英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 140 |
晩餐会が終わったその後、エステル達は自分達の部屋に戻った後、一端ジンと別れ、ヒルダが待っている侍女の控室に行く途中、以外な人物達に出くわした。
〜グランセル城内・廊下〜
「おや、君たちは……」
「あ……!」
「リシャール大佐……」
自分達に近付いて来た人物――リシャールと傍に着き従っているカノーネを見たエステルとヨシュアは表情が強張った。
「フフ……。エステル君とヨシュア君か。こうして面と向かって話すのは初めてではないかな?」
「え……」
「最後に言葉を交わしたのはダルモア市長逮捕の後でしたね。でも、大佐が僕たちのことを覚えているとは思いませんでした。」
リシャールが自分達の事を覚えている事に2人は驚いた。
「交わした言葉は少なかったが君たちは非常に印象的だったからね。気になって調べてみたら驚いたよ。まさか、カシウス大佐のお子さんたちだったとはね……」
「そ、その事も知ってたんだ」
自分がカシウスの子供である事を知っているリシャールにエステルは驚いた。
「はは、伊達に情報部を名乗っているつもりはないよ。……カシウスさんには彼が軍にいた時にお世話になった。それこそ……言葉では言い表せないほどね。」
「………………………………」
エステルはリシャールが言っている事が真実かどうか、見極めようと真剣な表情で見ていた。
「どうだろう、これから少し話に付き合ってくれないだろうか?君たちとは、前から一度、個人的に話をしてみたかったのだ」
「ええっ!?」
「………………………………」
リシャールの申し出にエステルは驚き、ヨシュアは警戒した。
「あ、あの、大佐殿……。これから公爵閣下との打ち合わせがあるのでは?」
また、傍にいたカノーネも驚き、慌てて尋ねた。
「少しくらい遅れても構わんよ。そうだな、話すのだったら奥の談話室を借りるとしようか。アルコール抜きのカクテルでも振舞わせてもらうよ。」
「そ、それでしたら私がお作りしますわ!」
「いや、それには及ばない。君は公爵閣下の所に行って私が遅れる旨を伝えてくれたまえ。」
「りょ、了解しました……」
リシャールの伝言にしぶしぶ納得したカノーネはエステル達を睨んだ。
「……………………(ギロリ)」
(ゾクッ……)
カノーネに睨まれたエステルは冷や汗をかいた。
「……それでは失礼しますわ。」
そしてカノーネはどこかに去った。
「さてと、私たちも談話室に向かうとしようか。それでは付いてきたまえ。」
またリシャールも談話室に向かって、歩きはじめた。
「あ……。(ね、ねえヨシュア、どうしよう?)」
「(付き合うしかなさそうだね……。少し遅れそうだけど夫人の所には後で行こう。)」
そして2人はリシャールに着いて行った。
〜グランセル城内・談話室〜
「……カシウスさんと出会ったのは私が士官学校をでたばかりのことだ。当時、彼が率いていた独立機動部隊に配属されてね……。それ以来、彼が軍を辞める時まで公私にわたってお世話になったんだ。」
「ふ、ふーん……そうだったんですか……」
ナイアルによって見せられた資料でリシャールの経歴を知っていたエステルは適当に相槌を打った後、別の事を尋ねた。
「えっと、その頃のお父さんって大佐から見てどんな感じでした?」
「一言でいうと『英雄』だったかな。『剣聖』とまで言われた技の冴え。あらゆる戦況に柔軟に対応できる立体的かつ多面的な指揮能力……。
単なる戦術に留まらない、高度な戦略レベルでの部隊運用……。メンフィルの”覇王”――リウイ皇帝陛下とファーミシルス大将軍を除いてどれをとっても並ぶ者はいなかった。」
「な、なんだか別の人の話を聞いてるみたいなんですけど……」
「父が軍を辞めるまでというとあの『百日戦役』の時も一緒に?」
カシウスの過去を聞いたエステルは信じられない思いでいて、ヨシュアはある事が気になって尋ねた。
「ああ……。カシウスさんの下で戦ったよ。今でも覚えている……。彼が立てた奇跡のような作戦を実行した時の熱気と興奮を……。あの時のことを話し始めるといくらあっても
