人類には早すぎた御使いが恋姫入り 三十一話 |
華琳SIDE
時間は、春蘭たちが麗羽とその部下武将たちを連れて帰ってきた時に遡る。
気絶した秋蘭を持ち上げている春蘭を見て私は驚いた。
「秋蘭はどうしたの?」
「安心してください。怪我はありません」
「ならどうして倒れているのよ」
「私がやりました」
「…え?」
でも、春蘭の返事は私を更に驚かせた。
「ちょっと、どういうこと?なんでアンタが秋蘭を気絶させたのよ?」
横に居た桂花も驚いて春蘭を問い詰めた。
桂花だけではなく、そこに居た真桜と沙和も、口にはしなかったけど衝撃を受けていた。
流琉が部屋に篭っていて良かったわ。
そうでなければ何が起きたか判らない。
「理由ならちゃんとある。コイツが華琳さまの覇道を侮辱したからだ」
「は?」
秋蘭が、私の覇道を侮辱した?
「……どういうこと?説明なさい」
春蘭は秋蘭の姉だった。彼女は私の次に大切にするのが妹の秋蘭だ。
なのに、そんな春蘭が秋蘭の非を隠さずさらけ出す時があるというのなら、それこそ彼女が私に無礼な真似をした時。
「コイツは、華琳様の覇道に自分の勝手な解釈を入れて行動しました」
「一体虎牢関の前で何があったの言うの?彼女が何をしたの?」
「コイツは……、アイツを、馬上の北郷を撃ち落としました」
………
……へ?
「……聞き間違えたのかしら。秋蘭が何をしたって?」
「コイツは、私が北郷が打った矢に掠ったのを見て、北郷に向けて矢を打ち込みました」
秋蘭が……
「とにかく、秋蘭を部屋に置いて春蘭と季衣、桂花は付いてに来なさい。真桜と沙和は麗羽たちを医務室に連れていってから来なさい。万が一にでもこの話が流琉に入らないようになさい。良いわね」
「わ、わかったの」
「ホンマかいな…隊長が…?」
真桜も沙和も衝撃を受けたものの私が言った通りに動いてくれた。
私は他の三人を連れて軍議場へ向かった。
春蘭には自分が見た限りのことをすべて話してもらった。
春蘭が曖昧なところは季衣の証言で補って、
張遼との遭遇、そこから春蘭との一騎打ちがあって、突然後ろから矢が飛んできたと思ったら一刀だった。
それを見た秋蘭が激怒して一刀に向けて矢を打ち一刀は落馬。張遼は一刀を連れて虎牢関に去った。
その後現れた凪と秋蘭の喧嘩。
話が終わった頃にはもう夜遅くになっていた。
「凪が秋蘭にそんなことを言ったのね」
「はい」
「そして…」
秋蘭の暴言。
一刀の行動は確かにその時春蘭に威脅を与えたのかしれない。だけど、安易すぎた。
そもそも秋蘭の言葉は、最初から一刀が『裏切り者』である前提でやったことのように見える。本気で一刀を殺すつもりでいたのだ。だから張遼も状況を把握して一刀を助けて帰った。
「張遼はアイツを助けたわけではありません」
「どういうこと?」
でも、そう思った時に桂花は言った。
「張遼がアイツを連れて行ったことによって、劉備軍は董卓軍と内通関係であったという疑いを受けることになるでしょう。今はまだ袁紹が意識不明ですが、意識を取り戻したら先ず八つ当たりにでも劉備軍を潰そうとするはずです。その時に、この話は良い口実となるでしょう」
そもそも一刀が内通していたのは事実だった。
だけど、張遼が一刀を連れて行ってさえなければ、なんとでもそれを否定できる。一刀はそんな風に出来るようにこの策を仕掛けたのだ。実際に麗羽の軍がが隙を見せたのは麗羽本人の指示によったものだった。
でも一刀が張遼に攫われて、何も起きないとしたら……その時は内通したという逃れない証拠になる。
「現在袁紹軍はどういう状況なの?」
「被害はまだ把握できていませんが、甚大なのは確実です。君主であって、この連合軍の発起人である袁紹と主力武将がああじゃ、連合軍の存続自体が危ういでしょう」
「でも、ここで立ち止まるわけにはいかないわ」
この連合軍は止まるわけにはいかない。
この連合軍の目的は、董卓に軟禁された皇帝を救うこと。
そんな大義を持って動いたこの連合軍がここで逃げては、大陸の民たちからの信頼を失う。それこそ最初から参加しなかった方がいいぐらいよ。
「麗羽が弱音を吐くとも思えないし、なんとしてでも連合軍は続くでしょう。でもそうなると問題があるわね」
