第三十五話:恋の華 咲かせて見せよう 何処までも |
サイにネギ&明日菜の三人が暴走した小太郎を助け、別れたと同じ頃―――
刹那とエヴァ、それに茶々丸&さよとザジに木乃香とパル&のどか&夕映は京都のシネマ村に居た。
「ほらほらっ♪ せっちゃん、どうや〜♪」
更衣所で借りた和服の着物を身に纏い、嬉しそうに笑いながら刹那に見せに来る木乃香。
まだまだ硬くはあるも、サイのお陰で少しずつだが木乃香に歩み寄る事が出来ていた刹那は微笑みながら答えを返す。
「はい、良くお似合いですよ・・・その、お綺麗ですし・・・」
まあ・・・そう言う刹那自身も既に木乃香によって衣装を着せられていた。
格好は新撰組の衣装、しかしこれが意外と刹那に似合っている―――男装の麗人とでも言うべきか?
ただし、野太刀である為に普通の刀より長い刹那の愛刀・夕凪を腰に差しており、その部分だけがそぐわないのだが。
「刹那さんも良く似合ってるよ、新撰組の男装が此処まで似合うなんて思わなかったけどさ♪」
そう言うパルも男装をしている。
彼女の場合は片目の眼帯やら腰に差した刀と脇差から剣豪・柳生十兵衛の格好だろうか?
「そ、そうです〜・・・似合ってますよ、刹那さんも木乃香さんも・・・」
「・・・所で、私達まで仮装する必要があったのでしょうか?」
そう呟くはのどか&夕映の仲良しコンビ。
のどかは西洋風のお嬢様のような格好、夕映は巫女のような格好をしている。
・・・実際、この二人もパルも意外と似合っているようには見受けられるが。
「うむ、一度してみたかった願いが叶った・・・シネマ村という所に来たら仮装しなければ始まるまい」
「マスターも良くお似合いです」
『(小声)茶々丸さんも似合ってますよぉ♪』
「・・・・・・(コクコクッ)」
どうやらエヴァはこのシネマ村という場所に来れるのを楽しみにしていたのだろう。
何処ぞの時代劇にでも登場しそうなお姫様の格好をして感慨深そうに頷いている―――実は彼女、時代劇などを見るのが大好きなのだ。
その横に居る茶々丸は西洋風のお姫様のようなドレスを着ている。
手に抱いているウサギ人形のさよも洋風のドレスのような衣装をつけているのでマッチしていた。
・・・まあ、その更に横に居るザジの格好は何処ぞの侠客のような格好であったが。
何だかんだで彼女たちは修学旅行を満喫しているようだ。
まあ、刹那とエヴァと茶々丸とザジの場合は最低限の警戒をしながらではあるが。
例え一般人が多い場所とは言え、木乃香を奪う為にどのような策を使って来るかなど解らないのだから。
しかし、刹那が木乃香を見る眼差しは本当に変った。
最初の頃は木乃香に見つからないように、言い方を変えるなら関わりにならないように避けていたが・・・。
最近、特に今回の旅行の中で木乃香との蟠りのような物が改善に向かっている為か、彼女の笑顔を見て温かい眼差しを向けている。
「(・・・こうして再びお嬢様と過ごせている、そんな日が来るなんて思わなかった。
サイさんの言う通り、一歩踏み出す事が出来たお陰だ・・・踏み出せて本当に良かった・・・)」
そんな心内を見抜いたのか、エヴァが少々苦笑のようなものを見せながら話しかける。
「・・・良かったな、桜咲刹那よ。
最初の頃に比べれば随分と腑抜けた面構えになったが、それで良い。
自分の大事な物から目を背けるような事はするなよ、大切な物と言うのは簡単に手から零れ落ちてしまうからな」
思えばエヴァも実に変わった。
かつての彼女ならこんな行事に参加する事もないし、今の刹那を見たら辛辣な物言いをしていただろう。
所謂、人から“化物”と揶揄される存在同士の為か同族意識のようなものから幸福に笑う刹那を貶していたかも知れない。
だが、彼女も刹那と同じくサイのお陰で此処まで変れたのだ。
