インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#62 |
[side:一夏]
夏の日の午後、
昼食を終えた後片付けを終えて人数分の飲み物と共にリビングに戻ってきた俺の眼前には―――
「くっ、やりますわねッ!」
「ホント。…あっという間に((パイルバンカー狂|とっつきらー))になるところがシャルロットらしいけど。」
「ふふっ、逃がさないよ!」
「ふむ………ではここで((王手|チェック))だ。」
ぱちっ
「…ラウラ、それは『打ち歩詰め』と言って反則だ。」
「……むぅ。」
TVの前でコントローラーに握り白熱するセシリア、鈴、シャルロットの三人とソファーの辺りで将棋に興じる箒とラウラ。
うん、仲が良いってのは、ホントいい事だよな。
編入したてのころのラウラは孤立しそうだったからちょっとばかりハラハラしてたけど、うん。中々に馴染んでる様だし………
うんうん。それは良いんだけどさ…
「俺、完全に母親ポジじゃね?」
そう、遊びに来た子供の友達を『あらあらうふふ』的に見守ってるような…
「ん?ああ、一夏。片付けは終わったのか。」
「ああ。ついでに冷茶も用意したぞ。」
箒がこっちに気付いて声をかけてきた。
すると将棋のルールブックを片手にうんうん唸っていたラウラもこちらに視線を向けてくる。
「ふふ、まるで母親だな。」
「うむ、((空|かあさま))のようないい母親になるだろう。」
「ぐあっ。」
箒とラウラに言われて俺の心に大ダメージ。
「冗談だ。――おい、そっちの三人も一度中断だ。一夏が戻って来たぞ。」
「あ、それじゃああと四十秒待って。決着着くから。」
画面から顔をそむけずに鈴が言う。
カチャカチャとボタンを操作する音と共に画面上でパイルバンカーによる一撃必殺を狙うラファールと手堅く銃撃を繰り返す飛龍が激しく動き回っていた。
そして画面上部に表示されている時間は残り三十数秒。
確かに、あと四十秒もすれば制限時間になる。
「ふむ、中々いい動きをするな。」
「まあ、ゲームだからな。」
鈴対シャルの対決は残り時間がゼロになると同時にパイルバンカーとグレネードが同時に互いのシールドをゼロにして相討ちという結果に終わった。
「で、これからどうする?」
今までのまま――ゲーム三昧でもいいのだができれば多人数モノにしていただきたい。
じゃないと俺が入れないし。
「そうだな……たしかアキトさんが色々なボードゲームとかを持っていたハズだったな。」
「あ、今も俺の部屋に保管されてる。ちょっと待っててくれ、今持ってくるから。」
俺が自室のある二階へ向かおうとリビングを出ると、
ぞろぞろ――
「……なんでみんなついてくるんだ?」
何故か全員が後をついてきた。
「うむ、所謂『家内探検』というヤツだ。」
「日本のこのような家を見る機会は中々有りませんからね。」
代表してかラウラとセシリアがそう言ってくる。
まあ、アキ兄が集めてたボードゲームは結構な数が有るし、運ぶ手間を考えれば丁度いいか。
「それじゃあ、簡単に案内するぞ。」
俺はそう言ってから一足先に階段をのぼりはじめた。
その後ろを『へー』とか『ふむ』とか言いながら付いてくるみんな。
シャル、セシリア、ラウラは珍しそうに、箒と鈴は懐かしそうな表情で。
そういや、前にセシリアが来た時は二階に上がってなかったっけな。
途中で九〇度曲がった階段を登り切ると、そこには部屋が幾つか並んでいる。
「ええと、向こうの突き当たりが千冬姉の部屋でその隣は昔、束さんと箒の部屋と化してた客間。で、こっちの突き当たりが俺の部屋。そっちは元千冬姉の部屋で今は空き部屋だな。」
「ああ、懐かしいな。確か、今の一夏の部屋がアキトさんの部屋だったか?」
「良く覚えてるな。」
箒の懐かしむような声に俺も昔の光景が目に浮かんできた。
俺も千冬姉も部屋を貰ったはいいけど結局何かと言ってアキ兄の部屋に入り浸ってたな。
「ええと、その『アキトさん』という方はどんな方だったのです?一夏さんは『兄』と呼び慕っているようですけど。」
そこにセシリアの疑問の声。
まあ、ここに居るメンツでは俺と箒、あとシャルが少し会った事があるだけだから当然か。