秋蘭をどうすれうべきか。
彼女の口から聞くべきだろうけど、もしもの場合は……
「大将、秋蘭さまが目を覚ましたで。今外に居るけど、どうするん?」
丁度よかったわね。
「中に入らせなさい」
さて、秋蘭、覚悟はできているかしら。
言葉次第では、
私はあなたを殺さなければいけないわ。
春蘭SIDE
矢を打たれた時、私は何かを考えた。
何者かに私の戦いを邪魔されたと、誰か顔を見た瞬間殺してやろうと思った。
でも、そう思った立ち上がった時、私の前に居た相手は既に私など眼中に居なかった。
そしては、そこに倒れていた北郷を連れて去った。
何がなんだか判らなかった。
でも、
『貴様、待て!』
逃げていく馬の後ろに矢を射る秋蘭のその『目』を見ながら一つだけ分かったことがあった。
アレは、姉の私を心配している目ではなかった。
ただ、目の前の『敵』を憎む目。
秋蘭、お前は私がアイツに打たれたから怒っているわけではない。
ただそれを口実に、己の怒りをぶつけているだけだ。
そしてその心をまるで華琳さまのためのように包んで隠した。
私が本当に許せないのはそれだ。
例え妹であろうとも、貴様ごときが華琳さまの覇道を汚してたまるものか!
「華琳さま」
秋蘭は軍議場に入ってきて直ぐに華琳さまの前に跪いた。
「話は春蘭から聞いたわ。あなたの気持ちは十分に理解しているつもりよ」
許すまじ罪であったにも関わらず、慈悲深くも華琳さまはそれを伏せて秋蘭を励ました。華琳さまはそのまま秋蘭を許されるつもりなのだろうか。
いや、そんなはずはない。
他のものなら秋蘭だからこそ許されることは出来るかもしれない。
でも、これは華琳さまの覇道の問題だ。それが誰であろうと、罰を受けるべきだ。
「華琳さま、アイツは…北郷は姉者を…」
「春蘭の傷は大したものじゃないわ。脚を少し掠っただけよ。それこそ戦場では常にあるようなもの」
「しかし、アイツは姉者に害をなすつもりでそこに居ました。あの矢が外れていなければ、その時張遼が姉者を殺していたかもしれません」
戯言だった。
好敵手との一騎打ちであった。一瞬の油断が命取りになる場面で私は跪いた。
張遼の刃が私の首を落とすに十分な時間があったにも関わらず張遼はそうしなかった。
己の武を誇りとして生きる者同士の戦いだった。そんな真似が出来たわけがない。
そもそもアイツが外れるかもしれない矢を打つような男なのか。
私は難しいことは知らない。
でもアイツがどのような男だったかは私なりに知っていたつもりだ。
そしてアイツは、決して自分の行動に運などを混ぜるような男ではない。
アイツが脚を掠っていくように矢を射たから、矢がそこを通ったのだ。
秋蘭がアイツを殺さんと矢を射たように……。
「華琳さま、アイツは危険な男です。これ以上アイツと絡むのは我々にとって良くありません。次会ったら、私にアイツを殺させてくださ……」
「まだ言うか、この痴れ者が!!」
「っ!姉者」
私は我慢ならなくて秋蘭の前に立った。
「いつから貴様が華琳さまにそのような指図が出来るようになった!」
「指図なんて…姉者、私はただ…!」
「貴様は今ただ自分が奴のことを気に入らないという理由だけで奴を殺したいと華琳さまに言っているだけだ。それならまだ良い。だがお前はその私情を隠すためにそれが華琳さまのためだなどといいながら華琳さまの行く先を定めているではないか!貴様は一体何様のつもりだ!」
「っ…!」
「凪の言った通りだ。本当の裏切り者は北郷などではない。秋蘭、貴様だ!」
「姉者…!姉者には判らないのか。北郷のせいでこの軍がどれだけ壊れかけているかを…!」
秋蘭も負けずと立ち上がって私に叫んだ。
いつもなら姉の私にこんなふうにして来るような奴ではない。
「アイツが来た後私たちの軍は乱れた。アイツを嫌う者たちが華琳さまに逆らってまで奴を殺さんとして、そんな連中を排除するという名目で奴は数々の人材殺戮した。そして今回の連合軍では奴は流琉をあんな風にして、更には凪まで連れ去った。アイツがこの軍に居たという事実さえなければ何もかもうまく行ったはずだった。アイツ一人の存在が華琳さまの覇道を誰よりも乱すということに何故気づかない!」
「秋蘭…貴様!」
「ばっかじゃないの?」
桂花?
