英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 206 |
エステル達がギルドに戻るとキリカは博士とマードックもギルドに呼び、そしてエステル達はエルモ村で起こった件等を報告をした。
〜遊撃士協会・ツァイス支部〜
「そう……。やはりサングラスの男はヴァルターだったのね。」
エステル達の報告を聞いたキリカは特に驚いた様子もなく頷いた。
「ああ―――っておい?やはりってことは予想していたってことか?」
キリカの様子にジンは驚いて尋ねた。
「服装と風体を聞いてひょっとしたらとは思っていたわ。それよりも迂闊だったわね。どうして彼にそのまま『ゴスペル』を持ち帰らせたの?それも話によるとヴァルターはエステルの使い魔達との戦闘でかなり弱っていたみたいね?『結社』の幹部を捕縛できる上、『ゴスペル』も確保できる絶好の機会をどうして見逃したのかしら?彼らと協力すれば、ヴァルターを戦闘不能にまで持ちこめた筈よ。」
「仕方ねえだろ……。そこまで大層なモンとは思わなかったんだ。それにあの場はエステル達の安全を優先すべきだと思ったんだしよ。第一、そのあたりの事情をロクに説明もしないでエルモに急がせたのはお前だろうが。」
微妙にキリカに責められたジンは言い訳をした。
「ええ、私の判断ミスね。そのくらい説明しなくても察してくれると思ったのだけど。」
「グッ……可愛くねぇやつだな。」
キリカの答えを聞いたジンは呻いた。
「ともかく、これで地震の調査は終了ね。調査に対する報酬を渡しておくわ。」
そしてキリカはエステル達にそれぞれ報酬を渡し、さらにミントには推薦状を渡した。
「わーい!2枚目の推薦状だ!」
「おめでとう、ミントちゃん!」
推薦状をもらったミントははしゃぎ、ティータは祝福した。
「ありがと、キリカさん。でも結局、あのグラサン男、2人のどういう知り合いなの?」
「そうだな。何て説明すりゃあいいか……」
「端的に言うと、かつての同門の弟子同士ね。私とジンとヴァルター……。彼が一番年上でいわゆる兄弟子だったわ。」
エステルの疑問に言いにくそうにしているジンと違い、キリカはハッキリと答えた。
「同門の兄弟子……武術の先輩ってことか。」
キリカの説明を聞いたアガットは意外そうな表情をした。
「まあ、正確に言えばキリカは弟子じゃないんだがな。リュウガ師父(せんせい)の……」
ジンが説明を続けたその時キリカが割り込んだ。
「私のことはどうでもいいわ。とにかく、その男は『泰斗流』の門下だった。そして6年前、道場を出奔して『身喰らう蛇』にスカウトされた。簡潔にまとめるとこうなるわね。」
「キリカ……」
「それだけ聞けば十分だ。しかし、アンタらと同じ『泰斗流』の使い手か……。化物じみた強さも肯けるぜ。」
アガットはヴァルターの強さを思い出し、悔しそうな表情をした。
「道場にいた時よりもさらに凄みを増していやがった。達人クラスと言ってもいいだろう。……ただ、エステルの使い魔達にあそこまでやられていたのを見た時は正直驚いたが。」
アガットの言葉に頷いたジンはエステルを見た。
「えへへ…………みんな、昔に凄い戦いを生き抜いて来たっていうし、『執行者』なんて相手にならないわ!」
「なんで、そこでお前が得意げになるんだよ…………あいつらの主として、自分があいつらより実力がない事に情けないとは思わないのかよ………」
得意げになっているエステルに呆れたアガットは指摘した。
「うっさいわね!それぐらい、わかっているわよ!」
アガットの指摘にエステルは頬を膨らませて答えた。
「何はともあれ危険な男であるのは確かね。ただこれ以上、例の局地地震が起きる可能性は少ないでしょう。警戒は緩めてもいいかもしれない。」
「ああ、そのようだね。市民と職員に伝えておこう。」
キリカの話を聞いたマードックは頷いた。
