真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第17話]
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真・恋姫?無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第17話]

 

 

「すまなかったね。待たせたようで」

 

曹操が席に座るのを待ってから、ボクは謝罪の言葉を告げました。

謝罪してくるとは思っていなかったようで、曹操は驚いた顔を見せます。

 

「いいえ。賊徒の処遇を決議する方が重要ですから構いません」

 

謝罪は不要と曹操はボクに返答してきました。

でも、どこか挑戦的でボクを値踏みしているようです。

 

「初めまして。私の姓は曹、名を操、字は孟徳です。先ず会談を御受け頂けたこと、感謝申し上げます」

「ボクの姓は劉、名を璋、字は季玉。会談についての礼はいらないから、気にしなくて良いよ」

 

曹操が名乗ってきたので、ボクも挨拶をしました。

 

「ああ、そうだ。ボクに公式の場以外での敬語は不要だよ? 堅苦しいのは苦手だからさ」

「……そうさせて頂くわ」

 

ざっくばらんにね? とボクが言うと、曹操は又驚いたようです。

しかし曹操も、その方が好都合なのか直ぐに了承してきました。

 

「それで? 何か用でもあったのかい?」

 

ボクは早速に要件を曹操に切り出しました。

曹操は先ほどとは違い、少し余裕を持った感じでボクに言ってきます。

 

「そうね。しいて言うのであれば、確認かしら?」

「確認?」

「ええ、そうよ。

 見慣れない軍備や、賊を((一蹴|いっしゅう))する程の錬度を持つ兵。更には縦横無尽に軍を指揮する事が出来る将軍たち。それらを束ねる人物が、どんな人柄なのか興味があったからよ」

 

曹操という人物は、自分の好奇心を満たす事に貪欲なのかもしれません。

この会談でも、何も逃すまいと目が物語っています。

のほほんと平和に心安らかに生きていたいと願うボクとは正反対な人物なのかな? と思いました。

 

「それに太守に着くや否や、瞬く間に領地を豊かにした手腕。乗合馬車や役所に学校といった今迄に無い斬新な発想。誰の招聘にも応じなかった司馬徽を口説き落とした事といい、本当に興味が尽きないわ」

 

曹操はボクの領地の事を随分と調べているようで、((諳|そら)) んじるように執行した政策を話してきました。

 

「……そうか。じゃあ、失望したんじゃないかな? 今のボクを見て」

「さあ……。それはどうなのかしらね?」

 

ああっ、なんでしょうか?

曹操さんの目が獲物を見つけた鷲のように鋭く細められて、口をニヤつかせています。

すごく怖いです。(泣)

 

ボクはサッサと会談を終わらすべく、今後の事を確認することにしました。

 

「それで? 孟徳は今後どうするんだい?」

「……そうね。皇甫義真たちの軍と、このまま豫州の賊の鎮圧かしら」

「そっかぁ。孟徳は豫州かぁ。ボクたちは、これから冀州の方へ援軍に行こうかと思っていたんだけどなぁ。折角出会えたのに((此処|ここ))でお別れなんて、本当に残念だなぁ。まあ、孟徳は豫州で頑張ってねぇ? 応援しているからさぁ」

 

今後の動向の言質を取ってからのボクの発言に、曹操は眉を((顰|ひそ))めました。

ちょっとワザとらしい、ふざけた言い方でしたかね?

でもボクは、こんな怖い人となんて一緒に居続けたくありません。

ストレスで胃に穴を開けること請け合いです。

精神と身体の衛生上、好ましく無いことは避けようと思いました。

 

 

「貴様! そんな道化のような格好している分際で、華琳さまを愚弄するのか!」

 

曹操の従者の一人が、いきなりボクに対し激高して叫んできました。

どうやら先ほどのボクの発言が、彼女にとっては侮辱されたと感じられたようです。

金ピカッの黄金の鎧を着て会談に臨んでいるのも、要因の一つみたいですね。

そんな従者の行動は、曹操やもう一人の従者にとって予想外だったのでしょう。

思いなしか2人の顔が青褪めているのが見て取れるからです。

2人の方は、ボクが華陽王になった事を知っていたみたいでした。

ボク側の将軍達は、そんな沸点の低い従者を面白がって見ていました。

いくら礼が不要と言ってはいても、王に対する態度を((逸|いっ))しているからです。

曹操がこの場をどう治めるのか、高みの見物を決め込んでいるようでした。

 

