英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 外伝〜道化師との邂逅〜 |
〜ラヴィンヌ廃坑・深夜〜
真夜中のラヴィンヌ廃坑になんと数ヶ月前、各地で暗躍し、クーデター事件以降行方をくらませた特務兵達が入っていった。その様子を陰からシェラザードとアネラスが見張っていた。
「ふふっ……ビンゴみたいですね。」
「ええ……ようやく尻尾を掴んだわ。それにしてもラヴェンヌ廃坑とはね。上手い場所に目を付けたもんだわ。」
アネラスの言葉に頷いたシェラザードは特務兵達を感心していた。
「確か、空賊団が定期船の荷物を奪うために利用した場所でしたよね?」
「ええ、そうよ。途中にある露天掘りの場所で空賊団の一味と交戦したわ。」
「とすると……。そこをアジトにしている可能性が高そうですねぇ。どうします?このまま踏み込みますか?」
シェラザードの話を聞いて少しの間考えたアネラスは推論を出した後、シェラザードに判断をあえいだ。
「ええ、ギルドと軍に連絡しているヒマはないわ。とりあえず潜入して残党の規模を確かめるわよ。」
「ラジャーです。」
そして2人は特務兵達を追うように廃坑に入って行った。
〜ラヴィンヌ廃坑・奥〜
廃坑の奥まで進んだ2人はいくつかのテントと焚き火を見つけた。
「おかしいわね……。予想通りのアジトみたいだけど……。人の気配が感じられないわ。」
アネラスと共に物陰に隠れて様子をうかがっていたシェラザードは眉を顰めた。
「そ、そうですねぇ……。さっきの兵士たち、どこに行っちゃったのかな?」
「さて……気付かれたか、あるいは……。まあ、いいわ。とにかく慎重に調べましょう。」
そして2人は慎重に近付いて行き、テントの中を調べ始めた。
「ダメですねぇ。もぬけの殻って感じです。先輩の方はどうですか?」
「こっちも同じよ。留守中なのか、あるいは拠点を移った直後なのか……。せめて行き先が分かるような手がかりがあるといいんだけど。」
アネラスに尋ねられたシェラザードは溜息を吐いた後、考え込んだ。
「えっと、行き先の手がかりにはならなさそうなんですけど……。あっちのテントでこのファイルを見つけました。」
「あら、見せてみて。」
シェラザードはアネラスからファイルを受け取り、受け取ったファイルを読み始めた。
「ふーん……。妙な図面が書かれているわね。『オルグイユ』開発計画……。何かの乗物の設計図みたいね。」
「『オルグイユ』……ちょっとオシャレな名前ですね。やっぱり飛行船なんでしょうか?」
「うーん、専門家じゃないからちょっと判りかねるけど……。……あら?」
シェラザードはファイルの中にはさまっていた何かを見つけ、思わず声に出した。
「どうしたんですか?」
「ページの間にメモがあったわ。『招待状は配り終わった。テーブルとイスも用意した。お茶会の準備はこれでお仕舞い。あとはお茶菓子を焼いてお客様が集まるのを待つだけ』」
「へ〜。ほのぼのとした内容ですねぇ。何だか絵本の一節みたい。」
「ふむ……どうやら何かの符牒(ふちょう)みたいね。問題は何を意味しているメッセージかなんだけど……」
シェラザードが考え込んだその時
「散って!」
突如シェラザードは大声で警告した!
「え……!」
シェラザードの警告に驚きつつアネラスはシェラザードと共に散った。すると2人がいた場所にいくつもの銃弾が放たれた!そしていつの間にか廃坑に入って行った3人の特務兵達が距離をとって、シェラザード達を囲んでいた。
「うそ……いつのまに。」
アネラスは今まで気配を感じさせず、自分達を包囲した特務兵達に驚いた。
「ふふ、ずいぶんとアジな気配の消し方をしてくれるわね。あのアッシュブロンドの少尉さんにでも習ったの?」
「「「………………………………」」」
シェラザードの問いには答えず、特務兵達は無言で近寄って来た。
(シェラ先輩……)
(ええ……どうやら普通じゃないわね。連携で一角を崩してそれぞれ残りを片付ける。できるわね?)
(お任せあれ!)
「それじゃあ―――行くわよ!」
「はいっ!」
そして2人は特務兵達と交戦し始めた!2人のシェラザード達に対し、特務兵達は3人と数の優劣はあったが、2人は連携をして、特務兵達を戦闘不能にし、気絶させた!