「アンタらね、二人だけが華琳さまの忠直な部下であるような口聞いてんじゃないわよ。見苦しいにもほどがあるわ」
「何?」
「秋蘭、アンタいつから華琳さまの覇道に何が得になって何が損になるか見分けられるほど偉くなったつもりなの?」
「なっ!桂花、お前もアイツを肩を持つのか。アイツは…!」
「ええ、アイツのせいで私たちの軍は乱れたわ。下の官吏たちがアイツのむちゃくちゃの要求に耐えられなくていつも苦情していた。でも、だから何?華琳さまのために働くのだからビシバシ働かせて当然じゃない?それが出来ない無能なら最初から居なくても良いのよ。しかも一刀が排除した奴らは、皆華琳さまの地で華琳さまの民草の金で自分たちの腹を肥やした人とも呼べない豚どもばかり。何一つ華琳さまに害になることはなかったわ」
「桂花…貴様本気でそう言ってるのか」
「本気よ。それとも何?あなたは華琳さまの軍が他の軍みたいに、適当に働きながら適当に自分たちの利を稼ぐ奴らの天国だとでも思っていたの?考え方が安直なのよ、秋蘭。この軍に置いて北郷一刀という男は確かに劇薬だったけど、何一つ華琳さまの覇道に邪魔になるようなことはしたことはないわ。あなたが言っているアイツが軍を乱したという事は、他の普通の軍でこそ通用する話であって、覇道を目指す華琳さまにとってそんなこと問題にならないわ」
「っ……貴様に…何がわかって…」
秋蘭、これ以上喋るな。
これ以上言ったら本当に貴様は死ぬ…!
「皆鎮まりなさい」
その時、華琳さまは静かにそう仰った。
「秋蘭、もう良いわ。あなたの覇道をどの風に見ていたかは良く分かったわ」
「か、華琳さま…!」
「黙れ、愚か者が!貴様ごときが私の覇道をすべて知っていたつもりでそんな口を言うのか!」
「っ!」
「例え危険な者だとしても、私は彼を受け入れた。彼を追放するべきだと何百人からの苦情が上がってきても私は聞かなかった。あなたには私のそんな行動が全部ただの独断だとしか思わなかったの?それとも私の目が狂ってそんなことをしていると思ったの?」
「それは…アイツが華琳さまを誑かして…」
「私が見るには、彼に誑かされたのは、私ではなく貴女のようだけれど…?」
「え?」
華琳さま…?
それは一体どういう……。
「秋蘭、あなたは陳留に帰りなさい」
「っ…!華琳さま!」
「今この場で首を刎ねられたいか!」
「っ!」
「貴女が、貴女たちが彼に関してどんなふうに思っていたかは分かったわ。でも、貴女たちが個人である以前に私の部下であったとしたら、彼を受け入れると私が決めたなら私に従ってもらわないと困るわ。命を賭けてでも主を正しい道に導くことが忠義だと思っていたなら勘違いしないで頂戴。あなたがやったことは忠義でもなんでもない。ただ自分の理想の形に私の覇道を合わせようとしただけよ」
「………」
「あなたへの処罰はこの連合軍が終わった後にするわ。でもあなたには言い訳する時間も、罪を消すためにこの戦争が功を挙げる機会も与えてあげない。これが覇道を穢した者への罰よ」
「……」
秋蘭は力を失いその場に座り込んだ。
「明日、日が昇る前に重傷して陳留に戻る兵たちと共に帰りなさい。帰って私が行くまで、自分がしたことが一体何なのか良く考えなさい。それでも判らないのなら、もうあなたのような『偽りの忠臣』は私の覇道に必要ないわ」
偽りの忠義…。
一方的な忠義。
華琳さまが望んでいなかった形で自分の忠を示しても、それは華琳さまのためにならない。
それが無駄でしかないならまだしも、そんな忠義が華琳さまの邪魔になるとしたら、
それが例え妹だとしても、もうこれ以上華琳さまのお側に居ることは出来ない。
桂花SIDE
秋蘭に対して判決が下された後、秋蘭は再び意識を失った。
本人にとっては大きな衝撃だったでしょうけれど、彼女の今回の行動は、本当にい今までの秋蘭とは思えないほど的を外していた。
でも、本当にそうだろうか。
今回の秋蘭がやったことは、本当にただの気まぐれで起きたことなのかしら。
「春蘭さま、秋蘭さまはどうなるんですか?」
秋蘭を退場させた後、粛然とした場の空気を割って、季衣がそう聞いた。