「春蘭、黙りなさい!」

「しかし華琳さま!」

「いいから黙っていなさい!」

「……」

 

叫ぶ従者を曹操が諭し、渋々ながらも黙らせました。

曹操は一旦瞳を閉じて息を整えてから、おもむろにボクに向き合います。

彼女の顔は何かしらの決意を抱いているようでした。

 

「「華琳さま?!」」

 

曹操の従者達は、曹操のとった行動に驚愕の声を上げました。

ボクに対して曹操が土下座をして来たからです。

 

「何のつもりかな?」

 

ボクは曹操のとった行動を疑問に思って、彼女に問いかけました。

 

「劉季玉様におかれましては、まずは従者の無礼の言をお詫び申し上げます」

 

そう曹操は頭を下げながらボクに発言して来て、さらに続けて彼女は話してきました。

 

「本来ならば、従者の首を差し出すところで御座います。しかし、この者は私にとって((股肱|ここう))の臣。更には、私を((慮|おもんばか))っての発言で御座います。

 どうか寛大な御心を持って、お許し頂きたく存じます」

 

曹操にとって、この従者は余程大事な存在なのでしょう。

従者達にとっても曹操が大事なのか、彼女の取った行動に居た堪れないようでした。

 

「別にボクは気にしていない。だから、立ってくれないかな? 孟徳」

「……」

「許しが欲しいと言うのならば、許すからさ」

 

許し無く立つことを((是|ぜ))としない曹操に、ボクは重ねて立つ事を要求します。

ボクの意を汲んでくれたのか、曹操は土下座を止めて立ってくれました。

 

「ボクには孟徳を侮辱する意図は無かった。でも、君には侮辱と感じられたからボクを責めたのだろう?」

 

ボクは曹操の従者に顔を向けて、話して掛けていきました。

従者は((訝|いぶか))しげにボクの話しを聞いてくれています。

 

「一方、君の取った行動は孟徳が無礼と感じる程のものだった。でもボクにとって君は、ただ喚き散らしている存在にしか見えなかった」

 

曹操と従者2人は、黙ってボクの話しを聞いてくれていました。

 

「だからボクは本当に気にしていないし、必要も感じていない」

 

曹操と従者2人に、ボクは自身の心情を話しました。

真意を理解してくれるかはともかく、不問にする事は分かってくれるでしょう。

 

「私の真名は『華琳』。お詫びにもならないでしょうけれど、受け取って頂戴」

「「?!」」

 

おもむろに曹操はボクに真名を預けてきました。

そんな彼女の行動に、2人の従者は驚愕の顔を見せます。

 

「真名を良いのかい?」

「ええ」

「…そうか。ボクの真名は刹那。華琳に預けるよ」

「……ありがとう」

 

ボクが気にしていない事を納得してくれたのか、曹操は少し打ち解けて話してくれました。

それから互いの将軍達を紹介し合った後に、曹操一行は自分の陣営へ帰って行きました。

まさか後ろに控えていた人物が、夏候惇と夏候淵だったとは驚きでした。

やっぱり2人共、強そうでしたね。

 

夏候淵は、ボクに自らすすんで真名を預けてくれました。

ボクの取った処置に感謝してくれたようです。

夏候惇の方は、曹操に言われて渋々預けてくれました。

どうも事態を余り理解していなかったようでした。

ボクの事を、ただの変な鎧を着けた人物としか認識していなかったそうなのです。

少しヘコミますね。

 

 

 

(まあ。これで気まずさから一緒に行動する事は無くなったでしょう。ボクの精神と身体の衛生面的には、良い結果になったという事ですね♪)

 

予定とはちょっと違いましたが、望み通り曹操軍と分かれて行動していける事にボクは安堵しました。

 

「部下を((庇|かば))う為に土下座までするとは、なかなか良き将じゃったな」

「そうねぇ。自尊心は人一倍強そうなのに凄いわねぇ」

 

厳顔と黄忠の御姉さんズの二人が、何やら曹操を好意的に批評しているようです。

曹操が土下座をするとは思っていませんでしたから、ボクも驚きました。

後ろに控えている皆が、それぞれの感想を述べて話し合っているようです。

 

