異世界で生きる
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十二話

 

 

カイトが錬金術の過剰使用で倒れるように眠って2日。カロル・トロルはまた少し騒がしくなっていた。噂の発端は平民街の居住区画。数十年前に起こった貴族間の権力争いの現場であり、今では誰も買い手のつかなかった少し変わった貴族の屋敷である。長い年月放置されて錆びついたその屋敷の事を周辺の子供たちは『お化け屋敷』と呼び、大人たちは起こった事件のこともあり気味悪がって誰も近づかない。

 

 

そこにやっと買い手が現れたという。それだけなら別に問題はない。しかしその屋敷を少しばかり騒音を立てつつも、たった一日で全改装したとなれば話は変わる。事前にその買い手であるカイトが礼儀正しく話して粗品まで住民に渡していなければ、もっと大騒ぎになっていたことだろう。一応住民としては冒険者にしては礼儀正しく成金の若い男としてしっかり認知されていたからだ。それに子供達に優しく接し、追加でお菓子などもプレゼントしていたことも彼らの警戒度を下げる要因になった。

 

 

だが、それはそれこれはこれである。普通に驚いた住民によって衛兵に話が行き、グスタフとファーガスの耳にもしっかりと入った。グスタフはまたこいつかと盛大なため息をついたが、ファーガスによっていろいろとカイトの能力を教えられて渋々ながら納得。衛兵とギルドに『この件はまたこの規格外の馬鹿がやったことだから気にするな、害はない』と発表。要は仕事をこれ以上増やしてほしくなかったのだ。

 

 

「なんか変な噂が流れてるな」

 

 

「あの一日で屋敷が変わったってやつでしょ?嘘に決まってるわよ」

 

 

カロル・トロルギルド食堂。がやがやといつもの騒がしさと忙しそうに動き回る給仕は、この時間帯ではいつもの風景だ。その食堂で、ジャックのパーティは少し遅めの昼食をとっていた。カイトと別れた後、このパーティは一時の休暇を挟んで軽い討伐の依頼を済ませていた。そして少し前に戻ってきたところである。

 

 

「いや、嘘ではないようだ。さっき職員に聞いたらあっさりと答えてくれたよ。あの屋敷はカイトがこの前の斧神討伐の報酬としてもらったものだったとか」

 

 

「すっげぇなカイトのやつ!まぁあれだけ強い斧神を倒したんだから、そのくらいもらえないとやってけないよな」

 

 

「何言ってんの。あんなボロ屋敷もらっても修理やらで全部吹っ飛ぶし、一人で管理出来るわけないじゃない。押し付けられただけよあんなの」

 

 

「まぁ、そうだにゃあ。でもカイトはそこを一日で修理したんにゃから、本当にゃらがっぽり得してるんじゃにゃいかにゃー?」

 

 

昼食をとりながらカイトの話が本当かどうか話していくメンバー。ニーナは完全に嘘だと思っているようで、途中から本当だと思っているジャックと口喧嘩を始めてしまう。残る二人はいつものことだと無視して二人で話している。だが、バンッと机を叩いて立ち上がる二人を見て、ため息をついた。

 

 

「じゃあ見に行きましょうよ!これで嘘だったらあんた私にひざまずいて謝りながら靴を舐めさせてやるわ!」

 

 

「上等だ!飯食った後ですぐ行くぞ!おい二人とも!急げ!」

 

 

言ってがつがつと食べるスピードを上げる二人。カタリナはいつもの二人のやり取りを見て微笑ましく思いながらも、姉の女性らしさもかけらもない食いっぷりに少し悲しくなる。だが、これでこの二人は丁度良く仲が良くて、互いに好意を寄せあっているというのだから笑えてくる。しかし互いに自身の本心と相手の心に気づいていないが、ここまで毎度喧嘩をしても結局仲直りしてずっと一緒にいるのだから本物だろう。その時は傍から見ていて恥ずかしくなるほどの青春っぷりを発揮するが。

 

 

(さっき職員に確認を取ったと言ったのを二人とも聞いていなかったのか?まぁ、姉上のしょぼくれた顔が見れるならいいか……)

 

 

 

 

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「でか……」

 

 

「ほらみろ!俺の言った通り本当だったじゃないか!」

 

 

「ぐぬぬぬ……っ!」

 

 

唸るニーナとドヤ顔でそれを見るジャックの前には噂のカイトの屋敷が建っている。昼食後、飛び出すように出て行ったジャックパーティは付近の住民に聞きながらその場所に到着していた。

 

 

「まぁまぁ、ジャック、姉上を弄るのはいいがここにいてもしょうがあるまい。せっかく来たんだからカイトに入れてもらおうじゃないか。私は中が見てみたいんでね」

 

 

「僕もにゃよ。こんにゃ大きい家に入れる事にゃんてそうそうにゃいからにゃ」

 

 

二人の言葉にとりあえず頷いたニーナとジャックは綺麗になって黒光りする鉄格子を開けて中に進んでいく。中の道は荒れ果てていたと聞いていたのが嘘に思えるほど綺麗に直され、中ほどには白く美しい噴水が設置されていた。そこからは綺麗な水がとめどなく流れていており、芸術的な装飾も相まってそれだけで一つの芸術作品に見える。周りに何もないため少し寂しいが、それでもこの噴水はそれだけでも十分なほどだった。と、カタリナやノワール、そして珍しくジャックまでもが感動していると、それをぶち壊すようにいきなりニーナが吹き出した。