「んー、簡単に言えば千冬姉や束さんが小さい頃から面倒見てもらった人だな。」
両親に棄てられた俺たち姉弟からすれば育ての親とも言える箒の両親――篠ノ之の小父さんと小母さんに並ぶ『親』と言っても過言ではない人だ。
「一緒に暮らしてたの?」
「というか、俺たちがアキ兄の家に厄介になってたってのが正しいな。」
シャルの問に俺は簡単に答えると箒が続いた。
「元々ここはアキトさんの父上の持ち家だったんだが、早々に亡くなられてな…アキトさんが成人するまでは槇村家と親交のあった((篠ノ之家|うち))が代理人として預かる事になっていたんだ。」
そのアキ兄も成人前に行方知れずになり、そうなる前にとられていた手続きの結果千冬姉が成人と同時に相続する形になった。
――どんな手続きしたのかは全く分からないが。
「さて、ここで立ち話してるのもなんだし、とりあえず俺の部屋に入るぞ。」
木目調の引き戸を開けると机のある処だけ板張りになっている、畳敷きの部屋が現れる。
ここが俺の部屋であり、かつてはアキ兄の部屋だった場所だ。
部屋の広さは一人部屋としては広め、二人部屋にするには狭め…と言ったところか。
当然、六人も居るとけっこう手狭になる。
ふと、俺は机の上に有るモノが気になった。
俺は机の上にモノを出しっぱなしにする事は殆どない。
『出したら仕舞う』が昔からのお約束だ。
だが、それは机の上に出しっぱなしになっている。
下手人は恐らく…
「また、束さんか?」
「ん?、姉さんがどうかしたのか?」
名前に反応して箒が俺の方に寄って来た。
「いや、どうやら束さんが入り込んでアレを見てたみたいだ。」
俺は机の上にあるアルバムを指さす。
「ああ、なるほど。」
納得顔の箒。
「ん、どうした?」
「何か有りまして?」
と続々と集まってくる。
「それは………アルバム?」
「見てみるか?」
答えは返事ではなくて伸びてきた手が物語っていた。
どうやら、これからはアルバム鑑賞会で決まりみたいだな。
「それじゃあ、((俺の部屋|ここ))じゃ狭いしアルバム持ってリビングに降りるぞ。」
* * *
[一方、IS学園]
寮のとある一室はある種異様な空気に包まれていた。
…とある一室と言っても簪&箒の部屋だが。
「十三。」
「一。」
「二。」
「さん。」
続々と増えてゆく場のカードたち。
楯無と簪はそれぞれの((従卒|おさななじみ))である虚と本音を呼んでダウトに興じていた。
ちなみに順番は『楯無→簪→虚→本音→…』である。
「四。」
「五。」
「六。」
「なな。」
そして、その時は来た。
「八。」
簪が楯無の独占する『八』に当たったのだ。
「簪ちゃん、それダウ『お姉ちゃんは私のことが好き』――ッ!」
絶妙なタイミングで入った簪の言葉に『((嘘だ|ダウト))』と言えなくなってしまった楯無。
次のプレイヤーである虚が次のカードを出してしまい楯無は絶好のチャンスを逃してしまった。
その次に待っているのは楯無が一枚も持っていない『11』。
「九。」
「十。」
「十一。」
順番が回ってきた処で楯無は務めて『持ってます』という顔で適当なカードを出す。
けれども、それが演技である事くらい妹と従者は気づいており…
「姉さん、ダウ――」
「簪ちゃん、お姉ちゃんの事嫌いじゃないでしょ?」
これでダウト、と言われたら多分楯無は泣く。
そんな両刃の剣を振ってみた楯無ではあったが、
「それは否定しないけどダウトだよ。」
「………判ったわ。」
最早立て直し不可な位に手札が増えることが決定した。
実を言うと楯無の次に出すのが簪であるためにこの『ダウトと言えない状況を作って先に出させる』は成立しないのだが。
渋々と山を成す捨て札を集めて手札に加える楯無。
そしてまたゲームが再開される。
―――そこでは和やかで微笑みの絶えない時間が流れていた。
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#62:恋に騒がす五重奏 [探検編] | ||
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