英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 191 |
〜遊撃士協会・ルーアン支部〜
「まったく、何という薄情な……。久しぶりに再会した運命の相手に向かってこの仕打ちはあんまりだよ。」
「何が運命の相手なんだか……。大体、オリビエってばどうしてルーアンにいるのよ。エルモの温泉に逗留してるんじゃなかったの?」
ギルドにつき、オリビエは呟き、それを聞いたエステルは呆れた後、ツァイスにいるはずのオリビエが何故ルーアンにいるのかを尋ねた。
「フッ、実はミュラー君から『紅葉亭』に連絡があってね。エステル君とミント君が戻ってきたことをわざわざ知らせてくれたのだよ。これは挨拶せねばと思って飛んで来たわけなのさっ♪」
「あ、ありがたいんだけど素直に喜べないような……。でも、生誕祭以来挨拶もできなかったよね。ありがとう、オリビエ。また会えて本当に嬉しいわ。」
「お久しぶりだね、オリビエお兄さん!」
「そ、そうか………うーむ、ミント君はともかくエステル君が素直だと調子が狂うような。もっと激しく突っ込んでくれないと、その……欲求不満になってしまうよ。」
いつものやり取りじゃないエステルを見て、オリビエは顔を赤らめた。
「顔を赤らめながら不穏な発言をするのはやめい!」
オリビエの様子を見たエステルはすかさず怒鳴った。
「フム……ここはミント君のキスで欲求不満をなくそうじゃないか♪………という事でミント君。オリビエお兄さんのほっぺに再会の祝いとしてキスをしてくれないかな〜♪なんなら唇でもオッケーだよ♪」
「ほえ?ミント、オリビエさんにキスをすればいいの??」
「お願いだから、やめて!純真で可愛いミントが穢れるわ!!」
オリビエの冗談か本気かわからない言葉を信じようとしたミントをエステルは慌ててミントを抱きしめて止めた。
「ったく、ギルドの中でよくそんな犯罪まがいな事が言えるな………」
一方アガットは呆れて溜息を吐いた。
「ハッハッハ!そう褒めないでくれよ!照れちゃうじゃないか♪」
「褒めてねえっ!クソッ………!コイツのせいで無駄な気力を使ってしまうぜ………」
笑っているオリビエを怒鳴ったアガットは疲労感を隠せず、溜息を吐いた。
「はあ……まあいいわ。えっと、ジャンさん。コレがクーデター事件の時に協力してくれたオリビエ。エレボニアから来た演奏家なの。」
「はあ……。何というか強烈な人だねぇ。しかし、それだったら一緒に話を聞いてもらっても構わないかな。」
エステルにオリビエを紹介されたジャンは苦笑した後、答えた。
「本来なら部外者ってことで追い出すところだが……。人の話を聞くヤツじゃねえし放っておくしかなさそうだな。」
「だって、オリビエさんだものね♪」
「ハッハッハッ。さすがはアガット君だ。ボクのことなら何でもご存じのようだね♪それにミント君もわかっているじゃないか♪」
「さもマブタチのように語りかけてくんじゃねえ!あの時一緒に戦っただけでロクに話したこともねえだろ!」
「えへへ…………」
オリビエの言葉を聞いたアガットは怒鳴り、ミントは逆に嬉しそうにしていた。
「……まあ、流す方向で。」
「オーケー。その方が良さそうだね。」
エステルの言葉にジャンは頷いた。
「どうでもいいが、さっさと話を聞かせてくれ。こちとら、市長選のネタを集めなきゃならねえんだからな。」
「はいはい、判ってるわよ。それじゃあ、聞いてきた順に目撃情報を報告するけど……」
そしてエステル達は各地の目撃情報や、ケビンをルーアンに送った際、神父であるケビンが今回の騒動についての見解をエステル達に言ったので、それも報告した。
「なるほど……。ずいぶん具体的に集まったね。少なくとも、何かを掴むには十分すぎるほどの情報だよ。」
「うーん、そうかしら。」
「う〜ん…………ミント、わかんない……………」
ジャンの言葉を聞いたエステルは考え、ミントも考えた後、全く理解できなかった。
