英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 169 |
クーデター事件が終結し、クーデター事件の影響で中止かとも囁かれていた女王生誕祭が無事開催された。王都は生誕祭でいつも以上に賑やかになり、グランセル城の前には大勢の人々がアリシア女王の姿を見ようと駆けつけ、空中庭園から姿を現した女王の姿を見て歓声をあげた。
〜遊撃士協会・グランセル支部〜
多くの遊撃士達やリフィア達に見守られエステルとヨシュアはエルナンから最後の推薦状をもらおうとしていた。
「―――エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。今回の働きにより、グランセル支部は正遊撃士資格の推薦状を送ります。どうぞ、受け取ってください。」
「「はい!」」
そしてエステルとヨシュアは念願のグランセル支部の正遊撃士への推薦状をエルナンから受け取った。
「これで、5つの地方支部での推薦状が揃ったわけですね。それではカシウスさん。よろしくお願いします。」
「うむ。」
エルナンが下がり、いつもの余裕のある表情とは違い、真剣な表情をしたカシウスが進み出た。
「エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。これより、協会規約に基づき両名に正遊撃士の資格を与える。各地方支部での推薦状を提出せよ。」
「は、はい……」
「どうぞ、ご確認ください。」
厳かな雰囲気を出すカシウスにエステルとヨシュアは緊張しながら、今まで貰った5枚の推薦状をカシウスに渡した。
「ロレント支部、ボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、そしてグランセル支部……。5支部全てのサインを確認した。最終ランク、準遊撃士1級。ここまで行くとは思わなかった。正直、驚かされたぞ。女神(エイドス)と遊撃士紋章において、ここに両名を正遊撃士に任命する。両者、エンブレムを受け取るがいい。」
「「はい!」」
「おめでと、エステル、ヨシュア!」
エステルとヨシュアが正遊撃士の紋章を受け取るとシェラザードは2人を祝福し
「はは、新しいエンブレム、なかなか似合ってるじゃないか。」
ジンもエステル達をほめて
「まあ、今回ばかりはよくやったと誉めてやるよ。」
アガットも珍しくエステル達を誉めた。
「おめでとうございます、エステルさん、ヨシュアさん!」
「2人ともおめでとう。」
プリネやエヴリーヌは拍手をしながらエステル達を誉め
「最高ランクで正遊撃士の昇格するとは、さすが余の友だ!」
リフィアは胸を張って、エステル達を祝福し
「おめでとう〜!ママ!ヨシュアさん!」
「おめでとうございます!2人共、凄く輝いていますよ!」
ミントは自分の喜びのようにはしゃいでエステル達を祝福し、ツーヤも拍手をしながら祝福した。
「えへへ……みんな、ありがと!」
「ここまで来れたのも……皆さんが支えてくれたおかげです。」
仲間達からの祝福の言葉にエステルは照れながら、ヨシュアは姿勢を正して笑顔でお礼を言った。
「さて………正遊撃士になった事でメンフィル大使の依頼も終了した事なので、2人には大使館から預かっていた報酬を渡します。」
そしてエルナンはエステルとヨシュア、それぞれに10万ミラを渡した。
「あれ!?この報酬………提示されていた報酬よりかなり多いじゃない!確か報酬は10万ミラじゃ………2人で分けたら5万ミラになるんじゃないの?」
「僕とエステル、両方とも10万ミラをもらったよね………」
エステル達は渡された報酬を見て驚いた後、リフィア達を見た。
「2人のお陰で余達は予想以上の経験を積めた!それはその礼だ!それとリウイも余達の報告を聞いて、さらに報酬を増やした!受け取るがいい!」
