IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
クリスマスが終われば次の全国的なイベントは大晦日、そしてお正月である。
しかし、その間の数日間は特に何の日と言うわけではない。高校生ともなればただの冬休みである。
・・・・・・・・ただの高校生であれば、の話だが。
「ティアーズ!」
声と共にビットが飛び立つ。そしてその主を守るように周囲を飛び回る。
第三世代IS《ブルー・ティアーズ》。操縦者はイギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
「その程度!」
対するは第四世代IS《紅椿》。操縦者は無所属の篠ノ之箒。両手に二本の刀を持ち、独特の構えを取り、迎え撃つよ
うに立つ。
そう。高校生は高校生でもIS学園の生徒となれば話は変わってくる。
『休みといえども、気を抜きすぎてはいけない』
おなじくドイツ候補生のラウラ・ボーデヴィッヒのその一言に賛同した一年生の専用機持ちたちはこうして各アリーナ
に散らばって訓練をしているのだ。
「はああっ!」
箒の左手の刀、雨月が突きの動作と連動してレーザーを射出する。
「甘いですわっ!」
バチィッ!
ビットがレーザーを放ち、赤と青のレーザーが正面衝突して爆ぜる。
「バレット!」
セシリアの声に反応し、実弾搭載型ビットのバレット・ビット、そしてミサイルビットが弾丸の雨を箒に向けて放つ。
「くっ・・・・・! このぉっ!」
数発被弾し、今度は右の刀、空裂が横一線のレーザー刃で弾丸とミサイルを破壊する。
周囲が煙に包まれた。
「かかりしたわね!」
「なに!?」
スターライトmkVの先端部分に銃剣として付けられたインターセプターでセシリアは箒に突進。咄嗟のことで箒も反
応できず地面に叩きつけられる。
「ぐぅっ!」
衝撃を堪え、なんとか立ち上がる。
「いただきましてよ?」
「!」
箒の目の前にレーザービット、そしてバレット・ビットが三機ずつ、その銃口を箒に向けていた。
ズダダダダダッ!
「うああっ!」
怒涛の弾幕攻撃に、紅椿のシールドエネルギーは一気に0になる。
「わたくしの勝ちですわ!」
地面に降り立ち、得意げに腰に手をやるセシリア。
「くっ・・・、まさか移動しながら六機同時操縦ができるようになったとは・・・・・」
「もちろんですわ! 代表候補生の名に恥じないように、このセシリア・オルコット、鍛練は怠っていませんもの!」
「うん。強くなったなセシリア」
後ろから専用機《白式》を展開した一夏がやってきた。
「一夏―――――――」
「一夏さんもご覧になられまして!? わたくしの鮮やかな攻撃を!」
箒を半ば押しのけるようにしてセシリアは一夏に詰め寄る。
「あ、ああ。見てた見てた」
一夏が頷くとセシリアは満足げにニコリと笑った。
「ふ、ふん。 何が鮮やかな攻撃だ。あの力は瑛斗にティアーズを改造してもらったからだろう」
やや拗ね気味に箒が言う。
「あら? 負け惜しみですの箒さん?」
「何を!? ・・・・・ええい! もう一戦だ! 次は負けん!」
「よろしいですが、まだエネルギーが回復しきれてませんでしょう? それまで休憩ですわ」
「うぐぐ・・・し、仕方ないか・・・・・」
箒もそれに渋々賛同する。
「うふふっ♪ あぁ、こんな素晴らしい武装を造っていただいた瑛斗さんには本当に感謝いたしませんと」
ティアーズを待機状態に戻し、軽い足取りでピットへ戻るセシリア。しかし、ふと足を止めた。
「・・・・・そう言えば、今日は瑛斗さんを見ていませんわね?」
セシリアの疑問に一夏が答えた。
「ん? ああ。瑛斗なら朝早くにアメリカのエレクリットの本社に行ったぞ」
「本社? どうしてですの?」
「いや、なんかよく分からんけどサイレント・ゼフィルスのコアを使うらしい」
「・・・と言うことは、新しいISを造りに?」
二人の会話に箒も参加する。
「そう言えば私も朝の鍛練の途中でG−soulを展開した瑛斗を見かけて声をかけたら、『もうすぐ迎えが来る』とか言っ
てそのまま空に飛んでいったぞ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・アイツって、たまにサラッと凄いことするよな・・・・・・」
「ええ。ISを造るなんて、そう簡単ではないはずなのですが・・・・・」