「すごい……覇気でしゅた」

 

((?統|ほうとう))が言葉を噛みながら、自身が感じた曹操への感想をボクに述べて来ました。

言葉を噛んだ事が恥ずかしいのか、彼女は顔を赤くして帽子を深く被ってしまいます。

可愛いですね。

 

「そうだね……。でも、それだけに危うくもあるのかもね」

「危うい……ですか?」

「うん」

 

ボクが?統に返答すると、彼女はボクの返答に疑問を((呈|てい))してきました。

だからボクは、覇気のある人物に人々が惹かれていく事の危険性を説明していきます。

 

自身に良いところも悪いところもある事を受け入れることで、人は自己を確立することが出来る。

自立できて初めて、『どう感じ、どう在りたいか?』を自身で決められるようになる。

でも、覇気がある魅力的な人物に従うと、その輝きに目が((眩|くら))んで自分の心の闇と向き合う事が出来なくなる。

何故なら自分で決める事をせずに、その人物の言葉や価値観に盲目的に従ってしまうから。

価値観や見解を他のモノに預けてしまっては、自分が『どう感じ、どう在りたいか?』という事を自身で決められなくなる。

例え自分が幸せで在り続けたいと思っていても、物や人に自分の感じ方を任せては在り続ける“権利”を失うから。

 

「それらを理解しても尚、他のモノに権利を預けるというのであれば、その人達の“選択”になる。

 それが、その人達の幸せの感じ方であり、在り方だという事なのだろうから」

 

「そう……ですね」

 

ボクが説明し終わると、?統は納得してくれたようでした。

周りに居る皆も、ボクの話しを聴いてくれていたようです。

 

「今迄の概念では、他のモノに価値観や見解を任せていた。

 だから嫌な事があれば『何故、自分にそんな事を感じさせるのか?!』と、その対象を責めることで“責任”を押し付ける事が出来た」

 

ボクは、そのまま言葉を((紡|つむ))いでいきました。

自分が((是|これ))までに気付いた事を、そのまま皆に伝える為に。

 

「新しい概念では、中立の出来事を自分が『どう感じるか?』という権利で対処する事になる。

 それは全ての“責任”を自分で取らなければ成らなくなるという事。

 例え今の自分にとって“((辛|つら))い事”があったとしても、それは自分が“((辛|つら))いと感じているだけ”で出来事には関係が無いから」

 

 

大陸に住まう全ての人達にとって、何が最善なのかなんてボクには分かりません。

今迄の概念を選択する人達を従わせる事など、出来る訳もありません。

ボクはただ、『どう在りたいか?』を人々に問いたいのです。

違う概念もある事を伝えて知って貰い、どの生き方を人々が選択するのかを。

 

『自分以外のモノに権利を預けて感じ方を任せ、((束|つか))の間の幸せを感じさせて貰う在り方を選択するのか?』

 

それとも。

 

『自分の権利で出来事に対処して責任を取り、自身にとっての幸せを感じて在り続ける事を選択するのか?』

 

その選択を人々にして貰いたいのです。

 

だからこそ、領内を発展させて道徳教育を領民に行なうのです。

生活に余裕が無ければ、自己を((省|かえり))みる事が出来ません。

人格・精神が醸成されていなければ、自己に在り方を問うことも出来無いからです。

 

大陸に住まう全ての人達の選択によって、これからの世界の行方がどうなって行くのかが決まる事でしょう。

世界の均衡の動向は、多くの人々自身の在り方にこそ問われている事なのですから。

 

 

 

天幕の中で皆は、いつに無く真剣にボクの話しを聴いてくれていました。

それぞれが自分自身に問いかけているようです。

 

「……まあ、焦らない事です。この問題は、簡単に結論が出せることでも無いのですから」

 

周りの皆が黙って自身を省みているので、ボクは深刻になりすぎる必要は無いと言いました。

 

(世界が終ってしまうその時までには、まだ間がある筈です。だから間に合うように、急ぐ必要はあるのかもしれないけれど……)

 

焦ったところで、事態が好転する訳でもありません。

焦る事と急ぐ事は似て非なるものだと、ボクは自分自身に言い聴かせました。

 

「今日は、これで解散としましょう。皆の働きで勝利を得る事が出来たことですしね。

 御苦労さまでした」

 

