真・恋姫無双呉ルート(無印関羽エンド後)第53話
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一刀side

 

 結論から言って、兵糧はなんとか遠征の続行が可能な量は残っていた。節約していけばなんとかもつとのことだ。が、それでも量に余り余裕は無い。このまま長期戦を続ければ、まず確実に枯渇する。そのためにも兵糧の補充は不可欠であり、祭さんと六花さん、霞と恋達にはまた兵糧を建業から運搬してきてもらうこととなった。

 彼女達は「気にするな」って笑っていたけど、もう最初のときのような奇襲が使えない以上、さらに厳しい行軍になる可能性がある。もっとも、今度は恋と霞が同行するため、被害の拡大を恐れて攻撃してこない、という可能性も無きにしも非ず、なんだが・・・。余りにも楽観的な考えだ。

 

 とにかく今は早急に軍を移動させるのが先決だ。このままこの場所にいても敵がいつやってくるか分からない。地の利は敵にある。タダでさえ士気が落ちているのにまた奇襲されてはたまらない。俺達は早急に準備を済ませて移動を開始した。

 

 

 

 

 「に、しても、結構追い詰められたわね、私達」

 

 行軍中、雪蓮は苦々しげに呟いた。片手には孫家の宝刀のはずの南海覇王をまるで棒切れのようにグルグル回しながら。俺達が進んでいるのは、うっそうと茂った森の中。はっきり言って敵兵が隠れるのにこれほどうってつけの場所は無い。いつ襲撃を仕掛けて来るか分からないため、軍勢はいつ奇襲されても迎撃できるように警戒をしつつ、進んでいく

 

 「雪蓮・・・、それ一応孫家の宝刀だろ?もう少し大切に扱おうよ」

 

 「い〜わよ別に。これはそう簡単に壊れるほどやわな代物じゃないわ。それよりも、問題はこれからのことよ」

 

 雪蓮は苦々しい表情を変えることなく、俺に対して話を続ける。

 

 「奇襲を受けて兵糧は焼かれちゃうし、明命と咲耶は離脱しちゃうしで今孫呉の軍の士気はがた落ちよ!?こんな状態で奇襲攻撃なんか受けても見なさいよ。下手すればこのまま敗走で遠征はご破算になるわ!!」

 

 「分かってるって。そうならないために、祭さん達も兵糧を調達に向かってくれているんだし、冥琳達も頑張ってくれているんだから。雪蓮も少しは指揮官らしくしてよ。王がイライラしていたら何も始まらないよ?」

 

 「む〜・・・」

 

 雪蓮は不満そうに膨れっ面をしていたけど、内心分かっているのか黙ってくれた。

まあ雪蓮の気持ちは分かる。俺だって、それに今頃別の軍を指揮しているであろう愛紗だって、いや、この孫呉の軍全員も同じ気持ちのはずだ。

 確かにこの遠征で討つべき敵である劉?軍はかなりやっかいだ。

 正攻法で攻めることはほとんど無く、地の利を生かした奇襲に夜襲、ゲリラ戦で此方を攻めてくる。

 これが一回二回程度なら此方も耐えられないことも無いのだが、何度も続けば兵達の士気もドンドン減ってくる。しかも兵糧も少なくなり、戦も長引けば、兵士達にも故郷へ帰りたい等と思う人間も出てくる。だからこそこの戦いは短期決戦で無ければならないのだが・・・。

 

 「・・・予想外に、長引きそうね」

 

 雪蓮がぼそりと呟いた。確かに、今回の戦は、想定していた以上に長引きそうだ。

本来ならば一ヶ月程度で終わらせるはずが、もう既に二ヶ月になろうとしている。本国に蓮華達が残っているとはいえ、あまり長く国を空けるのはまずい。警戒するべき敵である劉表は現在、白馬及び官渡で曹操と交戦中の袁紹と同盟を組んでおり、此方を狙ってくる様子は無いらしいが、それでも油断は出来ない。

 それにしても・・・、

 

 「なあ雪蓮」

 

 「ん?何?」

 

 「なんで劉表は袁紹なんかと同盟組んだのかな」

 

俺は今まで何気に気になっていたことを雪蓮に聞いてみた。雪蓮は宝刀を振り回すのを止めて肩を竦めた。

 

「さあ?あんな奴の事なんか分からないわよ、大方冥琳の言うとおり、袁紹と曹操との戦いで漁夫の利でも得ようとしてるんじゃないの?」

 

「ふーん、雪蓮もそう思うの?」

 

「当然よ、なんせ、そういう戦術は劉表の十八番だからね」

 

 雪蓮の忌々しげな返答を聞いた俺は、沈黙して考えた。

 

 劉表は袁紹の馬鹿っぷりを反董卓連合戦で嫌というほど知っているはずだ。

 この世界の劉表が史実と同じく優柔不断で家柄重視な人物だったならまだしも、実際の劉表は捕虜の処刑法や敵の虐殺等冷酷で残虐な面もあるにはあるが、統治自体はしっかり行っており、情報によれば自分の部下や子供達をしっかり指揮して民のためになる政を行っているとの事だ。洞察力も優れているらしく、それなら馬鹿な袁紹よりも曹操につきそうなものだ。実際史実の劉表は官渡の戦いでは最初袁紹についていたものの、最終的には側近達の助言もあって曹操に鞍替えした。

 なのにこの世界の劉表は、あえて袁紹と同盟を結んで援助を行っている。ただ、今の所は兵を送ることはしていないようだ。あくまで物資の援助のみらしい。でもたとえ物資のみといっても袁紹にそんな投資をする価値があるのか?俺にはあるとは思えないけど・・・。

 これには冥琳達も首を傾げていたけど「恐らくはおだてあげて傀儡にした袁紹を利用して、曹操もろとも戦わせて漁夫の利を狙うつもりだろう」と推測していた。

 確かに袁紹自身は統率者として優れた才能は持ってないが、兵糧、兵力共に曹操よりも上だ。実際に史実の官渡の戦いでは、烏巣の兵糧さえ焼かれなければ、持久戦で袁紹が勝っていた可能性が高い。この世界の袁紹も、史実と同レベルの兵力、兵糧を保持しているため、普通に持久戦を行えば、曹操、華琳を封殺することも可能なはずだ。

 まあ史実の袁紹は猜疑心が強すぎて参謀の言うことを聞かず、むしろ自分に意見する参謀をことごとく牢にぶち込んだり遠ざけたりしたせいで、官渡であれだけの大敗北をしたんだけど・・。参謀の名前は、確か狙授、田豊だったっけ・・・?相当優秀だったらしいんだけど、最終的には袁紹に嫌われて、田豊は最終的に処刑されたっけ?

