英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 136 |
〜グランアリーナ前〜
「ママ、優勝おめでとう!」
「えへへ……ありがとう、ミント!」
試合が終わり、グランアリーナの前でリフィア達と合流したエステルは抱きついて来たミントを受け止めて、ミントの称賛に笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます、みなさん。」
「うむ!4人とはいえ、あのカーリアンを破ったのは凄い事だぞ!」
「おめでとう。」
「みなさん、凄かったです。………あたし、みなさんの事、尊敬しています。」
ミントに続くようにリフィア達もそれぞれ祝福の言葉をかけた。
「みんなもありがとう!はあ〜、それにしても何ていうかすっごい戦いだったわよね。カーリアン、想像以上に手強かったし……」
「うん……よく勝てたと思う。今でも信じられないな……」
「ああ。向こうが回復アーツを使って来なかったとはいえ、よく勝てたものだ。」
エステルの言葉にヨシュアやジンは頷いた。
「さて…………晩餐会ってのはさっそく今夜あるみたいだな。結構遅くまであるらしいから部屋も用意してくれるみたいだぜ。」
「やれやれ、太っ腹なことだ。お偉方と同席というのは堅苦しいような気もするが……。やはり、リベール宮廷料理にありつけるのは楽しみで仕方ない。フッ、今から想像しただけでも涎(よだれ)が出てしまいそうだよ、ジュルリ。」
ジンの言葉を聞き、オリビエは涎を垂らして答えた。
「出てる、出てるってば。」
「オリビエさんに関しては何のプレッシャーも無さそうですね。」
オリビエが涎を垂らしている事にエステルはジト目で突っ込み、ヨシュアは全然緊張していないオリビエの様子に苦笑した。
「ハッハッハッ。それでは行こうじゃないか!ボクたちをもてなしてくれる愛と希望のパラダイスにっ!」
「……そう事が運ぶと思うか?」
オリビエが高らかに騒いでいる時に怒りを抑えた様子のエレボニア将校――ミュラーがやって来た。
「ハッ、君は……」
ミュラーを見て、オリビエは驚いた。
「貴様というやつは……。毎日毎日、ふらりと出かけて何をしているのかと思えば……。まさか立場をわきまえずに武術大会に参加していたとは……」
ミュラーは今にも爆発しそうな様子で静かに言った。
「や、やだなあ、ミュラー君。そんなに怖い顔をするんじゃあないよ。笑う門には福来る。スマイル、スマイルっ♪」
「誰が怖い顔をさせているかッ!」
そしてオリビエのからかう言葉を聞き、とうとう怒りが爆発した。
(あの制服って、もしかして……)
(うん……。エレボニア帝国の軍服だ……)
(ふむ……なかなかやりそうな兄さんだ。)
(ん〜………そこそこ腕はありそうだね。)
(ミュラー……か。どこかで聞いた名だな。)
(ええ。………どこの家の方か、ちょっと思い出せないですね………エレボニア将校である事からして、恐らくエレボニアの有名な軍人の家系だと思うのですが………)
一方エステルとヨシュア、リフィアとプリネはお互いミュラーの正体を相談していた。ジンやエヴリーヌはミュラーの強さを感じた。
「……お初にお目にかかる。自分の名前はミュラー。先日、エレボニア大使館の駐在武官として赴任した者だ。そこのお調子者とはまあ、昔からの知り合いでな。」
「いわゆる幼なじみというヤツでね。フフ、いつも厳(いか)めしい顔だがこれで可愛いところがあるのだよ。」
「い・い・か・ら・黙・れ!」
「ハイ……」
ミュラーの自己紹介を茶化したオリビエだったが、ミュラーの睨みと怒りの言葉にしゅんとして黙った。そしてミュラーは表情を戻して、咳払いをした後、話を続けた。
「コホン、失礼した。どうやら、このお調子者が迷惑をかけてしまったようだな。エレボニア大使館を代表してお詫びする。」
「あ、ううん……迷惑ってほどじゃないけど。試合じゃ、オリビエの銃と魔法にずいぶん助けられちゃったし……」
「あの、オリビエさん。武術大会に出ていたことを大使館に隠していたんですか?」
「ハッハッハッ。別に隠してたわけじゃないさ。ただ、言わなかっただけだよ。」
「そういうのを隠していたと言うのだッ!」
表情を戻したミュラーだったが、オリビエの説明を聞き、また怒りが爆発した。
「ま、まあいい……。過ぎたことを言っても仕方ない。とっとと大使館に戻るぞ。」
「へ……。ちょ、ちょっと待ちたまえ。ボクたちはこれからステキでゴージャスな晩餐会に招待されているんですけど……」
ミュラーの言葉を聞き、驚いたオリビエはエステル達と一緒に行く事を説明しようとしたが
「ステキにゴージャスだからなおさら出られると困るのだ。お前にはしばらく大使館で過ごしてもらうぞ。」
ミュラーはオリビエの言い訳をバッサリ切った。
「……………………マジで?」
ミュラーの言葉を聞き、オリビエは信じられない様子で聞き返した。
「俺は冗談など言わん。」
そしてミュラーはハッキリ冗談ではない事を言った。
「そ、そんな殺生な〜……。晩餐会だけを心の支えにここまで頑張ってきたのに〜……」
ミュラーの言葉を聞き、オリビエは情けない顔をしてミュラーに嘆願した。
「さ、さすがに……ちょっと可哀想じゃない?」
「晩餐会に出席するくらい、別に構わんのじゃないのか?」
「何か理由でもあるんですか?」
「ねえねえ。オリビエお兄さん、ママ達のために凄く頑張ったんだから、お城でご飯を食べる事ぐらい許してくれないかな?」
「あたしもミントちゃんに賛成です。せっかくここまで頑張ったんですから、たまにはいいのではありませんか?」
「そうだな。ここまで来たのだから、褒美代わりに城の晩餐会に参加するぐらい、許してやってもいいのではないか?」