「はい・・・ありがとうございます、エヴァンジェリンさん。
あっ、でもご心配には及びません―――周囲への警戒は決して怠っては居ませんので」
「ふむ、それは重畳・・・しかし大切なお嬢様と再び絆を取り戻せて結構な事だ。
サイの言葉を信じ、奴自身を信じて間違いではなかっただろう?」
エヴァのその言葉に刹那は頬を赤く染めながら静かに頷く。
てっきり否定すると思っていた為か、エヴァは刹那のその反応に一瞬だけ驚いたような表情をした。
勿論それが恋心なのかどうかは不明だが、純粋に慕っているのは見て取れる。
だからこそ、サイの過去を知るエヴァはかすかに一瞬だけ悲しげな表情もした。
「そうか・・・それも良かろう」
それ以上は何も言わない―――言っても詮無き事だ。
恐らく刹那の抱く感情は彼女の性格上、愛と尊敬の間という所であろう・・・。
ならば、此処から恋愛感情に発展するかそれとも尊敬心だけで終わるかは本人の決める事である。
―――その感情が恋愛感情となった時は、一応ある事を伝える心算だが。
そんな風に二人が話をしているその隣。
少々バツの悪い空気を打ち破るかの如く、木乃香達は変らず賑やかに騒いでいたのだった・・・。
「う〜ん、それにしてもやっぱり木乃香が一番似合ってるねぇ。
何ていうの、こう・・・まるで普段着みたいに着こなしてるように見えるよ」
少し周囲を歩いた後、そんな風に感想を呟くパル。
その横に居たのどかも夕映も同じような感想を持っていたのかしきりに微笑みつつ頷く。
木乃香の場合、普段から和服を着慣れている為かその姿は見ているものを感嘆させるなど当然の事だろう。
その事を知らないパルやのどかや夕映、更にシネマ村の通行人であっても感心したように見つめていた。
「えぇ〜、ほうかな〜?
ウチ、結構こう言う格好なんかしとるで? 実家に帰ったりしたら〜」
当の本人とすれば普段実家で良くしている格好に過ぎない。
まあ、パル達は木乃香の『実家』というものを知らないのだが、少なくとも裕福な家庭だと言う事だけは理解出来たようだ。
「自身持ちなさいよ、木乃香♪
今のアンタを見たらどんな男でもそれこそイチコロよ、それだけ良い素材持ってるんだからね♪」
パルが笑いながらそんな台詞を呟く。
すると・・・いつもはポヤ〜っとしているだけの木乃香が珍しくパルの言葉に食付いた。
「えっ・・・ほ、ホンマに? ホンマにそう思うん、パル?」
その物言いに一度首を傾げるパル。
木乃香は基本的に恋愛事を言われたとしても笑いながらスルーするようなタイプの人間だ。
更に恋愛事に対して噂も何も全く無い筈・・・なのにこの反応は一体何なのか?
「(・・・あれ、木乃香・・・恋愛事に全くと言って良い程に何も無いと思ったけど。
この反応はもしかして・・・そう言えば修学旅行に来てから・・・はっ、成る程ねぇ・・・♪)」
『ギュピーン!!』等と言う擬音を放ちながら目を光らせるパル。
恋愛事(要は人の恋バナ)を大好物とするパルにとって、これ程に楽しめそうなものはない。
しかも考えてみれば、多分目の前に居る和服の大和撫子の少女が恋愛感情を抱いているのは自分の親友の内の一人と同じ人物だ・・・。
その様子に親友であるのどかや夕映も何かを感じ取ったらしい。
疑問を浮かべたような表情で、口元をにやけさせているパルの口から放たれる言葉を待った。
「そうだよ木乃香、自信持ちなって♪
た・と・え・ば・・・サイ君だって今の木乃香見たらメロっちゃうかもよ〜♪」
「「「なっ!? え、ええぇぇぇ!?」」」(声:刹那、のどか、夕映)
「「「・・・・・・」」」(声:エヴァ、茶々丸、ザジ)
驚愕と無言、まるで反対の反応を持つ者達。
そんな反応をよそに、木乃香は頬を赤らめながら少し驚いた様子で口を開く。
「え・・・えぇ〜? サイ君・・・?
