英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 212 |
〜エレボニア大使館前〜
「やあ、兵士君。元気でやってるかい?」
「オ、オリビエさん!?今まで何をしてたんですか。」
呑気に話しかけて来たオリビエに気付いた兵士は慌てて尋ねた。
「おや、どうしたんだい?」
兵士の様子に首を傾げたオリビエは尋ねた。
「どうしたもこうしたも……。エルモに湯治に行ったきり行方をくらましたそうですね?ミュラーさんが怒っていましたよ。」
「フッ……相変わらず可愛い男だな。」
「って、オリビエ……。まさかあんた、あたしたちと一緒に行動していることを大使館に知らせてなかったの?」
兵士の話を聞いたエステルは平然としているオリビエを呆れた表情で睨んで尋ねた。
「ハッハッハッ。愛を求めて彷徨う旅路は忍ぶものと決まっているからねぇ。それはともかく……中に通してもらえるかな?」
「構いませんが……。ええと、そちらの方々は?」
「遊撃士協会の人間よ。こちらの大使さんにちょっと話が聞きたくてね。それで、このお調子者に紹介してもらおうと思ったの。」
エステルは兵士に正遊撃士の紋章と手帳を見せて答えた。
「なるほど、そうでしたか。身分も確かのようですしお通しできると思いますが……。大使館の敷地内は治外法権となっていますのでくれぐれもお気をつけて。」
「うん、わかったわ。」
そしてエステル達はエレボニア大使館の中に入った。
〜エレボニア大使館内〜
「ほう……こりゃまた立派な建物だな。」
「うわ〜……。カルバード大使館に負けず劣らず豪華な雰囲気の内装ねぇ。」
「壮麗にして力強い雰囲気……。帝国風の調度で内装が統一されているようですね。」
「フッ、エレボニアの威光をアピールする舞台だからね。残念ながら役者の方がやや見劣りしているようだが。」
「何を不穏なことを抜かしているか。」
大使館内の景色に感嘆な声を上げているエステル達とは逆にオリビエは不穏な事を呟き、その呟きに答えるかのように近くの部屋からミュラーが出て来て、エステル達に近付いて来た。
「おお、親愛なる友よ!久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「貴様というヤツは……。あれほど常に所在を連絡しろと言いつけておいたにもかかわらず……」
いつもの調子で話しかけて来るオリビエを見て、ミュラーは今にも怒りが爆発しそうな様子だった。
「フッ、これも恋の駆け引きさ。離れているからこそ募る思いもあるものだからねぇ。」
「……エステル君、感謝する。どうやら、このお調子者が迷惑をかけてしまったようだな。」
そしてついにはオリビエを無視して、エステルにお礼を言った。
「あはは……。ま、それほどでもなかったわ。比較的おとなしくしてたしね。」
「まあ、そこの変人は放置しておくとして……。どうやらエレボニア大使館に用があって来たみたいだな?」
「あ、うん。実は、ここの大使さんに話を聞きにきたんだけど……」
エステルはミュラーに脅迫状の件を聞くためにエレボニア大使に面会に来たことを説明した。
「あの脅迫状か……。自分も気にはなっていたがギルドが動くとは思わなかった。王国軍の依頼ということかな。」
「一応、そうだけど……。できるだけ中立の立場で調べさせてもらうつもりよ。」
「ふふ、いい心がけだ。それでは、自分の方からダヴィル大使に紹介しよう。そのお調子者よりは信用してもらえるはずだ。」
「え、いいの!?」
「いやぁ、助かるぜ。」
「ありがとうございます。」
ミュラーの申し出を聞いたエステル達は驚き、明るい表情をしてお礼を言った。
「えっと……。そんなにボクって信用ない?」
一方オリビエは慌てて尋ねた。
「え……。あるとでも思ってたの!?」
「まあ、お前さんの紹介だと余計な誤解を招きそうだしな。」
「えっと……。ごめんなさい、オリビエさん。」
オリビエの疑問にエステルは心外そうな表情で答え、ジンは呆れた表情で答え、クロ―ゼは申し訳なさそうな表情で答えた。
「シクシク……」
「賢明な判断だ。ダヴィル大使は2階の執務室にいる。確認を取ってくるからしばらく待っていてくれ。」
嘘泣きをしているオリビエを無視して、ミュラーはエステル達に言った。
「うん、オッケー。」
そしてミュラーは先に2階に行き、エステル達は少ししてから2階に行き、大使がいる部屋の扉の前で待った。
〜ダヴィル大使の部屋〜
「えっと……ここが執務室なのかな。」
「フッ、その通りさ。それでは華麗に乱入して大使殿を驚かそうじゃないか。」
「ミュラーさんにぶん殴られるわよ。」
オリビエにエステルが注意したその時、ミュラーが大使の部屋から出て来た。
「待たせたな。大使がお会いになるそうだ。」
「あ、うん。それじゃあ失礼します。」