「それは華琳さまが決められることだ。しかし、秋蘭の今回の独断な行動は度が過ぎた」
他の者だったらこの場で首を刎ねられていただろう。秋蘭だったからまだ判決を先延ばししたのだ。
だけど、本当に秋蘭を処罰しなければいけない状況になると、彼女自身が言ったように、この軍の被害は甚大だ。
流琉が精神的に衝撃を受けて、凪が引き抜かれて真桜と沙和もまだ完全にその衝撃で自由ではない。以後凪を連れ戻せなかったら凪に付いて行くというかもしれない。
ここで更に秋蘭まで処罰されて重用できなくなったら、華琳さまが今回の戦いで何を得るとしても全体的には損でしかない。
華琳さまも今回のことでお疲れの様子だった。
無理もない。秋蘭は自分が一番大事にしていた部下の一人。曹操軍に春蘭と共に最も長い間仕えていた者だから。
そんな者が自分の理想を見誤っていたとされると衝撃を受けるしかない。
……本当にこの軍に一番の損をもたらしたのは、アイツじゃなくあなたじゃないの、秋蘭!
「各自もう帰って休んでいいわ。桂花は少し残りなさい。」
華琳さまの命に誰一人文句も言わず従って軍議場には私と華琳さまだけが残った。
「桂花」
「はい」
「…私がいけなかったのかしら?」
「華琳さまのせいではありません。悪いのは秋蘭が…」
「そうじゃなくて、一刀のことよ」
「………」
華琳さまが言いたいことは、つまりこうだった。
自分が春蘭たちを行かせていなければ、いやせめて流琉を秋蘭を一緒に行かせていたのなら一刀を窮地に追い詰めなくとも済んだという話だ。
だけど、
「アイツとの賭けもあったのです。アイツも華琳さまがこうなさることを予測していたはずです」
「…そうかしらね」
そう仰る華琳さまの声には元気がなかった。
いつかこんな華琳さまを見た覚えがある。
行動こそ違ったけど、原因は同じものだった。
「あの時と同じ気分だわ。一刀が放した張三姉妹を捕まえた時…アイツの嘲笑を浴びた時、その時と同じ」
「……」
「彼はあの時、それが私がやったことだと信じて疑わなかったわ。実際私はやってなかったけど、『お前ならそうするだろ』と言わんばかりの顔で私を見るその顔。それが今回も思い浮かぶのよ」
「つまり…今回もそれと同じだと言うのですか?」
正しい選択は華琳さまが動かないことだった。
でも、華琳さまは動いた。そしてアイツは華琳さまが動くだろうと知っていて何の準備もしなかった。だから自分が張遼と一緒に虎牢関に行くという最悪の結果を生み出した。
利には適っているけど、華琳さまとアイツ、二人の関係からすると、ある意味『裏切った』のは華琳さまの方なのかもしれない。
口では否定するも、彼の中にいる人に対しての『信頼』を裏切ったのかもしれない。
『お前ならそうするだろう。でも、出来ることなら……今回だけは…』
そんな運任せ、いや、信頼任せな気持ちが微塵でもアイツにあったとしたら…華琳さまは二度もそんな彼の期待を手放してしまったことになる。
もっと悲しいのは、アイツは華琳さまがそんな自分の期待を裏切るだろうと知っていてこんなことをしたということだった。
裏切られるのも自分で、その対価を受けるのも自分だというのに、アイツは分の悪い賭けをした。
誰にでもしないだろう。華琳さまだったからこそした賭け、それも二回。
ここで疑問、
二度も期待を裏切られたアイツはまだ華琳さまに『興味』を持っているのだろうか。
「万が一麗羽が劉備軍を叩こうとしたら、私は全力で止めるわ」
「…華琳さま?」
「ここで劉備軍が潰されては困るもの。彼のためではないわ。ただ彼が私と天下を競いあうに相応しいと言った相手をこんなところで失いたくはないからよ」
「……恐らく、華琳さまがそこまでなさる必要はないと思います」
「なんですって?」
きっとアイツのことだ。こんな時でも何かを考えるはず。
何を……
私ならどうするだろうか。
自分が敵の軍に攫われて安全な状態が味方を威脅するとしたら……
……
ああ、そうか。
死ねばいいのか。
アイツが攫われて、それで死ぬとしたら結局裏切りの疑惑はなくなる。
でも、私ならそう出来るけどアイツがそんなことをする?