「ISが絡むと、アイツの行動力は凄まじいからな・・・・・」
三人は改めてクラスメイトの凄さを感じたのだった。
「は・・・は・・・・・はくしょん!」
エレクリット・カンパニーの本社技術開発局のガレージ。そこで俺は盛大なくしゃみをした。
「誰か俺の噂してるな・・・・・?」
そんなことを呟きながらレーザーカッターで装甲部分を溶接していく。
「桐野さん。この部品はどうするっすか?」
声をかけてくる人は、技術開発局局長のエリナさんの部下のエリス・セリーネさん。
「あ、それは大きさが均等になるようにそこの機材使って切っといてください」
「はいっす」
ガレージの奥では、サイレント・ゼフィルスだったコアがフレームに組み込まれて大型コンピュータとケーブルで連結
している。
俺とエリスさんは今、新しいIS《バルサミウス・ブレーディア》を製作中なのだ。
二人だけということもあって作業しながら結構話したりする。
「なんか、すいませんね。部品調達してくれるだけで良かったのに、わざわざ手伝いまでしてもらっちゃって」
俺は朝早くにIS学園の上空に飛び立ち、そこでエリスさんが操縦する輸送機のロウディに回収してもらい、ここまで連れてきてもらったのだ。
「いえいえ。自分にとっても、これはこれで結構好都合っすから」
「そう言えば、いいんでしょうか? 俺、まだエリナさんに挨拶してないんですけど・・・・・・」
「あー、いいっすいいっす。先輩、まだ家でぐったりしてるっすから」
「・・・・・なんだろう。何があったか薄々わかった気がする」
「ほう。その心は?」
「二日酔い、ですね? クリスマスのはしゃぎ過ぎで」
「ご名答っす」
「なるほど・・・、道理で連絡したときの声が妙に呂律が回ってなかったわけだ」
「はは。返す言葉もないっす」
大企業のエレクリットでも、連休くらいはある。今の時期は特別休業中だったらしく、エリスさんを含む数人が管理の
ために残っているだけなんだそうだ。
「しかし・・・ここのガレージって結構広いですよね」
「そうっすね。いつもは開発局のみなさんがいますから狭く感じるっすけど」
「まあ、そのおかげでこうしてISが造れてるんですけどね」
「あはは。その通りっす」
そこまで会話すると、奥の方の機材からこのISのメイン武装となるものが出てきた。
「お、できたできた」
エリスさんと一緒に出来具合を見る。
「おお。いいじゃんいいじゃん」
ベルトコンベアに乗って流れてきたのは、綺麗に形の整った十枚のクリアーレッドの刃だった。大型が六枚、小型が四枚である。
「後は、これをあの装置と接続させれば・・・・・・・」
俺はタタタッと走って学園から持ってきたある装置を箱から取り出す。
「なんすかそれ?」
エリスさんが二十センチほどの大きさの装置を見て首を捻る。
「ブルー・ティアーズ系のビットに搭載されてる脳波感応装置と推進器部分が融合したもの同じ構造のものです。レー
ザー発射装置が付いてませんけど、これだけでも動きますよ」
「え・・・・・ええっ!? そ、それって国家機密じゃあ?」
「そんなことありませんよ。これ開発手伝ってたのツクヨミでしたから。スペアのデータバンクを探せば簡単に設計図
が出てきますよ。あ、でもパスワードは教えられませんよ? なんだかんだ言って、今現在でパスを知ってるの俺とエ
リナさんだけらしいですから」
「は・・・はあ」
半ば放心したようにうなずくエリスさん。
「さあ! メイン武装ができますよ! ここまでくれば完成までもう一息です!」
「は、はいっす!」
我に返ったエリスさんとともに、えいえいおー、と拳を突き上げた。
「で・・・・・で・・・・・・・」
「「できたぁ〜!」」
外が真っ暗になったころ。へなへなと地面に座り込んだ俺とエリナさんの前には無人展開状態の赤いISが。
その外見はティアーズシリーズと似ているが、細部が異なる。
大型ソードビットを六枚、小型ソードビットが四枚。大型が腰部装甲を囲むように、小型が腕部装甲に二枚ずつ。
腰部装甲はロングスカートのようになっている。
「うんうん! 我ながら計算通りの出来だ!」
「そ、それよりも、本当に一日だけでISが完成したことに驚きっす!」
二人で仰向けに寝転がる。
「本当にありがとうございました。一人じゃこのスピードではできなかったですよ」
「どういたしましてっす。自分も、いい時間が過ごせたっす」
prrrrrr!