「エヴリーヌもそう思う。」
「みなさんのおっしゃる通り、晩餐会に参加するなんて滅多にない機会なのですから、許してあげてもいいのではないですか?」
オリビエの様子を見て、哀れに思ったエステル達はそれぞれオリビエのフォローをした。
「キミたち、ナイスフォロー!ああ、仲間というのはなんと美しいものなのだろうか……。どこぞの薄情な幼なじみとは比べ物にならない温かさだねぇ。」
エステル達のフォローを受けたオリビエは無念そうだった表情が一転し、いつもの調子になって言った。
「……君たちは、事態の深刻さがいまいち理解できていないようだ。いいか、想像してみろ。王族が主催する、各地の有力者が集まる晩餐会……。そこで立場もわきまえずに傍若無人にふるまうお調子者……。それがエレボニア帝国人だとわかった日には……」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………ほえ?」
「えっと…………」
ミュラーに言われ、オリビエが晩餐会に参加した時の光景が思い浮かんだエステル達は黙った。唯一理解できなかったミントは首を傾げ、ツーヤは黙っているエステル達の顔を見て、何も言えなくなった。
「ちょ、ちょっと皆さん。どうしてそこで黙るんデスカ?」
いきなり豹変したエステル達の様子にオリビエは慌てて尋ねた。
「……ごめん、オリビエ。その人の心配ももっともだわ。」
「さすがに、王城の晩餐会でいつものノリはまずいですよね。」
「うーむ。国際問題に発展しかねんな。」
「そうだな。余達メンフィルにとっても、他人事ではなくなる。」
「……まあ、元気出しなよ。」
「アハハ………すみません、オリビエさん。」
そして掌を返したかのように、エステル達はミュラーの味方になった。
「うわっ、掌を返すようにっ!?」
一斉にミュラーの味方になったエステル達をオリビエは叫んだ。
「終戦から10年目……。ただでさえ微妙な時期なのだ。我慢してもらうぞ、オリビエ。」
そしてミュラーはオリビエの首を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ミュラーさん。黙っていたことは謝るからさ……」
諦めきれないオリビエはなんとかミュラーを説得しようとしたが
「問答無用。」
「ボクの晩餐会〜!ボクの宮廷料理〜!…………………………」
哀れにもミュラーに引きずられて行った。
「えっと……いいのかなぁ?」
「オリビエさん、ちょっと可哀想だったな……」
オリビエを見送ったエステルは苦笑し、ミントはオリビエの事を可哀想に思った。
「気の毒だけど……こういう事もあるよ、うん。」
「まあ、人間万事、塞翁(さいおう)が馬ってやつだ。せいぜい奴(やっこ)さんの分まで楽しんできてやるとしようぜ。」
ヨシュアやジンは気にしないように助言をした。
「うーん……仕方ないか。それじゃあ、気を取り直してグランセル城に行きましょ!」
そしてエステルは気を取り直して言った。
「ねえ、ママ。ミントは行ったら駄目なの?」
「う………!………ごめんね、ミント………あたし達しか招待されていないから、一緒に行けないの………」
ミントに尋ねられたエステルは唸った後、申し訳なさそうな表情で謝った。
「そっか……わかった!ミント、リフィアさん達とお留守番をしているから、早く帰って来てね!」
「ミント…………あ〜ん!もう!なんて可愛くて、良い子なのかしら!あたしにはもったいないぐらいよ〜!」
「えへへ……くすぐったいよ〜、ママ。」
ミントの可愛さと聞き分けの良さにエステルは思わずミントを抱きしめて、顔をスリスリした。一方抱きしめられ、顔をスリスリされたミントは気持ち良さそうな表情をしていた。
「ハハ………じゃあ城での用事を済ませたら、ホテルに帰ったほうがいいね、エステル。」
エステルとミントの様子を見て、ヨシュアは苦笑した後、提案した。
「モチのロンよ!ミント。今日中に絶対帰って来るから、帰って来た時、一緒のベッドで寝て上げるからね。だから、待っててね!」
「本当!?絶対だよ、ママ!」
エステルの言葉にミントは笑顔になった。
(………ミントちゃん、ちょっとだけ羨ましいな………)
一方ツーヤは羨望の眼差しでエステルとミントを見ていた。
(………プリネ、プリネ。あの眼は羨ましがっている眼だよ。)
(そうだぞ、プリネ。ここはエステル達に負けぬよう、お前ももっとツーヤに気を使ってやれ。)
(フフ………わかっていますよ、お二人とも。)
エヴリーヌとリフィアに小声で言われたプリネは微笑んだ後、ツーヤに話しかけた。
「ツーヤ、今日はエステルさん達みたいに、一緒のベッドで寝ましょうか。」
「え!?いいんですか!?」
プリネに言われたツーヤは驚いた後、表情を明るくして尋ねた。
「いいも何も私達は一生を共にする”パートナー”でしょう?そんな事ぐらい、当たり前じゃない。」
「……はい!じゃあ、お言葉に甘えて、今日はお願いします!」
プリネの言葉を聞き、ツーヤは笑顔を見せた。
「さて……と。じゃあ、あたし達は城に行ってるから、ミントの事をお願いね、4人共。」
「「はい。」」
「ん。」
「余に任せておけ!」
エステルにミントの事を頼まれたプリネ達は力強く頷いた。
「よし………それじゃあ、グランセル城に行きましょ!」
そしてエステル達はミントをリフィア達に預けて別れた後、城に向かい、門番の兵達に晩餐会の招待状を見せて城の中に入った………
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第136話 | ||
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