英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 220 |
王都とロレントを繋ぐ関所、グリューネ門に到着した頃には既に夕方になっていて、エステルは急いで待ち合わせの場所に向かった。
〜グリューネ門・アーネンベルク・夕方〜
「……あ………」
アーネンベルクに一人の人影を見つけたエステルは嬉しそうな表情をした。
〜王都グランセル〜
「ヒック……。フィリップのやつ、小言ばかり抜かしおって……。私をいったい誰だと思っておるのだ……。最高位の王位継承権を持つ……デュナン・フォン・アウスレーゼだぞ……」
一方その頃、デュナンは酔っぱらった様子で独り言を呟いていた。
「う〜い……少しビールを飲み過ぎたか……。しかし、あのライスカレーというのはなかなかの美味であった……。たまには庶民の味も悪くない……」
そしてデュナンはふらふらと歩き始めた。
「……くそっ……。クローディア……それに遊撃士の小娘め……。どうしてこの私が…………あんな小娘どもに……あんな小娘どもの言葉に……心を乱さねばならんのだ……」
「公爵閣下のご心痛、お察し申し上げますわ。」
デュナンの独り言に誰かが答えた。自分の独り言の返事が返って来た事に首を傾げたデュナンが振り向くとそこにはカノーネがいた。
「な……。お前はリシャールの……」
カノーネを見たデュナンは驚いた。
「ええ、副官のカノーネです。公爵閣下におかれましてはお元気そうで何よりですわ。ふふ、あまりご機嫌は宜しくないようですけど……」
「な、何の用だ……。お前たちはたしか指名手配されている身では……」
不敵な笑みを浮かべているカノーネをデュナンは信じられない表情で見た後、カノーネの状況を呟いたその時、デュナンの後ろから数名の特務兵達が現れた!
「ひっ……!?」
「ふふ、そう警戒されると傷ついてしまいますわ。わたくしたちはただ……公爵閣下のお手伝いがしたいだけ。さあ、一緒に来て頂きますわよ。」
そしてデュナンはカノーネ達にどこかに連れて行かれた。
〜グリューネ門・アーネンベルク〜
「ヨ、ヨシュ―――」
エステルは人影をヨシュアと思い、駆け寄ったが
「あ……?」
「へっ……?」
そこにいたのはヨシュアでなく、ケビンだった。
「エステルちゃんか……?」
「ケビンさん……。ど、どうしてここに……?」
ケビンに驚いたエステルは辺りを見回して、ヨシュアを探したが、ヨシュアは見つからなかった。
「い、いない……」
「いや〜、ひさしぶりやなぁ。しかし、こんな所で再会するなんてオレら、やっぱり縁が―――」
「ねえ、ケビンさん!ここで誰か他の人に会わなかった!?」
自分に話しかけて来たケビンにエステルは切羽つまった様子で尋ねた。
「へっ……誰かって。まさかエステルちゃんもここで待ち合わせしとんの?」
「う、うん……。……って、ケビンさんも?」
ケビンの答えを聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「ああ……手紙に呼び出されてな。」
「あ、あたしもだ。えへへ、面白い偶然もあるもんね。」
「はは、そうやねー。―――って、そんな偶然あるかいっ!」
「や、やっぱり?それじゃあケビンさんもヨシュアに呼び出されて……」
ケビンの突っ込みに苦笑したエステルは尋ねたが
「ヨシュア?それって……例のカレシやったっけ?」
「う、うん……」
「し、知らんかったわ……。ヨシュア君って実はいい年したオッサンやったんか。そりゃ、愛があれば年の差なんて問題あらへんけど……。それやったらオレかて充分チャンスは……」
「あのー。微妙に話が噛み合ってないんですけど。ケビンさんは誰からの手紙で呼び出されたわけ?」
話が噛み合っていない事に首を傾げ、エステルは尋ねた。
「ああ、グランセル大聖堂にオレ宛ての手紙が届けられてな。届けたのは、身なりの良さそうな中年男性だったらしけど……」
「ヨ、ヨシュアはあたしと同い年だってば!オジサンなはずないでしょっ!」
「あ、やっぱり?や〜。オレもなんかおかしいと思ったんよね。」
「よく言うわよ……。でも、それって一体どういうことなの?………も、もしかして………」
ケビンの答えに呆れたエステルは真剣な表情で考え込んだ。
「2人を始末するための罠!?」
「なんやて……?」
エステルの答えを聞いたケビンは真剣な表情になった。そしてその時、エステル達の元に空を飛ぶ機械兵器が近付いて来た!
