インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#66
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「ちっ…防がれたか。」

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者―エムは舌打ちと共に思考を狙撃から通常戦闘に切り替えてライフルを構え直す。

 

襲撃をかけようとしたら何かが空を飛んでいたので念の為に打ち落とそうとしたら『飛んでいた何か』がISに姿を変えた。

「スコールめ、情報とは違うじゃないか。」

 

ハイパーセンサーで捉えた『敵機』の姿を見てエムは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

 

「最新鋭機が五機に現役の改修機が三機か。」

 

流石に、数の暴力は厳しいモノがある。

「だが、やれない事は無い―――ん?」

 

白、赤、黒、橙の四機が地上へと降りてゆく。

 

「……成る程。向こうの((指揮官|リーダー))はこっちの思惑を察したようだな。」

 

降りて行った四機は何れも近接戦が得意か汎用性の高い機体。

恐らくは地上から侵入するオータムの対処に当たるつもりなのだろう。

 

「せいぜいオータムに苦労してもらうとするか。」

 

相手がなにやら量子展開している事に気づきエムは気を引き締めておく。

 

「―――んなぁっ!?」

 

どこにそれだけの数が格納されていたんだと思いたくなるような数のミサイルがエムのゼフィルスめがけて向かってくる。

 

しかもサイズは色々、まっすぐ飛んでくる物、少し外れて飛んでくる物、見当違いの方向に飛んでいくものと様々だ。

 

 

アラート、アラート、アラート。

 

これでもかと『正面方向からの高脅威度動体の接近』を告げるアラートが届けられる。

 

「ああもう、うるさいっ!」

 

エムはアラートメッセージを黙らせ正面に広がるミサイルの壁に立ち向かう。

 

厄介なのはまっすぐ飛んでくるミサイルを避けようとすると少し外れて飛んでくる物に当たりに行く形になることだろう。

 

数が多くて厄介だが、落とすしかない。

 

そう判断してエムはビットも全機を展開。

 

『((散弾銃|ショットガン))でもあればいいのに…』と無いもの強請りの思考をしつつライフルとビットを乱射してミサイルを落とす作業に入る。

 

優先的に落とすのは真っすぐと自身に向かってくるミサイルのみ。

見当違いの方向に飛んでいく不良品は放置だ。

 

とにかくトリガーを引き続け、レーザーを乱射させる。

一発一射ではいくらエネルギーがあっても足りないから、ビットのレーザーは当然偏向させ一発をなるべく長く使う。

 

 

絶え間なく広がる爆炎。

 

盲撃ちで爆炎をはさんだ反対側にいる相手に((大型ライフル|スター・ブレイカー))放つが恐らく、命中はしないだろう。

 

案の定、爆炎を裂いて行く弾丸は―――何かに命中したらしく轟音を響かせた。

 

「――――エ?」

 

エムの耳にはそれは爆発音にしか聞こえない。

 

それもつい先ほどまで散々聞いてきた『あの』音だ。

 

 

イヤな予感しかしなくて、正直逃げたい気持ちでいっぱいになるがエムは己を奮い立たせて爆炎を裂いて自分へと向かってくるミサイルの群れに向き合った。

 

これではどちらが足止めされているのやら。

 

 

『ミサイル撃破数が『白騎士』を越える日はもうすぐなのかもしれない』

なんて益体も無い思考がエムの脳裏に走った。

 

ただ機械的に第二波のミサイル群を落し終わったら第三波が到来。

第一波、第二波と同じように落とし終わった時、背後からミサイルの直撃を受けてエムは爆炎に包まれた。

 

 * * *

 

「よし、命中。」

 

「え、えげつない………」

 

晴々とした笑みで宣言する空に鈴はげんなりとした表情で呟いた。

 

やっていた事はこうである。

 

まず空と簪、二人の装備する『普通のミサイル』をありったけばら撒く。

 

簪が四十八発、空が通常型ミサイル四十、小型ミサイル四十二、中型ミサイル四の合わせて百三十四発を三回で総計四〇〇余という飽和攻撃もいいところの数だが問題はミサイルではなくその制御プログラムに在る。

 

空が放ったミサイルは全て槇篠技研の技術者が己の夢とロマンをつぎ込んで作りだした誘導プログラムが組み込まれている。

そのプログラムを一言で言い表すなら『サーカス』。

 

真っすぐ目標に向かってゆく優等生型、相手の回避機動を予測しているかのような秀才型、そして適当な方に飛んでゆく劣等生型と複数の軌道を描いて飛んでゆくミサイルは一体何の影響を受けているのやら……

 

話がずれた。

 

そのトンデモミサイル達のうち、劣等生型のミサイルに空は両腕の中型ミサイルを混ぜていた。

 

しかも一定時間は直進し、その後誘導を開始するように設定して。

 

その結果、相手はその中型ミサイルを『劣等生型ミサイル』と誤認し迎撃しなかった。

その為に背後に回ってから誘導を開始した中型ミサイルの直撃を食らう結果となったのだ。

 

ついでに迎撃しきれなかった通常弾も雨霰と降り注いでいる。

 

たとえシールドエネルギーが満タンであったとしても撃墜は避けえない。

 

「まあ、これで終わってくれれば有り難いんだけど―――」

 

「え?」

 

そう思われたのに空は足のミサイルランチャー以外を収納するとアサルトライフルを展開し構える。

 

その様子にセシリアは思わず声を上げた。

 

とりあえず空に倣って機動戦の準備をしつつゼフィルスの方を向く。

 

…爆煙が晴れてゆく。

 

そこにはダメージこそ受けてはいるが傘状の浮遊体に守られて滞空し続けるサイレント・ゼフィルスがいた。

 

「―――シールド・ビット…ッ!」

 

セシリアは失念していた。

((二号機|ゼフィルス))には装備されている、それの事を。

 

「さて、同じ手には二度も引っかかってくれないだろうし…どうするかな」

 

ゼフィルスの元に戻っていたビット達が再度切り離されて四方八方へと飛ぶ。

 

「来るよ!各自散開して牽制。撃墜しなくても撃退すればこっちの勝ちだ!」

 

空の声。

 

上空では第二ラウンドが開始されようとしていた。

 

 * * *

《同刻》

 

「ああああぁぁぁぁぁあああアアアアッ!」

 

絶叫。

 

正にそう表するに値する喚声をあげながらシャルロットは両の手に持つアサルトライフルの引き金を引き続ける。

吐き出される弾丸は目の前に居る"蜘蛛"に向かって飛ぶが向けられる側も黙って直撃を貰うようなタマでは無く火線から逃れようと動き回る。

 

そんな彼女の背後には倒れ伏してピクリとも動かない一夏がいた。

説明
#66:舞い降りる災厄
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インフィニット・ストラトス 絶海 

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