ボクは将軍達を労って解散を告げました。

将軍達は、それぞれに任されている部隊の兵達や、捕虜の傷の手当てを指揮する為に戻って行きます。

捕虜の手当てをする事は、ボクが賊を一ケ所に集めさせた時に命じた事でした。

皆はボクの命令を不服に思ったみたいでしたが、

 

((曰|いわ))く、捕虜を治療する事で華陽軍が他の官軍とは違うことを示す。

曰く、それを広める事で華陽軍への賊徒の降伏を((促|うな))がす。

曰く、降伏はしないまでも戦意が落ちる可能性があるから戦闘が有利になる。

 

などの理由を説明したら納得してくれました。

 

 

 

「ありがとう。朱里、雛里」

 

皆が出て行った後、天幕に残って貰って居た諸葛亮と?統にボクは礼を述べました。

ボクが御礼を述べた事に、2人は少し驚いたようです。

 

「2人が捕虜の処遇についての献策してくれなければ、要らぬ血が流れるところだったよ」

「いっ、いいえ。もったい無いお言葉です」

「……です」

 

捕虜の処遇を憂慮していたボクは、その事を諸葛亮と?統に相談しました。

2人は捕虜を治療する事で名を上げる方法を、ボクに献策してくれたのです。

もっとも策の効果の程は、さして期待していないと言っていました。

ボクの心の内を、慮ってくれての策だったのでしょう。

ありがたいことです。

 

「本当に、ありがとう」

 

ボクは御礼を言いながら、諸葛亮と?統の頭をナデナデしてあげました。

2人は『はうぅ』とか『へうー』とか言いながら、顔を真っ赤にして仕舞います。

でも、どこか誇らしげに、そして嬉しそうに微笑んでくれていました。

 

 

 

 

翌々日、ボクたちは全軍をあげて葬儀をとり行いました。

 

先の戦闘で華陽軍から少数ではありますが、戦死者を出してしまったからです。

休憩を挟んでいたとはいえ、3日3晩の強行軍後の戦闘には、どこか無理があったのかも知れません。

疲れが溜まっていたのが、戦死者を思いの外だしてしまった要因だとボクは思います。

ボクは葬儀を取り仕切る皆を見ながら、今後は同じ((轍|てつ))を踏まぬことを自身に誓いました。

 

葬儀の準備が整えられたので、遺体の周りに置いてある木材に火が点けられました。

木材に油か何かをかけてあるのか、瞬く間に炎が天高く舞い上がっていきます。

まるで炎が天への道を繋げてくれているかのようだと、ボクには思われました。

 

本当は、遺体を塩漬けにして益州へ帰そうと思っていたのです。

ですが周りからの反対で、それは駄目になってしまいした。

だから代案として、遺髪を切ってから((荼毘|だび))にふす事にしたのです。

遺骨になったとしても、故郷の家族の元へ連れて帰ってやりたかったからです。

 

全軍をあげて葬儀を行う華陽軍の行動を、他軍の兵や賊の捕虜達は奇異の目で見ていました。

普通、ここまでしないのが一般的だからです。

 

残された遺族には、数年ではありますが年金が支給される事になっています。

一部の者からは疑問を呈されましたが、ボクの一存で断行しました。

大事な家族の行く末だけが、残して去らなければならない者にとっての一番の気掛かりだと思うからです。

 

これらはボクの自己満足なのかも知れません。

それでも尚、知っておいて欲しかったのです。

ボクにとって華陽軍の将兵達は大事な仲間であり、家族であることを。

そしてなにより、決して独りきりの孤独な存在では無いことを。

 

 

 

 

ボクは心安らかにお眠り下さいと、英霊たちに心の中で語りかけました。

天高く昇ってゆく煙を、いつまでも見詰めながら……

 

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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コメント
コメント、ありがとう。私が受け取った印象では、夏候惇は曹操至上主義でした。他に気に掛ける人物は夏候淵ぐらいかな?と思っています。なので、こんな感じになりました。(愛感謝)
道化のような格好していようが、侮辱的な発言しようが、皇族は曹家よりも偉いのが「帝国」ってものなのに、夏候惇の態度ときたら…。いや、それ以前に「皇族>曹操>自分」という力関係を理解してるのだろうか?(ナック)
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