「ん? 先輩から電話っす。もしもし?」
『あ、エリス? ちかくに瑛斗いる?』
「桐野さんすか? いるっす。代わりますね」
エリスさんから携帯電話を渡され、受け取る。
「代わりました。俺です」
『瑛斗、できたかしら? 学園からの依頼っていうISは』
「あ・・・はい」
実は、今回のIS造りのことは話を俺なりに誤魔化している。エリナさんたちに嘘をつくのは心苦しいが、人の命がかか
っているのだ。ばれるわけにはいかない。
『大変ね。IS学園側からISを造ってこいなんて命令を受けて』
「いえ。エリスさんに手伝ってもらいましたから。それに設計図は向こうで作ってきたものですし」
『うー・・・、私が二日酔いなんてしなければもっと早く終わったでしょうに』
「エリナさんがこの時期に酔っ払わないのは、天地がひっくり返ってもあり得ませんよ」
『ちょっとひどい! ・・・・・ま、いいわ。できたらすぐに帰ってくるように言われてるんでしょ? エリスに送っ
てもらいなさい」
「わかりました。エリスさ――――――――」
「すー・・・・・すー・・・・・・」
横を見たら、エリスさんはそのまま寝てしまっていた。きっと疲れたんだろう。
「・・・・・・あー、エリナさん。すいませんけど、帰るは明日の朝にします。流石に眠いです」
あくび交じりに言う。俺も眠くなってきた。
『あらそう。局に仮眠室があるからそこで休んでいきなさい。食べ物もあるから、お腹すいたら何か作って食べてもい
いわよ』
「ありがとうございます。何から何まで」
『いいのよいいのよ。それと、エリス、寝ちゃってるでしょ?』
「え・・・・・」
なんで分かったんだろうか。実は近くにいる?
『私の介抱して、ろくに寝てなかったのね。悪いけど、運んであげて?』
エリナさんの声は、とても優しい声だった。まるで、母親のような声。
「・・・・・・・・・」
『瑛斗?』
「・・・あ、いえ。なんでもないです。じゃ、じゃあそうさせてもらいますね」
『うん。おやすみなさい』
「はい。おやすみなさい」
そして電話を切る。
「さてと・・・・・・」
俺は起き上がり、エリスさんを抱えてガレージを後にした。
「は・・・はわわわわ・・・・・!」
ロウディの操縦席に座ってるエリスさんは起きてからずっとこの調子だった。助手席に座っている俺としては、心配な
ことこの上ない。
「あ、あのー? エリスさん?」
「はっ、はいぃ!? なんでしょう!? なんでございましょうっすか!?」
なんか、日本語が微妙におかしなことになってる気がするけど、それはさておき。
「そろそろ、俺、降りたいんですけど」
「ひぅ!? ま、まだ学園には着いてないっすよ・・・・・・?」
赤い顔をさらに赤くして、エリスさんは俯いた。
「い、いや。ちょっとこのISを渡さないといけないので」
「そ、そうっすか。こ、コンテナのハッチを開けますから、準備ができたら言ってくださいっす」
「はい。わかりました」
そう言って俺は座席から立ち、コンテナへ向かう。
コンテナには無人展開の《バルサミウス・ブレーディア》が置かれている。
「んしょ、んしょっと」
G−soulを展開する。
固定パーツにそれを取り付け、背中に背負う。エレクリット特製のIS運搬用オプションパーツである。
ISスーツもしっかり備え付けられている。
「モニターを点けてっと・・・・・ん?」
壁に付けられた小型モニターを点け、操縦席にいるエリスさんと繋ぐ。
画面に映ったエリスさんは、なぜか熱っぽい目をしていた。
『はぁ・・・桐野さん・・・・・。優しいっす・・・カッコいいっす・・・・・・』
「え、エリスさーん?」
『ぎゃわはぁっ!?』
ドターン!