でも、ウチとサイ君じゃ・・・ウチの方が釣り合わないんとちゃうかな〜?
だってサイ君って格好良ぇし・・・」
間違いない―――この反応は間違いない。
予想外だった、恋愛事の噂の無い木乃香のこの反応は此処に居る者達にとって。
「(えっ・・・ええええぇぇ!? こ、このか・・・サイさんの事を・・・)」
「(のどか、これは実に強力なライバルの登場です・・・それに何故でしょう、私のこの胸の痛みは?)」
「(ここ・・・こここここ、このちゃん・・・う、ウソ・・・やろ・・・?)」
そんな事を考える少女たち。
一方のエヴァ達は先ほど刹那に見せた何処となく悲しげな表情を湛えて何も言わずに木乃香を見つめていた。
「(ふふ、やっぱりビンゴか・・・)
な〜に言ってるのよ木乃香? 同じ女の私達がアンタの事をキレイだってさっきから言ってるじゃない。
それに、惚れた男に対してアタックしないでどうするのよ?」
表面上は爽やかに言うパルだが、腹の中は真っ黒である。
まあ・・・どろどろとした恋愛模様を見るのが好きな彼女にとってはこれも娯楽の一つなのだろう。
それに、同じくサイに恋愛感情を抱いているのどかに発破を掛けるという理由もあった。
―――と言うかパルよ。
サイの場合はドロドロの恋愛模様どころか、下手すればグチャグチャの恋愛模様だがな。
何せ此処に居るメンバーならパルと夕映(彼女も怪しいが)を除いて多かれ少なかれ、触れ合い方の違いはあれど大体がサイに好意を抱いている。
更にそれ以外ならクールなスナイパーに戦闘狂(バトルマニア)の中華娘とのほほん忍者の三人が居り、ちみっこ双子もそう言った感情を抱いているようだ(風香と史伽の場合は兄のように慕っている感もあるが)。
おまけにそのやさぐれ感に母性を刺激されたどう見ても中学生に見えない少女も、感情の度合いは違えど喧嘩友達のような関係である凄腕ハッカー少女も、そして年上好きのオジコンだった筈の人物も多かれ少なかれサイが気になっているのは事実なのだから。
それとついでにこれまた感情の度合いは何とも言えないが教会のシスター見習いにその妹分、同クラスの心優しい保健委員の少女など・・・全くモテない奴からすれば、殺意を抱かれても可笑しくはない。
(更に更に描写が出て来ていないだけでサイに恋心のような物を抱く人物は後2〜3人居るのだから、クラスの約半分(※)はサイに何かしらの感情を持っていると言う事だ) ※)計16人強
まあ実際の所、チンピラのように見えるが不言実行タイプの人物。
喧嘩っ早いのが玉に瑕だが自分から手を出す事は殆どせず、言葉で語らず行動や背中で語る漢。
更に口は悪いが相手の為を思って言う事は多く、結果その言葉のお陰で救われた者も何人か居る。
更に更に思春期の少女達のクラスの唯一の男性と言えば変った性癖の持ち主か彼氏持ちでない限りはそう言った感情を抱くのが当然と言えば当然のような気もするが。
・・・少し脱線してしまったが話を戻そう。
パルの言葉に考えるような仕草を取る木乃香だったが・・・直ぐに顔を上げて頬を赤らめたまま笑顔で言う。
「うん、そうや・・・パルの言う通り。
アタックしないでウジウジするなんてウチらしくもないわ・・・アリガトな〜パル!! ウチ、ウチ頑張るわ〜♪」
「「(み、認めたぁぁぁぁぁ!?)」」
心の底からの聞こえぬ声を言い放ちながら慌てるのどかに夕映。
「(そ、そんな・・・!? お、お嬢様も・・・お嬢様も・・・そんな・・・)」
一方、自分の感情が恋愛なのか何なのか解って居ない刹那・・・それでも自分の想う人物が護るべき人と同じだと言う事にショックを受けたようだ。
「ほう、知らなかったな。 一体いつの間に貴様はサイの奴に惚れたんだ、近衛木乃香よ?」