「久しぶりに楽しい旅ができたからね。その報酬の中にはエヴリーヌがリウイお兄ちゃんからもらったおこずかいがあるよ。」
「余分な10万ミラの内、5万ミラは3人で出しあったお礼です。どうか、受け取って下さい。」
「3人共………お礼を言うのはこっちの方よ!ありがとう!」
リフィア達の言葉を聞いたエステルはお礼を言った。
「ハハ、とんでもない祝金をもらったな…………遊撃士としてのキャリアはここからが本番だ。そのことを忘れないようにな。」
「うん……わかってる。」
「一層、精進するつもりです。」
カシウスの言葉に2人は頷いた。
「さて、めでたい話の後で非常に申しわけないのですが……。ここで皆さんに、ひとつ残念な事をお知らせしなくてはなりません。」
「残念な知らせ……?」
エルナンの言葉が理解できずクルツは首をかしげて呟いた。
「本日を持ちまして、カシウス・ブライトさんが遊撃士協会から脱会します。しばらくの間、王国軍に現役復帰するとのことです。」
「なっ……!」
エルナンの言葉にカルナは声をあげて驚き
「ほ、本当ですか!?」
グラッツも信じられない顔をした。また、そのことを知らされていなかったクルツとアネラスも驚いた。
「長らく留守にした上に突然、こんな事を言い出して本当にすまないと思っている。だが、クーデター事件の混乱はいまだ収拾しきれていない。情報部によって目茶苦茶にされた軍の指揮系統も立て直す必要がある。その手伝いをするつもりなんだ。」
「あ、そうか……。軍人は遊撃士になれないから……。そういえば、先輩達はこのことを知っていたみたいですね。」
アネラスが驚いていないシェラザード達に尋ねた。
「ええ、相談を受けたからね。正直心細いけど……いつまでも先生に頼ってばっかりじゃあたしたちも一人前になれないし。」
「まあ、これからは若手だけでも何とかなるって証明してやろうじゃねえか。」
「そうか……そうだな……」
シェラザードとアガットの頼もしい言葉にクルツは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「しかし、いつまでたっても忙しさから解放されないねぇ。」
「まあ、こうして新たな正遊撃士が2人誕生したんだ。せいぜい俺の代わりにコキ使ってやるといいだろう。」
「あのね……」
「はは、これからはもっと忙しくなりそうだね。」
カルナの愚痴にカシウスはエステル達を自分の身代りにすると言い、それを聞いたエステルはジト目でカシウスを睨み、ヨシュアは苦笑した。
「さて………実は残念な知らせと同時に嬉しい知らせもあります。…………ミントさん。」
「はーい!」
エルナンに言われたミントはクルツ達の前に出た。
「今日から準遊撃士になるミント・ブライトです!!これからよろしくお願いしま〜す!」
「へっ!?ミントちゃん、準遊撃士になったの!?」
ミントの自己紹介を聞いたアネラスは驚いた。また、クルツ達も驚きを隠せていなかった。
「おいおい………さすがにそれは冗談だろ?いくらなんでも、嬢ちゃんみたいな年齢で準遊撃士にはなれないだろ?」
驚いている中、グラッツがエルナンに尋ねた。
「いえ、彼女はこう見えても16歳です。ですから、規定年齢は達していますから大丈夫ですよ。」
「なっ!?」
「えええええ〜!?」
「はああああああ!?」
エルナンの言葉を聞いたクルツやアネラス、グラッツは驚いて声を出した。
「そう言えば………その子、数年前からマーシア孤児院に住んでいたけど、その時からずっとその姿のままだったね………院長さんの話だと、その子とそっちの黒い髪の女の子は”闇夜の眷属”の子供だから、成長があたし達人間と違って、遅いっていう話を聞いた事があったよ。」
一方ミントとツーヤの事を前から知っていたカルナはテレサから聞いた話を思い出した。
「それにしてもまさか、一発で筆記試験や実施試験にうかるなんて、思わなかったわよ……あたしの勉強した日々はなんだったの〜!」