「しかし、またしても『ゴスペル』が使われておったか。しかも七耀脈を活性化させる装置と合わせて使っていたとは……」
話が終わり、博士は真剣な表情で考え込んだ。
「学園地下の投影装置にも使われていたことを考えると……。導力器の機能を飛躍的に高めるブラックボックスと言えそうですね。」
「うむ……。まさにその通りですわい。空間投影装置にしても七耀脈の活性化装置にしても決して実現不可能な技術ではない。じゃが、『ゴスペル』による現象は現在の導力技術の常識を超えておる。わしはもちろん、他の名だたる技術工房でも造れるとは思えんのです。」
「そうですな……。共和国のヴェルヌ社や帝国のラインフォルト社……。さらに戦術オーブメントを開発したエプスタイン財団でも無理でしょう。」
クロ―ゼの言葉に博士やマードックは頷いた。
「それだけ結社の技術力がハンパじゃないってことね……」
「うむ、とんでもない天才がいる可能性が高そうじゃのう。むふふ……これは負けてはおれんわい!」
エステルの呟きに頷いた博士は対抗心を燃やした。
「お、おじいちゃあん……」
「はあ、仕方ありませんね……。新型エンジンもようやく完成しましたし……中央工房も『ゴスペル』の解析に最優先で協力させてもらいますよ。」
「わはは、当然じゃ。」
「確かに、『ゴスペル』の正体が判明したら助かっちゃうかも……。今後、どういった形で使われるか判ったもんじゃないし。」
マードックの申し出にエステルは今後の事を考えて頷いた。
「それにあの連中、『実験』とか抜かしていやがったな。2度あることは3度ありそうだぜ。」
「『ゴスペル』の分析は引き続き博士たちにお願いするとして……。貴方たちは、そろそろ次の場所に移った方がいいかもしれないわね。」
アガットの意見に頷いたキリカはエステル達を見た。
「うん、そうね。犯人は捕まえられなかったけど、地震の一件は片づいたみたいだし。次に行くとしたらどこが良さそう?」
「ちょうど王都支部から応援要請が入ったばかりよ。何でも王国軍から正式な依頼が来たらしいわ。」
「王国軍からって……父さんからの依頼ってこと?」
「え!お祖父ちゃんから!?」
キリカの説明を聞いたエステルとミントは驚いた。
「詳しいことは判らないわ。ただ、貴方たちをわざわざ指名してくるくらいだから結社関係である可能性は高そうね。」
「確かに……」
「ヘッ……。行ってみるしかなさそうだな。」
キリカの話を聞いたエステルは頷き、アガットも頷いた。
「それじゃあ決まりだな。ツァイスでの用事を済ませたら王都行きの定期船に乗るとしよう。」
「オッケー……って。ひょっとしてジンさんも付き合ってくれるの?」
「おいおい、どうして俺がわざわざ戻ってきたと思ってる。ヴァルターの件もあるしヨシュアだって見つけるんだろ?とことん付き合わせてもらうぜ。」
「ジンさん……ありがとう。」
「正直、あんたが協力してくれると助かるぜ。あのグラサン野郎には痛い目に遭わされたからな……。よかったら稽古をつけてくれ。」
「はは、お前さんにしちゃあずいぶんと謙虚な発言だな。あの威勢の良さはどうしたんだ?」
「ふん、テメェの実力が判らないほどガキじゃねえさ。」
ジンの指摘にアガットは苦い表情になって答えた後、ある事に気付きエステルに言った。
「それとエステル………時間があったらでいいんだが、お前の使い魔とやらと一度戦わせてくれないか?」
「はあ!?」
アガットの話を聞いたエステルは声を上げて驚いた。
「4人で戦ったとはいえ一人一人、あのグラサン野郎と対等以上にやりあったんだ。奴らと戦う事で何かの足しになるかもしれないしな。」
「う、う〜ん………(みんな、どうかな?)」
アガットの話を聞いたエステルは悩んだ後、念話を送った、
(私は援護専門だから、遠慮しとくわ。)
(私は断固!遠慮します!元々私は、戦いはあまり好きじゃないんです〜!)
