魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 レイハさん「彼女の魔力量はAAAです」な26話 |
「なのは、今日から小学生ね! おめでとう!」
桃子さんがまだピカピカのカバンを背負ったなのはちゃんを見て、にっこりと笑う。
ああ、ボロボロにやられすぎてとうとう3年も昔の幻覚までみてるんだなー、ぼんやりと俺はそんなことを考えていた。
「えへへ……。ありがとう、お母さん!」
そう、確かこの日はなのはちゃんの入学式だったか、高町家の玄関には家族みんなが集合している。
「なのは、学校じゃみんなはいないからな。気をつけるんだぞ」
「も〜っ、恭ちゃんは心配しすぎだよ。なのはなら友達いっぱい作れるって。ね?」
「そ、それは分かんないけど友達は欲しいな……」
恭也さんが心配そうになのはちゃんに話しかけ、美由希さんがそれを小突く。
なのはちゃんはこれから始まる新しい生活に不安半分、期待半分のご様子。
「なのは、初日から馴れ馴れしく話しかけてきた男子がいたら、俺に名前を教えるんだぞ。その子に礼儀というものをしっかり教えて
「「「父さん(あなた)!? 落ち着いて!」」」
しかし一番不安で心配しすぎてるのは一家の大黒柱、士郎さん。
ニッコニコの笑顔だが、なのはちゃんには見えないよう背中に刀を隠してる、正に悪鬼羅刹。
しかしまあ、よくもここまで鮮明に思い出すものだ。
この頃の俺は、まだ花子さんに会う前で――――
――――ああ、そうか。
リニスさんの『あの目』を見たからか、こんな記憶を思い出すのは。
なのはちゃんの上空に浮かんでいるのはかつての自分、そいつは誰に言うでもなく、ふと呟いていた。
「ここまで何にも出来なかったなぁ……。ああ……死にたい、死んでるけど」
その目はリニスさんと同じで、何もかもを諦めた目だった。
それから、急に視界が暗くなっていく。
あれ? もしかして今の走馬灯?
ちょ、待って!
マジで待ってくれまだここで死ぬ訳にはいかないんだって!
「あー死にたいわー。『めのまえが まっくらに なった!』って感じで終わりたいわー」
おいコラ昔の俺!
不吉なこというな!
正に今の俺がそんな感じになってるから!
しかしドンドン暗くなってく視界、明るくなる見込みが無さそうである。
嗚呼ちくしょう、こんな所で終わってたまるか――――
「田中ぁっ! 起きろおっ!」
ズトムッ!!!
「ふんゲッフ!!?」
その時俺の内臓に衝撃が走る――――!
なんてふざけれるレベルを遥かに超えた衝撃が俺に叩き込まれた。
リニスさんにやられて意識もボロボロなのに、この一撃で俺は完全にオダブツに……はならかった。
「あ、あれ……? 怪我が治ってる」
跳ね起きた俺は自分の体を見て目を丸くする。
何でだ? さっきまで体中痛かったのに、今じゃあお腹の鈍い痛みしか感じない。
学生服は破れたままだけど火傷の跡とかもキレイさっぱり無くなっているし。
「幽霊の怪我は『イメージで上書きをして治す』。今のはアタイが無理矢理『腹パンされるイメージ』を叩き込んでその傷のイメージをぶっ飛ばした訳さ」
「なにそのホ○ミ(物理)。って花子さん、ここは……?」
上半身を起こした俺の隣りには花子さんが立っていた、どうやら怪我を治してくれたみたいなんだけど、拳をパキパキ鳴らしながらだから俺の中の治療の概念がおかしくなりそうである。
あちこち首を回すと、見慣れた洋式便所が見えた。
どうやら聖祥の女子トイレに寝かされていたようだった。
ていうか外暗いんだけど、俺どんだけ長い間死にかけてたんだ……。
「あ! 太郎ちゃん起きた! 良かった〜……」
「…………。(イチジハドウナルカト)」
「目が覚めたようで良かったです」
テケテケさん達や異次元さんもいた、俺が目覚めたことに気づいて全員ほっとした顔をしている。
しかし……一体何で俺はここに……。
「びっくりしたよ! 恭也くんと遊んでたら太郎ちゃんいないことに気付いて、裏の森にいるって聞いてたから慌てて探して」
「…………(ナノハチャンダケ、ブジニカエッテキタケド)」
「ラップ音で私に連絡が来ましてね。花子さんと一緒に探したら、森の遥か上空でボロボロになっている田中さんを見つけた訳ですよ」
なるほど、また花子さん達に助けられた訳だな……。
うう、情けない……皆さんに足向けて寝れないぞ俺……、眠らないけど。
「で、田中。誰にやられた?」
「へっ?」
唐突に、ずずいっと花子さんは俺に顔を近づけてそんなことを尋ねてきた。
いや、尋ねる内容はおかしくないことなんだけど何か威圧感めいたものが……。
「えと、花子さん? どうしたんですか?」
思わず聞いてしまう俺。
花子さんは笑顔なんだけど、こう、さっき昔の記憶にあった士郎さんとおんなじような雰囲気が漂ってる。なにかマズいことしちゃったっけ?
