異世界で生きる |
十一話
翌日、二日酔いを魔法で癒した後、お世話になった衛兵にお礼を言って兵舎を出た。中でまだファーガスは大いびきをかいて寝ているが、放置している。一応同じ治癒をかけてはおいたが、あの様子じゃあしばらく起きないだろう。
昨日もらった斧神討伐報酬はすでに腕輪に入れてある。額にしてテヘロス金貨30枚。聞けば普通の人が食事に困らず十分1年過ごせるのがテヘロス金貨1枚分だから、30年仕事しなくても別に大丈夫という大金だった。これは国からの報酬とギルドにある斧神への討伐依頼報酬を合わせた額なんだとか。それにあのクラスになると天災といっても過言ではないためにテヘロス金貨級の報酬はそう珍しくないそうで、集まればこのくらいはするだろうという。しかも長年国家で最大級の壁となっていた魔物とくればなおさらだとか。
そんなわけで王妃様にもらった支度金がちゃっちく思えるほどの大金を入手してしまった俺は、まず昨日あった恩赦のうちの一つである屋敷を見に行くことにする。なんでもその貴族は変わり者で有名だった人らしく、屋敷自体が多くの貴族の住まう貴族街から離れた区画にある。そのため商業区を横切って一緒に渡された地図を見たり、人に聞きながら進んでいったんだが……。
「これはないだろう……」
まず見えるのは蜘蛛の巣とよくわからない植物の巻きついた先のとがった金属の柵と同じ材質のへしゃげた門。その先に見える玄関までの庭は荒れ放題で、左に見えた小さな噴水はボロボロに朽ちていて枯れている。なんとか門を開けて――押したら留め具が外れてそのまま倒れた――進むと見える玄関扉は木製で汚れてはいるが、細やかな装飾のされた4mはある巨大なものだった。しかし予想に反して扉は軽く、開けるときに少しつんのめってしまった。と同時に舞う埃。
「げほっげほっ、ええいくそっ!最近死んだんじゃなかったのか!」
思わず叫んでしまうほどに中はそれはもう酷い有様だった。まず天井にあるはずのシャンデリアが目の前の大きな中央階段に落ちていて装飾がまき散らされている。元は赤かったのだろう絨毯は埃の白と赤黒い斑点模様のせいでそこだけ見てもお化け屋敷状態だ。内装が似ているためどこのバイオハザードだと叫びたくなる。どうりで道を聞いた時の住民の反応が悪かったわけだ。
とりあえず窓を全部開けようと邪魔なシャンデリアを回収して階段を上がり、玄関の真上にある窓に行くと、テラス付きですでに割れていたので何とも言えない気持ちになりながらスルー。戻って2階中央扉、左扉、右扉をすべて開け、部屋と窓を同じく全て開けていく。部屋数も多く、俺一人じゃあ絶対管理しきれない大きさだ。2階中央の奥に大きな書斎があったからそことその隣の大きなのを俺の部屋にしようとは思う。もちろん本なんて一冊も残ってなかったが。
2階を開け終わり、今度は1階部分も同じようにしておく。1階には厨房と小さな浴場、そして物置や上より少し小さな部屋があった。使用人用だと思う。あと、この浴場は浸かるところと少しスペースがある程度という日本人の俺からすればけしからんものだったから、後々大きくするつもりだ。
そして全て開け終えたので魔力にものをいわせて風の魔法で一気に換気する。するとまぁ出るわ出るわ。埃に害虫・ネズミ、さらには小さな魔物っぽいのまで。出てきたものは全て集めて溶岩にぶち込み焼却処分。近隣の住民が何事だとわらわら出てきたので住むことになったのと掃除するので少しの間うるさくなることを了承してもらった。この時粗品を渡すのも忘れない。ただのタオルだけど、この世界は中世の物が多いので福引で6等賞でもらったタオルでも質としては十分な物だ。