 

 

「ぶっ!?ちょっ!これ、え?うそでしょ!?」

 

 

「はぁ、姉上。こういう芸術品の前でくらい大人しくできないのか?」

 

 

「そうだぜニーナ。今回は何というか……不謹慎じゃないか?」

 

 

「ジャックにも言われるようじゃお終いだにゃ」

 

 

「そんな目で見ないで!っていうか私の話を聞きなさい!」

 

 

少し涙目になりながらも、ニーナは仲間に懇切丁寧に説明した。普通物に術式を刻むというのはとても難しいことで、ランプ程度の簡単な物でなければ専門の魔術師が長時間かけて魔力と術式を刻み込まなければならない。しかもこんな高度な術式と効果の物はそうそう作れるものじゃあないと、叫ぶようにして説明した。こんな物が作れるのは普通に考えてもSランク以上の魔術師か王国お抱えのかの英雄位だろうと。

 

 

しかし、魔術にそこまで詳しくはない3人は、驚きはすれどニーナのように騒ぎ立てることはなかった。確かに術式付きの道具は珍しいし高価だが、ニーナが専門でないため曖昧にしか術式内容が読み取れない事もあってそこまでだった。

 

 

肩を落としたニーナを引き連れてようやくメンバーは玄関扉につく。その玄関扉さえ凝っているのだからカイトはどれだけ弄り回したのか。などと考えながら、扉をカイトを呼びながらノックする。

 

 

「はいはいはい、今出ますよ」

 

 

なんとも気だるげな声とともに出てきたカイトは、前回メンバーに会った時のローブ姿を少し大人しめにしたような恰好だった。白い厚めの生地に裏地の赤い開いた襟元、全体的にスマートでシンプルな風体だがその中にもしっかりとした気品がある。そして腰のベルトにあるマークが変わらず印象的だった。

 

 

「よぅ!家が凄いって噂になってたから見に来たぜ!」

 

 

「噂?……あー、そうか。さすがにもう広まってたか。なるほど」

 

 

本人としても一日で改装するのに噂にならないわけがないとわかっていたようで、一人で頷いた後に4人を中に招いた。

 

 

中に入って、4人はまた感嘆の声を上げる。内装は他の貴族と違いシンプルだが気品があり、元が『お化け屋敷』だったなどと考えられないほど綺麗に片付いていた。上を見上げると、天井につるされているシャンデリアは見事にランプの光を反射しており、屋敷全体を明るく照らしている。そしてそのまま全体を見渡していると、適度な間隔を置くようにして見たことのない黒の鎧が置かれていることに4人は気づいた。

 

 

スラリとしたスマートなフォルムだがしっかりと作られているフルプレートの鎧。2本の角が生えたような特徴的な兜をしており、顔の部分はT字に開いている。種類としては大剣、斧、ハルバートと3種の武器があり、どれも漆黒の盾を持っている。大剣と斧の鎧はそれを前で杖のようにして両手で持ち、ハルバートの鎧は門番のように右手で立たせて立っていた。

 

 

「カイト、あの鎧は見事なものだな。違う物もあるが、どれも一級品に違いない。しかも観賞用ではないように見えるが?」

 

 

「あぁ、あれは防犯だ。既存の鎧に術式を隅々まで刻み込んだゴーレムだよ。全体にくまなく刻んだから鎧が粉々にならない限りは動きが止まることはない。しっかりと人間と同じ動きをするし、魔法の耐性もある。意思のないゴーレムだから人件費もかからないし、いくらでも替えが効く。最高のガードマンさ」

 

 

「マジかよ……」

 

 

「もしここに忍び込む盗賊にゃんかいたら、逆に気の毒なことになりそうにゃね」

 

 

未来の犠牲者に黙祷しつつさらに中に進んでいく。階段にはカイトのバックルにあるマークと同じ垂れ幕があった。そこでカタリナは辺りをもう一度よく見てみると、様々なところにそのマークを見つけることができた。どこか神聖な物のように見えるその矢尻に似たマーク。彼自身がそれを身に着けているのだから、家紋か何かなのだろうか?

 

 

「カイト、度々質問で悪いがあのマークはお前の家紋か何かか?」

 

 

「ん?あー、いや、そういうわけじゃないが……俺の信条の表れのようなものだと考えてくれていい」

 

 

家紋にするのもアリか?とぶつぶつ言っているカイトに、そんなものかととりあえずの納得をする。ふと後ろを見れば最愛の姉であるニーナの魂が抜けかけていた。カイトが術式云々と言う前からだと思うので、玄関前での事の続きだろうと考えたカタリナは、ちらりと見ただけで放置することを決めた。

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ゴーレムはダークソウルの黒騎士の鎧をカイトがいろいろ付与して強化した物です。ちゃんと主人不在時は屋敷の巡回もしてくれます。ダークソウルをプレイしたことのある人ならば、軽く心が折れそうになる光景ができます(笑)。

 

 

それと、カイト君の恰好はアサシンクリードブラザーフッドの初期エツィオのローブ姿です。

 

 

次話でそれらについても詳しく書こうと思います。

説明
何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を
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コメント
どうせならもっとカイトが居ない時にはトラップハウスになるっていうギミックが欲しかったです(笑)(神薙)
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