また一方のエヴァは真面目な顔で木乃香に尋ねる。
その表情は別に嫌悪感や動揺のようなものは映しては居ない・・・純粋な疑問からだろう。
「ほ、惚れたって・・・うぅ、恥ずいな〜・・・。
せやけど・・・せやけど前々から、三年生になるかなり前からサイ君が気になってたってのはホンマの事や」
まあ、バレバレだけどな。
そもそもあれだけ態度に見せていながら気付かない連中の方が凄いと思うが。
「実は3年になるより少し前、ウチはサイ君に会った事があるんよ。
それが前にのどかが桜通りの吸血鬼騒ぎで襲われて、明日菜がその後を追いかけた時が最初の出会いや」
「(え・・・エヴァンジェリンさん!?)」
「(あぁ、そう言えばその日に私はサイと初めて出会ったんだったな。
成る程、そう言えばあの時はサイの奴、誰かに頼まれて向かって来たとか言っていたような気がするが)」
黙って木乃香のサイとの出会いを興味深げに聞いているパルにのどかに夕映。
まさかそんな、3年になるよりも前のサイが編入される前から二人が出会っていたなどとは思わなかったらしい。
「のどかを襲った犯人を明日菜が追いかけたんやけど・・・。
ウチ、一人ぼっちになってもうてな〜・・・のどかは起きんし、明日菜が心配だってのもあって心細かったんよ。
そこに現れたのが何を隠そう、サイ君だったんや〜♪」
その語る口調は実に自慢げで嬉しそうだ。
恐らくその日が木乃香にとってはある意味最良の出会いとなったのだろう。
「ウチ、パニックになってもーてサイ君に犯人を追いかけてなんて言ってもうたんよ。
そしたらサイ君、見ず知らずの相手で勝手な事を頼まれたのに文句一つ言わずに快諾してくれて・・・ウチが名前聞いた時なんか『唯の通りすがりさ、名乗る程の人物じゃない』なんて言って走り去ってったんや。
だからその後少し経ってから、明日菜が無事だったから約束護ってくれたって思って嬉かったん♪」
・・・実際はサイ、エヴァを追いかけて行ったので厳密には完全に助けたかは微妙なラインだ。
しかしまあ一目惚れとか恋愛なんて奴は大体が勘違いから始まってしまうものだ、それを今更説明した所で木乃香が変るとも思えないが。
その後に木乃香は自分の強引にお見合いをさせられていた時の事も話す。
話をしている間の木乃香は終始ご機嫌、更に嬉しそうに頬を赤らめながら得意げに話し続けていた。
・・・それを見ていた刹那が、のどかがショックそうな表情をしていたのは言うまでも無い。
「ふ〜ん、成る程・・・サイ君ってぶっきら棒に見えるけど、やっぱ優しいんだねぇ♪
(そういえばさっき、こっそりと二日酔いに効く薬も買って渡してくれたっけ・・・『俺が買ったなんて言わないで良い』なんて言ってたけど♪)」
そう、サイはぶっきら棒で粗暴な人物を装っているだけであり本当は面倒見が良い。
不器用だが小さな優しさを持つサイをどちらかと言うとパルも好意的に思っていた感がある。
そんな彼を親友達が恋をしているようなのだ、いつしか面白そうにしていたパルは優しげに微笑むと木乃香の背中をバンバン叩きながら言葉を続けた。
「よっし、私はアンタの恋を応援するよ木乃香!! ねぇ、ゆえっち?
(ボソッ)・・・のどか、アンタも負けないように頑張んなきゃダメよ?」
木乃香に言った後、小さく肩を叩きながらのどかにもそう伝えるパル。
おちゃらけてて、変った趣味を持ってて、楽しい事になら何にでも首を突っ込もうとする悪癖の持ち主であるパル。
―――だがその心内は親友の事を考える『良い女』でもあるのだ。
「あ・・・は、はい!! そうですよこのかさん!! が、頑張るです・・・そう、頑張るですよ!!