住民に満足してもらったあとはひたすらに鋼の錬金術師の錬金術を使い続けた。窓を修復して崩れた階段を直し、改造。浴場はほかの部屋をぶち抜きして大浴場へ早変わり。腕輪の中から材料も出して高級感あふれるものに生まれ変わった。調子に乗って別に檜風呂とかサウナも作った。大浴場には両サイドに大理石の水瓶を持った女神像っぽいのを作り出し、綺麗な水と温度調整の術式を組んで、水瓶から常に暖かいお湯が出るようにした。流した水は循環と浄化の術式によってクリーンに。屋敷の裏手が増設のために飛び出した風になったので、厨房や部屋も少し広くして全体的にバランスを取った。いちいち外に出るのが面倒だったが、そこは今後の快適な生活のためと自分に言い聞かせて頑張った。
中央階段の上がって左右に分かれる部分の壁が寂しかったのでそこに赤布に黒マークのアサシン教団の垂幕をかけてみた。なんだかいい感じに見えたので外の噴水にもマークを水が溜まる部分にも入れてみた。この噴水は白の大理石に作り直し、状態保持と循環、浄化、水の術式を書き加えたので綺麗な状態で綺麗な水があふれることなく出続けるだろう。庭も岩だらけなのは仕方がないので綺麗に整えておく。後々何でもできるようにな。
そのあと書斎の壁に垂幕かけたりいろいろなところにマークを入れつつ屋敷自体も強化していく。元々石造りの所に様々な種類の鉱石を錬金術でブレンドしつつ調子に乗ってモンスターハンターのマカライト鉱石とか大地の結晶とか、他にも上位鉱石を入れてみたところ、たいていの家はがれきに出来る上級魔法でさえ傷もつかないというバカみたいな要塞になった。色は灰色よりの黒に変わり、それに状態保持の術式を組み込み、各所に循環と光属性の魔法の術式を入れた様々な種類のランプの魔法具を設置。目をやられない様に少し細工もしているので安心できる。薄暗かった室内もこれでだいぶ明るくなった。
ちなみにシャンデリアも作り直して天井につるしている。少し大きい気がしたので一回り小さくしたが、問題なく光を反射している。そしてあの血と埃に塗れた絨毯も汚れを分解して絨毯自体も再構築したのでめちゃくちゃ音を吸収する。
それと、俺の書斎から行ける地下部分も作ってみた。本棚も何個か作ってその中に適当にぶち込んである本のうち特定の本を引っ張ると開くという一度は作ってみたい隠し扉だ。これにはアサシンクリード2のモンテリジョーニの屋敷を参考にしたというか、そのままもってきた。
そして地下には同じく参考にオリンポスの神々の石像を置いた。記憶の中にある姿をそのままに、錬金術で作り上げる。どうしても錬金跡が目立つので、時間ができたときに新しく自分で彫っていきたいと思う。これで全面白の石で敷き詰めればもう完璧な神聖なる地下聖堂の誕生だ。これはオリンポスの神々への感謝の気持ちを込めて作ってみた。一礼して、そこから出る。
他には家具とか机とかをとりあえず俺の部屋にだけ引っ張り出しておいて、開けておいた扉を閉めて鍵かけて……一応完成。なんてことでしょう、バイオハザードの洋館からアサシン教団本部に早変わり!
そして今更だが、錬金術の知識の流入のせいで頭痛がひどい。どうやら一度錬成するのに知識を頭に自動で流しているみたいなのだ。これは最初の一回だけで済むのと神様補正の体のおかげでこれだけですんでいるものの、他の一般人なら廃人コースだろう。そのせいでいろいろストッパーが効かずにやりこみすぎた感も否めないが……屋敷の壁とか浴場とか地下聖堂とか。
でも、もうお化け屋敷なんて呼ばせない!
なんて思いながら、俺は意識を手放した。
説明 | ||
何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。 | ||
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