IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「これで・・・・・よし!」

 

羽織を着て、鏡を見る。

 

「おお、時代劇〜」

 

羽織袴を身に着けた自分の姿を見て少しテンションが上がる。

 

「うん。似合ってる似合ってる」

 

隣で頷く一夏も俺と同じ服装だ。

 

時刻は午前八時半。場所は織斑家、一夏の部屋。なんか最近よく来るな。コイツん家

 

「いやー、助かったよ。まさかお前が和服に着方を知ってるとは思わなかった」

 

「へへ。そりゃどーも。下に行こうぜ」

 

一夏と一緒に部屋から出て一階へ。

 

「お、おお、歩きづらい」

 

「そうか? 慣れれば全然平気だぞ?」

 

初めて身に着ける袴に四苦八苦している俺をよそに一夏は普通に歩きやがる。

 

「っつか、なんで慣れてんだよ。お前」

 

「ん? いや、剣道習ってたから。そういうのの応用だよ」

 

「ふーん」

 

そんな会話をしてたら、リビングについた。

 

「マドカ、千冬姉。着替え終わったよ」

 

「あ、来た」

 

「おう」

 

テレビを見ていたマドカと織斑先生がこっちに顔を向けた。

 

「ほう。そこそこ様になってるじゃないか」

 

「二人とも似合ってるよ」

 

「そ、そうか?」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

俺と一夏は散々したはずの着くずれがないかのチェックをまたする。

 

「そう言えばマドカも振袖だな」

 

「どうかな? 似合う?」

 

見れば、それは白をベースにした落ち着いた感じの振袖だった。

 

「あ、ああ。似合ってるよ・・・・・」

 

目を逸らしながら言う一夏。俺は少しばかりからかってみたくなった。

 

「おや? もしかして妹の着物姿にドキドキしてる?」

 

「ばっ!? ち、違う!」

 

「そうか? にしては顔が赤くなってるぞ? マドカ、よかったな。いい着物買ってもらえて」

 

「違うぞ桐野。マドカが着てるのは昔私の着ていたものだ」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ああ。だから一夏がそんなことになってるのは―――――――――――」

 

「わーっ! わーっ! なんでもねえって! 本当になんでもないから!」

 

「おいおい。妹の着物姿を見て、なんでもないってことはないだろ?」

 

「え〜? お兄ちゃんひどーい」

 

織斑先生とマドカがニヤニヤと一夏を見る。

 

「瑛斗ぉ・・・助けてくれ」

 

「すまん。こればっかりは無理」

 

一夏に救援を要請されたが、俺は苦笑しながら断った。このおそらく世界最強の姉妹に勝てる気はしない。

 

ピンポーン♪

 

「どうやら、ほかの連中も来たみたいだな」

 

インターホンの音が聞こえ、俺たちは家の外に出た。

 

「おーっす。みんな、新年あけましておめでとう」

 

織斑家の表札の前には、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、楯無さんの姿があった。

 

もちろん全員振袖姿。

 

「い、一夏が羽織袴・・・・・!」

 

「なんて凛々しいんですの・・・・・!」

 

「け、結構似合ってるじゃない・・・・・!」

 

箒とセシリアと鈴は一夏の姿を見た途端に顔を赤くした。

 

「この人たちが、お兄ちゃんのお友達?」

 

一夏の隣に立っているマドカが一夏に聞いた。

 

「ああ。左から箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、それと、生徒会長の楯無さん。簪と楯無さんは姉妹だぞ」

 

「そうなんだぁ。なんだか国際色豊かなお友達さんたちだね」

 

「学校が学校だからな。マドカ、挨拶しろ」

 

「うん」

 

言われたマドカは箒たちの前に立って、ぺこりと頭を下げた。

 

「初めまして。千冬お姉ちゃんと一夏お兄ちゃんの妹の織斑マドカです」

 

マドカの亡国機業の所属していたころを知っている箒たちは少し表情がこわばった。

 

一瞬、ヒヤリとしたが俺からもみんなには色々話しておいたので、すぐにマドカを受け入れて新年のあいさつをした。

 

「・・・・・・なんとかなったな」

 

「ああ。なんか簪だけ少し驚いた顔してっけど、あとで俺と楯無さんが話しておくよ」

 

「悪いな。何から何まで」

 

一夏が若干申し訳なさそうに礼を述べてきた。

 

「いいってことよ。今度なんか飯奢ってな」

 

「結局そこに行きつくのか・・・・・」

 

へへ、と笑って俺たちも門の外に出る。

 

「三人とも、明けましておめでとう。今年もよろしくな」

 

「あ、ああ。おめでとう」

 

「よ、よろしくお願いしますわ」

 

「べ、別によろしくしてあげてもいいわよ?」

 

なんか、三人とも一夏から目をそらしたままなんだけど、やっぱり俺らの恰好が変なのか?