「なっ……」
「マジか……」
自分達を囲むように着地した機械兵器を見て、エステルとケビンは驚いた。
「チッ、人違いですって雰囲気でもなさそうやな……」
ケビンは舌打ちをして、獲物であるボウガンを構えた。
「うん………来るわ!」
そしてエステル達は戦闘を開始した!
「…………」
「っと!」
機械兵器の一体が手らしきものでエステルを攻撃したが、エステルは武器で防御した。
「そこやっ!」
そこにケビンがボウガンから矢を放って、敵を攻撃し
「ヤッ!」
エステルが止めを刺した!しかし、いつの間にか駆動を始めていたもう一体の機械兵器がアーツを放った!
「あいたぁ!」
「きゃっ!」
機械兵器が放ったアーツ――『ダークマタ―改』を受けたケビンとエステルは呻いたが
「今助けたるっ!そらっ!」
ケビンは首にかかっている『星杯』が彫られてあるペンダントをかかげ、祈った!するとペンダントが光を放ち、2人の傷を回復した!
「ありがとう、ケビンさん!さっきはよくもやってくれたわね〜!お返しよ!光よ、槍と化して、敵を貫け!……光槍!!」
ケビンの持つ複数の味方を回復するクラフト――セイクリッドブレスを受けたエステルはケビンにお礼を言った後、魔術を放って敵にダメージを与え、それを見たケビンはボウガンに装着されてあった仕込み刃を出して、敵に襲いかかった!
「そこやっ!はぁっ!そらっ!」
仕込み刃によって敵は傷つき、そして攻撃し終わったケビンは一端離れて、ボウガンに矢を装着させ、放った!
「これでもくらえやっ!!」
仕込み刃で切りかかり、直後に矢を射る連続攻撃のクラフト――クロスギアレイジを受けた機械兵器は沈黙し、下の地面に落ちて行って、二度と上がって来なくなった!
「な、なんだったのよ、こいつら………魔獣っていうより……」
戦闘が終了し、武器を収めたエステルは自分達に襲いかかった敵の残骸を見て呟いたところを
「ああ、城の封印区画にいた人形兵器と同じみたいやね。もっともアレとは違って最近造られたものみたいやけど。」
ケビンが真剣な表情で続けた。
「それってどういうこと?」
「封印区画の人形兵器が古代遺物(アーティファクト)の一種とするなら……さっきのはオーブメントで駆動する現代の人形兵器ってところや。しかも性能は全然負けてへんみたいやね。」
「な、なるほど……。………………………………。どうしてケビンさんが封印区画のことを知ってるわけ?」
「……ギク。」
エステルにジト目で睨まれ、指摘されたケビンが嘘がばれたかのような表情をしたその時
「おい、何をしている!?」
「あ、兵士さん……」
王国軍の兵士と隊長格の兵士がエステル達に近付いて来た。
「何やら騒がしいと思ったら……。お前たち、いったいここで何をしていたんだ!?」
「ちょ、ちょっと待って!あたしたち、ここで変な機械に襲われただけで……」
「変な機械だと……?」
エステルの話に隊長格の兵士は首を傾げた。
「ああ、お騒がせしてエライすんませんでした。実は彼女、ギルドに所属する遊撃士でしてなぁ。とある連中を追って捜査中の身ってわけですわ」
「へっ?」
「遊撃士……本当なのか?」
「ほら、エステルちゃん。ブレイサー手帳を見せてやり?」
「あ、うん……」
ケビンに促されたエステルは手帳を兵士達に見せた。
「……なるほど、本当らしいな。とある連中と言ったが、一体どういう奴等なんだ?」
「それが『結社』とかいう正体不明な連中でしてなぁ。各地で妙な実験を色々としとるらしいですわ。そいつらの手がかりを追ってここに来てみたらケッタイな機械に襲われたんです。」
「………………………………」
ケビンの説明を聞いていたエステルは驚いた表情をしていた。
「そういえば司令部から『結社』とかいう連中について注意のようなものが来ていたな……。とすると周遊道に現れたのはその『結社』の者たちなのか……」
「え、ちょっと待って!周遊道に現れたって一体何が起こったの?」
隊長格の兵士の話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。
「ああ、先ほどエルベ離宮の警備本部から連絡があってな。何でも武装した集団が離宮を襲撃してきたらしい。」
「あ、あんですって〜!?」
「幸い、シード中佐によって難なく退けられたらしいがな。現在、周遊道を封鎖してその集団を追っているところらしい。」
「は〜。エライことが起こったなぁ。こりゃオレらもギルドに戻った方がええかもな。」
