乱世を歩む武人〜第二十三話〜 |
桂枝
「霞さん、稟。ご飯できましたよ。」
霞
「お、おおきになー桂枝。いや〜ホンマ。桂枝一人いるだけで行軍中の食生活に天と地の差がつくわ。」
稟
「ええ、旅をしていた頃も本当にお世話になりましたからね。」
今は劉備軍の先導として行軍中。丁度昼時だったので一度軍を止め昼食を取っているところだ。
ちなみに張遼隊が行けと言われてはいたが実際にいる人数はこの3人とあと50人程度。なので料理は一気に作っている。
霞
「ごちそうさん、今日もうまかったで。作った桂枝はもちろん料理上手に育てた桂花にも感謝せんとな。」
桂枝
「・・・そう言っていただければなによりですよ。」
さて・・・今日の夕食は何にするか・・・とそんなことを考えていると背後から人の影。
???
「失礼する。」
稟
「おや・・・星。お久しぶりです。」
そこには青い髪をした女性が立っていた。飄々としていてつかみどころがない感じ・・・そういう印象を受けた。
???
「久しぶりだな稟。元気にしていたか?」
話の流れ上知り合いと判断。おそらく星というのは真名なのだろう。
稟
「ええ、問題なく過ごしていますよ。それで、要件は何でしょうか?」
???
「ああ、我が主が荀攸殿との面会を望んでおられてな。」
桂枝
「ん?私ですか?」
趙雲
「おお、お主が荀攸か、我名は趙子竜。良ければご同行願えますかな?」
なぜか招待されてしまった。・・・どうするべきか。
霞
「ええんやん桂枝。いってきぃ」
稟
「まぁ桂枝さんなら大丈夫でしょうし。いいのでは?」
二人は問題ないと思っているみたいだ。・・・ならば行かないと面倒かな。
趙雲
「話は決まったようですな。では・・・こちらへ」
桂枝
「了解しました。行きましょう。・・・面倒事にならないといいのですが」
そうして一人劉備陣営に行く事になった。
趙雲
「着きました。ここが主のいる天幕です。」
桂枝
「では・・・失礼します。」
そこには劉備さんを含む陣営の重鎮らしき方が揃っていた。
関羽
「荀攸・・・」
劉備
「徐栄さん!お久しぶりです!」
桂枝
「荀攸とお呼び下さい。そちらは偽名ですので」
劉備
「あ・・・そうですね。改めまして。お久しぶりです。荀攸さん。」
そういってペコリと頭を下げる劉備さん。変わってないな。
桂枝
「ええ、久しぶりですね。劉備さんと会うのは・・・幽州以来でしょうか?」
劉備
「はい、あの時は本当にありがとうございました!」
桂枝
「いえいえ、過ぎたことですよ。・・・それで、ご要件は?」
正直さっさと帰りたい。ってか関羽さんちょっと怖い。
劉備
「あ、えっとですね。荀攸さん昨日いなかったから・・・改めて皆を紹介したいなーと・・・」
桂枝
「・・・そうですか。」
予想はしていたがやはり大した理由じゃなかった。というか・・・
桂枝
「なぜ私に?私はただの一部隊の副将ですよ?」
劉備
「え・・・でも・・・」
趙雲
「いやいや、虎牢関での戦いであれだけの短時間に300もの敵を屠る武人をただの「一部隊の副将」とは思えますまい。」
関羽
「クッ!」
露骨に反応する関羽さん。・・・やっぱり引きづってたか。だからわざわざあの時行かなかったというのに。
???
「はい、それに徐栄さんといえば洛陽の計算を一手に引き受けたといわれる文武官の一人。一度お会いしたいと思うのは当然です。」
金の髪をした小さな子が説明をしてきた。まとってる才気からいうと・・・軍師かな?それも相当な。
桂枝
「・・・わかりました。改めまして私の名は荀攸。以後お見知りおきを」
そういって正式な礼をとることにした。一応一軍の将達の集まりなのだから礼を失する態度はよくないだろう。
しかし・・・なぜ計算のことをしっているんだ?別に有名になったという話は聞いていないんだが・・・
趙雲
「ではこちらは私から。先ほども申しましたが私は趙子竜、武人としていつか手合わせを願いたいものですな」
そういってくる趙雲さんから感じる氣は完全に強者のそれ。できれば手合わせなんてしないことを祈りたいところ。
諸葛亮
「私は諸葛孔明と申します。はじめまして。荀攸さん。」
そう金髪の女の子が名乗る。なるほど・・・彼女が劉備軍における筆頭軍師の諸葛亮か。しかし何故今噛んだんだ?さっきは普通に説明してた気がしたんだけど。
桂枝
「ええ、はじめまして諸葛亮さん。それで・・・こちらのかたは?」
???
