インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#57
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「うぅん………」

 

セシリアは唸っていた。

 

鈴と一夏の後をつけてきたは良いのだが、日本ではよくある住宅街の中に迷い込み右往左往していた。

 

……ぶっちゃけてしまえば土地勘の全くない場所に迷い込んで、そのまま迷子になったのだ。

 

「困りましたわね。」

 

携帯電話は運悪く電池切れ、ISのネットワークを使えば連絡を取れるものの本国と学園から大目玉。

 

何よりもセシリアの僅かながらに残っているプライドが『迷子になったから助けて』とISを使ってまでして助けを求める事に抵抗している。

 

まあ、そんな事したら本当に唯ごとじゃ済まないので最後の手段もいいところだが。

 

そのまま、当てもなくふらふらと歩きまわる事幾星霜――

 

「………しかたありませんわ。最寄りの駅までの道をどこかで訊く事にしましょう。」

 

とはいえ、道行く人の姿は無い。

 

となれば、どこかの家の人に尋ねるほかなく、セシリアは手近にあった一軒の(セシリア基準では)こじんまりとした、『槇村』という表札のかかった民家を選んでインターホンを押した。

 

すぐにとっとっとっ、と足音がだんだんと近づいて来た。

 

こほんこほん、と喉の調子を整えて、ドアが開くと同時、

 

「すみませんが最寄駅までの道を――」

「おう、セシリア。どうしたんだ、迷子か?」

 

「―――え?」

 

思わず固まったセシリアはきっと悪くない。

 

悪いとすればきっと間が悪かったのだろう。

 

応対に出てきたのは、一夏だった。

 

(な、な、な、なんで一夏さんが!?)

 

「表札には槇村とありましたのに、何故に一夏さんが?」

 

「ああ、ここはアキ兄ん家だったんだよ。行方知れずになってから俺たち姉弟が使わせてもらってるけど。確かポストのとこには『織斑』って書いてあったと思うけど?」

 

「み、見落としてたようですわね。」

 

「まあ、とりあえず上がってけよ。冷たい飲み物くらいは出すぞ。」

 

「―――!」

 

何の用意も考えも無くふらふらと出てきてしまったセシリアからすれば二つ以上の意味で嬉しい申し出だった。

 

一つ目は喉の渇きと疲れを癒せそうであること。

二つ目は学園まで帰る時の道案内を見つけたこと。

三つ目は―――他の誰も上がった事の無いであろう一夏の家に上がれること。

 

まあ、時間を遡ってみれば箒は引っ越し前はよく入り浸っていたし、鈴に至っては現在進行形でいるのでセシリアの早合点なのだか。

 

「そ、それではお邪魔しますわ。」

 

(ふふっ、これで一歩リードですわね)

 

浮かれるセシリア。

 

だが、現実はそう甘くは無い。

 

「おーい、鈴。セシリアが来たぞ。」

 

 

「えっ?」

「はぁっ!?」

 

玄関からリビングへ繋がる廊下で二人の視線がぶつかった。

 

 * * *

 

「で、何で来たのよ。」

 

「鈴さんこそ、なんで居るんですの?」

 

弾と数馬、セシリアの三人の間の紹介が終わった後、その険悪な雰囲気は唐突にやってきた。

 

ちょうど一夏が『夕飯の支度を始める』と言ってリビングを出て行ったのをきっかけに。

 

「…何、この修羅場。」

 

「…だいたい一夏のせい、ってのは確実なんだけどな。」

 

弾と数馬は部屋の片隅で二人が放つプレッシャーに冷や汗をかきながら呟き合う。

 

 

「あたしは一夏に誘われて中学時代の友達に会いに行ってたのよ。で、そのままの流れで((織斑家|ここ))に来たの。あんたこそ、どうしてこんなトコに来たのよ。駅前からも遠いし特にめぼしい施設は無いって言うのに。」

 

鈴の攻撃。

確かにこのあたりは住宅地で最近は珍しくなってはいるが何処にでもあるような商店街と住宅地が広がっている他はコレと言って商業施設も博物館みたいな施設も殆どない。

 

そんな場所に何故居る、と鈴は攻める。

 

「そ、それは―――」

 

対するセシリアは『出掛ける一夏と鈴を見かけたから後をつけていた』とは流石に言えず答えに困る。

 

「ま、どうせあたしらが外出するのが見えたから後をつけてたんでしょうけど。」

 

「うぐっ!?」

 

(な、何故にバレてますの!?)