興味のためにはどんなことでもする男だけど、そんな他人のための犠牲精神がある男ではない。
劉備軍の立場が危うくても、董卓軍で他の新しい興味を探したのなら、そこに乗り移るかもしれない。
それこそ秋蘭が言ったように裏切る感じで……。
「もしアイツが死ぬとしたら、劉備軍が裏切りの疑惑をうけることもないでしょう」
「……まさか、彼が本当にそんなことをするはずないでしょう?」
「偽りにでも、死んだことにするかもしれません。遅くても朝までには何かしら動きがあるはずです」
「……」
私がそう言って暫く考えていた華琳さまは席から立った。
「どちらに?」
「寝るわ。疲れた」
「は、はぁ……」
もう月が空の一番高い位置にいる頃。深夜だった。
「あなたも今日はもう休みなさい」
「大丈夫なのですか、華琳さま」
無心にそんな言葉が口から出た。
華琳さまを本当に心配してそんなことを言ったのか、それとも他の意図があったのか私にも判らなかった。
「…大丈夫なわけないでしょう」
「……」
「でも、私は覇王なのよ。これが私の生き様よ」
「………」
ああ、愚かだ。
私も、秋蘭も、皆愚かだった。
華琳さまがどうしてこんなにもアイツに執着するのか、この期に及んでもまだ解っていなかったなんて…。
覇王は孤独だ。
でも、唯一その覇王の孤独さから華琳さまを救い出せる存在。
それが北郷一刀なのよ。
個人の有能さが問題ではない。周りに悪い影響を与えるかどうかなんて問題ではない。
彼が居る頃の華琳さまにこんな姿はなかった。
いつも凛々しくて、強い方だとばかり思っていた。
でも、違う。それは違う。
華琳さまが常に強かったのは、後ろにアイツが居たから。
それが何かの支えになるわけではなく、ただ側に居るというだけで…自分をわかってくれる人が側に居るというだけで…
覇王であっても孤独ではなかったあの頃に比べたら、今の華琳さまはあまりにも弱くなってしまった。
そしてそこで私が辿り着いた答えは、
華琳さまからアイツを離れさせたその『誰か』を、決して許してはいけないということ。
華琳SIDE
『虎牢関の城門を打ち砕いた凪は』そのまま関の中に入った。
あっという間に関上に上がった彼女の姿が見えて、旗を降ろした次の瞬間あの子が連合軍全体に響く程に大きく叫んだその声はまるで人のそれとは思えないもので……ふとあのままあの子が死んでしまうかもしれないと思ってしまった。
「劉備」
「………」
「劉備!!」
「!」
状況が飲み込めずただ立った固まっていた劉備は私の声に気がついた。
「しっかりなさい!あなたも一軍の君主ならこういう時こそ気をしっかり持ちなさい」
「曹操さん…でも、」
「まだ決めつけるには早いわ……とにかく凪のところへ行きなさい。見たところ、恐らく今虎牢関は空になっているわ。あのまま放っておくと凪が何をするか分からないから早く!」
「は、は…はい!」
正気に戻った彼女を戒めると、劉備は直ぐに虎牢関へ向かった。
一軍の君主である彼女を単身で敵の城に入らせるのもどうかと思うけど、恐らく今は安全だろうと思うし、何よりも私が行ったら本当に最悪の状況になりかねない。
一刀……
これが嘘ならいくらなんでも質が悪いわ。
それに……あなたには謝らなければいけないことがあるのよ。
だから…お願い。
まだあなたが私の興味を持っていたなら、
今私の期待に答えてちょうだい。
どこで何をやっていても構わないから生きてだけ居て欲しいと……
・・・
・・
・
あとがき
えー、今回のパートを書くために5回ぐらい書いては全部消す作業を繰り返しました。
これがなんとか抑えた感じなんです。一番最初に書いたのはそのまま上げてたら秋蘭さんのファンの方々に後ろから刺されるレベル。
自分が書いた文章に後づけで解説入れるのもアレだと思いますが、皆さんが分かり易いような例えをしますと、
(多分蜀√だったと思いますが)赤壁で華琳に偽りで下る祭を、秋蘭は警戒するべきだと進言しますが、驚くことにここで春蘭が秋蘭を責める場面が出ます。
