英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 139 |
その後、豪華な料理が次々と運ばれ、エステル達は滅多に食べれない料理を楽しんだ。
〜グランセル城内・1階広間〜
「はっはっは、いや、愉快愉快。どうかね、メイベル市長。王城のグランシェフの腕前は?ボースの『アンテローゼ』にも負けずとも劣らずの味ではないか?」
「ええ、素晴らしい腕前ですわ。ワインとの相性も完璧ですし、思わず引き抜きたくなりますわね。」
「はっはっは、そなたが言うとあながち冗談には聞こえないな。どうだ、ジンとやら。東方人のそなたの口には合うかな?」
メイベルの賛辞にいい気分でいたデュナンはジンに尋ねた。
「いや、大変結構ですな。不調法な自分の舌にも判る洗練された深みと味わい……。リベール料理の真髄を味わっているような心境です。」
「うんうん、そうだろう。どうだ、若き遊撃士たちよ。こんな豪勢な料理は今まで食べたことがなかろう?」
感心しているジンを見て、デュナンは頷いた後、今度はエステル達に尋ねた。
「うーん、確かにメチャメチャ美味しいです。招待してくれた人はともかく、料理だけはホンモノかも……」
「はっはっは。そうだろう、そうだろう……。……ん?」
エステルは笑顔で料理を褒めたが、サラッと遠回しにデュナンを悪く言い、デュナンはエステルの賛辞に弱冠引っ掛かった。
「ほ、本当に素晴らしい料理ですね。それに今まで、こういう正式な席に呼ばれる機会が無かったのでとても勉強になります。招待してくださって本当にありがとうございました。」
デュナンの様子を見て、ヨシュアは慌てて取り繕った。
「はっはっは。なかなか殊勝でよろしい。しかし、執事から言われてようやく思い出したのだが……。そなた達とは、ルーアンの事件で一度顔を合わせていたのだな。何とも奇妙な縁があったものだ。」
「は、はあ……そーですね。(執事さんから言われるまで思い出せなかったわけね……あの様子じゃあ、リウイの事も覚えてなさそうね………)」
エステルは自分の事をすっかり忘れているデュナンに内心呆れた。
「さあ、今夜は無礼講だ!料理も酒もたっぷりあるから、遠慮なく追加を申し出るがいい!」
「公爵閣下……。その前に、例の話を済ませてしまっては如何ですか?」
デュナンが張り切っている所をリシャールが遠慮気味に申し出た。
「……おお!そうだ、その話があったか。実は、王国を代表する諸君らに集まってもらったのは他でもない……。この晩餐会の席を借りてある重大な発表をしたかったのだ。」
リシャールの申し出にデュナンはエステル達や招待客達にある事を申し出た。
「ほう、重大な発表……」
「それは一体……どのようなお話でしょうか?」
デュナンの言葉にクラウスは驚き、マードックは警戒するような表情で尋ねた。
「うむ。ここから先は、私の代わりにリシャール大佐に説明してもらおう。」
尋ねられたデュナンはリシャールに説明をするよう、促した。
「……恐縮です。女王陛下が御不調なのはすでにご存じのことかと思います。ですが、徐々に回復なさっているため、すぐに元気な姿を見せてくださるでしょう。」
「おお……それは良かった。」
「では、陛下へのお見舞いは許していただけるのかしら?」
リシャールの説明にクラウスは安心し、メイベルは女王への見舞いの許可を尋ねた。
「あいにくですが、陛下のご意向でそれは遠慮して欲しいとのことです。ただ数日中に、王都周辺を騒がすテロリストどもは一掃できる公算です。その事と合わせて、
女王生誕祭は予定通りに執り行われるでしょう。」
「ふむ……市民も楽しみにしているだろうからめでたいことではありますな。だが、話というのはそれだけではないのでしょう?」
「……確かに、それだけならば連絡してくれれば済みますからな。」
コリンズの疑問に同意するように、マードックは頷いた。
「フフ、察しが良くて助かります。女王陛下が回復されつつあるのは先ほど述べた通りなのですが……。陛下は、今回のご不調を理由にある決断をなされたのです。その決断とはすなわち―――」
コリンズの疑問にリシャールは口元に笑みを浮かべて頷いた後、一端言葉を切り、表情を真剣にして、ある説明をした。
「ご自身の退位と、こちらに居られるデュナン公爵閣下への王位継承です。」
「な、なんですと!?」
「ほ、本当ですの!?」
リシャールの説明にマードックやメイベルは驚きの声を上げた。また、他の招待客達も驚きを隠せていない様子だった。
(ヨシュア、これって……!)