「ふう、何なのこいつら……。倒したはいいけど……どうにも奇妙な手応えだわ。」
「うーん、何か危ない薬でもやってるんじゃないんですか?前にルーアンの不良グループが薬で操られていたって聞きましたけど。」
「エステルたちが解決したっていう事件ね。でも、そういうのともまた違った手応えだったわ。まるで石か木を打ったような……」
シェラザードとアネラスが倒れた特務兵達を見て、相談をしていたその時
パチパチパチ
2人の背後から拍手の音が聞こえて来た。
「あはは、スゴイスゴイ。お姉さんたち、なかなか優秀な遊撃士だねぇ。」
シェラザード達が拍手の音が聞こえた方向に振り返るとそこにはピンク色のスーツに黄緑色の髪を持ち、片方の頬に何かの紋様を刺青にしている少年がいた。
「あなた……」
「うふふ……。執行者No.0。『道化師』カンパネルラ。『身喰らう蛇』に連なる者さ。」
自分を見て驚いているシェラザードに少年――カンパネルラは口元に笑みを浮かべて自己紹介をした。
「あ……」
「とうとう現れたわね……」
カンパネルラが名乗り上げると2人は武器を構えた!
「あなた……何でこんな場所にいるの?特務兵の残党と一緒に何をしようとしているわけ?」
シェラザードはカンパネルラを警戒しながら尋ねた。
「うふふ、今回の僕の役割はあくまで『見届け役』なんだ。具体的な計画のことを僕に尋ねるのは筋違いだよ。というか僕も知らないしね。」
「『見届け役』ですって?」
カンパネルラの答えにシェラザードは眉を顰めた。
「それと一つ言っておこう。『お茶会』に関しては僕達は一切関与していない。そこに倒れている彼らに関しては僕が『お茶会』の主催者の計画を少し利用しただけさ。」
「え!?じゃ、じゃあ、どこの組織が!?」
カンパネルラの話を聞いたアネラスは驚いて尋ねた。
「うふふ……それは自分達で突きとめてみせなよ♪」
「……言われなくとも、そうするわよ。」
笑顔のカンパネルラをシェラザードは睨みながら答えた。
「ま、『お茶会』に参加するなら急いだ方がいいかもしれないよ。どこで開かれるかは知らないけど少なくともここじゃないのは確かさ。それとも、ここで僕と一緒に夜明けのコーヒーでも飲もうか?」
「………………………………」
「え、えっと君……。まだ若いみたいだけど本当に『結社』の人間なの?悪いことは言わないからそんなの止めちゃったほうがいいよ。」
緊迫した状況からは考えられないカンパネルラの誘いの言葉を聞いたシェラザードは黙って睨み、アネラスは戸惑いながら尋ねた後、説得しようとした。
「うふふ、優しいお姉さんだなぁ。でも、道化師のことを笑い者にするのならともかく……心配するのはマナー違反だね。」
「え……」
カンパネルラの言葉にアネラスが驚いたその時、カンパネルラは指を鳴らした!すると倒れていた特務兵達が起き上がった!
「う、うそ!?」
「そんな……完全に戦闘不能にしたはずよ!」
起き上がった特務兵達を見て、アネラスは信じられない表情で驚いていた。
「うふふ、だから君たち遊撃士ってのは甘いんだよね。やるんだったら徹底的に壊すつもりじゃないと♪」
そしてカンパネルラはもう一度指を鳴らした!すると特務兵達は突如、爆発を起こし、砕け散った!