 それはともかくとして、膨大な兵力と兵糧と、確かに劉表軍には袁紹軍と組むメリットは存在する。おまけに総大将は曹操と比べて馬鹿で扱いやすいため、その気になれば傀儡にしてしまうことも可能なはずだ。

そして袁紹と曹操を戦わせ、両者が疲弊したところを漁夫の利を得る、というのが冥琳達の予想だ。実際劉表軍は、こういう戦術を好んで使って戦に勝ち進んできたらしい。そのせいで劉表は『戦場の災い』『黒い怪鳥』と呼ばれて、諸侯から忌み嫌われているんだとか。いつ裏切られるか分からない要注意人物だということだ。

そんな危険人物と同盟を組んだ袁紹は、ある意味大物と言うべきか・・・。

 

「ま、今はそんなことより劉?との戦に集中しましょ。連中、いつ襲ってくるか分からないから」

 

「そうだな、気になるのは太史慈の動向と・・・」

 

「あの黒い軍勢について、ね」

 

雪蓮が真剣なまなざしを俺に向けてきた。

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「太史慈についての情報は、例の黒い軍勢の襲撃で軍が疲弊して今は行動できない状態だって事だけね。どこにいるかは今の所分からないし・・・」

 

「それじゃあ追撃も出来ないな。さすがに自分の領地だから土地勘があるというべきか・・・」

 

「ええ、こんな時明命が居てくれればね・・・」

 

雪蓮は悔しげな表情をしている。確かに隠密能力に優れた明命が居れば、敵の居場所もすぐ探り出せて、追撃も行えただろう。だが今明命は祭さん達と一緒に建業に帰還してしまっている。無いものねだりをしても仕方がない。

 

「悔やんでも仕方がないよ、雪蓮。今は出来ることを考えよう」

 

「そうね、斥候は既に何人か送ってるから、何か情報を掴んでくれればいいけど・・・」

 

雪蓮は少し心配そうな表情をする。

既に撤退した太史慈軍を追跡するように斥候に指示を出している。

が、今の所一人も戻ってきてはいない。敵を追跡して迷ったのか、それとも既に敵に消されたか・・・。

俺も雪蓮も後者で無いと願いたいが、現実は分からない。敵も馬鹿ではないから見つかったら知っている情報を吐かされて殺されるだろう。

 

「・・・今は無事を祈るしかないよ」

 

「そうね、こんな所でうじうじ悩んでもどうしようもないしね」

 

まあ太史慈についてはしばらくは襲ってこないだろう。他の将、厳白虎、王朗、そしてまだ姿を見せない劉?についてはまだ情報が無い為不明だが、恐らく太史慈が撤退したことは既に伝わっているはず、ならば他の将が動く可能性は高い。だから俺達の軍はいつ敵が来ても対処できるよう準備はしている。突然の奇襲でも何とかなるだろう。

 

「ねえ一刀、もし敵が来たら、今まで温存していたアレを使いましょ!」

 

「アレか・・、アレは会稽まで使わないって冥琳達と決めてたんだけどな・・・」

 

「しょうがないわよ、一応冥琳にもどうしてもマズくなったら使ってもいいって許可は貰ってるし」

 

「分かった分かった・・・、ただし、余り量は無いから、無駄遣いはしないでね」

 

「分かってるわよ!!心配しないで!!」

 

 雪蓮は自信満々に言ってるけど・・・、正直不安だ。

 

 確かにアレは念の為に数はそれなりに持ってきているけど、本当は会稽での攻城戦でもう一つのアレと一緒に使う予定だったんだ。

まあ予想以上に劉?軍が強かったから仕方がないといえば仕方がないけど・・・。

 

「一刀、もう此処まで来たら出し惜しみはしてられないわ。ここで負けたら孫呉に次は無いの。まあそれはそれとしておいて、一刀、私は劉?軍よりむしろ・・・」

 

「あの黒い軍勢が気にかかる、か・・・」

 

俺の言葉に雪蓮は黙って頷いた。

天の御使いに仕えるといった謎の黒い軍勢『八咫烏』。一応俺達を助けてはくれたけど、何故、見ず知らずの俺達を助けたのか、そして、彼らの言っていた御使いとは何者なのか、と謎が多く、一概に信用できない。

仮に俺と愛紗に仕える存在だとしても、何故今頃になって姿を現したのか。俺達に仕えるのなら、それこそ俺と愛紗が雪蓮のところに来た時にでも現れそうなもんだが・・・。

やっぱり俺と愛紗以外の第三の御使いが存在するのか・・・。それとも・・・。

 

「・・・・て思うんだけど一刀はどう思う?・・・一刀?一刀!!」

 

「・・・うわ!!いきなり耳元で怒鳴らないでよ雪蓮!!」

 

「だって私が聞いても何も反応しないんだもん!!どうしたのよ」

 

雪蓮が心配そうに俺を見てくる。

言うべきかな・・・、俺と愛紗以外に天の御使いが居るかもしれないって事・・・。

言ったとしても彼女達は変わらず俺達に接してくれるだろう。だけど・・・。

 

「あー、まあ例の軍勢で気になったことがあってね」

 

「気になったこと?一体何?」

 

「・・・今は話せない。この戦いが終わってからで良いかな?」

 

「そう・・・、分かったわ。でも必ず話してね。私も何か力になれるかも知れないし」

 

「ああ、ありがとう」

 