これは自分なりに考えますと、つまり華琳さまの覇道というものは(特に人材においては)他の者にどうのこうの口を言われていいようなものではないということです。
これはこのSSでの愛紗さんにでも言えたことですが、自分は主の理想に惹かれて居たつもりだったのに、何時の間にか自分の理想の形に主の理想を合わせようとしていたって感じが今の秋蘭が犯した罪のメインです。
蜀では特に問題なく許された愛紗ですが、相手が覇道を歩むものとなるとこのような真似は本当に許しがたいものではないだろうかと勝手に思ってこんなふうに書きました。
じゃあなんでその役割が秋蘭に行ったのかという問題は、
そもそもこれは最初からあったフラグです。割りと早めに。
まだフラグ全部回収してないのこれ以上は言えませんが、このSSで秋蘭にこんな役を任せようとしたのは割りと最初からです。
次回は(またどんだけ長引くか判りませんが)桃香さまの方の話になると思います。
覇王の孤独は知りませんが、彼女もまた一刀に惹かれた英雄であって、また長い付き合いの華琳さまを差し置いて真名で呼ばれた彼女ですから、きっと華琳さまとは違ういろんな複雑な感情があると思います。
次回はほんと、またいつになるのやら……
そしてこの連合軍はいつ終わるのやら…早う終わらないかな……
ではノシノシ
説明 | ||
小説になろうでネクストンの作品の二次創作が投稿可能になりましたが、まぁそんなことは別にどうでもいいです。 今回は結構苦労しました。 最初に書いたのが三週間前なのに、それが気に入らなくて五回も最初から書きなおしていたらこんなに長引いてしまいました。 まあ、途中で韓国翻訳で浮気してたりしましたけどね。 |
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コメント | ||
春蘭は確かに頭が悪いがただ言われたことをまっすぐにやる強い意志、すごいもんですよ。(ZERO&ファルサ) 一刀は凪に気に入られようとはしていない、覇王の悪口を吹き込んだわけでもない、凪が一刀を選んだのは凪の意思であり覇王が凪を繋ぎとめるものを持っていなかったから、凪の引き抜きは一刀のせいじゃないぜ秋蘭(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) いやぁ〜今回も面白かったぜぇ〜 次も楽しみにしてますね!(Lie) あまりに優れた才は人に理解されず、今回のようになってしまいました。人間関係についてよく考えさせられる小説です。(山県阿波守景勝) おっ新作きましたね。毎回毎回楽しみです(たこきむち@ちぇりおの伝道師) 後ろにいる『誰か』とは、曹操軍の行く末は、一刀はと、今後が楽しみです。 最近とても暑いのでお気をつけて。更新お疲れ様です。(下駄を脱いだ猫) 普段のよくおバカキャラと扱われる春蘭で忘れられがちですが、その本質は覇王への絶対忠義。見事に表現されていました。凪が真相を知るまで壊れてしまわないか心配です・・・加えてまだ帰っていないであろう秋蘭もどう捉えるのか・・・間違っても喜んだような言動とったら本気で処刑されかねない・・・(kurei) 凪も秋蘭も心配だ。天才は孤独とはよくいったものだ(VVV計画の被験者) 凪の慟哭・・・大丈夫でしょうか、心配です。華琳は一刀の心情を読み取りきる事ができなかったからこその後悔なんですね。(本郷 刃) 覇王として孤独な華琳と天才として孤独な一刀だからこその関係なんだろうな。(アルヤ) 誤字訂正です。 3p 考え方が安着なのよ、秋蘭。→考え方が安直なのよ、秋蘭。(アルヤ) こういう信頼の形は一般的なものよりもうらやましく思う(patishin) |
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