えっと……リニスさんと一人で戦ったからとか……、それとも意識が朦朧としてる間に何か粗相があったとか!?
だとしたらそのことを謝らないと!
俺はすぐさま土下座に入ろうとして
「だ れ に や ら れ た? アタイの舎弟を! 死ぬ一歩手前まで痛めつけた! 自殺願望溢れるクソヤロウはどこのどいつだって言ってるんだよおおおおおお!!!」
「ひ、ひいいいい!!? すいませんでしたあああ!!!」
「は、花子ちゃんが本気で怒ったー!?」
「おちついてぐはっ!?」
花のような笑顔から一変、花子さんが鬼も裸足で逃げ出すぐらいの形相で、吼えた。
どんぐらい凄いかって気迫だけでテケテケさんも異次元さんもトイレの壁に叩きつけられるぐらい。
しかも俺に至ってはプレッシャーだけで体全体がプレス機にかけられたかのような感覚に指一本動かせなくなる。
「あ、がが……!」
や、やばい……!
俺のために怒ってくれるのは凄く嬉しいんだけど、プレッシャーが凄すぎて息が、できん……!(してないけど)
「わわわ太郎ちゃんせっかく助かったのにもう死にそうになってる!? 花子ちゃん抑えてー!」
「……、……!(ニクシミハ、ナニモウマナイゾ!)」
テケテケさんがそんな俺の様子をみて顔を真っ青にする。
ちなみに同じ都市伝説の異次元さんやテケテケさん達でさえも花子さんのプレッシャーは凄まじいものらしく、壁に押さえつけられはしないもののうまく動くことが出来ないようだった。
「抑えろ、だって? テケテケぇ……アンタよくもまあそんな事を言えたもんだね……!!!」
「ひっ……!?」
ぐるり、と花子さんはテケテケさんにプレッシャーの矛先を向ける。
テケテケさんは歯をガチガチと鳴らせ、今まで見たことのない怯えた表情に。
も……もうだめだ……おしまいだぁ……!
「元はと言えば、アンタが遊んでないでしっかりコイツと一緒にジュエルシードをみてたら、こんな事にはならなかったんじゃないのかい……?」
「ご、ゴメ、ごめんなさい……! 花子『さん』……!」
そのまま花子さんはテケテケさんの後ろへ回り脇を両腕でガッチリホールド、洋式トイレをバックにして――――
「や、やめ「職務放棄は! 天 誅!!!」いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ドッパアァァァン! と見事なバックドロップが決まった。
洋式トイレに顔を突っ込んだテケテケさんは、ピクリとも動かない……!
