インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#65 |
[side:箒]
「やほ。」
((射出台|カタパルト))に着いたら、空が居た。
正確には、((滞空|ホバリング))していた。
「………」
「む、母様?」
「あれ、どうしてこんなところに居るんだ?」
簪は予想外の展開らしく口をパクパクとさせるだけで、一夏が他の全員が持っているであろう疑問を代弁してくれた。
「もう忘れちゃったのかな。僕の所属は槇篠技研で、学園の依頼で教師として派遣されてるんだけど。」
ああ、そういえばそうだったな。
「あら、態々降りて来てくれたの?」
「白々しいですよ。『降りて来い』って通信入れたのは誰だか忘れたとは言わせませんからね。」
言動の節々に棘が見てとれるから少々不機嫌らしいな。
ガチャン、とまるでISのような着地音を立てて空は地面に降り立つ。
「ところで母様。その格好は?」
ラウラが睨みあう空と槇村さんの間に言葉を挟んだ。
「ああ、これ?これはIS技術を応用した飛行用パワードスーツ。」
「((飛行用|飛ぶための))」
「((強化外骨格|パワードスーツ))?」
ラウラとシャルロットがオウム返しのように空の言葉をなぞる。
「まあ、説明するよりは体験した方が早いかな。ついて来て。更衣室に案内するから。」
それからの数分間は…とりあえず、『一夏が物凄く居心地悪そうだった』とだけ言っておこうか。
「ん、布仏が居ないぞ?」
更衣室を出て簪が連れてきたハズの布仏が居ない事に気がついた。
確か一番後ろをトロトロとついて来ていたハズなのだが…
「迷子になったのかな?」
ん?
簪があんまり心配していない?
それだけ信頼しているという事なのか、何度もあって慣れているのか…?
「それじゃあ僕の方から副所長に連絡を入れとくよ。」
そう言いながら壁にある受話器(おそらく内線だ)で布仏の件を伝える。
それが終わってこちらに向き直った空はにやり、とまるで千冬さんのような獰猛な笑みを浮かべて宣告した。
「それじゃあ、砲弾の気持ちを味わってみようか。」
((犠牲者|イケニエ))は――満場一致で一夏に決まった。
* * *
[side: ]
『ん、布仏が居ないぞ?』
「ありゃりゃ、もう気付かれちゃったか。居ても居なくても気付かれない程度に気配を消してたんだけど…流石しののん。」
簪自身が所持している盗聴器から届けられる『級友たち』の様子に本音は苦笑いを浮かべた。
「さて、((お目当ての場所|メインバンク))は―――っと。」
苦笑いを浮かべながらも、その眼光は鋭く正に『((諜報員|スパイ))』さながら。
奥へ奥へと暗い中を進んでゆく。
今の本音を見て、普段の眠たそうにしている様子やのほほんとした雰囲気を醸し出している事など欠片も想像できないだろうし、一夏たち級友が出会ってもすぐに『誰なのか』を判別できないだろう。
「あったあった。((中枢演算室|メインバンク))。」
電子的なロックの掛けられた扉を開けようと端末部に手を伸ばした時、
「あらあら、よくここまで入ってこれたわね。」
圧縮空気の音と共に、扉が開いた。
扉の向こう側に居たのは、一人の女性だった。
本音は瞬時に『いつもどおり』の雰囲気を纏いなおす
「んー、道に迷っちゃったかなー。」
あたかも『道に迷ってうろうろしていたら辿り着いた』を装う本音。
だが、
「要らない演技はしなくていいわよ。わざわざここまで入り込んできた訳だし。―――駆け引きは苦手だから単刀直入に聞かせてもらうわ。目的は?」
「だから、道に迷っただけでー。」
「そう。それじゃあ向こうに戻れば外に出られるわよ。次からはちゃんと表示は読みなさい。『関係者以外立ち入り禁止』って書いてあるのは特に。」
「わかったー。………ところで、ここでなにしてるの?」
「………流石、更識の子飼いだけはあるわね。」
「………」
言い当てられた事に内心驚きつつも平静を保つ。