雪蓮の言葉を聞いた俺は、雪蓮に少し申し訳なく思った。

確かに俺と愛紗以外に天の御使いが居るといっても、雪蓮たちは受け入れてくれるだろう。だが、もしも俺達以外に天の御使いが居るとしられたら、兵士達の士気にも影響しかねない。ただでさえ度重なる奇襲と長期戦で士気が落ちているのに、さらに士気が落ちるのは避けなくてはならない。

 

「ところで雪蓮、さっき何を言おうとしてたの?」

 

「ん?ああ実はね・・・『ジャーン!!ジャーン!!ジャーン!!』って敵襲!?」

 

 雪蓮が何か言おうとした時、突然銅鑼の音が鳴り出した。

 この音は明らかに俺達の軍のものじゃない・・・、ってことは。

 

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「ご主人様!!」

 

 と、俺達の後ろから愛紗が焦った表情で現れた。その表情からすると、俺達の予想通り、敵の奇襲らしい。

 

「敵か?関平」

 

「はい!!後方から敵軍が現れて私達に攻撃を仕掛けてきました!旗印は『劉』!!」

 

「『劉』・・・ていうことは」

 

「敵の総大将のお出ましって事ね」

 

敵軍で劉の姓をもつ人間は一人しか居ない。

反孫呉連合の発起人、劉?。いよいよ奴にも余裕が無くなってきたといった所だろう。

 

「よし!!全軍に伝令!!敵軍の迎撃を開始せよ!!敵将劉?を討ち取った者には千金の褒美を取らすと!!」

 

「御意!!」

 

雪蓮の指令を聞いた伝令は、すぐさま全軍に命令を伝えに走った。

 

「敵も総力戦を挑んできたって所か」

 

「はい、総大将が自ら出てきたところを見ると、何か策があるのか、それとももう送れる将が居ないのか・・・」

 

「どっちでもいいわ!ここで劉?を討ち取ればこの戦はお終いよ!!私もすぐに前線に加わるわ!!」

 

「「ハアッ!!??」」

 

雪蓮の聞き捨てならない台詞に、俺達は思わず叫び声を上げた。

 

「ちょっと待て!!何で総大将の雪蓮がわざわざ前線に行くの!!」

 

「だって行軍ばっかりで退屈だったのよ!!少し暴れてすっきりしたいの!!それにさっさと劉?を倒さないとすぐ逃げられちゃうでしょ!!」

 

「ああもうまたいつもの病気か!!駄目!!もし流れ矢に当たったらどうなるの!!もう助けないからな!!」

 

「そうです!!もしも雪蓮が死んだらこの軍は総崩れですよ!!下らないことを言ってないで貴女は後ろに下がっていてください!!」

 

「・・・・やっぱり駄目?」

 

「「駄目だ!!(です!!)」」

 

俺と愛紗の怒鳴り声に雪蓮は膨れっ面をしているが、普通当たり前だろ。

確かに総大将が前線に出て兵士達を鼓舞して戦うという戦法も有るには有るけど、それは下手をすれば総大将も死んで軍が総崩れになるという危険性もあるんだぞ!?

雪蓮の実力は確かに凄いけど、物陰や死角から狙撃されたらどうするつもりだ!!俺達が助けられないかもしれないんだぞ!!統制のない黄巾党や野党の連中だったらともかくとして、こんな統制の取れている軍勢に対して総大将が特攻はどう考えても自殺行為でしかない。

 

「・・・敵の迎撃は私がまいります。ご主人様、よろしいですか?」

 

「ああ、よろしく頼む。既に亞莎が迎撃に向かってるだろうけど、愛紗が居てくれれば心強い。よろしく頼むよ」

 

「御意!!」

 

「亞莎に攻撃しちゃ駄目よ、敵は劉?よ?」

 

「うっ・・・、わ、分かってます!!戦場で公私混同は致しません!!」

 

愛紗は顔を真っ赤にしながら、敵の迎撃に向かった。その愛紗を見て、雪蓮は心配そうであった。

 

「・・・あんな事言ってたけど、大丈夫かしら?」

 

「ああ、まあ、大丈夫・・・・だと思うよ?流石に戦場では」

 

かく言う俺も不安だった。何しろ、愛紗の亞莎に対する不信感は未だに少し残っているのである。流石に襲い掛かることはなくなったが、連携を組むのは難しいかもしれない。

 

「まあ、なるようになるでしょ、多分・・・」

 

いつもは楽観的な雪蓮の声が、少し不安そうだったのもきっと気のせいじゃない。

大丈夫かな、愛紗、亞莎・・・。

 

亞莎side

 

「前方は盾と槍で防御を!!後方は敵が近づいたら矢を射掛けてください!!」

 

 突然の敵の襲撃の中、私は軍の皆さんに指令を送り続ける。

敵の数は予想以上に多い・・・、しかも行軍中の突然の襲撃のせいで迎撃の準備が追いつきません・・・。いくら警戒していたとは言っても、やっぱり突然の襲撃は相当厄介です。伝令は送りましたが、援軍が着てくれるまで持つか・・。

 

「・・・いえ、持たせるんです!!」

 

気弱になりかけそうな心を奮い立たせる。

この後方の指揮を担っているのは私、その私が気弱になってどうするんですか!!

雪蓮様が、一刀様が、冥琳様が信頼して任せてくださったんです!その信頼にこたえられないのなら、もはや孫呉の将として失格です!!

 

「敵の侵入を抑えてください!!援軍は必ずやってきます!!それまで耐え切ってください!!」

 

防御を越えてきそうな敵を、袖に隠した暗器で倒しつつ、私は軍に指示を出す。

 

 

 

必ず、必ず持ちこたえて見せます・・・!!