「さてトコトコ、アンタも何か言い残す事はあるかい?」
「……「問答無用ぉぉぉ!!!」……!?(ハナセバワカ、エエエエ!?)」
ドッパアァァァン! と本日2回目のバックドロップ、トコトコさんは犬○家みたいな感じで、トイレに沈んだ。
「……ふぅ。少しはスッキリしたね」
二人に制裁を加えて怒りが軽減されたのか、俺はようやくプレッシャーから解放された。
も……もう二度と花子さんを怒らせまい。
「さすが、『トイレの花子さん』ですね……。トイレの中なら神クラスに匹敵するんじゃないでしょうか……」
「マジですか異次元さん」
本当にもう怒らせない、大事なことなので二度いいました。
だからリニスさん、本当にごめんなさい。
貴女にボコボコにされた事とかまだ整理がついてないんで特に恨みもないんですけど…………。
「さあ田中、話せ。ダ レ ニ ヤ ラ レ タ ?」
ちょっと、命の保証が、できないかなー……と。
「っ!? 殺気!!?」
ゾックウウウウッ! と未だかつて感じたこともないような何かを感じたリニスは背筋をぶるりと震わせた。
こう、触れてはならないものに触れてしまったというか、取り返しのつかないことしたんじゃないかと不安になる感触だった。
「……き、気のせいですよね? あの人は何も出来ない筈ですから、問題ないですよね?」
実際は田中の傷も一瞬で治癒、その上もっと恐ろしい存在が牙をむけるかむけないかの瀬戸際にいるので全然大丈夫ではない。
幸か不幸かその事には気付けないリニスは、海鳴からそう離れていない、というか隣町にある高層マンションの一室で二人の教え子を見守っていた。
「アルフ、今日はありがとう」(助けに来てくれて)
「へ? あ、うん……?」(え、何の話? 思わずうんっていったけど)
ナデナデと自らの使い魔の頭をなで感謝の言葉を口にするフェイトだが、狼形態のアルフは全く身に覚えのない話にキョトンとする。
実はフェイト、ユーノのバインドを破壊した魔力弾を、アルフが自分を助けるために撃ったものと勘違いしているのだった。
「あの、フェイト? あたしは何もしてな
「あのままだと、私は今頃捕まってたし、そうなったらジュエルシードはきっと集められなかったと思う。だから、はい。アルフこれ前に美味しいっていってた……」
「そ、それはっ……! 『ワンダフルジャーキー・松坂牛風味』いぃぃ!」(全然全く見に覚えがないけど! いいのかないいよねイタダキマス!)
「アルフ……………」
ガサゴソとスーパーのビニール袋から犬用おやつを取り出したフェイトに、アルフは尻尾を千切れんばかりに振りながら飛びかかる。
嘆息するリニス、本当にそれでいいのかアルフよ。
「いただきまー……、あ……」
「? どうしたの?」
今まさにジャーキーにかぶりつこうと口を開いたアルフだったが、フェイトを見て動きを止めた。
そう、フェイトはこの世界に来てからというもののインスタント食品ぐらいしか食べていないのだ。
彼女は料理が出来ない訳ではないのだが、それもこれもジュエルシードを集めようとする母の為に料理をする時間すら惜しい、ということ。
そんなテスタロッサ家の事情の中、使い魔でしかない自分が主人を差し置いてコレを食していいのだろうか、とアルフは考えた。
見に覚えのない事だから尚更である。
「うーん……」と頭を悩ますこと30秒、フェイトは(あれ、これが好きじゃなかったのかな……)と不安になりそうになった時、アルフは口を再び開いた。
「…………フェイトも食べる?」
「ええっ! なんで!?」
「どうしてそうなるんですか……」
※ワンちゃん用のジャーキーは食べれないこともないけど美味しくはない。
犬の味覚は人より素晴らしいのかは知らないけど味がとんでもなく薄い、何で知ってるか?