時間が足りないからまたの機会にさせてもらうが……。ただ、これだけは断言できる。あの時、カシウス・ブライトという男が王国軍にいなかったら、このリベールはメンフィルが現れるまでにエレボニアに吸収合併されていただろう。」
「う、うそ!?さすがにちょっと信じられませんけど……」
リシャールの言葉にエステルは信じられない思いで驚いた。
「フフ、信じられないような事を成し遂げたから『英雄』なのさ。もっとも、戦後すぐに退役して女王陛下の勲章すら固辞されたから名前が知られることはなかったが……。今でも、一部の軍人の間ではカシウス大佐の名は英雄の代名詞だ。」
「うー……。あのヒゲ親父、そんな事、一言も教えてくれてないしっ!」
「まあ、娘にわざわざ語って聞かせるような話じゃないさ。父さんを責めたら可哀想だよ。」
リシャールの話を聞き、エステルは何も教えてくれなかったカシウスを怒り、ヨシュアはエステルを宥めた。
「か、可哀想なのはあたしの方!……って、ヨシュアってばあんまり驚いてないみたいだけど。もしかして……今の話、知ってたりするわけ?」
「リシャール大佐が父さんの部下だったことはさすがに知らなかったけど……。まあ……おおむねのところは。」
「あ、あんですって〜!?それじゃあヨシュアも共犯!?」
ヨシュアまでカシウスの過去を知っていた事にエステルは怒った。
「お、落ち着いてよ、エステル。僕だって別に、父さんから教えてもらったわけじゃないよ。それに父さんから、君にわざわざ知らせる事はないって言われたんだ。」
「う〜、納得いかないわね〜……。本当にもう、帰ってきたらとっちめてやるんだからっ!」
「フフ……」
2人の様子を見て、リシャールは思わず笑った。
「えっと、その……」
「す、すみません。話の腰を折ってしまって。」
リシャールの笑い声に気付いたエステルは恥ずかしそうにし、ヨシュアは謝った。
「いや……。君たちを見て少し安心した。カシウスさんが軍を辞める時、私は必死に引き留めたものだが……。どうやらその選択は彼にとって正解だったらしい。
カシウスさんはきっと、君達や奥さん――”家族”がいかに大切かに気付いたんだろう。」
「リシャール大佐……」
「………………………………」
リシャールのカシウスに対する思いを知ったエステルは驚き、ヨシュアは真実かどうか見極めようと、リシャールを真剣な表情で見ていた。
「………そうだ。話は変わるのだが、エステル君。君はリウイ皇帝陛下から直々に依頼を受けているようだが昔、何かあったのかね?」
「ほえ?どうしてそんな事を知りたいの?」
リシャールの質問にエステルは首を傾げて尋ねた。
「深い意味はないさ。『英雄』カシウス・ブライトを越える大英雄にして王の中の王――『英雄王』リウイ皇帝陛下がどうして一遊撃士である君に目をかけているのか、個人的に気になっているんだよ。」
「(……まあ、これは話しても問題ないわよね?)えっと……あたしもよくわかんないだけど、リフィア達が言うにはあたしが”闇夜の眷属”と親しいからだって。」
「ほう。一体それが何に関係するのかね?」
エステルから話を聞いたリシャールは驚いて尋ねた。
「なんかあたしが普通にあたし達人間とは違う種族――”闇夜の眷属”と初めから親しくしている事が凄く珍しくって、それであたしがどういう人物か知りたいんだそうよ?」
「ふむ。昔”闇夜の眷属”が君に何かして、それを恩に思った君は”闇夜の眷属”と親しくしているのかね?」
「ううん。あたしはただ会話ができれば、種族とか関係なく仲良くなれると思っただけよ。……でもまあ、”闇夜の眷属”の人達に返し切れない恩があるのは事実よ。」
「ほう?やはり”百日戦役”でのエレボニア帝国兵のロレント襲撃の際、メンフィルが君達ロレント市民を保護し、その後戦争が終わるまで配給や街の警護等をしてくれた件かね?」
エステルの説明にリシャールは自分なりの推測をして、それが正解かを尋ねた。
「う〜ん……その事もあるけど、一番の理由はお母さんの命を救ってれた事かな?」