俺が声をかけたらエリスさんがひっくり返った。
「だ、大丈夫ですか?」
『あ、ああっ! はいっす! 全然っ、大丈夫っす!』
微妙に涙目だけど、本当に大丈夫かな?
「そ、そうですか・・・。それじゃあ、ハッチオープンお願いします」
『え・・・もうっすか・・・・・』
「?」
『い、いえ! なんでもないっす! 開けるっす!』
ガゴン・・・・・・・
物々しい音とともにハッチが開く。
「じゃ、また今度!」
『あのっ! 桐野さん!』
「はい?」
『そ、その・・・ありがとうございましたっす・・・・・。自分の為に出発の時間を遅れさせていただいて』
そう言えば、確かに本社を出たのは夜遅くになった。エリスさんが眠ってしまっていたこともあったが、俺がツクヨミのみんなの慰霊碑に行きたかったのもあった。
「いいんですよ。体には気をつけて。それじゃ!」
挨拶を済ませて、コンテナから飛び降りる。
PICのおかげで真っ逆さまに急降下、とはならない。
「Gメモリー! セレクトモード! セレクト! シェラード!」
空中でシェラードを発動。ステルスフィルムを使って周囲の景色と溶け込む。
出発する時間を調節したので、まだ日本はお昼過ぎくらいだ。
俺はオープン・チャンネルで一夏を呼び出した。
『瑛斗? って、なんで映ってない?』
「よう! ちょっと今透明になってっからな」
『透明? ああ、シェラードでも使ってるのか』
「正かーい。一夏、お前いまどこにいる?」
『どこって・・・・・、家だけど? もう年末だから、千冬姉とマドカと一緒に――――――――』
『一夏くん、おねーさんもいるんだけど?』
「『た、楯無さん!?』」
『ごめんお兄ちゃん。お兄ちゃんの先輩だっていうから、上がってもらっちゃった・・・・・・・』
『ま、マドカ・・・・・』
『うんうん。マドカちゃん素直でかわいいー♪』
『わっ』
ガスッ!
『更識。妹に手を出すことは許さんぞ』
『じょ、じょーだんでーす・・・・・・』
あれ? なんか・・・・・、置いてけぼり? 俺、置いてけぼり?
「い、一夏。それでな」
『お、おう』
「今、お前ん家に向かってんだわ。空から」
『空から!?』
「うん。ちょっと待ってろ。もうすぐ着くから」
『え、ちょ―――――――――』
回線を切る。あ、一夏が窓開けて顔を覗かせてるのが見える。
織斑家の庭に着地し、ちらと一夏を見る。
「瑛斗のやつ・・・・・。空から来るって・・・・・・・」
ぷぷ。まだ上見てる。
「やっほー」
「うわあっ!?」
ステルスフィルムを解除した俺を見て、一夏が飛びのいた。
「お邪魔します」
「お・・・おう」
俺は挨拶してから背中に背負ってるものをおろす。
「な、何それ? IS?」
「ん。マドカへのプレゼント」
「お兄ちゃん? 今度は誰が来たの?」
家の奥からマドカが出てきた。
「やあ。こんにちは」
「こ、こんにちは・・・・・・」
マドカはやや警戒して一夏の後ろに隠れている。
「初めまして、ってことになるな。俺は桐野瑛斗。一夏のクラスメイトだ」
「お兄ちゃんの、お友達?」
そうそう。俺は頷いてISを待機状態に戻す。
「桐野。もう少しまともに来れんのか」
「瑛斗くん。本当に空から来たんだ」
織斑先生と楯無さんも来た。
「それで、そのISがマドカへのプレゼント、っていうのは?」
「おう。そうそう。マドカ、お前の専用機だ」
「「え!?」」
一夏とマドカが凍りつく。織斑先生はギロ、と楯無さんを睨む。
「更識・・・・・お前まさか」
「い、いやあ・・・あははは・・・・・」
「えっとですね、マドカが専用機持ち扱いで入ってくるなら専用機がないと不便かなーって楯無さんにクリスマスの夜に言われまして、造ってきました」
「お前は束か・・・・・」
俺が説明すると頭を痛そうに押さえて呻く先生。
「で、でも、試験パスで転入してくるんだったら、こうするのが一番ですし・・・・・」