エステルは今までの日々を思い出して、叫んだ。
「ミントは君と違って、日曜学校の授業は真面目に受けていたようだし、君と出会った後、すぐに遊撃士の勉強を始めたようだからね。後は僕達の旅からも学んでいたようだし、合格してもおかしくないよ。」
叫んでいるエステルにヨシュアは当然のように言った。
「本当にあんたの娘とは思えないほどの賢い娘よ。油断していたらあっという間に抜かれるわよ♪」
「そんな事ないもん!見てなさいミント!あっという間にA級になって、驚かせてやるんだから〜!」
シェラザードにからかわれたエステルはミントを見て、言った。
「うん!その時を楽しみに待っているね、ママ!」
エステルに言われたミントは可愛らしい笑顔を見せて言った。
「さて………ミントさん。」
「はい!」
エルナンに呼ばれたミントはエルナンの方に体を向けた。
「ミント・ブライト。本日14:00を持って貴殿を準遊撃士に任命する。以後は協会の一員として人々の暮らしと平和を守るため、そして正義を貫くために働くこと。」
「はい!」
そしてミントはエルナンから準遊撃士の紋章と遊撃士手帳を受け取った。
「……順番が逆になるのですが、近い内、必ず短期間で終わらせる集中的な研修を受けてもらいますね。エステルさん達の仕事を手伝っていたので問題はないと思うのですが、念の為に受けてもらいます。」
「はーい!」
エルナンに言われたミントは元気良く返事をした。
「おめでとう、ミントちゃん!あたしもミントちゃんに追いつくよう、一杯頑張るね!」
「えへへ、ありがとう、ツーヤちゃん!ツーヤちゃんも早くプリネさんの騎士になれるよう、応援しているね!」
ツーヤに祝福されたミントはお礼を言った。
「ふわあ〜……こんな可愛い娘が後輩になるなんて………ミントちゃん、よかったら私が何でも教えるよ!」
「ダ、ダメよ〜!それはミントのお母さんであるあたしの役目なんだから!」
アネラスはミントが準遊撃士になった事に喜んだ後、ミントに遊撃士の事を尋ねるよう言い、その様子を見たエステルは焦って言った。
「やれやれ……まさかこんなガキが16歳とはな………そっちのチビといい、”闇夜の眷属”ってのは一体どういう育ち方をしているんだ?」
アガットは呆れながら言った後、リフィアを見た。
「今、誰を見て言った!もう一度言ってみろ!」
見られたリフィアは杖を出して、アガットを睨んだ。
「お、お姉様!抑えて下さい。せっかくのめでたい日なのですから………エヴリーヌお姉様も手伝って下さい!」
「はいはい。」
怒っているリフィアを見て慌てたプリネはエヴリーヌと一緒にリフィアを宥めていた。
「これからは”パートナー”として、家族として、そして同僚としてよろしくね、ミント!」
「うん!」
一方エステルはミントと和やかな雰囲気を作っていた。
その後、カシウスを加えたエステル達は城への道に歩きながらクーデター事件の事後などを話していた。また、ミントは今日別れる事になるツーヤと最後の思い出作りをするために、一端別行動にした。
「まったく父さんってば……。生誕祭くらい、王都見物に付き合ってくれたらいいのに……」
カシウスがせっかくのお祭りにつきあってくれないことにエステルは不満を言った。
「すまんが、さっそく軍議があってな。リシャールこそ逮捕されたが、いまだ逃亡中の特務兵も多い。カノーネ大尉も、あの地下遺跡でいつの間にか姿をくらませていた。さらに、大会に参加した空賊団も混乱にまぎれて逃亡したらしい。生誕祭の途中で騒ぎが起こらないよう警備を強化しなくてはならんのさ。」
「まったく……。揃いも揃ってしぶとい連中ねぇ。」
「たしかに、どちらも諦めが悪そうな感じはするね。」
エステルはカノーネや空賊団の性格等を思い出し、溜息を吐いて呟き、ヨシュアも同意するように軽く頷いた。