(うん……。リフィア達の情報通り、とうとう陰謀が姿を現したね。)
一方エステルは小声でヨシュアに話し掛け、ヨシュアは小声で頷いた。
「……私も戸惑ったのだが陛下が存外、弱気になられてな。無理もない、40年近くもの間、激動の時代に翻弄されたリベールを、さらには10年前に突如現れた異世界の大国――メンフィルとの関係を同盟というこの上なく素晴らしい形で女性の身で導いてくださったのだ。そう思うと、この生誕祭を最後に俗事から解放させてさしあげたい……。王位継承権を持つ身としてはそう決意した次第なのだよ。」
「なんと……陛下がそこまでお悩みになっておられたとは……。毎年、お会いしているというのに気付けなかったとは情けない……」
「し、しかし……。このような酒の入った席で聞くにはあまりにも重大な内容ですわ。失礼ですが、どこまで現実性のあるお話なのでしょう?」
デュナンの演説を聞いたクラウスは自分自身を嘆いたが、メイベルは反論した。
「む……」
メイベルの反論にデュナンは不満そうな表情をした。
「ふむ、メイベル市長。閣下のお言葉が信用できないと……そう仰られるか?」
リシャールはメイベルに尋ねた。
「そ、そうは言ってません!ただ、市長には選挙があるように王位継承にもしかるべき手続があるのではないかという事です。」
「そうですな……」
「できれば、陛下から直接、今の話をお伺いしたいものです。」
メイベルの主張にコリンズやマードックは頷いた。
「う、うーむ……」
市長達の様子にデュナンはたじろいだ。
「皆さんの動揺も理解できます。ですが、どうか冷静になって今の話を受け止めていただきたい。先ほど申し上げたように生誕祭には陛下ご自身の口から発表されることになるでしょう。真偽はその時に確かめれば済むことではありませんか?」
「そ、それは……」
「………………」
リシャールの言葉を聞き、マードックやコリンズは何も言えなくなった。
「問題なのは、この件が発表された時に一般市民にどう影響を与えるかです。いたずらな混乱を避けるためにも各地の責任者である皆さんに前もって事を伝えておきたい……。公爵閣下はそう判断なさったのです。」
「ゴホン……。うむ、まあそういう事だな。」
リシャールの説明に同意するようにデュナンは咳払いをして頷いた。
「そして、陛下の退位ともなれば事態はリベール国内には留まりません。大陸諸国の目、とりわけ北の脅威たるエレボニアや同盟国たるメンフィルの反応も気がかりでしょう。まさに、ここにいる我々が新たなる国王陛下を盛り立てながら一致団結をしなくてはならない……。そんな時期が迫っているのです。」
(な、何かもっともらしい事を言ってるんですけど……)
(うん……。大したアジテーターだね。)
リシャールの演説をエステルは怪しいものを見るよう表情で小声でヨシュアに言い、ヨシュアはエステルの言葉に静かに頷いた。
「正式決定は、生誕祭の時に陛下から直接伺うとして……。心の準備をしておくようにと。つまり、そういう事ですか?」
「フフ……。理解していただいて幸いです。」
マードックの確認にリシャールは表情を笑みに変えて答えた。
「うーむ……。確かにそういう事になったらわしらも忙しくなりそうじゃな。」
「そうですわね……。市民へのアナウンスもありますし。」
クラウスやメイベルが納得しかけた時
「……1つお伺いしたい。」
コリンズが尋ねた。
「公爵閣下に王位継承権があるのは私も存じておるが……。たしか、同委の継承権を持つ方が他にもいらっしゃったはずですな?」
「そ、それは……」