お察し下さい、ヒントは作者は昔貧乏でした。
アルフのまさかの発想にリニスは(アルフにはもう少し教育が必要だったかもしれません……)とちょっとだけ後悔して、ため息をついた。
「問題だらけ、ですよね……」
彼女は自分の真下にいる教え子達を見て、一人呟く。
そう、問題ないことなんて何一つ無いのだ。
フェイト達の食事一つとってもそうだ、あのままインスタント食品ばかり食べていてはいつか体を壊してしまうだろう。
此方の事情を知る素振りを見せた、正体不明の黒い青年もいる、敵か味方なのかすら分からないがあれだけ痛めつけたのだから次に会うことがあれば間違いなく敵対している筈。
プレシアとフェイトの仲も、絶望的といえる。
プレシアは最早フェイトの事を娘と見ない所か、憎しみをぶつける人形としか見ていないのだから。
そして今一番の危険は、本調子ではないとはいえフェイトを捕まえた白い少女とスクライアの少年。
リニスも間近で二人の実力を見たが、白い少女の戦闘センスは恐らくフェイトに匹敵しうる。
どう考えても、状況は悪い方に傾いている。
しかし、自分にはどうすることも出来ない。
消滅してから、約束通りリニスはこうしてフェイト達を見守っている。
自分がどんな状態なのかは分からなかった、だが初めは喜んでいた、『約束を守れる、あの子達の傍にいてあげられる』と。
しかし、現実は見守る『だけ』しかできなかった。
フェイトやアルフがロストロギアを求めて危険な場所で戦っていても。
プレシアが本当は何を求めているのか、真実を知っていても。
フェイトやアルフが寂しい思いをしていても。
何も出来はしなかった。
彼女の声は二人に届かず、思いは主人に伝わらず、寂しさに震える教え子達を抱きしめてやることも出来ない。
『貴女も、分かっている……ハズだ。上手くいかない、事を』
「――ッ」
田中の言葉を思い出してリニスは拳を固く握りしめる、生きていれば恐らく血が出る程に、強く。
「分かっていますよ……。でも、どうすればいいんですか。私に何が出来るんですか……!」
リニスの言葉は、苦悩は誰にも伝わらなかった。
「フェイト、そんなにその魔導師達は強かった?」モグモグ
「うーん、多分、油断してなかったら大丈夫だと思うけど、二人いるから……」モグモグ
「ならあたしとフェイトで楽勝だって! なんせあたし達は『名コンビ』だからね!」モグモグ
(ジャーキー最高おぉぉ!)
(薄いなぁ……味。でもアルフがくれたからちゃんと食べないと)
「……ホントにどうすればいいんですか」
とりあえず犬用ジャーキーを食べるフェイトを、どうにかしたかった。
一方その頃、件の白い少女とスクライアの少年、なのはとユーノは寝室にいた。
「ごめんなさいユーノくん」
「すごい見覚えのある光景なんだけど、気にしなくてもいいよなのは。いきなり傷に触っちゃった僕が悪いんだから」
無事にジュエルシードを回収し家に帰れば、そこにはフェレットに土下座をする小学生の姿が!
2度ネタはよろしくない気がするが、いきなり触られてパニックになっていたとはいえディバインバスターをユーノにぶち込んでしまったんだからしょうがない。
(うう……。ホントになんで攻撃しちゃったんだろ……。こう、人間のユーノくん見てたらなんだか顔が熱くなっちゃって……)
(よっぽど痛かったんだろうな。今度から一声かけて治癒魔法を使おう)
もっとも、触った方は触られた方がパニックに陥った理由を勘違いしてしまっているのだが。
しかもなのはも無自覚ときている、テケテケが見たらさぞ喜び勇んでからかいだすだろう。
「ほんとうに私、ダメダメだよね……」
「そんなことない! なのはがいなかったら今までのジュエルシードは回収できなかったよ!」
ユーノが励ますものの、治療してくれようとしていたユーノを攻撃してしまったなのはの落ち込みようはかなりのものだった。
『ズーン……』と負のオーラがたちこめるほどである。
「ううん、今日だってユーノくんがあの時守ってくれなかったら……
『なのはを傷つけるな。体も、心も。』
…………」ボンッ!
