪を握る左手を跳ね上げ閃かせる。

 春蘭は咄嗟のことながら防御が間に合う。

 何とか防御できたが、春蘭は嫌な汗が噴き出すのを感じる。

 

 その斬撃の重さは軽いが……その分、早いッ!

 

「く……ッ! 」

 

 短剣の連撃が、防御している大剣に凄まじい勢いで襲いかかる。

 朱然の利き腕は右手だが、故あって元より両利き。

 剣を握ったのは義母の手解きを受けてからだが、元より両利きというのは武術の世界においても決して損となるものではない。

 

 く……ッ!

 私は奴の武に対して嫉妬して熱くなりすぎたのか……?

 

 そんなことを春蘭は戦いの最中に考えてしまい、少し柄を持つ力が弱まってしまった。

 更に先程の冷や汗。

 

 汗で柄が滑って……ッ!

 

 そう思った時には七星餓狼は春蘭の手を離れ宙を舞う。

 同時に春蘭の視界の端から朱然が今まで一度も振るわなかった右の直剣が迫っていた。

 

 やけにゆっくりと――――

 

 私と奴の違いは何だ?!

 

 迫る直剣・牙が徐々に迫る中、加速する思考で春蘭は思う。

 

 武の違いか?!

 

 春蘭と朱然、二人の武は練度から言って春蘭の方が優っていると言えるだろう。

 が、朱然は練度を補うあらゆる流れを見通す瞳を以て、その足りない分を補っている。

 

 武器の違いか?!

 

 どちらの武器も最高の職人が鍛えた業物であることに変わりはない。

 

 駆け引きの甘さか?!

 

 確かに朱然は奇策によって春蘭を幾度も陥れたが、生半可な奇策など春蘭の経験則からくる危機回避によって潜り抜けられる。

 

 振り下ろされて――――

 

 そうか……私が……奢り、未だ未熟だっただけか……。

 

 二人に優劣を付けるとするならば、それは矜持。

 はたまた命運。

 もしくは、ほんの些細な気概。

 

 瞼を閉じた――――

 

 春蘭は覚悟を決めたように目を瞑った。

 朱然は右の牙を振り下ろすところで牙を放し、その手はデコピンを形作り……そして、解放する。

 

 何を諦めて目を瞑ってるんだか……なっとッ!!

 

 パチンという快音が修練場に乾いた音を響かせた。

 

「にゃあッ?!」

 

 目を瞑っていたことで避けられずにデコピンを額に喰らった春蘭は少し赤くなった額を抑えて蹲る。

 

「それまでッ! 勝者、朱然ッ!」

 

 息の詰まるような模擬戦を朱然の勝利と見た華琳の凛とした声での勝利宣言が続いて響く。

 華琳は称賛を送り、春蘭は未だ額を抑え、秋蘭は感心し、季衣、凪、真桜、沙和はすごいと俺の周りに集まった。

 

「春蘭を倒すなんてやるじゃない朱然。 ますます欲しくなったわ」

 

 口元を釣り上げ、今にも取って食われそうな表情を浮かべる華琳に対し、朱然は華琳の背後に巨大な虎を幻視する錯覚を覚えた。

 

「そ、そうですか……でも遠慮しておきます」

 

 華琳は笑っているが……目が笑ってないヨ?

 

「あら残念……でも、いつか手に入れるまで諦めないんだから」

 

 そう言って華琳は春蘭、秋蘭を引き連れて行ってしまい、周りの四人達はお祝いだと言って朱然を連れて町へ繰り出すのだった。

説明
青年は偶然にも根源に至り、命を落とした。
次に目覚めた時、青年は別の人生を歩み始める。
青年は次こそ、大事な人を守るために朱然として走り出す。
これは、青年が初めて恋をした恋姫の物語。
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憑依 転生 召喚 真・恋姫†無双 

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