「なるほどな。専用機のことは任せろと言ってきたのはそのためか・・・・・・・」
先生の刺さるような視線が楯無さんを襲う。
「う・・・うん! 瑛斗くんお手柄! よくやった!」
誤魔化すように扇子を広げる楯無さん。その扇子には達筆な『天晴!』の文字が。
「どうも。あ、マドカ、これISスーツな」
「あ、ありがとうございます・・・・・」
マドカは俺からISスーツ(エレクリット標準モデル)を受け取った。
「ねえ、お姉ちゃん。着てみてもいいかな?」
「・・・・・・構わん」
「うん♪」
マドカは軽い足取りで脱衣所に向かった。
「・・・・・さて、楯無さんはなにしに来たんですか?」
一夏が楯無さんに顔を向けた。
「あ、忘れてた。ちょっと一夏くんと瑛斗くんに連絡事項をね」
「「連絡事項?」」
「うん。篠ノ之神社に初詣に行くんでしょ? 箒ちゃんから聞いたわ」
「は、はあ」
「それで?」
「二人にも羽織袴を着てもらうからね」
「「え?」」
ってことは・・・・・あれか? あの、黒い和服か?
「別に構いませんけど・・・・・・・」
「なんでわざわざ?」
その程度の連絡事項なら携帯電話で事足りると思うのだが・・・・・。
「いーのっ。私が決めたんだから」
楯無さんはいつもの感じで言ってウインクした。
「ど・・・どう、かな?」
すると、今度は脱衣所からマドカが出てきた。見慣れたISスーツを身に着けている。
「お、おう。いいんじゃないか?」
一夏は若干困ったように視線を逸らしながら言う。なぜだ?
「よし。じゃあさっそく起動するか。マドカ、こいつに乗れ」
「は、はい」
マドカはコクンと頷き、無人展開のバルサミウス・ブレーディアの装甲に恐る恐る体を入れる。
「っ!」
ブレーディアの装甲がマドカの体に密着し、PICが起動。マドカの体は宙に浮いた。
「わ・・・わ・・・・・っ」
パタパタと手を左右に振るマドカを見ながら俺は呟く。
「おー、上等上等。フィッティングも最適化ももう終わるみたいだな」
予想通り、すぐにそれらの必要な作業も終わり、ブレーディアはマドカの右耳で赤色の小さなイヤリングになった。
「・・・・・・・・・」
ふと織斑先生を見る。どこか安心したような表情だった。
「よっしゃ。これでマドカは晴れて専用機持ちだ。冬休み明けからはよろしく頼むぜ」
「は、はい。よろしくお願いします!」
「固い固い。同い年なんだ。タメでいいよ」
「・・・・・うん」
マドカが警戒を解いてくれたのを確認し、俺はうんと頷いた。
「じゃ、俺帰りますんで」
そう言って再び庭の中央に立つ。
「待て」
「はい?」
織斑先生に呼び止められた。
「さすがに学園が休みと言えど、こんな街中でISを使うなど条約違反だ。お前も知っているだろう」
「う・・・・・・」
い、言い返せない・・・・・。
「だが、まあ、今回のことに免じて、透明になれるならあと一回だけ展開を許してやる。さっさと帰れ」
「・・・・・・・・・・・」
「瑛斗、千冬姉は『ありがとう』って言いた―――――――――」
ゴンッ!
一夏の頭に織斑先生のげんこつが。
「ってえ!」
「ふん。バカな弟を持つと苦労する。マドカもそう思うだろ?」
「あ、あははは・・・・・」
困ったように笑うマドカ。
「じゃ、私も瑛斗くんと一緒に帰ろうかしら?」
なぜか腕に抱き着いてきた楯無さん。
「いいですよね? 織斑先生?」
「好きにしろ」
「あはっ☆」
「・・・・・・じゃ、じゃあ、次会うのは多分正月だな。よいお年を」
「あ、ああ。よいお年を」
織斑家のみなさんに挨拶を済ませ、俺は再びシェラードの能力を使い、ミステリアス・レイディを展開した楯無さんごと透明になって学園に戻った。
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