夜天の主とともに  13.八神家の胃袋を守れ
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夜天の主とともに  13.八神家の胃袋を守れ

 

 

 

健一side

 

いつも楽しげな空気が漂う八神家。

しかし今日は違った。

 

リビングが暗い中、食卓のテーブルの真上だけ電気がついている。

そこにシャマルさんを除いた3人、シグナムさん、ヴィータ、ザフィーラさん(椅子にお座り状態)が真剣な表情で座る。

向かい合うようにしてはやてが指を組んで口元に寄せている。そして俺はその後ろに控えるようにして立っている。

 

「今回の議題はあの『ポイズンクッキング』や」

 

「「「はっ!!」」」

 

真剣みを帯びた声で返事をする三人。

 

「しかしはやて司令、我々にはあれを止めるすべはありません」

 

シグナムさんが代表して現状を語る。

 

「だそうだが、……どうするはやて」

 

背後で俺が言うとはやては一度目を閉じた。そしてゆっくりと開いて言った。

 

「これより‥‥‥『八神家胃袋補完計画』を発動する!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 

 

「なぁ言われた通りやったけど今のなんだったんだ?」

 

ヴィータが部屋の明かりをつけた。

 

「こういうのは形から入るのが大事なんだぞ。なぁはやて」

 

「そやで、ヴィータ」

 

言わなくても分かる人はわかると思うが今やっていたのは『エヴァ○ゲリ○オン』でのい○り司令が人○補完計画を発動するときのことをまねてみたのだ。はやてがいか○司令で俺がふゆ○きさん、シグナムさんたちは局員と言った感じだ。

って俺誰に説明してるんだろ?

 

「それで主はやて、『八神家胃袋補完計画』とはどういったものですか?」

 

「シャマルがいないのも気になるな」

 

シグナムさんとザフィーラさんが疑問を口にしていく。

 

「みんな数日前を覚えとるやろ?あの想像を絶する『アレ』を……」

 

「‥‥ええ、あれは確かに」

 

「あたし死ぬかと思った」

 

「あれには守護獣の私も歯が立たん」

 

思い出したくもないものを思い出したせいかそれぞれ顔を青くする。

 

「でな。シャマルには台所には立たせないって言うのも考えたんやけど…」

 

「あえてその逆を‥‥つまり料理をさせることにし。」

 

その瞬間死刑宣告でも受けたかのような顔をして猛抗議をしてきた。それを慌てずはやてが鎮め、先を促す。はやてに感謝しながらそのまま話を続ける。

 

「何も対策を立てないわけじゃない。そもそも『アレ』ができてしまったのは料理の知識もなくやったこともないのに一人でやらせたからだと俺は思ってます」

 

「で、けん君が考えた方法ていうのはいたってシンプルでな。私とけん君が教えるっちゅうことや。これなら間違いをしたら私とけん君で止めればええからな」

 

「確かに‥‥」

 

「うむ」

 

納得してくれたようだ。でもヴィータが反論した。

 

「でもよぉ、それでも失敗したやつはどうすんだよ?捨てるのか?」

 

「いや捨てるのは食材に失礼だ。食材だって好き好んでそうはなりたくなかったはずだ。残さず食べる」

 

あの卵たちとて本来ならきれいな卵焼きへと姿を変えそのおいしさに舌鼓打たれるようなものになるはずだった。シャマルさんには申し訳ないがもう二度とあのようなものを生み出さないためにも必要不可欠だ。

 

「誰が食べるんだよ、あたしらはいやだぞ」

 

記憶に深く刻み込まれているのかぶるりと体を震わす。その言葉に全員が頷く。それほどの恐怖を味わったのだから無理はない。

 

「それはわかってる。そうなった場合は‥‥‥俺が食う!!これははやてとも確認済みだ。異存はないですね?」

 

異存などあるはずもなく全員頷く。‥‥正直一人ぐらい否と言って欲しかった。気持ちわからなくはないけど……

 

「では‥‥ミッションを開始する!!」

 

 

 

 

 

 

 

≪パート1 注意書き通りにやらせてみよう≫

 

シャマルさんにところどころ事実を省いて台所へ呼んで始めた。

 

「まずはレトルト食品のカレーから始めます」

 

「は〜い!」

 

俺個人としてはレトルトは料理と呼べないのだが説明書きも書いてある。これなら間違えようがないだろう。なにせやるべきことが丁寧に書かれているのだから。

 

「この袋に書かれてある手順通りにやってくれますか?」

 

「これの通りにすればいいのね?そんな簡単よ」

 

「いいですか、手 順 通 りですよ!!」

 

「は〜い」

 

 

 

――――10分後

 

 

 

「召し上がれ♪」

 

「‥‥‥‥‥‥(ダラダラ)」

 

おかしい。目を離さずにルーが出来るまで確認してから席に座ったはずなのに目の前に置かれたカレー?は茶色ではなく虹色になっている。

 

恐る恐るルーをスプーンで軽く混ぜると毒々しい感じのマーブルになった。思わずうっ、と言ってしまった俺は悪くないと思う。

 

(ルーが出来てからやけにこっちに来るのが遅いと思ったが。となると可能性はひとつ‥‥)

 

「シャマルさん‥‥まさかですけど……もしかして最後に何か入れました?」

 

「あんまり簡単だったから最後にちょこっと手を加えてみたの♪」

 