「まあ、さっき騒いでいた市長選の相手陣営を妨害するためのイタズラって線はなさそうだな。ノーマン氏の息子はともかく孤児院と関所の兵士を脅かして効果があるとも思えんし。」
「実際、亡霊は空を飛んでいる。一般人が簡単にできるトリックじゃないはずだぜ。」
「それじゃあやっぱり、本物の幽霊さんなんですよ〜。たぶん仮面をかぶらされて幽閉された挙句におかしくなった大昔の貴族かなんかで〜。数百年の時を経た今、怨霊として甦ったんですよ〜♪」
ナイアルの推測にアガットは頷き、ドロシーは楽しそうな表情で答えた。
「そ、そんな怖い話をさも嬉しそうに言わないでよっ。第一、幽霊ってのは人か場所に縛られているらしいし。やっぱり違うんじゃないかしら。」
「………いや、それはどうだろうね?」
「ほえ?」
「な、なによオリビエ。」
「気付いた事でもあるのか?」
オリビエの言葉を聞いたエステル達は驚いてオリビエを見た。
「いや、幽霊かどうかというのはボクにも判断がつかないが………エステル君達の報告を聞いていくつか気になる事があってね。その白い影が人と場所に縛られているという説には、少々疑問を呈したいのだよ。」
「へえ、大したもんですね。僕もちょうど同じ事を考えていたところですよ。」
オリビエに感心したジャンはオリビエの意見に同意した。
「フフッ、やはりか。旅行者の常、ボクは最近、王国地図を良く眺めるんだが………まずはルーアン地方のエリアに注目してもらった方がいいかな。」
そしてエステル達はギルドにある王国地図に注目し、オリビエが説明し始めた。
「さて………エステル君が調査した3ヶ所の目撃地点だが……ここと、ここ、ここになる。」
オリビエが地図にマークをつけた。
「うん……。ルーアン南街区に、エア=レッテンの関所、そしてマーシア孤児院。それがどうかしたの?」
「ここで得られた3つの証言において、明確に異なる部分に注目すると、ある事実が浮き上がるのだよ。エステル君、その異なる部分とはどこだろう?」
「3つの証言で明確に異なる部分……」
オリビエに尋ねられたエステルはそれぞれの証言を思い出して、考えてある事に気付いた。
「そ、それって……。わかった!ずばり、白い影が去った方角ね!」
「あ!本当だ!」
エステルの言葉を聞いたミントも気付いた。
「うん、その通りだ。南街区での証言では白い影が去ったのは『北東』……。エア=レッテンの関所の兵士の証言では白い影が去ったのは『北』……。そして、孤児院での子供の証言では白い影が去ったのは『東』……」
オリビエが白い影が去った方向を矢印で書くとある一点に集中した。
「「あああっ!?」」
「フン、そういうことか……」
「なるほどねぇ。幽霊が来た場所が絞られたっていう寸法かよ。」
白い影が去った方向が合わさった場所を見てエステルとミントは驚き、アガットとナイアルは納得した。
「フフ、そういうことさ。『ジェニス王立学園』…………ここの近辺になるみたいだね。」
「オリビエ………あんたって冴えているわねぇ。こうなったら幽霊だろうが何だろうがどっちでもいいわ。行って確かめるしかないわね!」
「わあ………じゃあ、クロ―ゼさん達に会えるね!」
オリビエの意見に感心し、エステルが次にする行動を聞いたミントは嬉しそうな表情をした。
「ふむ………ジャン、問題ねえな?」
「ああ、本格的に調査してできれば問題を解決してくれ。『リベール通信』さんはこの先、どうするんですか?」
アガットの言葉に頷いたジャンはナイアルとドロシーはどうするかを尋ねた。
「そうだな、肝心の市長選の取材もしなくちゃならねぇし……。よし、ドロシー。この件はお前に任せたぞ。」
「はーい、わかりました〜。これでもかってくらい心霊写真を撮ってきまーす!」
ナイアルの指示にドロシーは元気良く答えた。
「違うっての!あくまで真相の解明だ。エステルたちに付いて行って幽霊事件の取材をするんだよ。」
「はあ、なるほど。よく判りませんけど〜。せいいっぱい頑張りま〜す!」
ドロシーの勘違いに気付いたナイアルはドロシーに注意をしたが、あまり理解している様子ではなかった。