正解を言い当てられてうろたえるセシリア。

その様子を見て鈴は自分の言った答えが正解であった事を確信する。

 

「臨海学校の前に一夏がシャルロットと買い物に行った時だって後を追ったじゃない。一度やったら二度目を疑うわよ。」

 

「そんな、人をストーカーみたいに言わないでくださいます。」

 

「だって、事実じゃない。」

 

修羅場というか『痴話喧嘩の似たようなヤツ』についていくのが馬鹿馬鹿しくなった弾と数馬は、

「一夏って愛されてるな」とか言いながらコントローラーを手に取る。

 

プレイするソフトは当然の如く『インフィニット・ストラトス ヴァースト・スカイ2』なのだが……

 

「さて、協力プレイでもやるとするか。」

 

「そうだな。」

 

我関せず、とゲームを始める二人だったが、不運はそこに有った。

 

「んーと、相手は『((飛龍|フェイロン))』と『タイフーン』か。」

 

よりによって、と言うべきだろうか。

 

長い時間プレイし、強化を繰り返した二人の愛機の前でデフォルトのCPU操作機はいとも簡単に堕ちてゆく。

 

そう、イギリス製第二世代型『タイフーン』と中国製第二世代型『((飛龍|フェイロン))』が。

 

鈴はいい。

 

中学時代に一度盛大に騒ぎ、喧嘩し、弾の駆る打鉄ベースの機体をゲーム環境を一夏から接収して鍛え上げた((飛龍|フェイロン))で接戦の末に打ち負かして和解している。

 

だが、問題はセシリアの方にある。

 

これはゲームと割り切って考えても自国の機体がボコボコにやられて行く姿は見て居られなかったのだ。

 

「な、なんですの!((我がイギリスの第二世代型|タイフーン))はこんなに弱くはありませんわ!」

 

いつの間にか、鈴とセシリアの険悪な雰囲気は霧散していた。

 

というか、セシリアの関心が画面上で機能停止したタイフーンに向けられた事で終了になっていた。

 

「このゲーム、プレイヤー相手だったら殆どが弱いわよ。まあ、やってみるのが一番じゃない?ほら、弾。ちょっと代わってやってよ。」

 

「ん、まあいいが……とりあえずはチュートリアルからだな。」

 

「その辺は任せるわ。」

 

あれよあれよといううちにコントローラーを渡され、画面の前にセシリアが押し込まれチュートリアルモードが始まる。

 

「とりあえず機体はタイフーンにしといたぞ。」

 

「ええと、このボタンで……」

 

気付けば、和気藹々とした雰囲気に包まれていた。

 

 

そして、ある程度操作に慣れてきた処で―――

 

「それじゃ、まずは――」

 

鈴がきしし、と悪い笑みを浮かべて敵の設定を済ませる。

 

セシリアもタイフーンに装備させる武装を決定して画面がバトルフィールドに変わり―――

 

『ready、Go!』

 

開始と同時に桜色のナニカが突っ込んできて一撃のもとにタイフーンを斬り伏せていた。

 

「、あ―――」

 

間の抜けたセシリアの声。

 

弾と数馬は『あー、』と困惑の表情を浮かべ、鈴は爆笑しないように必死になって堪えていた。

 

「な、なんなんですの、アレは!」

 

「このゲームの唯一のプレイヤーキラー、隠しボスの『暮桜』よ。コマンド入力に合わせてフレーム単位の隙をついてカウンター入れてきたり、今みたいに開始と同時の((連打ダッシュ|イグニッション・ブースト))で急接近した上に((ガード無視攻撃|れいらくびゃくや))入れてくる鬼畜設定のAIを積んでるわ。その代わりに武装は((雪片一本で射撃兵装一切無し|ブレオン))。」

 

「な―――」

 