どうちょこっと手を加えれば虹色のカレーができるのか。横を向くとシャマルさん以外の全員がソファーに隠れてこちらを見ている。自分で言ったので仕方ないがやはり助けはないようだ。

 

「‥‥いただきます」

 

俺はゆっくりとした動作で口へと運んだ。直後何かが体中を駆け回り気絶した。

 

 

 

――――俺蘇生中

 

 

 

 

 

 

 

 

≪パート2 直接教えよう≫

 

一瞬仕事さぼって昼寝してる赤髪巨乳の死神が見えた気がする。

やはりいかに手順通りにやらせようと一筋縄ではいかないようだ。ならばと今度は俺が直接教えることにした。

 

「つ、次は焼きそばを作りましょう」

 

「は〜い♪」

 

 

 

――――20分後

 

 

 

「召し上がれ♪♪」

 

「(あるぇ〜?)」

 

おかしい。確かに乗せるのにちょうどいい皿をとりにほんの数秒離れた。でもそのほんの数秒で焼きそばというものは青くなるものだろうか。

 

「‥‥‥‥ふぅ〜。‥‥っしゃぁ逝きます!!」

 

 

 

――――再び俺蘇生中

 

 

 

 

 

 

 

 

≪パート3 一人がだめなら人数増やせ≫

 

今度は緑髪の閻魔様が巨乳の死神を説教させてるのが見えた気がする。次こそ川渡れれるんじゃないかな。

 

ほんの一瞬でも目を離すとシャマルさんは料理をハザードへと変貌させるのでシグナムさんとヴィータにも監視を頼むことにした。ザフィーラさんは料理に毛が入るといけないので待機。教えるのは俺とはやてだ。

 

「や、焼きそばはきっと難易度が高かったんやな。ということで次は」

 

「‥‥‥‥‥味噌汁です」

 

「は〜い♪って健一君大丈夫?顔色悪いわよ」

 

「‥‥‥‥‥大丈夫です、やりましょう」

 

もうこの際これでいい。これなら味噌水に加えて油揚げと豆腐を入れればできる。ほんとは煮干しの出汁など本格的にやろうとしたらいろいろあるけどそういうの省く。

 

つーかこれ以上は俺の身が持たん、けっこう本格的に。

 

「じゃあシャマル、まずは白味噌を入れてな「ちょっと待った」なんやけん君?」

 

いまこいつはなんて言った?白味噌だと?馬鹿なことを言っちゃいかん。

 

「‥‥味噌汁は赤味噌ってのが相場だろ?」

 

「ハァ…何を言うとるん、味噌汁言うたら白味噌や!」

 

「いいや赤味噌だ!」

 

またもや口論が始まりお互いの頬を引っ張った。

 

「ふぁ〜な〜ふぇ〜!!(は〜な〜せ〜!!)」

 

「ほっひがはなひぃ〜や〜!!(そっちが離しぃや〜!!)」

 

「ふんふんふふ〜ん♪」

 

それを黙って見ておくわけにはいかずシグナムさんとヴィータが止めた。

 

「はやて落ち着けよ」

 

「健一お前もだ。今はそんなことを立っている場合じゃ「あとは温めるだけね♪」はっ!?」

 

その無慈悲な言葉に全員がゆっくりと向くとすでに何かを入れ終わっている。喧嘩してる場合ではなかったのだ。俺はとても状態を見る気にはなれず待つことにした。

 

そして数十分後に運ばれてきた味噌汁を恐る恐る見ると普通のが来た。色も匂いも普通だ。

 

これにはみんなもおもわず感嘆の声を上げる。やったと思いながら一気に飲み干した。そして結局気絶した。

 

 

 

――――またまた俺蘇生中

 

 

 

まだ閻魔様が死神に説教してた気がする。長々とよくやるよなぁ。

でも、今はそんなことどうでもいい。正直に言おう………これ以上は無理です。見た目・匂いは大丈夫なのに味だけハザード‥‥なんかグレードアップさせただけな気がする。

 

机に突っ伏してボーッとしているとコトッと音がしたので顔を上げる。

 

「疲れてるならこれ食べて」

 

シャマルさんが差し出したのは卵焼き。一番最初のとは違い色と匂いは大丈夫そうだがきっと味噌汁と同じだろう。もう殺しにかかているとしか思えねぇ。

 

俺は震える手で卵焼きの一切れを掴もうとした。すると横からスッと手が伸び俺の手を止めた。

 

「もういい健一、十分だ。その気構えだけならすでに立派な騎士だ」

 

「お前はよく頑張った。これ以上はよせ」

 

「それでも食うってんなら‥‥あたしらも食う」

 

「けん君ばかりに辛い思いはもうさせへんで」

 

口ぐちに言うと一人一切れ摘まんでいき、皿の上には一つを残してなくなった。

 

「みんな‥‥」

 

思わず涙が出そうになった。これが家族の絆というものだろうか。最初はぎくしゃくしたけどここにきてついに一つになった気がした。

 

「ありがとう‥‥みんな。じゃあ一緒に…」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

『八神家胃袋補完計画』

 

結果報告

シャマル作『ポイズンクッキング』は『ポイズンクッキング・改』へ進化した。

 

結論

今後シャマルには絶対に料理をさせてはいけない。

 

 

 

 

 

「私悪くないもん!!」

 

その日の八神家は一人を除いては誰もいないかのように静かだったという。

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