英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 233 |
〜ブライト家・エステルの部屋・深夜〜
ガチャン。
「………あ…………」
何かの物音がし、エステルは目を覚まして、ベッドから起き上がった。
「今の……扉の音よね……。………………………………」
そしてエステルはベッドから降りた。
「……ン…………。……ふぇ……。おねえちゃん…………どうしたのぉ……?」
その時、エステルと一緒に眠っていたティータは眠そうな目でエステルに尋ねた。
「ごめん、起こしちゃったね。戸締りが気になったからちょっと確かめてくるわ。すぐに戻るから眠ってて。」
「……んぅ……わかった……。おねえちゃん…………はやく戻ってきてね……」
エステルに言われたティータは可愛らしい笑顔を見せた後、また眠り始めた。
「ふふっ……可愛い。うーん、なんだが無性にホッペをつつきたくなるわね。……おっと、イカンイカン。」
ティータに布団をかけ直したエステルは自分の部屋を出た。
(シェラ姉かクローゼ、お母さんの誰かだと思うんだけど……。一応、戸締りも確かめよう……)
そしてエステルはまず、クロ―ゼとミントが一緒に眠っているヨシュアの部屋に向かった。
〜ヨシュアの部屋〜
「すー……すー……」
「くー………くー………」
エステルがヨシュアの部屋に入ると、そこにはヨシュアが使っていたベッドにクロ―ゼとミントが仲良く眠っていて、安らかな寝息を立てていた。
「よく寝てるみたい……。ふふ、クローゼってばヨシュアの部屋に案内したら慌てまくってたわね……。ちょっと可愛かったかも。」
エステルはクロ―ゼをヨシュアの部屋に案内した時の様子を思い出して、静かに笑った。
「……ン………。……先生……みんな…………私は………………どうしたら…………。………………………………。すー……すー……」
「クローゼ……。……お互い、頑張ろうね。」
「わあ………ママとお祖母ちゃんが……作った…………オムレツだぁ………どっちから食べようかな…………くー……くー……」
「あはは……ミントは相変わらず、卵が好きね………(というか、前にも同じ夢を見ていたようだけど、結局どっちを選んだのかしら?って!いけない。戸締りを確認しようっと。)」
そしてエステルは1階のリビングに向かった。
〜リビング〜
「………………………………」
エステルが1階に降り、リビングに向かうとそこにはシェラザードが真剣な表情でタロットカートを並べていた。
「シェラ姉……」
「あら……エステル、どうしたの?」
エステルに話しかけられたシェラザードは驚いた後、尋ねた。
「うん、物音がしたからちょっと目が覚めちゃって。シェラ姉だったわけね。」
「そうだけど……。ふふ、気配を感じて起きるなんて正遊撃士らしくなったじゃない?」
「えへへ……ちょっと緊張してるのかも。なんか色々あってアタマが混乱しちゃってるし。」
「そっか……」
そしてエステルはシェラザードの向かいの椅子に座った。
「ねえ、何か視えそう?」
「そうね……」
エステルに尋ねられたシェラザードはタロットカードの一枚をめくった。
「逆位置の『皇帝』。慈悲、共感、信用、障害、未熟さ。―――そして敵に対する困惑と悲嘆。」
「な、なんか、思わせぶりなカードね。敵に対する困惑や悲嘆ってのはちょっと納得できないけど……」
「ふふ……。今のはエステルを占ったわけじゃないわ。」
「え。」
自嘲気味に笑って答えたシェラザードの言葉にエステルは驚いた。
「ふふ、あんたの方にも思い当たるフシがあるみたいね。例の記者さんとレンが去り際に渡した写真の一件?」
「あ……。………………………………」
シェラザードに指摘されたエステルは不安そうな表情で考え込んだ。
「急かしてるわけじゃないわ。ただ、気持ちの整理がついたら話してみるのもいいかもね。」
「あら…………もちろん、私にも相談してね?エステル。」
「お母さん。」
シェラザードに言われ、エステルが考えていたその時、レナもやって来て、エステルの隣の椅子に座った。
「レナさん、すみません。起こしてしまったようで………」
「フフ、別にいいわよ。それで?エステルは何に悩んでいるのかしら?」