 

 

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劉?side

 

「はん、どうやら大分持ちこたえてるみたいじゃねえか」

 

劉?は崖下で行われる攻防戦をじっくりと観戦していた。積極的に前線に出たがる雪蓮とは違い彼は後方の安全な場所で指揮を取ることを好む。万が一にも自身が狙われ、戦死することを避けるためだ。総大将が死んだ場合、軍は混乱して幾ら有利に戦いを進めていても、負ける。

ならば自分は前線に出ず、後方の安全な場所で兵に指揮を送るのが一番だ。無論、彼自身闘うことはできるが、万に一つの可能性も考えなければ、とても生き残ることは出来ない。

 それはともかくとして、現在の戦況は此方が攻めに徹し、孫呉が防御に徹している状態であった。今はこのまま均衡が続いているが、いずれ援軍が来て、こちらの軍が押し返されるだろう。

 

 (だが、それが俺の狙い)

 

 劉?にとって後方攻撃軍はあくまでオトリ、真の本命は情報で孫策が居ると分かっている軍勢の中央である。

敵の軍勢が後方に集中したところで、兵力が薄くなった中央を攻める。しばらく暴れていれば確実に前方、後方に知られるだろうがそれまでの間に一気に敵の兵力を削り取り、撤退できればそれでいい。情報では、諜報の要である周泰が建業に帰還したとのことだから、策を知られることも無いだろう。そして、総大将の孫策を討てれば儲けものだ。

 

 (難敵は・・・、天の御使いとその従者か・・・)

 

 問題は天の御使いと従者と呼ばれる天将である。孫呉でも屈指の武力の持ち主であるその二人を除かなければ、間違いなく障害になるだろう。

その為にも後方の部隊の救援にどれか一人だけでも向かわせて、戦力を削る。少なくともこれで孫策を守る将は減るはずだ。天の御使いも孫呉の象徴である以上、前線に出る可能性は低い。ならば出る将は十中八九天将だ。それならば残りは何とかなる。

後の懸念は前方の部隊の救援だが、前方部隊の指揮をしている将は周公謹。軍師である以上、いかに腕が立つといっても孫策ほどではないだろう。そして残る武将も、周泰と凌統が削られた後には名も知らないような連中のみ。歴戦の宿将である黄蓋、程普は糧食の調達、残りも今頃孫権と一緒に留守番している。

 

(せめてあと一人二人武将を残しておくべきだったな、孫策!!)

 

碌な護衛も居ない今、奴の身を守るのは有象無象の兵士と天将、そして奴自身の武のみ!!なら数の暴力と矢の弾幕で殲滅することも可能なはずだ。

 

 「劉?様!例の天将が後方に向かったとの事です!!今現在敵軍中央には孫策と天の御使いのみ!!突入の機会です!!」

 

 「ドンピシャ、か。敵の中に間諜潜ませておいたのが功を奏したってところか・・・」

 

 劉?はニヤリと笑みを浮かべた。王朗からの進言もあり、あらかじめ敵軍の中に何人か間諜を忍び込ませておいた。これのおかげで敵の兵糧の在り処、敵の将が何処に居るかが丸分かりとなっていた。これを利用して、兵糧抹殺の策を用意したのだ。結局失敗したが・・・。

 

 「あの、太史慈様には知らせなくてもよろしいのでしょうか」

 

 「あいつはいい、どうせ前の作戦の傷で部隊もマトモに動けねえだろ。連中を倒すにはこれだけ兵が有れば充分だ。すぐに襲撃の命令をしろ」

 

 「は、はっ!!」

 

 劉?の指示を聞いた伝令は、急いで襲撃部隊に命令を伝えに向かった。それを見ながら劉?はほくそ笑む。

 

 「この戦、俺達の勝利だ」

 

 確信を持った声が、空に響いた

 

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 一刀side

 

「ほ、報告!!」

 

 愛紗が後方へ増援に向かってからしばらく経った時、突然鬨の声が響き渡った。しかもこの声、俺達の居る場所から距離的にそう遠く離れた場所から聞こえているものではない、むしろ、ここからかなり近い場所から聞こえる。 

 俺達が何事かといぶかしんでいると、突然伝令の兵士が焦った表情で此方に走ってきた。

この様子だと、確実に良くないことだが・・・。まさか・・・。

 

 「りゅ、劉?軍の第二波です!!この陣目掛けて攻撃を仕掛けてきました!!」

 

 ちっ!!やっぱりか!!

 前回の襲撃の件もあったが後方部隊は愛紗達をおびき寄せるオトリだったか!!

 

 「なんですって!!現在の状況は!!」

 

 「発見が早かったために迎撃できてはいますが、敵軍の攻撃激しく、どれほど持つか・・・」

 

 兵士の表情を見ても、状況が芳しくないのは分かる。

 突然の襲撃というのもあるんだろうが、やっぱり根本的に士気そのものが落ちているんだろう。

・・・仕方がない。こうなったら切り札三枚のうち、二枚を切るか・・・。

 

 「分かった、すぐに援軍と新兵器で援護する。だからもう少しだけ耐えるように伝えてくれ!!」

 

 「は、御意!!」

 

 俺の言葉を聞いた伝令は、すぐに前線に向かって言った。伝令が去ったのを確認した雪蓮はすぐに俺に顔を向けた。

 

 「一刀、遂にアレ、使うのね?」

 

 「こうなったらナリフリ構ってられない。本当は城攻めまで取っておきたかったけど、此処で負けたらどうしようもないからね」

 

 「確かに・・・、ところで援軍って誰?私達の軍にまだ武将っていたっけ?」

 

 雪蓮の疑問げな表情に俺は笑みを浮かべる。ま、隠しておいたんだから気付かなくて当然だ。

 

 「ああ、実は一般兵に化けさせてこっそり連れて来た武将が一人居るんだ。まあ雪蓮に言わずにこっそりつれてきたから知らなくて当然だよ」

 

 「え〜〜!!何で教えてくれないのよ!!これじゃあ私総大将の意味無いじゃん!!」

 

 「敵を欺くにはまず味方から。まして総大将が知らなきゃよけい敵に知られにくいだろ?」

 

 「うーん・・・まあそうだけど・・・」

 

 なおも不満そうに頬を膨らます雪蓮に、俺は危機的な状況にもかかわらず可愛いと感じてしまった。

 