 

「なあ、シャル。俺たちの恰好おかしいか?」

 

「え? そんなことないよ? とっても似合ってる」

 

ニコッと笑顔とセットで返事をされた。

 

「よ、よかった。ありがとな」

 

「うん・・・そ、それでね、瑛斗」

 

「うん?」

 

「ど、どうかな? 僕のも、似合ってる?」

 

恥ずかしそうにするシャルの振袖は、オレンジ色の生地に華が刺繍された綺麗なものだ。

 

「・・・・・・・」

 

「え、瑛斗?」

 

「え? あ、ああ。悪い。見惚れた。よく似合ってる。綺麗だぞ」

 

「えへへ♪ ありがとう」

 

「教官。新年、明けましておめでとうございます」

 

なぜか最敬礼で織斑先生に新年のあいさつをしているラウラ。

 

「おう」

 

「今年もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

「ああ。手加減などしないからな?」

 

そう言う織斑先生は、どこか嬉しそうだ。

 

「・・・・・ところで教官」

 

「なんだ?」

 

「いかがでしょうか。私の着物姿は」

 

「? 特に変わったところはないぞ?」

 

「いえ・・・そうではなく」

 

「なら、なんだ?」

 

「これなら私の嫁を誘惑できるでしょうか」

 

「ぶっ!」

 

聞いてるこっちが吹いてしまった。

 

「誘惑できるかどうかは知らんが、いいんじゃないか?」

 

「ちょ、なに真面目な顔で答えてるんですか!」

 

「ちょうど本人もいることだ。直接聞いてみるといい」

 

「わかりました」

 

先生の言葉をすんなり受け入れるあたりとてもラウラらしい。

 

「どうだ嫁。私に欲情するか?」

 

自信満々な表情でそんなことを聞いてくるからとても困る。

 

「えっ・・・あ、あの・・・・・まあ、その・・・」

 

戸惑いつつもラウラの振袖姿を見る。上半身は黒い色だが、グラデーションで徐々に白く色が変わっているその着物はラウラによく似合っていた。

 

だけどアイツの求めている答えは欲情するか否かだ。似合ってるし、可愛いけどなぁ・・・・・

 

・・・・・・・・・可愛い? そうだ!

 

「綺麗だし、可愛いぞ」

 

「!」

 

去年の夏に、俺と一夏がラウラの水着姿を見て『可愛い』と言ったらアイツは少し変になった。今回もそれが起こると予想して、対策をとることにする。

 

「か・・・可愛い・・・・・!」

 

案の定ラウラは白い顔をかぁぁっと赤くし、頭から湯気まで出した。

 

「桐野、ラウラのやつはどうしたんだ?」

 

織斑先生がラウラの反応を見て少し驚いた様子で聞いてきた。

 

「えっとですね。ラウラは『可愛い』って言われるとああなるんです」

 

「ラウラ・・・、まだ瑛斗からの『可愛い』に耐性ができてなかったんだね」

 

シャルも苦笑しながら言う。

 

「そうか」

 

織斑先生はニィと笑うと、赤くなって俯くラウラの肩に手を置いた。ま、まさか・・・・・・。

 

「可愛いぞ。ラウラ」

 

「!!」

 

ぼふんっ!

 

おお、ラウラの頭からより勢いの強い湯気が。

 

「きょ、きょきょ・・・教官まで・・・・・・! ・・・はうぅ」

 

ラウラはそのままシャルの背中に隠れてしまった。

 

「ふふ。なかなか面白い発見だな」

 

「心底楽しそうですね。織斑先生・・・・・」

 

「えーいっとくん♪」

 

「おわっ」

 

ぐっと引っ張られ、無理矢理振り向かされる。

 

「どうかしら? うちの簪ちゃんの着物姿は」

 

「お・・・おねえちゃん、わ、私のタイミングが・・・・・ある、のにっ」

 

楯無さんに肩を掴まれ、逃げられないようにされている簪がいた。

 

「だって簪ちゃんのタイミングに合わせたら、いつまで経っても見せようとしないじゃないの」

 

「うぅ・・・・・」

 

なぜか涙目の上目使いでこっちを見てくる簪。簪の振袖は白と水色を基調にしたもので、簪がもともと日本人であるおかげか、ばっちり着こなせていた。

 

「へ・・・変・・・・・かな」

 

「いや。めちゃくちゃ綺麗だ。なんかもう、お前にしか似合わないんじゃないかってくらい」

 

「ほ、ほん・・・とう?」

 

「本当だよ」

 

「・・・あ・・・・・りが・・・とう」

 

嬉しさ半分恥ずかしさ半分といった感じの簪とは対照的に、楯無さんは純粋に嬉しそうに頷いた。

 

「さて、それじゃあ行くか。箒、道案内してくれ」

 