「なのは大丈夫!? 顔が真っ赤だよ! 熱でもあるの!?」
惜しい、恋の病再発である。
つい、ユーノの勇姿(イケメン度3割増し、思い出補正で7割増し)を思い出してしまい暗かった表情を真っ赤にかえるなのは。
その後復活するのに10分かかりました。
「さあユーノくん今日出会った魔導師の子の対策を話し合おっか」
「ちょっと待って、何事もなかったようになってるんだけどやっぱり治癒魔法をかけた方が
「いいから! ホントに大丈夫だから言わないで思い出しちゃうからっ!」
もう既に『治癒魔法』の単語を聞くだけでパニックに陥りかけるなのは。
元々こうして起きているのは、今回ジュエルシードを狙って来たと思われる魔導師について話し合うつもりだったのでこのままだと何時までたっても本題に入れない。
決して、けっしてごまかすためではないが、なのははユーノに自分の体調は万全であることを無理矢理納得させ、話し合うことに。
「うーん……ホントに大丈夫なんだよね? 寒気とかしないよね?」
「大丈夫っ! よくわかんないけど寧ろ暑いぐらいだから!」
それはそれでまずい気がするんだけど、とユーノは思いはしたがなのはの鬼気迫る表情(照れ隠し)に免じてスルーした。
「じゃあ……、あの子は多分、いや。間違いなく僕と同じ世界の人間だよ。それもかなりの実力者だ」
「ホントにあの女の子凄かったよね。ユーノくんやレイジングハートと魔法の練習やってなかったら多分何も出来ずにやられちゃったと思うの」
なのははフェイトの速さを思い出す、完璧なタイミングだった追撃を同じく完璧にかわしてみせた驚異的なスピード。
初めからあの速度で来られていれば恐らく自分は一撃で倒れていただろう、と推測する。
「あと、ジュエルシードの危険性を知っている上で狙っている。かな」
「どうしてジュエルシードがいるんだろう……?」
なのはは首を傾げる。
今までジュエルシードを幾つか封印しているからこそ分かるのだが、あの青い宝石はどんな願いであれ最終的には暴走を起こしてしまう危険物なのだ。
そんな代物を一体何の目的に使うのか、二人は見当もつかなかった。
「そもそもジュエルシードがこの世界に散らばってることも、公には知らされてない筈なんだ。この世界は魔法との交流が無いからね、迂闊に僕たちの世界も干渉しないし……」
うーん、と頭を抱えるユーノ。
フェイトが何も話さなかったために情報が得られなかったから仕方ないのだが。
「えっ、じゃあなんであの子はジュエルシードがこの街にあるなんて知ってるの?」
当然の疑問が浮かびなのはは首を傾げた。
だがやはり、これにもユーノは「……分からない」と首を横に振るしかない。
「このことを知っているのは、時空管理局っていう警察みたいな組織しか知らないと思うんだけど。ジュエルシードはロストロギアっていって現在は使い道が分からない古代の遺失物なんだ、ジュエルシードの運搬も管理局がやってくれてて…………あ」
「?」
ピタリと、ユーノの動きが止まった。
『管理局が運搬していた』そのことに思い当たった瞬間、閃いたのだ。
「も……もしかして彼女は、ジュエルシードを運搬していた管理局を襲撃した……テロリスト……?」
「えぇえぇぇえ!!?」
とんでもない勘違いの幕開けである。
確かにジュエルシード運搬中に管理局の船は何者かに襲撃、または事故にあってはいるのだが。
「テっ、テテテテロリストはないとおもうんだけど!?」
「でも、他にこの事を知ることが出来るのはジュエルシード運搬に関わった人か、僕の部族しかいない筈なんだ。それ以外だともう、そうだとしか……」
「それでも違うと思う! 全然あの子の事は知らないけど多分そんな子じゃないから! 私に攻撃してきたときも『ごめんね』っていってたもん、きっと本当は優しい人だよ!」
余りにも突飛すぎる考察になのはは『それはない』と否定。
結局、『まだ直接お話してないから、変に邪推するのはだめだとおもうの!』ということでフェイトの正体については保留という事になった。
「で、後は……僕のバインドを破壊した、『姿の見えないもう一人の魔導師』なん……だけど……」
段々と小さくなるユーノの声、本当はこのことは言い出したくなかったのだ。
恐る恐る、なのはの顔をみる。
「……………ッ!」プルプル
(ああ、やっぱり思い出して本当は怖いのを我慢してる……。すっごい泣きそう、今夜も添い寝かな……うう)
がくり、とユーノはうなだれる。
同年代の、しかも美少女とここ最近毎晩ベッドのお供をしてるのでそれはもう体力的にも、精神的にも限界が来そうなのだった。
ちなみに体力的に大変なのは悪夢にうなされたなのはが放つ『全力全開☆助けてホールド』、一晩中呼吸困難になります。
精神的の方は悪夢から助かったなのはが『ユーノくん……ありがとぉ……えへへ』と自分の耳元で囁き頬ずりをしてきます。
勿論なのはは寝ている、悪夢の中ではユーノが助けたらしいのだが当の本人は理性と本能の狭間で死闘を演じている。
9歳じゃなければアウトだった。
「じゃ、じゃあ今まで出しあった情報をまとめてみようか」
とりあえず、話し合いがひと段落ついたのでユーノは例の少女についての考察を出すことにする。
・少女は間違いなくユーノと同じ異世界出身である。
・かなりの実力者。今回は何とか勝てたものの、なのは一人では今のままでは勝つことは難しい。・ジュエルシードの事を知っているうえで狙ってきている。情報源は不明。
・テロリスト、かも?
