IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第七話 |
「奏羅っ・・・!」
ミサイルが爆発した瞬間、モニターを見ていた箒は思わず叫んでいた。
千冬と真耶も、爆発の黒煙で埋まった画面を注視している。
しかし、一夏だけは別のことに気を取られていた。
(なんだ・・・? 一瞬だけ、奏羅の近くに女の子が見えたような・・・?)
多分、見間違いだろうか? 自分の見たものについて考え事をしていた一夏は、千冬の言葉によって現実に引き戻された。
「・・・どうやら、勝負はまだ終わっていないようだな」
千冬以外の三人が、驚いたようにモニターをみる。
黒煙の中にははっきりと、白銀のISが存在していた。
「でもどうやって・・・?」
真耶の問いに、千冬は冷静に返す。
「これは予測だが、あいつは後ろに振り向きつつ、ミサイルに弾丸を叩きこんで撃ち落とし、そのまま瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使用。爆発を逃れたのだろう」
「それだけのことをやってのけるなんて、すごいですね・・・天加瀬くん」
驚く真耶と対照的に、千冬は何か引っかかっていた。
(だが、それは並の反射速度では出来ない。あいつの反射神経が卓越しているのか、それとも、あのISになにかあるのか・・・?)
様々な疑問を浮かべながら、千冬はモニターへと目を戻した。
◇
「な・・・何故無事なのです!? あれは直撃だったはずよ!?」
アリーナで戦っていたセシリアも、目の前のことが信じられないようだった。
(ブルー・ティアーズは命中の判定を出したはず・・・ 一体、何が起こったというの!?)
混乱するセシリア。その時、ブルー・ティアーズから送られてくる情報があったのだが、彼女は頭に入っていなかった。
《敵ISの操縦者が変更されました。操縦者・天加瀬奏羅、および操縦者――》
◇
(・・・どうやら、助かったようだな)
正直、俺自身も自分のした行動に驚いていた。
ミサイルが当たる直前、脚部から『フェザー・ダガー』を取り出し、後ろへ向きながら、ハイパーセンサーを頼りにミサイルに命中させ、瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使った。
今更ながら、よくこれだけのことが出来たよな・・・俺。
「だが、何はともあれ、これはチャンスだ!」
オルコットさんはまだ俺が無事だったことに気を取られている。
俺はシステムコンソールを開くと、設定を変え始める。
(あと10%・・・)
オルコットさんが我に返り、こちらへと再びビットを差し向けてくる。
左手はコンソールをいじりながら、俺は回避に専念する。
(あと3%・・・)
左右から襲いかかってくるビットに対し、俺は片方のビットへ接近、そのビットがレーザーを放つよりも速く、逆立ちをするように回転しながら上へと体を移動 し、ビットを打ち抜いた。そしてPICを切り、姿勢制御の隙を狙ってきたビットの攻撃を、そのまま慣性と重力に身を任せレーザーを回避、それと同時に PICを再び起動させ、プラチナに姿勢制御を行わせる。
「そんな馬鹿な!」
驚愕したようなオルコットさんの声。まぁ、ここら辺の発想は開発者ならではの裏技ってことさ。
そして、どうやら時間稼ぎは出来たらしい。
「じゃあ、プラチナの本当の意味での初お披露目だ」
マッチング率92%、完璧な同調率だ。苦労の末、ついに俺はあの装備をコールした。
光の粒子が集まり、一つの大きな塊として形をなす。
「な、なんですの、それは!?」
彼女が驚くのも無理はない。これは装備と言えど、武器ではないのだから。
「まぁ、これがプラチナと他のISとの違いかな」
『GV計画』正式名称『the next Generation Valkyrie project』。次世代型のISを開発するプロジェクトとして、どんな戦況に対しても対応できるという第四世代型ISを目指し開発されたシステムが、この『プラチナ』の特徴。
「ドッキングする。エアリアルフレーム!」
《了解。エアリアルフレーム、ドッキングモードへと移行します》
プラチナから返事が返ってくる。それに伴い、目の前の塊が変形・分裂し、プラチナへとドッキングする。
背部に大型の可変式マルチ・ウイングスラスター、脚部にもバーニアがドッキング。右腕に追加の装甲、左腕に装備が装着する。
プラチナに搭載されているシステムは、戦局に即時対応するため、その場面に合わせた特殊パッケージ『ヴァリュアブル・フレーム』を換装するというもの。そのフレームは武装としてインストールしてあるため、状況に応じてその場でフレームを変えることが出来る。
このシステムにより、プラチナはフレームを使用しての運用が前提としているため、他のISよりも一回り小さいのだ。
「くっ・・・ ブルーティアーズ!」
オルコットさんがビットを差し向けてくるが、マルチ・ウイングスラスターを装備した今、先ほどとスピードは段違いだ。ビットの攻撃をかわし、銃弾をたたきこむ。ビットの残りはあと二機。
そのまま、彼女の射撃を上方へとかわしながら移動。その間に後ろからビットが襲いかかるが、振り向きざまに片方をシールドでガードし、片方を撃墜する。
「とったっ!」
俺は彼女の頭上へとたどり着き、下方向へとブレード・モードの『ソニック・ブレイズ』を体重をかけられるように構えた。
「くっ・・・ しかし!」