「え、あ……」
隊長格の兵士の話を聞いて頷きギルドに戻るよう、ケビンに促されたエステルは戸惑った。
「ああ、ひょっとしたら君たちが追っている連中と同じなのかもしれない……。よし、付近の警備はこのまま我々が当たるとしよう。君たちは急いで王都のギルドに戻るといい。」
「おおきに!ほな戻るとしよか。」
「ちょ、ちょっと……」
そしてケビンは戸惑っているエステルを連れて、兵士達から離れた。
「ちょっと待って!一体どういうことなの!?」
兵士達から離れ、砦内の廊下に出たエステルはケビンを睨んで怒鳴った。
「あ〜……。やっぱり納得せぇへん?」
怒鳴られたケビンは気不味そうな表情でエステルに尋ねた。
「あ、あたり前でしょ!あなた……いったい何者なの!?あたしたちの動きとか『結社』のこととか知ってたり……。本当にただの神父さんなわけ!?」
「正真正銘、七耀教会の神父やで。まあ、確かに……ただの神父とはちゃうけどな。」
(………やはり、ただの聖職者ではなかったか……先ほどの戦闘……あれは普段から戦闘に慣れている動きだったからな……)
(こちらの世界の唯一の神をあがめている神殿の騎士のようなものでしょうね……)
(神殿に関わる騎士……か。きなくさくなって来たわね……)
(そうですね……神殿が関わるとろくな事がありませんでしたからね……)
エステルの身体の中にいるサエラブとニルはケビンの話を聞き、ケビンの戦闘能力に納得していた。また、パズモは今の状況を呟き、パズモの呟きが聞こえたテトリはかつての主と共にいた時の事を思い出していた。
「それってどういうこと?」
一方ケビンの説明にエステルは頬を膨らませて尋ねた。
「その説明はまた後でな。さっきも言ったけど今はギルドに急いだ方がええ。ひょっとしたらとんでもない騒ぎが起こるかもしれん。」
「とんでもない騒ぎって……ああもう……アタマがグチャグチャになりそう!なんで……なんでヨシュアに会えるはずがこんな事になっちゃうのよ……」
「そのカレシからの手紙なんやけど……。それ、本当にカレシからか?」
「えっ……?う、うん。手紙を預かった子の話ではヨシュアとしか思えないし……」
ケビンの質問にエステルは戸惑いながら答えた。
「その子はカレシのことを知っとるわけないんやな?だとしたら、似たような特徴の別人を用意させた可能性もある。」
「で、でも……ヨシュアの字に似てるし……」
「筆跡なんちゅうもんはある程度似せられるもんや。動揺しとる人間を簡単に騙せるくらいにはな。ちなみにオレが大聖堂で受け取った手紙はコレやで。」
戸惑っているエステルにケビンは懐から手紙を出して、エステルに見せた。
「あ……」
「へへ、どうやら同じ種類の封筒らしいな。ちなみに手紙の中身はオレが調べていることについての情報を提供するって申し出やった。」
「ということは……同じ連中の仕業ってこと?一体誰が、どうして!?」
ケビンの話を聞いて驚いたエステルは信じられない様子で尋ねた。
「それは俺にも分からんわ。確実に言えるのは……お互いハメられたってことやね。」
「………………………………。……けんじゃ……わよ。」
「へ?」
エステルの様子にケビンは首を傾げた。
「何者か知らないけどふざけてんじゃないわよ……。ヨシュアを騙(かた)って……あたしを呼び出したですって?許せない……絶対に許さないんだからあっ!」
「ひえっ……落ち着き、エステルちゃん。ここで熱くなったらまさに相手の思うツボやで。とにかくギルドに戻って情報の整理をしよ?」
そしてエステルの怒鳴り声に驚いたケビンはエステルを宥めて、提案をした。
「わかった……。だけど、ケビンさんのこと……完全に信用したわけじゃないわ。騙したりしたら……本気でぶっ飛ばすからね?」
「ああ、かまへんで。エステルちゃんにぶっ飛ばされるなら本望や。惚れた女のためなら身体を張る覚悟はできとるしな♪」
「な、なに言ってるのよ。まったくもう……調子狂っちゃうわね。」
ケビンの言葉にエステルは照れた後、呆れた様子で溜息を吐いた。
「和み系目指しとんねん。それじゃあエステルちゃん。とっととギルドに戻ろうか?」
「うん、わかった!」
そして2人は急いで王都のギルドに向かった………
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第220話 | ||
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