(ボソッ)の、のどかも頑張るですよ!! じゃないとこのかさんに負けてしまうですから・・・」
・・・どうやらボーっとしてたのか慌てて言葉を返し、横に居た親友の肩を叩きながら呟く夕映。
そんな風に諭された二人の少女は自分の気持ちに向き合う。
「せ・・・せやな、ウチ頑張るわ!!」
「(ボソッ)あ・・・あの、あのあのあの・・・その・・・わ、私も・・・頑張るよ〜」
そんな二人を・・・いや、そこに居た者達を見つめている目線が二つ。
一人は勿論刹那だ―――心の中で葛藤を抱きながらそれでも木乃香の為に身を引こうとする。
「(私も・・・応援・・・応援をしなければ・・・。
サイさんは、サイさんは信頼出来る方なのだから・・・でも・・・)」
そしてもう一人は何とも言えない表情をしているエヴァだ。
何かを考えるように顎に手を当て、少しだけ物思いに耽り・・・そして、ほんの少しだけ悲しげな表情になると木乃香に向かって口を開く。
「近衛木乃香、貴様のサイに対する想いの強さは良く解った。
サイは確かに貴様だけでなく、私にとってもそんなに簡単に出会う事の出来ないような漢だ。
故に貴様が・・・いや貴様だけではないが、サイに惹かれるのは何となく理解出来る」
そんな事を呟く光景が初めての為、其処に居た者達は全員がエヴァの方を見る。
木乃香もエヴァの言葉が嬉しいのか微笑みながらだ―――だがそこで、エヴァは急に真面目な表情になると小さく呟く。
「・・・だがな、先に一つだけ言っておく。
貴様たちがサイに惹かれるも慕うも勝手だ・・・しかしそれが恋愛感情なら、今のサイには重荷にしかならん。
この言葉を努々(ゆめゆめ)忘れるな」
「えっ? エヴァちゃん・・・それどういう・・・」
木乃香がエヴァの言葉の真意を問おうとするもエヴァはそのまま背を向けて歩き出す。
それに続くようにしてずっと黙っていた茶々丸もザジもエヴァを追うようにして歩き出した。
その背はまるで―――
まるで『これ以上語る事はない』とでも言っているかのように木乃香達には見えた。
・・・とまさにその時の事だ。
シネマ村に居た通行人達が急に騒ぎ出し、何処かに向かって歩き出す。
それを不審に思った夕映は、先ほどのエヴァの言葉への疑問をとりあえず忘れると通行人の一人に尋ねる。
「あの、何かあったのですか?」
「あぁ、何だか半裸で全身傷だらけの銀髪の兄ちゃんがこの先の橋の上で誰かと戦ってるんだとさ」
その言葉に殆どの人物は首を傾げる。
しかし半裸と言うのは別として、全身が傷だらけで銀髪と言う特徴を持つ者は一人しか当て嵌まらない。
その人物が誰か気付いたエヴァや茶々丸にザジ、そして刹那は呟く。
「マスター・・・まさか・・・」
「あの大馬鹿者が・・・どうしていつも奴はああ面倒事に巻き込まれるんだ全く・・・」
「・・・・・・(クイクイッ)」←エヴァの着ている衣装の袖を引っ張っている、急かしているのだろう。
「そんな・・・明日菜さんにネギ先生と本山に向かったんじゃ・・・」
そう、一人しか思い当たらないのだ・・・そんな人物は。
四人は顔を見合わせるとその人物の名を揃って呟いた―――
「「「「サイ(さん)!!!」」」」
「よし、月詠・・・計画通り動いてお嬢様を此処に呼び寄せるんやで」
「うふふふふ・・・了解です〜。 また刹那センパイと戦えて嬉しいですわ〜」
「・・・・・・」
時間は少しだけ遡り、少し離れた場所から木乃香達を監視する人物達。
彼女たちは密かにある計画を実行しようと機が熟すのを待っていたのだ・・・。
その作戦とはシネマ村という場所を利用し、衆人観衆の中で客を巻き込んだ劇に見せかけて木乃香を攫おうとしていた。
計画の伝言係として女剣士月詠に合図を送り、計画はスタートする。
その際に千草に対して、殆ど口を聞く事もなく無言で居た少年・フェイトが、珍しい事を聞く。
「・・・しかし良かったのかな?
まだあの狗族の娘(小太郎)には利用価値があったんじゃないのかい?