・名前も分かっていない。
・あと姿無き協力者がいる……?
「こんな感じかな」
「分からないことだらけだね……せめて名前だけでも教えてほしかったな」
情報が少なすぎだった。
今日会ったばかりで名前すら分からないのだから当たり前なのだが。
そのまま対策は浮かばず終いになりそうな雰囲気になってしまう。
――――しかし、このままで終わらせない『モノ』がいた。
〈安心してください、二人とも〉
「「レッ、レイジングハートさん!」」
そう、困った時のレイジングハートさんである。
赤くて丸いボディーを自信に溢れた様子でチカチカ光らせる彼女は、ユーノとなのはを導く頭脳派リーダーなのだ!
「もしかして、あの女の子の事が何か分かったの!?」
〈ええ、勿論ですとも〉
「なんかもうレイジングハートさんが凄すぎて僕必要かなって思っちゃいそうだけど、流石レイジングハートさん!」
人間であれば恐らく胸を張ってドヤ顔であろう彼女は、今の今まで沈黙の中考察していたことを堂々と告げる!
〈まず今回戦った彼女ですが、ミッドチルダ式の魔導師で私と同じインテリジェントデバイスを所持し、高速戦闘を得意とする完全なスピードファイターです。遠距離からの鋭く、早い砲撃で相手を牽制、そこから瞬時に接近して圧縮魔力刃で攻撃することを最も得意としているようで攻撃に関しては並の魔導師なら瞬殺される程の達人でしょう。また例えその攻撃で相手が倒しきれなかったとしてもその驚異的なスピードで一瞬にして離脱、つまり一撃離脱が彼女の戦闘スタイルといえます。マスターとは恐らく魔力量以外真逆の存在ですね。戦闘センスならマスターも負けてはいませんが経験なら彼女の方が上手、今回は真の実力を発揮していなかったと思われますが次回はこうはいかないでしょう。しかしマスターにも勝機はあります。確かに彼女は攻撃と回避にかけては一流ですがマスターの防御、強靭さはそれに劣らぬ頑丈さを誇り、砲撃に関しても威力は申し分ありません、寧ろ十分すぎます。これは私の予想ですが彼女が回避をするのは、逆にいえば防御に自信が無いということの裏返しです、つまりマスターの砲撃なら一発一発が彼女に対して有効打となるはずです。となると今後の課題は如何にして砲撃を当てるか、その一言に尽きます。いくら威力が高くとも当たらなければどうということもありませんからね。というわけで明日からの訓練は動きを封じるバインド、または攻撃を確実に防いでからのカウンターを重視したメニューに変更することをオススメします。ただし、ある程度の速度も欲しい所なので飛行魔法の方も疎かにはしないように。それと実戦形式に近くなるよう出来るだけ元マスター(ユーノ)は人間形態でいてくれるようお願いします。あとは私にお任せください。既に導き出してますから――――彼女に勝利するための戦術を〉
「「ごめん、よくわかんなかった」」
導き出しすぎていた、アニメでいえば終盤もいいところまでレイジングハートさんは進化していたらしい。
というか全て戦闘関係の話だったし、まあフェイトとは戦いしかしてないから当たり前と言えば当たり前なのだがそれにしても分析しすぎである。
「いやいやいや! 何か早すぎる気がするの! もう少し話し合う方向で穏便に済ませられないのかなぁ!?」
〈ああ、それと姿の見えない魔導師は元マスターがどうにかして下さい〉
「そっちは僕に丸投げなんだ!? 30文字にも満たない作戦だよ!?」
(ああっ!? せっかく忘れそうだったのに! どうしよ……もうユーノくんと一緒に、その、お、おやすみなんてできないよ〜! で、でもお化け怖いし、絶対あれもひっ、人魂だし〜! ううう〜〜〜〜!!!)