「あら、意外かしら?―――対暗部用暗部組織『更識』十八代((当主|楯無))……更識簪の従者さん?」
「ッ!」
「あら、そこまでは知られてるとは思ってなかったみたいね。」
「………」
「それじゃ、ここに何の用があって来たのか、喋ってもらえるわよね?」
どうするべきか、数瞬の逡巡があった。
「………」
本音が対処を決めたその瞬間――
ずん……と腹の底から響くような轟音と震動が襲いかかって来た。
* * *
『ソレ』に真っ先に気付いたのはラウラだった。
「!――みんな、散れッ!」
「ッ!」
ラウラの声が先か、空の行動が先か。
瞬時にISの物理シールドを展開して一夏たちを庇うような体勢を取る空。
その直後に高出力レーザーがシールドの表面を焼いた。
「ISを展開しろ、応戦準備だ!」
本職が軍人であるラウラが声を張り上げて『襲撃』という緊急事態に混乱している仲間たちを引っ張る。
「わ、わかった!」
「ああっ!」
めいめいに返事を返しつつISを展開。
上空に居る『敵』の姿を捉える。
長大なライフルを手にした鮮やかな濃いブルーの装甲の機体。
頭部を覆うバイザー上のパーツは強化センサーの類だろうか。
「ブルー・ティアーズ!?」
「そんな、まさか!」
その機体があまりにも似ていたが為に一夏は思わず言う。
「セシリア、知っているのか?」
一夏とほぼ同時に驚愕の声をあげたセシリアにラウラが問う
「―――『サイレント・ゼフィルス』。((BT兵器搭載型機|ティアーズ型))の((二号機|いもうと))ですわ。完成間近と聞いては居ましたが……」
「…どうやら、厄介な事になってる様だな。」
イギリスから強奪されたか、あるいはこの襲撃自体にイギリスが関わっているかしているのだろうと考えるラウラであったが、それらの思考を一度捨て頭を戦闘に切り替える。
機動戦を仕掛けるか、砲撃を仕掛けるかに思考が差し掛かった時に全員に向かって通信が入った。
「こいつの相手は((薙風|ぼく))と((打鉄弐式|かんざしさん))、((ブルー・ティアーズ|セシリア))、((甲龍|リン))。残りは地上に降りて別動隊に警戒。いい?」
空からの指示にラウラは一瞬思案する。
「…別動隊が居るという根拠は?」
「態々ISで襲撃する理由が無い。…こんなふうに襲撃をかけるとしたら、囮か、策なしか…」
確かに、とラウラは内心で納得できた。
施設制圧ならば歩兵部隊が必須だし、施設破壊ならば高高度からの爆撃でもすればいい。
『ハイジャックした航空機を体当たりさせる』という一昔前にあったテロ事件のように大質量をぶつけるのもアリだ。
その手の大々的な活動が出来なくとも職員に紛れ込んで潜入し爆破するとか、いくらでも『やり様』というものは存在する。
むしろ『ISで襲撃する』という行為は『迎撃のISをおびき出す』くらいの結果しか残らない、悪手とも言える。
だが、『おびき出す事』が目的ならば………?
判断したラウラは「了解。行くぞ、一夏、箒、シャルロット」と短く答えて地上へと向かってゆく。
「さて、それじゃあ―――」
やるとしますか。
その一言と同時に((全身装甲|フルスキン))となった薙風の装甲が開く。
空に倣って簪も打鉄弐式の十二連装ミサイルランチャー"山嵐"を四基すべて展開する。
「それじゃあ、折角のお客さんには存分に楽しんでもらうとしようか。」
二機から放たれる大量のミサイル。
その量に自分に向けられたものではないとはいえ鈴とセシリアは思わず顔が引きつった。
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補足
簪が『第18代の楯無』になっているのは
・『更識』は日本の対暗部用暗部
・生徒会長の楯無さんは自由国籍で現在はロシア国籍(ロシアの第三世代機持ってる、ロシア代表だし)
そんな『外国籍の人間に暗部組織の長をやらせるなんて普通はしませんよね?』って事が理由です。
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