それなのに、態々(わざわざ)禁呪を掛けて使い捨ての駒にする必要も無かったと思うけど?」
フェイトとすればまた小太郎は利用価値があったように思われる。
作戦と言うのは二重にも三重にも策を巡らせ、失敗に終わった際の保険を作っておくのが最も効果的な方法だ。
それにこの作戦が失敗した時に少しは戦える人物が居た方が他の策を講じ易いのである。
だが刺客の頭たる天ヶ崎千草はフェイトの言葉に嫌悪感のような表情を浮かべて返す。
「はあ? あんな半端者の小娘が何の役に立つんや?
それにな、ウチは今から『関西呪術協会』を乗っ取って正しい方向に導くんやで。
あんな人間と化物の混ざりモンのゲテモノなんぞを置いておきたくなんぞないわ、気持ち悪い」
・・・一つだけ解った事がある。
どんな理由で関西呪術協会を乗っ取ろうとしているか、その理由は本人でなければ解らないだろう。
しかしこの天ヶ崎千草と言う人物が“腐った輩”だと言う事だけは良く理解出来た。
所謂、この人物は血筋やら種族やらと言った物を重視するタイプなのだ。
血統が尊いからこそ素晴らしい、純血の人間であるからこそ価値がある・・・まるで昔の貴族のような考え方である。
そんな歪んだ価値観を持ちながらも目的の為なら利用する事も厭わない、そして必要なくなったらゴミ屑のように平気で捨てる・・・まさに外道や下種の代名詞が服を着て歩いているようなものだ。
「・・・まあ、どうでも良いけどね」
一方、フェイトはそんな言葉を聞きながらも感情を全く表す事もない。
別に言うなれば彼にとってはどうでも良いのだ―――雇われたから手を貸している、それだけの事なのだから。
例え最低な下種の類の輩でも雇い主は雇い主だ。
そんな事を考えながら、フェイトも準備に向かおうとした―――まさにその時。
『フン、成る程・・・随分と下種な輩だな。
貴様のような輩が正しく導くだと―――寝言なら寝てから言うが良い』
現れる魔方陣、放たれる輝き。
響いた声の持ち主は一人しか居るまい―――その轟いた声に驚いたのか、千草は慌てて光り輝く魔方陣を見た。
「な・・・何や・・・一体誰や!?」
「此処で来たか、君の気概を考えれば来るとは思っていたけどね」
フェイトにとっては想定の範囲内だ。
そう、寧ろ『此処で来なければ何処で来るのか?』などと彼は考えていた。
魔法とも気とも思えぬ不思議な力を持つ人物―――出来れば計画の為にはさっさと退場願いたい相手。
魔方陣から放たれる光が止み、目を眩ますほどの光が消えた後―――魔方陣があった場所に現れていたのは勿論、サイだ。
上着を纏わず、脇腹に巻いたサラシと着物風のズボンのみの外見であったが・・・その覇気は最初に会った時以上に感じる。
その鋭い目がフェイトを捉えると―――
「よう、フェイト・アーウェルンクス・・・。
売られた喧嘩をあの時は強引に買っちまったからな、今度は俺が売りに来てやったぜ―――」
不敵に笑いながらサイは呟いたのであった。
第三十五話の再投稿を完了しました。
今回は原作の京都・映画村の場面の始まりを描かせて頂きました。
それに合わせ、遂に此処で麻帆良3−Aのおとぼけ少女こと木乃香が自らの想いを完全に理解しました。
・・・まあ今までも結構恋愛感情を出していたような部分ばっかりでしたがね。
映画村にて再び始まりそうな木乃香奪取計画。
小太郎の事を使い捨てにする外道のような天ヶ崎千草、狂人の月詠、エヴァに匹敵する実力者であろうフェイト・アーウェルンクス。
―――そして敵の真っ只中に現れた主人公、光明司斉。
再び始まらんとする戦いの中で斉は木乃香を、3−Aのクラスメイト達を果たして護りきれるのか?
それは次回のお楽しみ―――
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一目会ったその日から恋の花咲く事もある 咲いて見れども誇らぬ花を、華と変えて見せましょう |
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