 「ま、見ててよ。分かるから」

 

 俺は雪蓮に笑みを向けた。

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 軍勢side

 

 「ここから先に敵を通すな!!どんな事があっても守りぬけ!!」

 

 「的には碌な武将は居ない!!徹底的に叩き潰せ!!」

 

 一方、一刀達の居る場所からそう離れていない地点にて、孫呉軍は、密林の中から突如奇襲してきた兵達の迎撃に追われていた。

後方からの襲撃によって関平隊が後方に向かった瞬間、狙い済ましたかのように襲撃が仕掛けられてきた。自軍の主力が居ない中での敵軍襲来である、防衛の為の兵達は浮き足立っていた。それでも緊急事態であるため敵の襲撃を食い止めてはいたものの、それでも士気の低下はかなり問題であった。

 一方の劉?軍は奇襲の成功と主だった将が居ないことと不意をつけたことが理由で士気が高まっており、現在孫呉軍よりも遥かに優勢であった。

 

 「く、で、伝令からの報告があった!!じきに援軍と援護射撃を送ると!!それまで何としても耐え切れ!!」

 

 「ははははは!!弱い弱い!!孫呉は弱小兵の集まりか!!おい貴様等!!さっさとこんな雑魚を蹴散らして孫策の首を獲るぞ!!」

 

 苦戦する兵達に激励を送る部隊長の言葉をあざけるかのごとく、劉?軍の奇襲部隊指揮官は自軍の兵士達を鼓舞する。・・・・が、

 

 

 「雑魚の集まりだと?よくほざいてくれたなこの馬の骨共が!!」

 

 「ん?何者・・・ガア!?」

 

 突然一人の兵士の体が真っ二つとなった。

 そして、真っ二つになった兵士の背後に、孫呉の一般兵が長柄の戦斧を振り下ろした状態で仁王立ちしていた。他の孫呉の兵と違うのは、その表情が深くかぶった頭巾によって隠れていて分からないことのみだった。

 

 「な!?いつの間に!?」「き、貴様何者だ!?」

 

 突然背後に現れた敵兵に劉?軍は少しばかり動揺していた。一方の孫呉軍は、「あんな奴居たか?」「そういえばいたような・・・」と、乱入してきたその兵士を不審そうに見ていた。そんな両軍の反応を見ていた謎の一般兵は、突然高笑いを始めた。

 

 「はーはっはっはっはっは!!!私の名を知らぬとは、劉?軍とは馬鹿の集まりのようだな!!ならばこの顔を拝んで我が名を思い出すが良い!!」

 

 謎の兵士は高笑いと共に、頭巾を剥ぎ取ってその素顔を晒した。

 

 兵士の正体は女性であった。短めの銀髪がよく似合う自身に満ち溢れた端正な容貌の、間違いなく美女と呼べる人物であった。

 女性兵士は胸を張って、劉?軍と孫呉軍の兵士をじっと睥睨した。それに対して孫呉軍と劉?軍の両軍からも言葉が出ない。女性兵士は、きっと自身の顔を見て恐れおののいているのだろうと考えたのか、ますます得意げな表情となった。

 

 やがて両軍の兵士全員が、一斉に、そして一糸乱れずに声を上げた。

 

 

 

 

 「「「「ど、どちら様ですか?」」」」

 

 

 

 

 この台詞に女性兵士はずっこけた。

 

 「な、なななな何だと!?おい!!劉?軍はともかく孫呉の貴様等が私のことを知らんだと!?・・・おい!!貴様等!!私の名前を言ってみろ!!」

 

 「「「・・・ごめんなさい、知りません」」」

 

 「ぬあああああああああああ!!!!!」

 

 女性兵士は今にも泣き出しそうな表情で、いや、もうほとんど泣きながら戦斧を振り回した。近くに居た劉?軍兵士は、巻き込まれないように慌てて間合いから遠のいた。

 

 「私だ!!元董卓軍将軍にして、天の御使い北郷一刀が配下、華雄だ!!上司の名前を忘れる等、貴様等それでも兵士か!!」

 

 「「「「・・・・あーーーーっ」」」」

 

 女性兵士の、華雄の名乗りにようやく思い出したのか、孫呉の兵士達は全員納得の声を上げる。これを聞いた華雄は再び自信に満ちた表情を浮かべる。自分の名前を覚えてくれていたのが嬉しかったのだろう。

 

 「あの妙に存在感の無い」「美人なんだけどちょっと残念な」「通称空気将軍と名高い」「呂布様と張遼様に存在感を喰われてる」

 

 が、その後に出てきた言葉で、華雄は再び地面にずっこけることとなった。

 

 「き、貴様等アアアア!!存在感が無いだの残念だの空気将軍だの私が気にしていることばかりほざきおって!!!どこまで私を愚弄するつもりだ!!」

 

 遂に目から血の涙を滝のように流し始めた華雄を、劉?軍の兵士達はどこか可哀相な目つきで見ていた。が、その視線を感じた華雄は、ゆらり、とまるで幽鬼のように劉?軍を振り向いた。目から血の涙を流したまま。その異様な表情に、劉?軍は今度はドン引きし始めた。

 

 「・・・こうなったら貴様等全員叩き潰して我が武名を高めるまで!!どうせ全員倒すべき敵だ!!私の敵になった己の不運を恨め!!」

 

 「「「「ちょっ!!そんな理不尽な!!」」」」

 

 「問答無用おおおおおおお!!!!」

 

 と、激昂した華雄は戦斧を振り回しつつ敵軍に突っ込んでいく。そして、敵軍の兵士が次々と宙を舞った。

 

 「・・・・もしかして、あの人が御使い様が仰っていた援軍?」「じゃないの?」「まあ頼りになるけど・・・」

 

 孫呉軍の兵士は、呆気に取られ、そして自身の主の判断に少し疑問を持ちながらも戦闘を再開した。

 

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 劉?side

 

 「どうなってやがる・・・何で俺の軍の兵士が次々宙を飛んでるんだ・・・?」

 