「安心していいわよ。あたしが知る限りじゃ勝った人見た事無いから」

 

「び、((初心者|ビギナー))相手に酷過ぎますわ!」

 

「次はちゃんと勝てる相手にしてあげるわよ。ほら、『((飛龍|フェイロン))』よ。」

 

「………また、とんでもない設定になんてなっていませんよね?」

 

「ちゃんとデフォルトのままよ」

 

「…本当ですわね?」

 

「本当に何もしてないわよ。ほら、始まるわよ」

 

「くっ…何かあったら酷いですわよ」

 

とはいえ、ちゃんとデフォルト設定の機体に最弱設定のNPCならばビギナーのセシリアでもシールドゲージを半分消費するくらいでなんとか勝つ事は出来たのだった。

 

……普段、実機を動かしている故のクセか回避の時に体がピクピク動いていたりして見てる三人の笑いも誘ったりしていたが。

 

「よーし、それじゃあベテランの実力をみせてあげましょ。弾、デフォルト機であたしに付き合いなさい」

 

「りょーかい。そんじゃあ数馬は向こうのチームだな。ああ、当然デフォルト機な。」

 

「わかった。そんじゃあ、頑張るとしますか」

 

そして、打鉄&タイフーンVS打鉄&飛龍という戦いが始まろうとしていた。

 

---

 

「あの様子だと、セシリアもハマったんだろうな」

 

鈴、弾、数馬の三人と仲良くゲームをやっているセシリアの姿をちらりと見て一夏は呟く。

 

勝てば楽しそうに((再戦|リベンジ))を受けて立ち、負ければ悔しそうに((再戦|リベンジ))を申し込む。

 

そんな無限ループを形成し楽しげに騒ぐ四人を見て一夏はふと思う。

 

ちゃんとセシリアと仲良くやってくれてるみたいだな…と。

 

「………これって子供の友達が遊びに来てる家の親の気持ちに似てるような…」

 

そんな事言っても今更だが。

 

「………うん、気のせいだ。さて仕上げに取りかかろうか。」

 

現実逃避先となった夕飯のクオリティが上がる事が確定した瞬間だった。

 

 

それから程なくして対戦に熱中する四人に夕飯にするから、と中断を命じテーブルにつかせる。

 

その日の夕飯はトマトの冷製パスタ。

 

一夏が千冬のトマト嫌いを直す為にアキトから教わったメニューの一つだった。

 

 

夕食後、片付けを終えた一夏は受話器を取りとある番号を押す。

 

「―――あ、もしもし一年一組の織斑です。ちょっと帰れそうにないので外泊申請したいんですけど…。はい、一組のセシリア・オルコットと、二組の鳳鈴音もお願いします。」

 

学園への外泊申請の為に。

 

そんな電話をする一夏の視線の先では戦闘再開と相成った四人組が居た。

 

「はい、お願いします。」

 

かちゃ、と受話器を置いてから再び取り上げ次の家へ。

 

「あ、五反田さんのお宅でしょうか。おお、蘭か。弾はウチに泊ってくみたいだからその事をな。ああ、厳さんにも伝えておいてくれるか? 頼むな。」

 

と、同じ事を数馬の家にも行い漸く一夏は『はぁ』と溜め息をつく。

 

(―――俺はあいつらの保護者じゃねぇぞ!)

飲み込んだ、『叫びたい気持ち』を吐きだす為に。

 

 

後日、この一件で鈴とセシリアが箒ほかの一夏Loversの面々に羨ましがられる事となるのだが些末な事である。

 

泊ったと言っても一晩中戦って戦って、戦い抜いたのだから。

 

翌朝残っていたのは寝不足で目の下が大変な事になっている面々、

 

「うーん、やはり高機動ミサイルは欠かせませんがコストが高いのが難点ですわね………となるとメインアームはサブマシンガン辺りが妥当でしょうか………」

 

そして一人の廃人候補の誕生であった。

 

そして、それから毎晩のように寮の一室で電子的な戦闘音が鳴り続ける―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――か、どうかは定かではない。

だが、セシリアの同室がなんだか寝不足そうにしているという事実だけは伝えておく。

説明
#57:未知との遭遇
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