「じー・・・」
そして隣にいるもう一人。何故だろう。こちらを上目遣いでジーっと見てくる。ってか声に出してる。
桂枝
「・・・あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
何時まで経っても終わらなそうだと判断しちょっと促して見ることにした。
?統
「あ、はい。私は?統と申します。」
桂枝
「はい、?統さんですね。これから少しの間ですがよろしくお願いします」
青の髪をしたとがった不思議な帽子の子が?統だそうだ。
さすがはこれだけの軍勢で主人や姉が警戒する・・・そのまとっている才気は尋常なものではない。
おそらく全体量で見ればどちらも姉より上かも知らないと思わせるほどの才気。間違いなく大陸でも有数の才能を持ってると見ていいだろう。
ふと気がつくと劉備さんが目を丸くしてこちらを見ている。・・・なんだ?
桂枝
「えーと・・・劉備さん。何かありましたか?」
劉備
「すごーい・・・朱里ちゃんと雛里ちゃんが噛まないで自己紹介したの初めて見たよ私。」
とても失礼なことを行っている気がするんだが気のせいだろうか。普通自己紹介で噛む人なんてそうそう・・・
諸葛亮
「そういえば・・・やったね雛里ちゃん!かまなかったよ!」
?統
「うん。荀攸さん怖くなかったから落ち着いて話せたね。朱里ちゃん。」
・・・そうか、普通は噛むのかこの二人は。
公孫?
「で、私が公孫?だ。よろしくな!」
武人、軍師に混じっていた普通の気配の人。この人が幽州の太守だったのか。なるほど、全体的に氣が回っているしきっと何をやっても相応な働きをする人なのだろう。
悪く言えば英傑の才をもたない主人といったところだろうか。おそらくこの人はなまじ色々できる分気苦労が絶えないんだろうな・・・
桂枝
「はい。よろしくお願いします。・・・これで全員ですかね?」
パっと見揃っている人間はこれだけだしこんなものだろう。関羽さん、張飛さんは知ってるし。
張飛
「鈴々は張飛なのだ!」
・・・知ってるというのに何故か元気に自己紹介された。
桂枝
「・・・どうも、荀攸です。」
なので一応返しておくことにした。
これで終わりかな?と思った時に劉備さんが口を開く。
劉備
「実は・・・もう二人いるんです。二人共、入ってきていいよ。」
そういって天幕の外から二人。そこにいたのは
桂枝
「おや?お久しぶりですね。お二方」
董卓
「月です。お久しぶりですね。徐栄さん」
賈駆
「詠よ。元気そうじゃない。徐栄。」
よく知っている二人だった。
桂枝
「なるほど・・・それで劉備さんのところに」
董卓
「はい、今は侍女として働いています。」
話を聞く所あの洛陽の敗戦のあと脱出しようとした矢先に北郷隊を遭遇。北郷が勝手に侍女と勘違いし、たまたま鉢合わせた劉備さんが保護を買ってでたらしい。
これは鉢合わせた北郷の運をおどろくべきなのか。活路が降って湧いてきた董卓さん達の幸運におどろくべきなのか。
賈駆
「そういえばアンタはあの時どこにいたの?」
桂枝
「あの時・・・あのときは気絶してましたね。殴られて」
その時私は丁度鉄球制裁をくらって気絶していた頃である。痛かったもんなあれ・・・
賈駆
「・・・深くは聞かないでおくわ。それで、今はアンタの姉がいる曹操軍で働いてる、と」
桂枝
「ええ・・・怒ってます?」
姉を隠していたこと。負けたからといってあっさり裏切ったこと。まぁ怒りを持たれていても不思議ではない。
賈駆
「どうして?アンタは戦時中に裏切ったわけじゃないし仕事もきっちりやってくれていた。月も私もアンタに感謝こそすれ怒る理由はないわよ。」
董卓
「はい、あの時はお世話になりました。」
そう言ってくれる二人。一応仕えていたというのもあったので義理が通せたというのならば何よりだ。
桂枝
「そうですか。それなら十全です。さて・・・お話は以上で?」
そろそろだいぶ時間もたつし余り長居するのも面倒だ。さっさとあっちに行って行軍の手伝いをしなければ。
劉備
「あ・・・待ってください。最後に一つだけ。いつかアナタに質問された答えを考えたので聞いてください!」
いつか私がした質問・・・?