レナは優しい微笑みでエステルを見て、尋ねた。
「………………………………。お母さん、シェラ姉……相談、乗ってくれる?」
「私は貴女の母なんだから、相談に乗るのは当たり前よ。」
「あんたはあたしの妹分。そして姉貴分ってのいうのはこういう時のために使うものよ。」
「お母さん…………シェラ姉……。……これ、見てくれる?」
2人の答えを聞いたエステルは2人にレンにもらった写真やドロシーからもらったヨシュアが写っている写真を渡した。
「写真……?………………………………………………………………。……なるほど、ね。こりゃ、あんたがヘコんじゃうわけだわ。」
「……………ヨシュア……………こんなに冷たい瞳をして………………………」
写真を見たシェラザードは驚くような表情をした後、納得し、レナは以前と違い、冷たい瞳をしているヨシュアを見て、心配そうな表情になった。
「……うん………」
「さしずめ隠密活動のための隠れ蓑(みの)といったところかしら……。なるほど、遊撃士の身では使えない方法かもしれないわね。ふむ……狙いは何なのかしら?」
「シェラ姉……驚かないの?」
エステルは驚いていないシェラザードに尋ねた。
「正直、もっとハードな事をしてるじゃないかと思ったわ。でも、空賊艇の奪還事件って兵士が気絶しただけみたいだし。ヨシュアらしい手際の良さだと思うわよ。」
「ま、まあね……」
「それでも、人に迷惑をかけたんだから………帰ったら、い・ろ・い・ろと!説教をしないとね!」
「あ、あはは………」
(ヨシュア………早く戻って来ないと、レナさんの怒りが膨れ上がって、大変な事になるわよ?)
笑顔ながら怒気を出しているレナを見て、エステルは苦笑し、シェラザードはヨシュアを心配した。
「……ねえ、シェラ姉。この写真って……ギルドに渡すべきだと思う?」
エステルは不安そうな表情でシェラザードに尋ねた。
「前提として、遊撃士に課せられる義務はただひとつ。不当に傷付けられている民間人を助けるだけってことだけよ。ヨシュアが空賊とつるんで民間人を傷付けたりすると思う?」
「そ、そんなことヨシュアがするわけないってば!」
「そうね。………数年間、あの子を見て来たけど、少なくともそんな事をする子ではないわ。」
シェラザードの言葉にエステルは血相を変えて否定し、レナも頷いた。
「だったらわざわざ報告する義務はないってこと。あたしもわざわざ報告するつもりはないしね。結局、あんたがヨシュアを信じていればそれでいいわよ。」
「………………………………」
「それとも……信じられない?」
不安そうな表情で黙っているエステルにシェラザードは尋ねた。
「信じてる……信じてるけど……。でも……不安なの……。あたしの知らないところで冷たい瞳で……無茶をして……。自分のことなんてどうでもいいって考えてるみたいに見えちゃって……。いっそ父さんに相談して何とか保護してもらうべきかなって……」
「……エステル……」
「…………………………」
エステルの本音を知ったシェラザードは驚き、レナは目を閉じて黙って聞いていた。
「でも、だったらあたしは何のためにここまで来たわけ?ヨシュアをあたし自身の手で連れ戻すためじゃなかったの?……そこまで考えたらなんか頭が混乱しちゃって……」
「そっか……。でもね、エステル。焦らないでも答えは見つかると思うわよ。」
「……え………」
「今のあんたは、自分の気持ちがちゃんと把握できていると思う。ただ何をしたいのかそれを見失ってしまっただけ。焦らないでもきっと答えが出てくるはずよ。」
「シェラちゃんの言う通りよ、エステル。貴女はヨシュアに対する本当の気持ちをわかっていると私も思うわ。」
「シェラ姉……お母さん………」
「船を降りた直後と比べるとずいぶん落ち着いたみたいだし。少なくとも、今やるべきことはちゃんと見えてるみたいじゃない?」
「う、うん……。ルックやエリッサのお母さんが倒れちゃった事を知った時……ヘコんでなんかいられないって逆にやる気が出てきちゃってね。そしたら、モヤモヤした気持ちも小さくなっていっちゃって……。あたし……やっぱ単純なのかな?」
シェラザードに言われたエステルは頷いた後、首を傾げた。