 劉?は、目の前の光景に信じられないと言いたげな表情を浮かべていた。なにしろ、突然敵軍の雑兵が訳の分からない叫び声を上げたかと思ったら、自分の軍に突入してその瞬間に次々と自分の兵士が空に飛び跳ね出したのだ。・・・まあ厳密には吹き飛ばされてるんだが・・・。

 

 「・・・一体何が起こってんだ?」

 

 「はっ!!我が軍に乱入してきた雑兵が、実は孫呉の名のある武将が化けた姿だったのです!!」

 

 「何っ!!」

 

 隣に居た兵士の話を聞いた劉?は驚愕の声を上げた。

まさか孫呉がまだ猛将を隠し持っているとは思わなかった・・・。間諜の調査ではもう関平程度しか存在しないはずだったのだが・・・。

此方が嵌めるはずが、逆に嵌められる結果になるとは、劉?はギリリと奥歯をかみ締めた

 

 「くっ!!その武将の名前は何だ!!ひょっとしたら俺の知ってる奴かも知れねえ!!」

 

 少なくとも名前を知っていれば、その武将の対策が思い浮かぶかもしれない、そう望みをかけて兵士に武将の名前を問う。それに対して兵士の返答は・・・。

 

 「はっ!!なんでも、元董卓軍の華雄という名前だそうです!!」

 

 

 

 

 

 「・・・・誰だそりゃ」

 

 

 

 

 

 劉?は兵士の言葉にきょとんとした表情でそう返事を返した。

華雄、確かに董卓軍の将にそんな名前の奴がいたような気がするが良く思い出せない。

大方大した事の無い奴なのだろう、と、劉?は早々に頭を切り替える。

 

 「っち!!そんな何処の馬の骨か分からねえ奴に手間取るな!!奇襲軍に伝えろ!!前方軍は盾で守りを固めて後方軍は矢を遠距離から射掛けろ!!近づいたら長槍で牽制しろ!!幾ら猛将でもこれで手詰まりになるはずだ!!」

 

 「は、はっ!!」

 

 劉?の指示を聞いた兵士は、すぐさま軍の部隊長に指令を伝えに向かった。

 

 「ったく、何処まで俺の計算が狂いやがるんだ・・・」

 

 劉?は親指の爪を噛みながら悪態をついた。

 

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 軍勢side

 

 「っちい!!遠くから矢を放って守りを固めるだけとは、うっとおしい!!」

 

 華雄は次々と飛んでくる矢を戦斧を風車の如く回転させて防ぎながら文句を言う。実際かなり鬱陶しい状況だから仕方がないが・・・。

 初めはその圧倒的武力とさんざん(主に自軍に)コケにされた怒りから敵兵を次々と叩きのめし、劉?軍を混乱させて自軍の優位に戦闘を進めていたのだが、やがて冷静さを取り戻したのか、突然敵軍は徹底的に守りを固めだしたのだ。

 

 すなわち、前方の敵兵が大型の盾と長槍で孫呉軍の接近を防ぎつつ、後方の兵が矢の弾幕で殲滅する、という王朗率いる兵糧襲撃部隊が行った戦法である。

かなり単純な戦術ではあるものの、実際に相手をすればこれほど厄介なものはない。

敵の背後に回り込もうにも、回り込もうとした瞬間に狙い撃ちにされ、どうにかして矢を潜り抜けても長槍の洗礼を受ける、とどこまでもいやらしい戦法である。これには華雄も手を焼いており、自軍の兵士達も中々攻撃できずにいた。

 

 「っち!!どうにか打開せねば・・・「華雄様!!北郷様からの援護射撃がくるとの知らせが!!」・・・ようやくか!!よし!!全軍、今すぐに耳を塞げ!!あと地面に伏せろ!!」

 

 「「「「は、はあ!?」」」」

 

 「いいから早くしろ!!巻き込まれたいのか!!」

 

 「「「「は、はっ!!」」」」

 

 華雄の怒鳴り声に、孫呉の兵達は釈然としない面持ちのまま地面に伏せた。

 

 「な、なんだ!?」「いきなり地面に伏せるなど、何を考えてるんだ!!」

 

 劉?軍は華雄達の意外な行動に攻撃の構えを崩さないまでも戸惑っていた。何しろ敵軍が何故か耳を塞いで地面に伏せたからである。まるで今から雷が地面に落ちてくるような・・・。

 

 「ん?何だあれは」

 

 と、突然劉?軍の兵士の一人が空を指差した。劉?軍の兵士全員が空を見上げた。

劉?軍の目に飛び込んできたのは、自分たちに向けて降ってくる一つの黒い玉であった。黒い玉には縄のようなものが取り付けられており、その先端には火が灯されていた。そして、その火は徐々に縄を伝って黒い玉に近付いていく。

 

 「あ?何だ?敵の投げた石か何かか?それにしてはやけに丸いような・・・」

 

 一人の兵士が何かをつぶやこうとした瞬間、縄を伝っていた火がついに黒い玉に到達した。その瞬間・・・。

 

 

 

 

 

 巨大な爆音とともに黒い玉が爆発を起こした。

 

 「ぬああああああ!!?」「な、何だ!?何なんだ一体!?」「か、雷でも、雷でも落ちたと・・・グハッ!!」「お、おい!!どうし・・・ぎゃあああ!!!」

 

 その爆音はすさまじく、まるで地上に雷が落ちたかのようであり、爆発とともに巻き起こった閃光と煙が、劉?軍兵士の視界を遮った。

しかしそれだけではない。黒い玉の爆発とともに飛び散った、無数の金属片や石のかけらが、次々と兵士達に突き刺さり、傷を負わせていったのである。

これにはさすがに劉?軍の兵士も大混乱を起こした、が・・・、

 

 「お、おい!!またあの玉が!!」「な、今度は三個だと!!」

 

 空からは先ほどの球体と同じ玉が、自分たち目掛けて降ってきた。そして、先程と同じく、爆発した。

 

 「ぎゃああああああ!!!い、痛てえ!!くそ!!何だこれは!!」「畜生!!孫呉の連中の新兵器か何かか!!」「ああああ!!!目、目が!!耳が〜!!」

 