・・・ああ。アレか。こう言ってはなんだが正直なところ今更どうでもいい。
仕えるべき主人も見つけたし劉備さん達とはもう縁もないだろう。ならばここでそんな意見を聞いても私の中では何も変わることはない。
桂枝
「わかりました。お聞きしましょう。」
しかし損をするものでもなし。答えるというのであれば聞いておこう。さて・・・どう答えるかな?
劉備
「はい、私だけではどちらかしか助けることができなくても皆がいればきっと100人も1人も助けることができると思うんです、
ーーーーーーーーーだから私は私を含めた皆がいつでも助けることができる。そうしてすべての人達を助けようと思います!」
桂枝
「・・・・・・」
・・・王として間違いのない回答。これが本心から出ている以上彼女もまた王の才があるというのは間違いがない。しかし・・・
関羽
「桃香様・・・ご立派なお答えです!この関雲長。かならずやあなたの期待に答えて見せます!」
・・・・・・いや、ここで言うべきことでもないか。すでに私には関係のない話だ。
桂枝
「・・・そうですか。アナタの答えがそうだというのならば私は何も言いません。「劉備軍の王として」がんばってくださいね。」
なので適当な返事をしてさっさと終わらせることにした。
劉備
「はい!頑張ります!」
にこやかな笑顔。・・・やはりこの人の笑顔には人を引き付けるものがある。・・・だから怖い。
桂枝
「では私はこのへんで。いつかまたお会いしましょう。できれば戦場以外で・・・ですがね。」
そうして私は劉備軍の天幕を離れていったのだった。
桂枝
「みんなで頑張って101人を救う・・・ねぇ」
そうひとりごちてみる。
正直な話。先ほどの答えを聞いた時・・・私は少しばかり彼女を怖く思った。
彼女が今回とった行動。それに対する結果は「101人の救助者のために別の200人を犠牲にする」方法にほかならないからだ。
曹操領をわざわざ抜けていくということは当然袁紹、袁術軍の視線をこちらに向ける行動に他ならず、それはそのまま曹操軍との戦争を意味する。
彼女が自分の手の届く範囲の者を、自国の民を助けるための行動というのならばこの行動は乾坤一擲の手段だが正解の一つであるのだろう。
だが・・・もし彼女のいう「みんなが笑って住む世界」が大陸の人すべてを救う世界だというのならばこの状況はあってはいけない状況なはずだ。
何せ劉備軍の民を含めた5万程度の人の為に曹操軍、袁紹・袁術軍あわせて15万以上が命の危機にさらされるのだから。
逆に「徐州の王として民を笑顔にする」という意味ならばこの意味はガラリと変わる。なにせ主人の気まぐれ一つでついに1兵たりとも被害を出さずに目的をはたすのだから。
「王として」は限りなく正解になったこの行動だが「理想家」としては悪手であろうこの行動。
なにが怖いというとあの発言をした時の・・・あの無垢ともいえる笑顔だ
おそらく劉備さんは自分がどういう選択をしてその結果自分の視界の外でどれだけの被害が出るかということを全く考えていないだろう。
全員が気づいていないのならばまだ救いはある。それが彼女たちの限界だと判断できるから。しかしあちらの軍師はおそらく気づいている。
あの「王」が理想を唱え集まった人をあの軍師たちが冷酷に使っていく・・・彼女は自分が踏んでいる血溜まりに気づかずにただ綺麗な光を放ち続ける。
非常に危うい道を歩んでいると思う。きっと同じ場所に立つものに敗れた時彼女達は一気に瓦解する。
もし彼女が足元にある血に気づきそれでもなお己の理想の道を進むと決めた時・・・そのときこそ彼女は主人と双肩する人物となり得るのかもしれない。しかし・・・
桂枝
「おそらく・・・それに気づかせる存在はいないのだろうな・・・」
関羽さんを含む武将たちはあの光を守り軍師たちはあの光を使い人を集める。だれの足元を見る余裕はないと見ていい。
もしそれを見る存在がいるとしたらきっと同じく「光を持つもの」かその光を遠くからみてきづいたものだけ。
どちらもいない彼女たちはきっと気づかないだろう。
いや気づくとしたらあの中ではただ一人・・・
桂枝
「・・・賈駆さんもすごいところに保護されたもんだ。」
董卓さんのためだけに動いている賈駆さん。ある意味では自分と同類である彼女はきっとその危うさに気づいているだろう。しかし侍女という立場ではそれを指摘することも出来はしない。
桂枝
「益州に行くんだよな。・・・あの人が敵に回らなければいいんだけど」
私は心のなかで彼女に同情しつつ一つの懸念事項を残し自陣へと戻っていくのだった・・・