「くっ……」
「あうっ……」
爆発の衝撃によってシェラザード達は怯んだ。
「な、なんてことを……!」
「ひどい……こんなのって……」
「あはは、驚いた?なかなかよく出来たビックリ箱だろう?うふふ、これにて今宵のショウはおしまいさ。それでは皆様、ご機嫌よう。」
バラバラになった特務兵達を見て青褪めているシェラザード達に楽しそうな表情で答えたカンパネルラは一礼をし、消えようとした。
「待ちなさいッ!」
カンパネルラの行動に気付いたシェラザードは鞭を震ったが、命中する事はなくカンパネルラは一瞬にして姿を消した。
「………………………………」
「………………………………。シェラ先輩……あの……」
黙ってカンパネルラが消えた場所を睨んでいるシェラザードにアネラスは悲しそうな表情で声をかけた。
「……ええ……。苦痛を感じずに逝けたのならいいんだけど……。いずれにせよ……このままにはしておけないわね。アネラス、悪いんだけどシーツを調達してきてくれる?」
シェラザードはバラバラになった特務兵達を見た後、アネラスを見て指示をした。
「は、はい……!あれ……?」
シェラザードの指示に頷いたアネラスだったが、近くに落ちている腕を拾って、腕をよく見た。
「ちょ、ちょっと!?」
「あの、シェラ先輩……この腕……作り物みたいなんですけど。」
「えっ……!?」
アネラスの答えを驚いたシェラザードは特務兵達の残骸を調べた。
「歯車にゼンマイ……それに結晶回路の破片……それにこれは石……のわりには魔力が籠っているわね………かと言って”魔力石”じゃないし………何故魔力石に似た物があるかわからないけど、ひょっとしてこれ……」
「自律的に行動する導力人形……いわゆる人形兵器ってヤツやろうね。」
残骸を見てシェラザードが呟いたその時、2人以外の声が聞こえ、テントの後ろから声の主――ケビンが現れた。
「えっ……」
「あなた、確か……!」
「おっと、オレのこと覚えとってくれたみたいやね。改めて―――七耀教会の巡回神父、ケビン・グラハム言いますわ。シェラザード・ハーヴェイさんとアネラス・エルフィードさんやね?物は相談なんやけど……お互い、情報交換せぇへんか?」
ケビンと邂逅したシェラザード達はケビンの事情を聞き、情報交換をした後、ケビンと共にある場所に向かった。一方その頃、ボースの街道でも特務兵達が集団で行動していた。
〜西ボース街道〜
「どりゃあああああっ!」
特務兵達が歩いていると木の上に隠れていたドルンが飛び降りて、導力砲を特務兵達に撃った!
「キール、お次だ!」
「任せろ、兄貴!」
ドルンに言われたキールはドルンの攻撃で怯んでいる特務兵達に木の陰から現れて、爆弾を投げた!
「ジョゼット!」
「オッケー!」
そしてキールと反対側の木の陰に隠れていたジョゼットは爆弾を投げた後、銃を撃って、爆弾を引火させて、2人の攻撃でダメージを受け、怯んでいる特務兵達にさらにダメージを与え、怯ませた!
「ヨシュア!」
ジョゼットがヨシュアの名を呼ぶと、ヨシュアは音もなく姿を現し
「………………………………」
目にも止まらぬ速さで特務兵達を斬り伏せた!ヨシュアの攻撃によって、特務兵達は爆発を起こし、バラバラになった!
「へへ、相変わらず見事な手並みじゃないか。」
特務兵達がバラバラになったのを確認したキールはヨシュアを褒めた。
「……貴方たちこそなかなか見事な連携だった。おかげで一気にケリがついたよ。」
「フ、フン……おだてても何も出ないからね。これで10体目だよ?あと、どれだけ狩ればいいのさ?」
ヨシュアの賛辞に頬を膨らませたジョゼットは尋ねた。
「そうだな……そろそろ狩りつくしたと思う。王国軍も動くだろうし、このあたりが引き際だろう。」
「そっか……」
「しかし、結社っていうのは何を考えてるのか判らねぇな。どうして、あの黒坊主どもの人形なんざ徘徊させているんだよ?」
「そう、正にそれだぜ。本物の特務兵の残党たちは一体どこに行っちまったんだ?」
ドルンとキールはそれぞれ疑問に思っている事を口にした。
「多分、あのメモにあった『お茶会』の可能性が高い……。人形兵器は、そこから軍の目を逸らすために使われたんだろう。」
「なるほどな……。どこで何をするかは知らんが、どうにもキナ臭い雰囲気だぜ。」
「まあ、俺たちが手を貸す義理なんざ無いんだが……。その『お茶会』ってのは放っておいてもいいのかよ?」
ヨシュアの推測にキールは頷き、ドルンはある事が気になってヨシュアに尋ねた。
「………………………………。今ごろ、遊撃士たちがあの廃坑を捜索しているはずだ。このまま軍とギルドに任せよう。」
「そうそう、メモと設計図を残しただけでも十分だってば。こうしてギルドに代わって人形退治だってしてるんだし。あとは、あの脳天気女たちに任せとけばいいんじゃないの?」
「………………………………」
ジョゼットの口からエステルの事が出るとヨシュアはどこか寂しそうな表情で黙っていた。
「ふ、ふん、何だよ。今さら昔の仲間が心配なの?」
「いや……もう僕には関係のない人達さ。『お茶会』が始まれば軍の警戒もそちらに向かう。その機を逃さずに動こう。」
「おうよ!」
「さーて、忙しくなりそうだぜ。」
そしてヨシュア達は特務兵達の残骸を片付けた後、自分達の次なる目的地に向かった……………
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