「なのはどうしたの!? 顔がさっきから赤くなったり青くなったりしてるんだけど具合悪いなら治癒魔法を
「ふにゃああああああっ!!?」
「なのはが壊れたー!!?」
その晩は結局同じベッドに寝たものの、なのはもユーノも悶々として互いに寝不足になったのは言うまでもない。
その頃、聖祥の女子トイレ。
「お願いします、花子さん! もう一度俺に戦わせてください!」
「田中……アンタ本気で言ってるんだね……?」
あれから僅か0,1秒でリニスさんと何があったかゲロった俺は、早速リニスさんをフェイトちゃんのいるビルごと焼却処分しようとする花子さんを止めるため、決死の土下座をしていた。
花子さんの前に(土下座だけど)立ちふさがっているので、ぶっちゃけ体は恐怖でガッタガタに震えていた。
嫌な汗しかかかないぜ……!
「負けて悔しいっていう気持ちはわからないこともないけどね、はっきり言わせてもらうよ。『アンタは甘い、だから絶対に勝てない』」
「――ッ」
頭上から花子さんの厳しい声がかかる、表情は見えないが声音だけでどんな顔をしてるかは分かっている。
この人はいつだって俺の先生で、恩人だから、俺を心配して言っているのが分かる。
「その『リニス』が『原作キャラ』だから、アンタは多少はそいつの人柄とか事情を知って同情してるんだろうけど、よく考えてみな。アンタは一回殺されかけたんだよ? アンタは相手を知ってても相手からは他人なんだ、容赦も情けもかける必要はどこにもないんだ」
違う、違うんだ花子さん。
俺は別にリニスさんに同情してるわけじゃないんだ、負けたからリベンジしたいわけじゃないんだ。
「ほっとけないんですよ……!」
「ん?」
勇気を振り絞って、声を出す。
この人なら、花子さんなら絶対にわかってくれる。
そう確信して、俺は顔を上げた。
自分の思いは正直に!
伝えたい言葉は相手の目を見て話す!
「リニスさんを見てると他人事に思えないんです! あの人の目は、俺と同じだったから! 3年前『ほっとけない』っていう理由で貴女に救われる前の、俺と!」
「っ!?」
花子さんは俺の言葉に目を見開き驚いていた。
そう、勝ちたいんじゃない、ましてや殺したいわけじゃない俺は単に――――
「戦うことになってもいいから、リニスさんを説得して分からせてあげたいんです! 『死んでいても、何かができる』って!」
――――目の前の師匠に似て、どうしようもなくお人好しだったというわけだ。
オマケ
「ゴポゴポ」(異次元おじさーん、抜いてー!)
「……、……!(コノアト、ヨウジガアルンダ!)」
「ゴポポポ」(そうなんだよ! すずかちゃん家わたしのせいで半壊しちゃったからこれから直しにいかないとー!)
「何をやってたんですか貴女達は……」
※しばらく反省のため1時間は放置されました。
説明 | ||
大変長らくお待たせしてしまいました、最新話です! 今までちまちま書き終えた話を上げ続けるのはおしまいです。 TINAMIでのソウルフル田中、始まります。 そしてレイジングハートさんがチートの塊という回。 |
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2169 | 2006 | 2 |
コメント | ||
ノッポガキ様、感想ありがとうございます! 某所で書いていたころから、そしてこちらでも感想を書いていただき感謝の極みです(泣) この作品のシリアスは、大概ギャグの為の伏線ですので次話で崩壊します。(タミタミ6) なのはが暴走(笑)しているなぁー。田中たちはシリアスなので温度差がありますね。 新話面白かったです。(ノッポガキ) |
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