(フッ………この我の動きに少しでもついて来れるなら相手をしてやろう。)
(まあ、ここ最近は対人戦はあまりやっていなかったから、これを機に模擬戦をするのも悪くないわね。)
エステルの念話にパズモやテトリは遠慮することを伝え、サエラブとニルはやる気がある事をエステルに伝えた。
「えっと………パズモとテトリは嫌って言っているけど、サエラブとニルは別にいいって言っているわ。」
「サエラブとニルというと………でかい狐と天使か。へっ、どっちも前衛の戦いをしていたから俺の相手にはちょうどいいぜ。」
エステルの説明を聞いたアガットは不敵な笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん、ミントちゃん、アガットさん。わたしも……付いて行っちゃダメですか?」
「「えっ……!?」」
「な、なにぃ!?」
突如言い出したティータの申し出にエステルとミント、アガットは驚いた。
「えっと、これからも『ゴスペル』とか変な装置が使われることがあると思うんです。わたし、そんな時だったら少しは役に立てると思うから……。お願い、連れて行ってください!」
「で、でも……」
「ミント達、危険な人達と戦う時もあるんだよ?」
「………………………………。爺さんの意見はどうだ?」
一生懸命に話すティータを見てエステルとミントは心配そうな表情をし、アガットは少しの間考えた後博士に話をふった。
「ふむ、祖父としては渋い顔をせざるを得ないが……。こう見えてティータは頑固じゃし、なるべく孫の希望は叶えてやりたい。じゃから、わしはあえて反対せんよ。」
「おじいちゃん……」
「結社とやらが、想像以上の技術力を持っているのは確実じゃ。その意味では、今後の調査にティータは絶対に役立つはずじゃ。お買い得であるのは間違いないぞ。」
「そんな、新製品の売り込みじゃないんですから。」
博士の言い方にマードックは呆れた。
「うー、確かにティータが手伝ってくれると助かるけど……。でも、またあの男みたいな危ないヤツが現れたとしたら……」
「ミントもティータちゃんと一緒なのは賛成だけど………でも、ティータちゃんを危ない目に遭わせたくないし…………」
「………………………………。いや、いいだろう。あんたの孫娘、預からせてもらうぜ。」
エステルとミントが悩んでいる中、意外にもアガットがティータの申し出を受け取った。
「ふえっ!?」
「ほう……」
「ど、どうしちゃったの?てっきりアンタが一番反対するかと思ったけど。」
「う、うん。ミントもそう思ったよ。」
アガットが真っ先に賛成した事にティータは驚き、博士は意外そうな表情をし、エステルやミントは信じられない様子で尋ねた。
「地震の一件を見ても『結社』が民間人の安全を考えているとはとても思えねえ。その意味じゃ、ここにいた所で確実に安全とは限らないだろう。だったら、本人の希望通りせいぜい役に立ってもらうさ。」
「アガットさん……」
「なるほど……。そういう考え方もあるな。」
「フフ、それ以上に目の届くところで守りたい。そんな思惑も感じるねぇ。」
アガットの説明を聞いたティータは嬉しそうな表情をし、博士は納得し、オリビエは意味ありげな目線でアガットを見た。
「なっ……」
「あ、図星って顔してる。」
「あのあの……。それ、ホントですか?」
オリビエに見られて慌てているアガットを見てエステルは口元に笑みを浮かべ、ティータは嬉しそうな表情で尋ねた。
「真に受けるなっつーの。言っておくが、自分の身は自分で守るのが基本だからな。機械いじりばっかりしてボケッとしてんじゃねえぞ。」
「エヘヘ……気を付けます。」
「はは……。話がまとまって何よりだ。」
「ふふっ、ますます賑やかになりそうですね。」
「えへへ………まさかティータちゃんも一緒になるとは思わなかったな………後はここにツーヤちゃんがいれば、最高なんだけどな………」
ティータが同行する事にジンやクロ―ゼは快く迎え、ミントは嬉しそうな表情で今はいない親友を思っていた。
「ティータや。気を付けて行ってくるんじゃぞ。お前ががんばっている間、わしも必ずや『ゴスペル』の謎を解き明かして見せるからな!」
「うん……楽しみにしてるね!」
博士の言葉を聞き、ティータは嬉しそうな表情で頷いた。
「博士のことは心配しないでくれ。事故を起こしたりしないよう私が責任をもって監視するからね」
「えへへ……。よろしくお願いしますっ!」
「まったく……どこまでも失礼なヤツじゃの。」
「ふふ……。王都のエルナンさんには私の方から連絡しておくわ。女神達の加護を。気を付けて行ってきなさい。」
こうして地震の事件を終わらせたエステル達は新たな仲間を加えてツァイスを去り、王都――グランセルに向かった……………
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第206話 | ||
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