 予想外の事態に、劉?軍は大混乱に陥った。やがて、援護射撃が終わったのを確認した華雄は、目を開け、立ち上がるとほくそ笑んだ。

 

 「ふ、さすがは主殿が作られた『焙烙玉』。知っていたとはいえとんでもない威力だな」

 

 そう、これが一刀の言っていた孫呉の秘密兵器、『焙烙玉』である。

この世界にはない火薬製造の知識をもっていた一刀と愛紗がこの世界にあった材料を用いて製造した黒色火薬、それを利用して再現した日本の戦国時代の兵器の一つである。

黒塗りの陶器製の器にぎっしりと火薬を詰め込み、さらに殺傷力を上げるために尖った金属片や石のかけらを外側に仕込む。そして特製の導火線を取り付けて完成した代物であり、まだ実戦では使われたことがない。

 その威力はさすがにそう簡単に人は殺せないものの、その爆発音と閃光で敵を混乱させることが可能であり、さらに爆発とともに飛ぶ金属片などによって敵に傷を負わせることも可能である。これで大抵の敵を混乱させることが可能であり、その隙に敵を殲滅するのである。この兵器は今回の戦いに持ってきてはいたものの、製造数が少なかったためにせいぜい十発しか持ってきていないのだ。そのため、この兵器に頼るのは揚州の戦いでも最後の方だと考えていたのだが、予想以上に劉?軍の攻撃が激しく、もはや出し惜しみをしている余裕も無いため、急遽この戦いで使用することとなったのである。

その効力は絶大、今まで纏まっていた軍勢が、完全に混乱の渦に巻き込まれている。

今が攻めるチャンスと見た華雄は、自軍に号令をかける。

 

 「今だ!!敵は混乱している!!いまこそ我が軍に攻め込んだ愚かさを知らしめてやれ!!」

 

 「「「「応!!!」」」」

 

 華雄の号令と共に孫呉の軍勢は各々の武器を構える。その表情には今まで見られた士気の衰えはない。むしろ味方の援護射撃によって、士気は跳ね上がっていた。

そして、華雄を先頭とした孫呉の軍が、なおも焙烙玉の爆撃を受ける劉?軍に向けて突撃を開始した。

 

 

-9ページ-

 劉?side

 

「な、何だってんだ一体!?」

 

 劉?は目の前の状況に信じられないといった表情を浮かべていた。

突然奇襲部隊に向かって黒い玉が降ってきたと思ったら、突然凄まじい音と閃光を放って爆発したのだ。その凄まじい音は戦場から離れた場所にいた劉?の耳にも届いており、昼間であるにもかかわらず雷が落ちたのかと誤認したほどである。

 音がやんで、自分の兵達に目を向けると、一部の兵達は浅くない傷を負っており、他の兵も予想外の事態に混乱していた。

が、敵の攻撃はこれで終わりではなかった。先ほどの物と同じ黒い玉が次々と自軍に降り注ぎ、爆発していく。連続する爆音に劉?自身の鼓膜もおかしくなりそうだった。

 そして、その爆発を近距離で聞いていた奇襲部隊の兵士達はというと、もはや完全に統制を失っており、深い傷を負って地面に倒れ伏している人間も少なくなかった。そして、それを好機とみて、孫呉の軍勢が襲いかかってくる。

 

 「・・・っち!!敵が・・・」

 

 劉?は唇を血がにじむほど噛みしめた。まさか敵がこんな兵器を持っていたとは知らなかった。恐らく例の天の御使いとやらが秘密裏に製造した兵器だろう。

なぜ前の戦いから使わなかったか気になったが、そんなことを気にしている場合ではない。

今の自軍の状況は最悪だ。戦況は完全にこちら側の不利。このまま戦っても間違いなく敗北する。

 

・・・撤退以外にないか・・・。

 

 「・・・後方を攻めている連中は?」

 

 「・・敵の迎撃を受け、現在撤退を開始しております」

 

 「・・・・・」

 

 唯一の懸念であったオトリ部隊が撤退しているのなら、もう懸念はないだろう。

 

 「よし、すぐに奇襲部隊にも撤退命令を出せ。これ以上戦っても死体の山を作るだけだ」

 

 「は、しかし、敵がやすやすと逃がしてくれるかどうか・・・」

 

 そう、問題はそれである。

ただでさえ混乱した部隊を再び纏めるのは困難であるのに、そこから敵の追撃を振り切って逃げることなど可能なのか、少なくとも自分なら確実にかなりの兵を脱落させてしまうだろう。

 せめて太史慈がいれば・・・、弱気にもそう考えたとき、突然下から叫び声が響いた。

自軍の兵がやられたのか、と目を向けた劉?は、すぐさま自分の目を疑った。

 

 自軍と孫呉軍ともまったく異なる謎の黒い軍勢が、次々と孫呉の兵士達に襲いかかっていたのだ。突然の襲撃に孫呉の兵士達は成すすべもなく蹴散らされていった。一方の自軍の兵士には、黒い軍勢はまるで興味がないかのように近づきすらしない。

 劉?は、その様子をあっけにとられてみていたが、すぐさま頭を切り替えた。

撤退するには今しかない。何故かは知らないがあの軍勢は自分達を攻撃しては来ない。

 

 「・・・・今すぐ部隊に撤退するよう指示を出せ!!今を逃したら撤退できねえぞ!!」

 

 「は、はっ!!」

 

 劉?の指示を受けた兵士は、すぐさま奇襲部隊に伝令に走った。

 

-10ページ-

 軍勢side

 

 「な、何だこいつらは!?」

 

 華雄は何者か分からない謎の軍勢の襲撃を受けていた。

焙烙玉を使って敵軍殲滅まであと一歩というところまで来たとき、突然全身黒ずくめの軍勢が乱入して、孫呉軍に攻撃を仕掛け始めたのだ。

 その軍勢は全員が漆黒の全身を覆う鎧を身につけており、顔は黒塗りの鉄兜で覆われて確認することができない。持っている武器は槍、弓矢、刀剣と統一性がなく、その武器すらも黒塗りだった。さらに馬に乗っているのもいたが、その乗っている馬も馬につける馬具すらも黒塗りという徹底ぶりである。