「ふふ、そんなことないわよ。ただ、あんたはどうやら動いていた方がいいみたいね。前に前に進んでいくことで答えを見つけるタイプだと思う。」
「そうね。エステルはどちらかというと行動派だものね?」
「うう……イノシシみたいであんまり嬉しくないんだけど。でも、ありがとシェラ姉、お母さん。何となく……答えが見えてきた気がする。」
シェラザードとレナの言葉に唸ったエステルだったが気を取り直した。
「ふふ……大したことはしてないわ。それにしても……ヨシュアもなかなかやるじゃない。まさかあの空賊娘とよろしくやってるなんてね♪」
「そうねぇ………あの子、昔から女の子にもてていたから、油断していたら、その娘にヨシュアを取られるわよ?」
「そ、そっちに来たか……。ま、まだそういう関係だって決まったわけじゃないってば!」
シェラザードとレナのからかいの言葉にエステルは呆れた後、すぐに否定した。
「あら、そう?たしかちょっと気が強くてボーイッシュな子だったわね。それでいて、どことなく品の良さも感じさせるし……。なかなかイイ線行ってるかも♪」
「シェラ姉、オヤジ……」
「一緒に危機を乗り越えるうちに愛が芽生えちゃったりして……。あ、でもエステル。心配することないんだからね?たとえヨシュアを取られても奪い返してやればいいんだから!」
「……今度こそシェラ姉にはこんりんざい相談しない……」
「もう………シェラちゃんったら………」
シェラザードの話を聞いていたエステルはジト目で睨み、レナは呆れた表情で溜息を吐いた。
「ウソウソ、冗談だってば。ま、ヨシュアについて悩むのはその手の話にした方がいいかもね。その方が年頃の女の子らしいわよ?」
「それはそれでけっこう複雑なんですけど……。……そうでなくてもクローゼのことだってあるし。」
「え?」
(もう………あの子ったら…………帰ったら、女の子の気持ちという物を一から教えないと駄目ね………)
エステルの話を聞いたシェラザードは首を傾げ、レナは心の中でヨシュアに呆れていた。
「な、なんでもない。なんか変に落ち着いたからあたし、そろそろ寝直すけど……シェラ姉やお母さんはまだ起きてるの?」
「ううん、あたしももう寝るわ。せっかくアガットたちが気を使ってくれたしね。」
「私もそろそろ寝るわ。明日は貴女達の朝食の為に早起きしないとね。もちろん、特製のオムレツもあるから明日の朝食を楽しみにしていなさい。」
「えへへ、お母さんのオムレツを食べるのも久しぶりだな……………あ、そうだ。……。………………………………」
レナの話を聞いたエステルは嬉しそうに笑った後、ある事を思い出してシェラザードの顔をじっと見た。
「何?」
一方見られたシェラザードは首を傾げてエステルを見た。
「……シェラ姉の方こそ何か悩みでもあったりする?」
「そうね……あるにはあるわ。でも、2、3日中にはみんなにも話せると思う。」
「そっか。うん、だったらあたし、余計な心配はしないから。でも……無茶だけはしないでよ?」
「ふふ、心配無用よ。手のかかる妹分の面倒も見なくちゃならないしね。」
「もう……。まあいいわ。おやすみなさい、シェラ姉、お母さん。」
「「おやすみ、エステル。」」
そしてエステルは自分の部屋に戻っていった。
「………シェラちゃん。悩みはあまり抱えるものではないわよ?いつでも私に相談してね?………貴女も私にとって、娘のようなものだから。」
「………はい。ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね。」
「ええ。………おやすみ、シェラちゃん。」
「おやすみなさい、レナさん。」
そしてレナも自分の部屋に戻って行った。
「逆位置の『皇帝』。慈悲、共感、信用、障害、未熟さ。―――そして敵に対する困惑。何をしたいのか見失ってるだけ、か……。ふふ……誰のことなんだか。」
誰もいなくなったリビングでシェラザードは1人、寂しそうな笑みを浮かべていた。そして翌日…………
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第233話 | ||
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