残りのビットが俺とオルコットさんの間に入ろうとする。しかしその前に、俺は下方向に今の体制のまま瞬間加速(イグニッション・ブースト)した。
本来、瞬間加速(イグニッション・ブースト)は、 スラスターが背面についている以上、自分から見て前方向、つまり前進にしか使えない。しかしこのエアリアルフレームは、空中での三次元的な機動性を重視し たフレームであり、このフレームの特徴ともいえる、可変型マルチ・ウイングスラスターは、スラスターの位置変更、変形により、360°の全方向にどんな体制でも瞬間加速(イグニッション・ブースト)できるのだ。
俺は発射態勢に入る前だったビットを串刺しにし、オルコットさんへと突撃した。
オルコットさんは慌ててライフルをこちらに向けるが、もう遅い。そのままの勢いで、彼女をアリーナの床へと叩きつける。
「これだけの距離なら、シールド・エネルギーも関係ないだろう」
俺は彼女に向かって左手を向ける。エアリアルフレームの特徴的なもう一つの装備、左の掌に装備された、至近距離用の圧縮エネルギー開放ジェネレータ、いわゆるエネルギー版パイルバンカーともいえる装備、『フラッシュ・ドライバ』。
「こういうこと女の子にするようなことじゃないけどさ・・・」
マウントを取った状態でオルコットさんに謝る。相手はいくらISが使えようが女の子だ、いい気はしない。
「構いませんわ。これは勝負ですもの」
そう言いながら、彼女は微笑んだ。
「悪いな」
その言葉ともに、俺は左手からエネルギーを解放させた。そのエネルギーは、ブルー・ティアーズのシールド・エネルギーを貫通し、彼女の絶対防御を発動させる。
『試合終了。勝者、天加瀬奏羅』
決着をつけるブザーが鳴り響く。
湧き上がる観衆の中、俺はオルコットさんの状態を確認する。どうやら、気絶しているらしい。
「よかった・・・ ってあれ?」
彼女の無事を安堵した瞬間、急に視界がグニャリと曲がり、俺はその場に倒れこむ。
普段そんなに運動してなかったからさすがに体力の限界か・・・ そんなことを思いながら俺の意識は途絶えた。
◇
気がつくと俺はベッドの上にいた。眼前に広がる天井は俺の部屋ではないので、どうやら保健室のようだ。
「気が付きましたのね」
声のほうを向くと、予想外の人物が俺の横のベッドに座っていた。
「まったく、わたくしに勝った方が、どうして保健室にいらっしゃるのかしら」
夕日が反射したきれいな金髪を揺らすその人物は、セシリア・オルコットさん。先ほどの試合での俺の対戦相手だった。
「さあ・・・なんでだろうな」
彼女の言葉に思わず苦笑してしまう。確かに勝った俺が、負けた彼女よりあとに目が覚めるってのは恰好がつかない。「まったく・・・」と言って呆れている彼女の様子をみて、俺はあることに気付いた。
「・・・ありがとな」
「なにがですの?」
「俺の目がさめるまで、そこにいたんだろ?」
「な、何を言ってるんですか! わたくしは今ここに来たばかりですわ!」
そう言っている彼女の姿は、制服の上着を来ておらず、横のハンガーラックに掛けられていた。
さらに言えば、横のベッドは誰かがさっきまで寝ていたように乱れている。
「そうか。横のベッドで寝てた形跡があるんだが、俺の勘違いか」
「そ、そうよ、あなたの勘違いですわ!」
顔をそらしながら必死にごまかそうとするオルコットさんの姿は、少し可笑しかった。
「まぁ、オルコットさんが見舞ってくれるとは思わなかったよ」
「しょ、庶民を気遣うのも貴族の礼儀と言うものです! それに」
「・・・それに?」
「わたくしのことはセシリアと、そうお呼びください」
彼女の口から、絶対出てくることのないような言葉が出てきたので俺は思わず「えっ?」と聞き返していた。
「ですから、わたくしのことはセシリアと」
突然すぎる彼女の言葉は、俺にはまったく理解が出来ない。
「・・・なんで?」
そんな俺の問いに彼女は少し顔を赤くしながら、
「わたくしに勝ったのですから、あなたの実力を認めて、それくらいは許してあげます!」
と強く言い放った。どうやら、俺と対等に接してくれるということらしい。
「・・・わかったよ、セシリア。じゃあ、俺も下の名前で呼んでくれ。じゃないとなんか不公平だし」
「ええ、もちろんですわ。・・・奏羅さん」
なんとなく気恥ずかしそうには俺の名前を呼ぶセシリア。他人を名前で呼ぶことに慣れていないのか?
「・・・もしかしてさ、セシリアって」
「な、なんですの」
すこしギクリとしたような反応を見せるセシリア。そんな彼女をみて、なんとなく確信を得た俺は続ける。
「友達いないのか?」
「な、何をおっしゃっているのですか! そんなことありません!」
・・・思いっきり否定されてしまった。
「そんなことよりも、もう少し寝てらしたらどうですの? まだ万全じゃないのでしょう?」
いきなり話題を変えたセシリアは、俺を無理矢理ベッドへと倒し、上に布団をかける。
行動は乱暴だが、心配してくれているのは本当らしい。
「じゃあ、お言葉に甘えて寝るとするか」
「ええ、奏羅さんがお眠りになるまで、わたくしがちゃんと見守っておいてあげますわ」
何様のつもりだよ、と心の中でつっこみながら、目を閉じる。まぁ、横についていてくれるっていのはなんとなく安心するな・・・ 彼女の言葉に少し感謝しながら、俺の意識は遠のいて行った。
俺が眠りについてすぐ、一夏と箒、山田先生等がお見舞いにおとずれ、保健室が一気に騒がしくなってしまい、早々目を覚ますことになってしまったのだが。
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