 そんな黒ずくめの軍勢が、突然劉?軍を守るかのように乱入し、孫呉軍を攻撃しだしたのである。予想もしていなかった襲撃に華雄達は動転していた。

 

 「っちい!!いったい何処のどいつだ貴様らは!!なぜ我等の戦いを邪魔する!!」

 

 華雄は黒尽くめの軍勢を率いる将軍と思われる人物と戦っていた。その人物は、右手には体の半分を覆うほど巨大な盾を、左手には黒塗りの突撃槍(ランス)を装備していた。

 

 「・・・我等の名は八咫烏、天の御使いに仕え、その意思を代行する者たちなり」

 

 突撃槍使いは、感情をうかがわせない声で、華雄の質問に答えた。

その声は鉄兜に遮られているせいか多少くぐもってはいたものの、声質から男性だと推測できた。

 

 「天の御使いに仕える、だと・・・!?貴様も一刀様に仕えているのか!?」

 

 「あれは偽りの御使い、真の御使いは他にいる」

 

 「なっ!?一刀様が、主が偽物だというのか!?」

 

 「北郷一刀と関平は、確かに天より降り立ちし者やもしれぬ、だが、この世を救う者ならず。この世を救う天の御使いは、他にある」

 

 「貴様ああああ!!主への暴言、死ぬ覚悟は出来ているだろうな!!」

 

 激昂した華雄は、手に持つ戦斧を突撃槍使いに振り下ろす、が、巨岩すら裂く一撃は、突撃槍使いの持つ巨大な盾に遮られ、敵に届くことはない。

 そして、攻撃を受け止めた突撃槍使いは、左手の槍を華雄に突き出す。華雄は間一髪体をひねってそれを避ける。

 

 (こいつ・・・・、手強い!!)

 

 正体の知れない敵ではあるが、間違いなく強敵である。一瞬でも油断をしたらやられる。

華雄は敵から距離をとると、再び己が獲物を構えなおす、が、それに対して突撃槍使いは、殺気を納めて槍を下す。

 

 「!?何のつもりだ!!」

 

 「目的は果たした。これにて帰還する」

 

 「目的!?なんだそれは!!」

 

 「我等の今回の目的は劉?軍の撤退補助。既に劉?軍は撤退した。もう用はない」

 

 「な、何!?」

 

 見ると、今まで居た劉?軍が、一兵残らず逃亡していた。この黒尽くめの連中の目的は、あくまで劉?軍の撤退までの時間稼ぎ。ようやく気がついた華雄は敵に鋭い視線を向ける。

 

 「貴様!!まさか劉?の手の者か!!」

 

 「我等は天の御使いに仕える者達、劉?も孫策も関係ない。全ては天の意志の下に」

 

 突撃槍使いは槍を背負うと腰からボール状の物を取り出し、地面に投げつける。その瞬間、白い煙が華雄の視界を遮った。

 

 「ぐっ!?え、煙幕か!!」

 

 「いずれまた逢う日も来よう。その時には、偽りの御使いに、裁きの鉄槌を」

 

 「「「「裁きの鉄槌を」」」」

 

 遮られた視界の中、何人かの人間の気配が去っていくのがわかる。華雄は戦斧を振り回し、目の前の白い煙幕を切りはらいながら前に進む。

 

 「くっ、待て!!・・・・!!!」

 

 が、煙幕の中で敵を捉えることが出来ず、ようやく煙幕が晴れたころには、黒尽くめの軍勢の姿は、どこにも存在しなかった。

 

 

 

 

-11ページ-

 

 

 

 あとがき

 

 大分遅くなりまして申し訳ございません。

 

第53話投稿いたしました。今回はだいぶ長くなりました。

 

誠に申し訳ありません。Arcadiaに自分がにじファンで書いていた別の小説を投稿したとき、規約違反をしてしまったことでゴタゴタしてしまい、書く時間がありませんでした。

 

 しかし、投稿の際に規約違反をしてしまうとは、我ながらなんと馬鹿なのだろうかと自分自身を殴りたくなってきます。これは私にとってとんでもない失態でした。

 

 責任とって呉ルートを中断しようとも考えましたが、このように読者の皆様へのお詫びと共に投稿させていただいた次第であります。

 

 最後まで完結させる、とはいいましたが今回の失敗でどうしたものかと自分自身考えております。じぶんのような規約違反をした者がこのまま小説を投稿してよいのだろうかと。個人的には最後まで書き遂げたいと思っておりますが。

 

 とにかく、今回のことは私に責任があります。既ににじファンにある小説も削除し、Arcadiaにある物も削除依頼を出しました。読者の皆様には深くお詫び申し上げる所存にございます。

 

説明
読者の皆さま、この夏いかがお過ごしでしょう。
今回、53話を投稿させていただくにあたり、自分がARCADIAおよびにじファンにて行いました規約違反について深くお詫び申し上げます。
 詳しくはあとがきにて記させていただきますが、自分自身真に馬鹿なことをしたものだと深く反省しております。
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コメント
規約違反が何か知らないから何とも言えませんが、失敗しない人間はいません。ちゃんと対応しているとの事ですし、海皇さんが続けたいと思ってるなら続けて欲しいと思います。(陸奥守)
華雄さん、頑張って! 規約違反については、↓の方も言っている通り、追放レベルとかではない限りいいと思いますよ。続きを楽しみにしていますね。(summon)
華雄、忘れられすぎ。(笑)八咫烏、管理者とは全く別っぽいがいい人ではないな。 そして規約違反、なんなのかは気になりますけど、TINAMIに迷惑をかけてないなら大丈夫だと思いますよ。それこそ追放レベルでもない限りは・・・。(BLACK)
規約違反ってなんだったんだろう・・・?自分はゆっくりでもいいので続きを期待しています。(きまお)
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