そしてエステル達はエレボニア大使がいる部屋に入った。
「ようこそ。エレボニア大使館へ。私は駐リベール大使のダヴィル・クライナッハだ。」
エステル達が部屋に入るとエレボニア大使――ダヴィル大使が重々しく名乗った。
「えっと、遊撃士協会のエステル・ブライトです。」
「ジン・ヴァセック。同じく遊撃士協会の者だ。」
「ジェニス王立学園2回生、クローゼ・リンツと申します。」
「そして愛と平和の使者、オリビエ・レンハイムさっ!」
エステル達は礼儀正しく名乗ったが、オリビエはいつもの調子で名乗った。
「フン……君か。何でもエルモ村に行ったきり行方をくらましていたそうだな。あまりミュラー君に心配をかけるのはやめたまえ。もちろん、私にもな。」
ダヴィルはオリビエの調子を無視して、注意をした。
「フッ、これは手厳しい。」
ダヴィルの注意にオリビエは軽く目を閉じて答えた。
「それはともかく……。例の脅迫状の一件で話を聞きに来たそうだな。どんなことが知りたいのかね?」
「えっと………それじゃあ、単刀直入に聞きますけど。大使は脅迫者に心当たりはありませんか。たとえば、エレボニア国内で条約締結に反対する勢力とか。」
ダヴィルの質問にエステルは頷いた後、単刀直入に尋ねた。
「はは、率直な物言いだ。しかしあいにくだが全くもって心当たりはないな。皇帝陛下も条約締結には随分と乗り気でいらっしゃる。それに異を唱える不届き者など我が帝国にいるはずがなかろう?」
「そ、そう断言されると身も蓋もないんですけど……。それじゃあ大使さんは帝国以外の人間の仕業だと?」
ダヴィルの答えを聞いたエステルは溜息を吐いた後、尋ねた。
「当然、そうなるな。おおかた、カルバードあたりの野党勢力の仕業だろう。衆愚政治の弊害というやつだ。」
「そりゃ、どうかと思いますぜ。確かに共和国の与党と野党は毎度のように対立してますが……。たとえ条約が阻止されたとしても大統領の責任になるとは思えない。」
ダヴィルの話を聞いたジンは心外そうな表情で答えた。
「フン、詳しいことは知らんよ。確実に言えるのは、脅迫者が帝国の人間ではありえないことだ。それだけ判れば十分ではないかね?」
「う、うーん……」
ダヴィルの話を聞いたエステルは言葉に詰まった。そこにクロ―ゼがダヴィルに静かに問いかけた。
「……あの、ダヴィル大使。オズボーン宰相閣下は不戦条約について、どのように受け止めてらっしゃるのですか?」
「なに……!?」
クロ―ゼの質問にダヴィルは驚いた。
「ほう……」
「フフ……。なかなか鋭い質問だね。」
一方横で聞いていたミュラーとオリビエは感心した。
「えっと……。そのオズボーンさんって?」
一方クロ―ゼが出した人物の事がわからないエステルは答えを求めて、苦笑しながら尋ねた。そしてエステルの疑問にオリビエが答えた。
「帝国政府の代表者、『鉄血宰相』オズボーン。『国の安定は鉄と血によるべし』と公言してはばからないお方でね。帝国全土に導力鉄道を敷いたり幾つもの自治州を武力併合したりとまあ、とにかく精力的な政治家さ。」
「そ、そんな人がいるんだ……」
オリビエの説明を聞いたエステルは驚いた。
「こ、こらオリビエ君!自国の宰相を、批判めいた言葉で語るのは止めたまえ!」
一方ダヴィルはオリビエを睨んで注意した。
「フッ、別に批判をしているつもりはないけどね。ただ、もう少し協力的になってもバチは当たらないんじゃないかな?先ほど、共和国のエルザ大使から色々と話を聞かせてもらったが……。あちらの方が遥かに協力的だったよ。」
「な、なに!?」
「このままだとエレボニアという国の度量が疑われてしまうことになる……。それがボクには耐えられないのさ。」
「むむむ……」
オリビエの説明を聞いたダヴィルは反論が見つからず、唸ってオリビエを睨んだ。
「ダヴィル大使。その件に関しては秘匿すべき情報はありません。率直な事情を説明しても問題ないのではありませんか?」
「……ふん、まあよかろう。先ほどの質問だが……陛下と同じくオズボーン宰相も条約締結には極めて好意的だ。むしろ宰相の方から陛下に進言したと聞いている。」
そしてミュラーにも言われたダヴィルは重々しく答えた。
「まあ……」
「ほう……」
ダヴィルの話を聞いたクロ―ゼは驚き、オリビエは感心した。
「えっと……。それは条約締結の場で、新型エンジンが手に入るからですか?」
「いや、彼が陛下に進言したのは新型エンジンの話が出る前らしい。まあ、事情はどうであれ私としては妙な圧力がかからずにホッとしているというのが本音だ。」
エステルの質問にダヴィルは否定した後答えた。
「ふむ、なるほどな……。こりゃあ、エレボニア関係者もシロの可能性が高そうだぜ。」
「うん、そうみたいね。大使さん、教えてくれてどうもありがとうございました。」
