インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#61 |
丁度、セシリアが一夏と遭遇した頃………
IS学園一年寮では………
「はぁ………漸くゆっくりできる………」
空が、副寮監室で机に突っ伏していた。
その様子はまさに『ぐったり』という擬音を体現しているかのように。
と、いうのも今日この日という千冬の休暇日と後々の余裕の為に群れなす書類の山を真耶と共に崩し、千冬の分を優先して片付け、ようやく終わったのだ。
そして千冬は悠々と休暇に入り残されたのは真っ白に燃え尽きたサポート組。
見かねた学校側の配慮でもう一人、休暇を取れることになったのだが、他の職員が『学園最強』の双璧を同時に休ませるハズも無く、真耶が休暇入りとなった。
そして、少しでもゴタつけば空が解決と鎮圧に呼び出され奔走し、場合によっては他学年生を一年寮副寮監室…又の名を『明鏡止水への直通路』に招待して((指導|せっきょう))する。
『((織斑教諭|さいきょう))が休暇に入った』という噂を聞きつけて『なんとかの居ぬ間に…』と騒ごうとする者が多くて中々に大変だ。
潰すだけ潰したら多少大人しくなったのでこうしてだらけられているのだが…
「………でも、こう言う時に限って面倒事が起こるんだよね、経験上。」
それは、言ってしまったが故にフラグが立ったのか、正確な予知だったのか…
数刻後、
「空くん、―」「勝負よ!」
元同室の少女が遊びにやってきたと同時に学園生最強が勝負を挑んできたのだった。
「……はいはい。」
がた、と音を立てて椅子が動く。
空は憂さ晴らしの生贄が自分からやってきてくれた事を感謝する事にした。
当然、散々にいたぶってからぽっきりとヤる予定である。
『ヤ』がどんな字を当てられているかは推して知るべし。
その数刻後、悲鳴と高笑いと銃声がアリーナを満たし、その傍を通った生徒は中に居る悲鳴の主の冥福を祈る…そんな光景が広がっていた。
* * *
[side: ]
それは、丁度セシリアが手土産に持ってきていたケーキを皆で食べていた時の事だった。
ケーキの数は六個でなんだかんだで全員集合を見越した数が用意されていたりする。
ピロロロロロ――
突如として鳴る電話。
一夏に食べさせてもらった余韻に浸っている三人をよそに一人電話機の元に向かって受話器を取り、
「はい、織斑です。」
『あ、一夏……助けてくれ…』
電話の相手は、ラウラだった。
しかもちょっと泣きそうな感じの声で。
「ら、ラウラか?どうした?」
『――――った。』
「え?」
『…道に、迷った。』
呟くような声に一夏は一瞬脱力して転びそうになった。
とはいえ、一夏もこの家に引っ越してきたばかりのころは何度か迷いそうになった経験がある。
なんせ一昔前に計画的に作られた住宅地なのだ。
似たような光景、似たような公園が多数有り間違えやすい要素盛りだくさんだ。
いくら住所を知っていても迷うのは仕方ない――そんな場所なのだ。
初めてなのに住所だけで来れたシャルロットの方が逆に珍しい部類に入る。
「わかった。今、迎えに行くから廻りに特徴のある建物とかないか?」
『ええと、今は公園に居る。巨大なタコが居る公園だ。』
「ああ、あそこか。割と近いな。それじゃあすぐ行くからそこで待ってろ。」
『う、うむ。』
ガチャリ、と音を立てて受話器を置く。
「ちょっとラウラを迎えに行ってくる。」
「どうしたのだ?」
「ウチに来ようとして迷ったんだとさ。近場までは来れているらしいから迎えに行ってくる。」
ふと、箒たちの脳裏に迷子になって泣きそうになってるラウラの姿を浮かぶが『そんな筈ない』と頭から追い出す。
「それじゃ、ちょっと待っててくれ。」
ガチャリ、と玄関を開けたら、
「あっ!」
「お、鈴も来たのか。」
ちょうど、呼び鈴のボタンを押す寸前だった鈴が居た。
「ちょっと上がって待っててくれ。迷子になったラウラを迎えに行ってくる。」
「はぁ?どういう事!?」
「詳しい事はリビングに居る箒たちに聞いてくれ。」
「ちょ、一夏!?」
「それじゃ、行ってくるぞ。」
「ああ、もう!後で説明してもらうからね!」
それから十分もしないうちにラウラを連れて一夏は帰って来た。
手をつないでいたのだが、その様子は『まるで兄妹だった』『妬ましさよりも微笑ましさが勝った』と目撃した彼女達は言う。
ともかく、IS学園一年生における専用機保持者の大半が一ヶ所に集まるという戦力過剰な状況が今ここに完成した。
* * *
[一方 IS学園]
とある一室、畳敷きの和間に敷かれた布団に一人の少女が寝かされ、瓜二つの――それでいて印象は真反対な少女が少々心配そうに様子を窺っていた。
…早い話が空に勝負を挑んでいたぶられてから撃墜された楯無が寝かされ、簪が付き添っているのだ。
「………ぅうん…」
「あ、気がついた?」
「簪ちゃん?…それに、ここは……?」
「一年寮の副寮監室だよ。まったくもう、余計な心配かけさせないでよね。お姉ちゃん。」
「あはは、耳が痛いわ。」
何かと言って簪が頼り、慕う相手―空に対する嫉妬心からこうして食ってかかる事が度々あったのだが、大抵空の方が多忙で相手を出来ないか、楯無の撃墜で終わっている。
ちなみに今回は薙風に装備されていた『試験運用中の特殊兵装』に散々にいたぶられた後に槇篠技研製((遠距離戦用射撃槍|ショット・ランサー))による不意打ちと福音戦でも用いられた『至近距離からのマイクロミサイル掃射』によって撃墜されている。
ちなみにこの『試験運用中の特殊兵装』の被害者リストには一夏たちの名も載せられていたりする。
「そろそろ諦めたら?」
「そうはいかないわよ。」
「…空くん、最近は織斑先生と互角に近い模擬戦闘やってるって聞いてるけど?」
「………それでも、よ。」
一瞬心が折れそうになった楯無ではあったがなんとか自分を保つ。
楯無はよいこらしょ、と起き上がろうとする…が、簪によって遮られまた寝かされてしまった。
「とりあえずは軽い脳震盪だけみたいだって言ってた。でも、放っておいたらまた無茶するでしょ。」
「ま、まあ……必要ならば?」
そこで『しない』と断言できないのが楯無の『らしさ』ではあるし、簪も姉の性格は良く知っている。
「だから、今日は付きっきりで監視しろって言われちゃった。」
そう『教師として言いつけた』のは空である。
ついでに『楯無の行動の理由は簪に構って欲しいから』という事も添えて。
「そう。」
「うん。だから大人しくしててね。」
「…わかったわ。その代わり、最近の簪ちゃんの事、色々聞かせてもらっていい?」
「うん。そのかわりお姉ちゃんも。」
「それくらいならお安いご用。」
今度は簪の手を借りながら起き上る楯無。
夏の昼の日差しが差す部屋で久々の姉妹の語らいが始まろうとしていた。
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#61:恋に騒がす五重奏 [来訪編 そのに] | ||
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