コリンズの疑問にデュナンはすぐに答えられず、戸惑った。
「陛下のお孫さんにあたるクローディア殿下のことですね。確かに、王室典範上の規定では公爵閣下と同位ではありますが……。まだ年端もいかないという理由で陛下は閣下の方を推されたようです。先ほどの話にもありましたが……。女性の身に余るほどの重責を姫に負わせたくなかったのでしょう。」
「………しかし、それを言うならメンフィルはどうなのですか?かの国はエレボニアを越える大国ながら、次代の皇帝は現皇帝陛下直系の一人娘だと話に聞きますが………」
リシャールの説明にコリンズは他国で次代の皇帝になる女性であるリフィアの事を持ちだして、尋ねた。
「現皇帝シルヴァン陛下の一人娘であり、メンフィル大使――リウイ皇帝陛下の孫娘でもあられるリフィア殿下の事ですね。確かにリフィア殿下も女性という身ながら、大国を統べる皇帝という重責を負う事になりますが、そもそもリフィア殿下は我々”人間”と比べれば遥かな長い時を生きる”闇夜の眷属”。外見は幼い方ですが、既に40近くという年齢で王族としての経験もかなり詰まれている様子であられます。それに対してクロ―ディア殿下はまだ成人もしていない………女王陛下も悩んだ末、クロ―ディア殿下への王位継承を見送ったのです。」
「そうそう、そうなのだ!まあ、クローディアには良い縁談を探してやるつもりだ。非公式だが、すでに他国の王家から何件もの申し入れがあってな……。ひょっとしたら今年中にも縁談が実現するかもしれんのだ。」
リシャールの説明にデュナンは頷いた後、クロ―ディア姫の現状を説明した。
「まあ……!」
「……ふむ、お話は判りました。そうなるとお目出たい話が2つも続くというわけですな。」
「ううむ……姫様が……。ご結婚されるには少々若すぎるとは思うが……」
デュナンの説明を聞いたメイベルは驚き、コリンズは一応納得し、クラウスは成人もしていないクロ―ディア姫が結婚する事に戸惑った。
「……ちょいと失礼。1つ質問してもいいですかね?」
そこに今まで黙っていたジンが話に入って来た。
「ジ、ジンさん?」
突然話に入って来たジンにエステルは驚いた。
「ほう……?構わん、言ってみるがいい。」
話に入って来たジンをデュナンは以外そうな表情をした後、続きを促した。
「失礼だが、今耳にした話は自分たちのような部外者が聞いていい話とは思えません。まして、自分は王国人でもない。なのに、何故このような席でわざわざ発表されたのでしょう?」
「それは、優勝した君たちが偶然にも遊撃士だったからだ。陛下の退位という重大な情報はギルドにも事前に伝えたかった。そう私が閣下に提案したので聞いてもらう事になったのだよ。」
「なるほど……。リベールでは、軍とギルドが良い関係を結んでいるという話はどうやら本当だったようですな。」
リシャールの説明を聞いたジンは納得した。
「はは、両帝国や共和国ほど軍事力が充実していないからね。手を結ばざるを得ないというシビアな現実があるのだが……。いずれにせよ、真意はご理解いただけたかね?」
「ふむ……了解しました。今日、この席で知った情報は王都支部にも伝えておきましょう。」
リシャールの確認するような言葉にジンは頷いた。
そうして晩餐会の時は流れて行った………………
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第139話 | ||
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