「ああ。引き受けた」

 

一夏と箒を先頭に、いよいよ俺たちは初詣へむけて歩き出した。

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「へー。それじゃあ篠ノ之神社って箒の叔母さんの雪子さんって人が管理してるのか」

 

歩きながら箒の話を聞く。

 

「ああ。私の実家でもある」

 

神社がもうすぐそこなのか、だんだんと人の流れも増えてきた。

 

「わ、見て見てあれ! みんなすっごい綺麗! モデルさんかな?」

 

「おー、外国人も混ざってるな。レベル高けぇー」

 

「いいなぁ。わたしもあんな風に着てみたいなぁ」

 

それにつれて俺たちに向けられる視線が増えてくる。俺たちを見た参拝客であろう人たちからは感嘆の声があがる。

 

「でも、あの男二人はずりぃ・・・・・・」

 

「リア充め・・・・・」

 

「爆発しろ・・・・・」

 

だけど、俺と一夏には男性たちからの殺人的な視線が飛んでくる。

 

「い、一夏、なんか・・・爆発しろとか聞こえたんだけど・・・・・・・」

 

「・・・・・俺も聞こえた・・・怖えな」

 

一夏が言うと鈴が、何言ってんのよ、と鈴が一夏の隣に立った。

 

「こんくらいの視線、ドーンと受け止めるのよ」

 

「そ、そうは言うがな鈴・・・」

 

「情けないこと言ってんじゃないの。まったく・・・・・きゃっ!?」

 

鈴が小さな段差に躓いた。

 

「鈴!」

 

咄嗟に一夏が鈴を支えた。

 

「あっぶね〜。気をつけろよ?」

 

「う、うん・・・・・」

 

一夏の羽織をぎゅーっと掴みながら鈴は小さく頷いた。

 

「・・・一夏に、抱かれた・・・・・・」

 

「うん?」

 

「な、なんでもないっ」

 

鈴はすぐに一夏から離れた。

 

「ぐぬぬ・・・鈴め」

 

「ずるい・・・・・いえ、羨ましいですわ・・・・・・・」

 

箒とセシリアが鈴をジトーと見る。

 

後ろで保護者として同伴している織斑先生が小さく笑った。

 

「・・・・・・・前言撤回。今あの子を抱きかかえた方だけ爆発しろ・・・」

 

遠くの方でそんな声が聞こえた。どうやら俺の爆発は免れたようだ。

 

 

 

 

 

 

篠ノ之神社。

 

箒の実家であるここは、夏祭りや初詣などの催し物の時はどこの神社や寺院と変わりなく人がやって来る。だが人が来

る時間のピークはもう一時間ほど後。まだ朝と言うこともあって人の数はまばらだ。

 

「困ったわ・・・・・どうしましょう・・・」

 

神社の境内の入り口付近で、そんな独り言を呟きながら短い距離を行ったり来たりする巫女の姿の四十代の女性が一人。

 

箒の親戚の雪子である。

 

「困ったわ・・・・・どうしましょう・・・」

 

彼女は今、まったく予想もしていなかった事態に遭遇している。

 

「まさかこんなことになっちゃうなんて・・・・・・」

 

打開策も閃かず、同じ場所行ったり来たり行ったり来たり。

 

「雪子叔母さーん」

 

「あら?」

 

ふと名前を呼ばれ、声のした方向を向く。

 

「雪子叔母さん、新年明けましておめでとうございます」

 

やって来たのは箒。その紅い振袖姿に雪子は息を呑んだ。

 

「あら、箒ちゃんおめでとう。綺麗な振袖ねぇ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

照れたように言う箒を見て微笑む雪子。

 

「おい! 早くおみくじ引こうぜ!」

 

「待てよ瑛斗。ちゃんと挨拶してからだ」

 

一夏に引き留められる見知らぬ青年の顔を見て、雪子は箒に聞いた。

 

「箒ちゃん、あの子は?」

 

「ああ。クラスメイトの桐野瑛斗と言います。友人です」

 

「あら、お友達なの」

 

「はい。その後ろにいるのも友人です。一緒に来ました」

 

「まあ、たくさんお友達連れてき・・・・・・・・」

 

そこで雪子の言葉は止まる。

 

「? 雪子叔母さん?」

 

「・・・一、ニ、三、四、五、六、七、八」

 

そしていきなり数を数えはじめる。

 

「お、叔母さん? どうされました?」

 

突然の雪子の行動に驚く箒。

 

「・・・・・・・・あら」

 

そして雪子はぱぁっと笑みを咲かせた。

 

「?」

 

「あらあらあら、まあまあまあ!」

 

手を合わせて、にっこり微笑む雪子。

 

「え? え?」

 

何がなんだか分からない箒は、ただ目をパチクリさせるだけだった。

説明
正月編その2! 

季節感は光になりました
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