「ちょ、ちょっと。勝手に話を進めないでよ。」
「まあまあ。写真も提供してもらったし、持ちつ持たれつってことで。」
「そうだよ〜。ドロシーさんの写真のおかげでお化けさんの姿を見れたし。」
ドロシーが付いて来る事に渋っているエステルにジャンが宥め、ミントも頷いた。
「フン……仕方ねえな。」
アガットもドロシーが付いて来る事に渋々納得した。
「うーん、なんかどんどん緊張感がなくなって行くような。でもまあ、今回は助かるかな。」
「そういうわけで事件の調査、よろしく頼んだぞ。俺はこれから2人の候補にインタビューをかますからな。」
ナイアルはギルドを出て行こうとしたが、ある事を思い出してエステルに振り返った。
「とと……。そうだ、エステル。……ヨシュアのことは親父さんから少し聞かされた。謎の組織ってのも気になるし……。それっぽいニュースが入ったらすぐにギルドに連絡するからな。」
「え……」
ナイアルの申し出を聞いたエステルは驚いた。
「だからその……まあ、頑張れってことだ!そ、そんじゃあな!」
そしてナイアルは今度こそギルドを出て行った。
「ナイアル……」
「うふふ。先輩ってば照れちゃって〜。カシウスさんから話を聞いて結構ショックだったみたいなの。何か助けになれないか色々と考えてたみたいよ〜?」
「そ、そうなんだ。まったくもう。素直じゃないっていうか……」
「かく言うわたしも取材で気になるネタを拾ったらギルドに連絡を入れるから〜。だからエステルちゃん。ファイト・オー、だからね〜!」
「うん、ありがとう……。それじゃあ……王立学園に行くとしますか!」
「王立学園には僕の方から連絡しておこう。それではよろしく頼んだよ。」
そしてエステル達はギルドを出た。
「……何ていうか、今さら突っ込むのも何だけど。やっぱりオリビエも来るわけね?」
ギルドを出たエステルは溜息を吐いた後、自分に付いて来る予想通りの予定外のメンバー――オリビエを見て尋ねた。
「ハッハッハッ。やだなあ、エステル君。鳥が空を駆け、魚が水に遊ぶのと同じくらいあたり前のことだよ。何のためにボクが、温泉を捨ててエルモから来たと思ってるんだい?」
「うーん……。ねえアガット、ミント。仲間に入れてもいいかな?」
オリビエの答えを聞いたエステルは迷った後、アガットとミントに尋ねた。
「ミントは賛成だよ!オリビエさん、アーツと銃の腕がとっても上手いし、歌やリュートも上手だもの!」
「ハッハッハ!相変わらず、ミント君は素直で可愛いね♪照れるじゃないか♪」
嬉しそうな表情のミントの言葉を聞いたオリビエは酔いしれていた。
「もう好きにしやがれ……。ただし、俺はアンタを完全に信用してるわけじゃねえ。妙なマネをしたら容赦なくブチのめすからな。」
一方アガットは呆れた様子で答えた後、オリビエに注意した。
「ふう、それは残念だ。たまには君みたいなワイルドなタイプも悪くないと思ったんだが。」
「はあ?」
オリビエの言葉を理解できないアガットは声を上げた。
「フッ、安心してくれたまえ。君の信用を勝ち得るまで口説くのは控えることにするよ。」
「………………………………。ア、アホかああッ!何の話をしてやがる!!??」
酔いしれているオリビエの言葉を聞いたアガットは一瞬放心した後、怒鳴った。
「はわわ〜、何だかとっても大人の香りでドキドキですぅ。」
ドロシーは呑気に2人を見ていた。
(しばらくツッコミ役はアガットに任せてとこっと……)
(えへへ………オリビエさんって、相変わらず面白い人だな♪)
そしてエステル達はジェニス王立学園へ向かった。
一方、その頃。全ての種族が共存しあい、発展をし続ける街、ユイドラ。十数年前さまざまな種族と協力してある危機を乗り越えて平和になった街の郊外は、ある魔神が率いる魔族達に対してユイドラを護るために出撃した領主率いるユイドラ兵達と領主の仲間達の激しい攻防が続けられていた……………………
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