「奥さんの…………今は元気でいらっしゃるが、やはりロレント襲撃で怪我を?」
闇夜の眷属がレナの命の恩人と知ったリシャールは驚き、尋ねた。
「うん。お母さん、あたしを庇って崩れて来た瓦礫の下敷きになったの。………それをたまたま通りがかったリウイ…皇帝陛下達が瓦礫をどけてくれて、”闇の聖女”様とリフィアが治癒魔術を使って、死にそうになったお母さんの命を救ってくれたんだ。」
「そんな事が………フフ、それにしても”闇の聖女”殿とリフィア姫殿下直々の治療を受けれたなんて、それは光栄な事だよ。」
「やっぱりリフィア達って、凄い評価なの?」
一般的なリフィア達の評価が気になったエステルはリシャールに尋ねた。
「当然だよ。”覇王”リウイ皇帝陛下を始めとし、”戦妃”カーリアン殿、”空の覇者”ファーミシルス大将軍、”破壊の女神”シェラ将軍、”覇王の狼”ルース将軍、”闇の聖女”ペテレーネ殿に、ペテレーネ殿と同じ”聖女”で評されている”癒しの聖女”ティア皇女等、
メンフィルの皇族や武将は一般的に知られる”生ける伝説”だよ。」
「あはは……こうやって改めてリフィア達の事を聞くと、リフィア達が遠い存在に思えてしまうわ。」
「ハァ………遠い存在も何も、実際リフィア達は本当なら僕達なんかが一生に一度、その姿を拝めるかどうかわからない存在だよ?」
リシャールの話を聞いたエステルは苦笑し、その様子を見たヨシュアは呆れて溜息を吐いた。
「フフ……君はカシウスさんとはまた違った大物になりそうだな。…………さてと……付き合ってくれてありがとう。あまり公爵閣下を待たせるわけにはいかないから私はこれで失礼させてもらうよ。」
そう言って、リシャールはソファーから立ち上がった。
「あ……はい。」
「すみません、僕たちの方が話を聞かせてもらうばかりで……」
「いや、君たちは一番知りたかったことを教えてくれた。……これで未練はなくなったよ」
リシャール大佐は一端目を閉じた。
「え……?」
「それはどういう……」
「はは、近いうちにまた会う機会もあるだろう。その時には、カシウスさんとも一緒に話せるといいのだが……」
リシャールは意味深な言葉を残し、エステル達の元から去って行った。
「えーと……。今ここに居たのって本当にリシャール大佐だっけ?」
「あのね……なにを寝ぼけてるのさ。」
リシャールが去った後、自分に尋ねて来たエステルにヨシュアは呆れた。
「だ、だってあんな風に父さんの事を話すなんて……。なんていうか……イメージと違ったっていうか。」
「……確かに。ただの悪人ではなさそうだね。でも、それとは別に彼が何かを企んでいるのも確かだ。父さんの事は、この際分けて考えなくちゃいけないと思うよ。」
「うん……それはそうなんだけど……」
ヨシュアの忠告をエステルは腑に落ちない様子で頷いた。
「イヤな言い方をするけど……。僕たちに見せた親しさだって何かの目的があるのかもしれない。彼みたいな情報将校にとって僕たちみたいな子供を誑(たぶら)かすのは朝飯前だろうからね。」
「さ、さすがにそれは言いすぎなんじゃないの?」
「うん……そうだね。疑うのは僕の役割だ。君は、自分の直感を信じていた方がいいと思う。」
「え……」
ヨシュアの言葉にエステルは驚いた。
「ただ、あらゆる可能性に備えて油断だけはしないで欲しいんだ。遊撃士の仕事というのは……たぶんそういうものだと思うから。」
「………………………………。うん、わかった。ちゃんと心に留めておくわ。」
「……ありがとう、エステル。」
「や〜ねえ。何でヨシュアが礼を言うのよ。それよりも、さっさとヒルダさんの所に行きましょ。たぶん、待ちくたびれてるわ。」
「そうだね……。メイドさんたちの詰所に行こうか。」
そしてエステル達はヒルダに会いに、侍女の詰所に向かった……………
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第140話 | ||
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