〜賈駆side〜
賈駆
(まずい・・・このままじゃあこの軍はきっと・・・)
ボクは今いいようのない危機感を感じている。
先ほど荀攸がしたという質問の話を聞き、その上で彼女の答えをボクなりに吟味してみた。
そしてわかったこと・・・それは彼女、桃香の危機感、もしくは猜疑心といえるもののなさだ。
今回曹操軍の領地を通ろうと言い出した時点でそれは感じていた。彼女には「きっとなんとかなる」と常に考えているところがあるのだろう。
事実、立ち上がった直後には既に一騎当千の二人がいて、軍をおこそうと思えば友人がなんとかしてくれ、悪い人をやっつけたいと思い参加した連合で彼女は領地まで得ているのだ。
並ではない幸運。そして話してみてわかる優しさに満ちた「人徳」とでも呼べる何か。彼女は人の上に立つ才能は確実に持っている。
だが・・・まばゆい才能が故に彼女は気づかない。その輝きには必ず影が生じていることに。
本来ならばそれは周りにいる人が気づかせてあげるべきなのだろう・・・しかし幸か不幸か彼女の周りにその暗部を指摘するものはいない。
軍師二人は気づいているのかもしれないがソレをひた隠しにしただ光によって人を集め使う。
今はまだ大丈夫だろう・・・しかし先程の曹操との面会のときについに指摘された。彼女の甘さとその思想の危険さを。
だけどそれもまた曹操の気まぐれにより最上の結果を得てしまった・・・また「なんとかなって」しまったのだ。
・・・このままいけば、多分これが一度でも「なんとかならなかった」時がこの軍の終わりだと思う。そしてそれは確実に来るだろう。それもここ一番という時に。
それで滅びるとしてもそれは彼女達の勝手だ・・・だけど月を巻き込む訳にはいかない。
ボクが仮にその危険性を指摘しても彼女はきっと聞いてくれないだろう。一侍女ということもある・・・それに世話になっているという引け目もあるので強くいえないというのも一つ。
ならばどうするか・・・いずれ確実に負けるとわかっているところにいつまでも月を置いておく訳にはいかない。
取る手段は2つ・・・「離れる」か「指摘できる人材を取り込む」かだ。
そしてそれを指摘でき、なおかつこちらに巻き込める可能性のある人物・・・
荀攸。おそらく彼なら可能だと思う。
彼は自分で言っていた通り「真名を預けたもの」のためだけに動く人物だ。身内のため・・・そのためだけに大陸全ての人間を犠牲にすることもためらわないだろう。
ボクがそうだからよく分かる。きっと彼とボクの視点はきっとそこまでずれていない。
彼は変なところで律儀だ。もし軍に身内がいたらみすみす危ないところを放置なんて真似ができるはずはない。その時か彼はその人の意志を尊重しつつ安全な場所にするために自分がどうなるかも顧みずに桃香の欠点を指摘するはず。
そうすれば彼女は本当に王としての器をもつ可能性がある。そうすれば月に危機が及ぶ可能性も下がる。彼にはかわいそうかもしれないけれどそんな事は言っていられない。
ほんの少しの間でもいい。彼にはそのためだけに一度劉備軍にきてもらわなくてはならない。
でもどうすれば彼をこちらに引っ張ってこれる?正直捕まえたとしても彼は何も言わずに処刑を求めるか自力で脱出しようとするかだろう。間違いなく彼女にそんなことを伝えるとは思わない。
そんなことを考えているうちに・・・一つ思い出した。彼が雑談混じりで真名を預けた人物が益州にもいるという話をしていたことを。
賈駆
(真名・・・そうよ。あいつの真名を預かった人が説得すれば・・・!)
ボクこの時からその人物を探し出し、彼を劉備軍で捕獲する算段を立て始めた。
あとがき
また週末は忙しくなる予定ですので更新できないかもしれません。
それでなくとももう移転が次で終わりますので毎日更新はほとんど不可能になると思います。
これからは不定期投稿になってしまいますがご了承ください。
説明 | ||
劉備軍との会合。色々と錯綜し始めます。 | ||
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コメント | ||
やっぱり引きづってたか⇒引きずって(黄金拍車) >>アルヤさん 原作ではここまで逼迫してるかはわかりませんけどね。ただ私は「北郷一刀」がいないと一番成立しないのは蜀だよなぁとは思っております。(RIN) ここまで劉備軍の状態を整理した文章は始めて見た気がするな。(アルヤ) |
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