その後3人は黒のオーブメントやカノーネと同じく姿を消したロランス少尉のことについて話のしていたらいつのまにか城門の前につき、城に入って行くカシウスと一端別れ生誕祭を楽しむために2人は王都に出かけた。そしてエステルとヨシュアは2人で今までお世話になった先輩遊撃士や友達、リフィア達、ミント、ツーヤと一緒にいるラッセル一家にお礼の挨拶回りをした後、休憩するために東街区の休憩所に向かった。
〜王都グランセル 東街区〜
「さてと、休憩所に着いたね。色々回ったから、そろそろ休憩にしようか?」
「うん、そうしよっか。」
2人は傍にあったベンチに座り、一息ついた。
「しばらくここで休もうか。とりあえず、王都で騒ぎが起きそうな気配はなかったね。」
「ハァ……あっきれた。そんな心配してたんだ。今日くらい、事件の後始末は父さんたちに任せとけばいーのよ。遅れて来たんだからそれくらい当然の義務だってば。」
せっかくの生誕祭を満喫せず、遊撃士として周囲の警戒をしていたヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。
「はは、そうなんだけどね。何となく性分っていうか……」
「はあ、仕方ないわねぇ。それにしても……あたしたちも正遊撃士かぁ。」
相変わらずのヨシュアの性格にエステルは苦笑した後、ついに長年の夢だった正遊撃士になれたことに感慨にひたった。
「これからは支部の監督を受けずに自由に行動できるようになる。ただその分、責任も増えるんだけどね。」
「うん、でもまあ何とかやっていけるわよね。今回だって、クーデターは阻止することができたんだし。もう、父さんに『ヨシュアがいないと心配だ』なんて言わせないんだから!」
「はは……さすがにもう言わないと思うよ。でも僕は、これからも君と一緒にいたいと思ってるけどね。」
正遊撃士になって、もう一人前のつもりでいるエステルにヨシュアは苦笑しつつ、女性を自分に惚れさせるような殺し文句をさらりと言った。
「……え……。………………………………。ええええええええっ!?」
「あれ、迷惑だったかな?」
ヨシュアの言葉を聞いてエステルは一瞬呆けた後、顔を赤くして驚いて叫んだ。そしてエステルの叫びを聞いたヨシュアは以外そうな表情でエステルを見た。
「いや、迷惑っていうか……。一緒にいたいって……それって……どういう……?」
エステルは目線をヨシュアに合わせず、恥ずかしがりながらヨシュアに真意を聞いた。
「そりゃあ、気心は知れてるし、お互いのクセは判っているからね。このままコンビを組んだ方がいいと思ったんだけど……」
「あ……遊撃士の仕事のことか……。なーんだ、てっきりあたし、逆に告白されちゃったのかと……」
ヨシュアが考えていることは自分の考えていることと思い違いであることに気付いたエステルは、安心して言ってはいけないことを呟いてしまった。
「えっ……」
今度はエステルの呟きを聞いてしまったヨシュアが驚いた。
「わああああああっ!今のナシ!忘れてっ!」
自分の失言に気付いたエステルは大きな声を出して、先ほどの言葉を取り消すようヨシュアに言った。
「エステル、それって……」
「し、しっかし今日はホントに暑いわよねっ!?暑いときにはアイスが一番!おごってあげるからちょっとここで待っててっ!」
ヨシュアの返事も聞かず、エステルは適当な言い訳をした後、何も考えずアイス売り場とは逆方向に走り去った。
「あ……。アイス売り場はそっちじゃないと思うんだけど……。………………………………。もしかして……エステル……。いや…………そんなわけないよな……」
ヨシュアは言っていることと違う方向に走り去ったエステルを見て呟いた後、エステルがさっき、自分に何を言おうとしたのかを考え、あることに思い当たったがすぐにその考えを打ち消した。そしてエステルと入れ替わるかのようにある人物がヨシュアに近づいて来た…………
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