ジンの推測に頷いたエステルはダヴィルにお礼を言った。
「ふ、ふん……どうだ。私が最初から言った通りだろう。犯人探しがしたければさっさと他を当たるんだな。……ただでさえ、こちらは今回の会談に参加する事に非常に気を張っているのだから、せっかく張った気をまき散らすような事はできればやめてくれ。」
「えっと………どうして、そんなに緊張しているんですか?」
ダヴィルの話を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「エステルさん………何と言っても、メンフィルの今回の参加者は現皇帝夫妻のシルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃です。他国の王と王妃が2人揃って直接出て来るのですから、誰でも緊張しますよ。」
「あ、なるほど。えっと………忙しい所、本当にすみません。」
クロ―ゼに言われたエステルは頷いた後、ダヴィルに謝った。
「いや………君達に当たり散らした私も悪かった。………こちらとしても私ではなく、皇帝陛下は無理としてもせめて皇族の一人でも参加させないと、役者不足と思っているのだが………生憎、皇族の方々は皆、スケジュールが合わなかったからな………」
謝られたダヴィルは逆にダヴィルも謝り、疲労感漂う様子で溜息を吐いた。
「それはカルバードも一緒だと思いますぜ。エルザ大使も本来なら自分ではなく大統領を参加させるべきと思っているでしょうし。」
ダヴィルの言葉にジンは頷いて答えた。
「あはは………あ、そうだ!えっと、実はもう1つ聞きたいことがあるんですけど……」
そしてエステルはレンの両親についてダヴィルに尋ねてみた。
「そうか……。それは不憫なことだな。うーむ、帝国商人なら時々この大使館を訪れるが……。さすがにクロスベルの貿易商には心当たりがないな。ミュラー君の方はどうだ?」
「いや……。自分も記憶にはありません。」
「そっか……。うーん、こっちも前途多難な雰囲気ねぇ。」
ダヴィルとミュラーの答えを聞いたエステルはレンの両親の情報が中々手に入らない事に溜息を吐いた。
「しかし、脅迫犯と迷子の親を同時に捜しているとはな……。月並みな言い方にはなるがあきらめずに頑張るといい。」
「あ……はい!」
「では、自分が門まで送ろう。」
そしてエステル達はミュラーと共に大使館を出た。
「ミュラーさん、ありがとう。おかげで大使さんから色々と聞くことができたわ。」
大使館の目の前まで戻って来たエステルはミュラーにお礼を言った。
「いや……大したことはしてないさ。それに本来、4ヶ国の問題だ。協力するのは当たり前だろう。」
「はは、違いない。」
「何とか解決できるといいんですけど……」
「………………………………」
ミュラーの答えを聞いたジンやクロ―ゼは同意していたが、オリビエは何故か真剣な表情で黙っていた。
「あれ……。どうしたの、オリビエ?」
「いや……少し考え事をね。脅迫事件の話じゃないから気にしないでくれたまえ。」
「う、うん……?」
珍しく真剣な様子のオリビエにエステルは首を傾げた。
「………………………………。オリビエ、王都にいる間は大使館に泊まるんだろうな?」
その様子を黙って見ていたミュラーだったが、やがて口を開いて尋ねた。
「フッ、もちろんさ。いつものように君のベッドで甘い夢を見させてもらうよ。」
「ええっ!?」
「まあ……」
オリビエの答えを聞いたエステルとクロ―ゼは驚いた。
「……お嬢さん方が信じるからくだらない冗談をさえずるな。あまり冗談が過ぎると簀巻(すま)きにして床に転がすぞ。」
「いやん、それっていわゆる緊縛プレイ?」
「お望みとあらばな。ミノムシのように窓から吊るしてやってもいい。」
「ごめんなさい。調子に乗りました。」
「うーん、さすが幼なじみ。」
「はは、何だかんだ言ってバッチリ息があっているな。」
ミュラーとオリビエの様子をエステルとジンは感心していた。
「おぞましいことを言わないでもらいたい。まあいい……俺はこれで失礼しよう。調査の方、頑張ってくれ。」
「うん、ありがと。」
そしてミュラーは大使館の中に戻って行った。
「大使館を2つ片付けたからあとはお城とリベール通信ね。手がかりがあるといいんだけど。………とりあえず、一気に二つ片付けられる城に行きましょうか。」
「そうですね……。シルヴァン皇帝陛下達とお会いできればいいのですが……………。とにかく行ってみましょう。」
そしてエステル達は次に一気に2箇所を終わらせる為にグランセル城に向かった………
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第212話 | ||
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