英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 255 |
〜メンフィル帝国・帝都ミルス・マルーダ城内・客室の一室〜
「ん………………?」
王城の客室の一室のベッドで眠っていたエステルは目を覚まして、起き上がった。
「あら。ようやく起きたようね。」
そこに椅子に座って紅茶を呑みながら本を読み、優雅に過ごしていたレンが気付いて、本を閉じ、紅茶と一緒にテーブルに置いてエステルを見た。
「レン………ここってどこ??」
ベッドから起き上がったエステルは周囲を見て首を傾げた。
「うふふ、ここはマルーダ城の客室の一室よ♪」
「マルーダ城………ハッ!カファルーとの勝負は!?ミントは大丈夫なの!?」
レンの話を聞いて放心していたエステルだったが、慌てた様子で尋ねた。
「うふふ、エステルは慌てんぼうさんね♪ミントはエステルが起きる少し前に起きたわ。」
「よかった………それでミントはどこにいるの?」
レンの説明を聞いたエステルは安堵の溜息を吐いて尋ねた。
「ミントはパーティーに着るドレスを今、選んでいる所よ。多分、もうドレスを着て、パーティーに出ているんじゃないかしら?パーティーはもう始まっているし、エステルの仲間達もみんなパーティーに参加しているわ。」
「そうなんだ……ミントのドレス姿かあ………きっと、凄く綺麗で可愛いんだろうなあ………って!カファルーの件はどうなったの!?」
「クスクス。まだ気付かないの、エステル?右腕を見てみたら?」
「へ?………右腕………?」
レンに指摘されたエステルは首を傾げた後、右腕を見た。
「あれ……こんな腕輪、さっきまで付けてなかったのに………」
「……エヴリーヌお姉様の話ではカファルー?だったかしら。その腕輪が魔神との契約の証なんですって。その腕輪を掲げて契約した魔神の名を呼べば、召喚して使役できるそうよ。……後、その腕輪の魔力によって持ち主に”魔神”の加護を与えるそうよ。……うふふ。それにしてもパパ達、すっごく驚いていたわよ♪あのパパですら『何だと!?』ってすっごく大声を出して驚いていたもの♪」
「そうなんだ……カファルー、あたしの事を認めてくれたんだ………」
レンの説明を聞いたエステルは嬉しそうな表情で腕輪を見続けていた。
「さて……と。やっと、起きたようだし、用意はいいわね?エステル。」
「へ?用意って何の??」
「うふふ、そんなの勿論パーティーに行く心構えに決まっているじゃない♪」
首を傾げているエステルに口元に笑みを浮かべて答えたレンは自分の目の前に置いてあるベルを鳴らした。するとドアにノックの音がした。
「入っていいわよ。」
レンの返事を聞くと数人のメイド達が部屋に入って来た。
「え、えっと……?」
いきなり現れたメイド達にエステルは戸惑った。
「エステルにアリアお姉様が用意したドレスを着せてあげて。後、髪もドレスにあった髪型にしてね。ドレスに着替えさせたらパーティー会場に連れて行ってあげて。」
「承知しました、レン様。」
レンの指示にメイド達は頭を下げて答えた。
「じゃ、頼んだわよ。」
「ちょ、ちょっとレン!あたしを残してどこに行くの?」
部屋を出ようとしたレンを見たエステルは慌てた様子で尋ねた。
「あのねぇ、エステル……エステルと同じレディであるレンもドレスに着替えるに決まっているでしょ?エステルの看病をお姉様達に任されたから、レン、まだドレスに着替えていないんだからね?心配しなくても、そこにいるメイドさん達がパーティー会場まで連れて行ってくれるわ。じゃ、レンはこれで失礼するわ。」
尋ねられたレンは呆れた表情で溜息を吐いた後、説明をし、部屋を出て行った。その後エステルはメイド達にドレスに着替えさせられた後、パーティー会場に案内された。
〜マルーダ城内・大広間〜
「わあ………!」
「こちらでございます。どうぞ、ごゆるりとお楽しみ下さい。」
パーティーの煌びやかさに驚いているドレス姿のエステルをパーティー会場に案内したメイドは会釈をした後、どこかに去った。
「あ、お姉ちゃんだよ、ミントちゃん、クロ―ゼさん!」
そこにティータの声が聞こえた後、ドレス姿のティータ、ミント、クロ―ゼがエステルに近付いて来た。
「あ、ママ!目覚めたんだね!」
「よかった……エステルさんが無事で本当によかったです。」
「ティータ……ミント……クロ―ゼ……えへへ、心配をかけちゃってごめんね。……それにしても3人共ドレスが凄く似合っているわよ!」
ティータ達に気付いたエステルはドレス姿のティータ達を見て感想を言った。
「えへへ、そうかな?」
普段は纏めていた髪を下ろし、レンが普段から着ているドレスに似た白と青のドレスを着たティータは恥ずかしそうに笑い
「ありがとう、ママ!………でも、クロ―ゼさんには敵わないよ……さすが本物のお姫様だね!」
「フフ……ミントちゃんの方が私と違って、大人っぽい雰囲気がありますよ?」
胸元を開いた真っ白なドレスを着たミントの言葉にグランセル城で着ているようなドレスに似た白のドレスを着たクロ―ゼは微笑みながら答えた。
「フフ……そういえば、ママもドレスを着たんだね!すっごく似合っているよ!」
クロ―ゼの賛辞に照れたミントはドレス姿のエステルを見てはしゃいだ。
「そうですね……髪も下していて、凄く似合っていますよ。」
「う、うん……!今のお姉ちゃん、お姫様みたい!」
「あ、あはは……言いすぎよ…………まあ、このドレスはラピスが生前着ていたのをあたし用に合わせたのだから、お姫様に見えるのはドレスのせいよ、きっと。」
ツインテールの髪型を腰まで下した髪型で、深い緑のドレスを着て、真っ白な外套を羽織ったエステルは苦笑しながら言った。
「そういえば、他のみんなは?」
「シェラザードさんとジンさんはその……あちらでお酒を頂いています。」
首を傾げて尋ねたエステルの疑問にクロ―ゼは苦笑しながらあるテーブルに顔を向けた。そこではいつもの姿のシェラザードとジンがテーブルにさまざまな酒の瓶や料理を置いて、それぞれのグラスに自分で注いで呑み、料理を食べていた。
「ゴクゴクゴク…………プハ〜!相変わらず、メンフィルが出すお酒って美味しいわね♪」
「ああ。さすがは皇家が開くパーティーだけあって、料理もそうだが酒も一級品だな。」
嬉しそうな表情でワインを呑んだ後言ったシェラザードの言葉にジンは頷きながらも、お酒を呑んだり、料理を食べていた。
「もう………何やっているのよ、あの2人は〜…………シェラ姉はともかくジンさんまで……」
「フフ、たまにはいいではありませんか。皆さんも気にしていないようですし。」
呆れて溜息を吐いているエステルにクロ―ゼは苦笑しながら言った。
「フフ、少しいいかしら?」
「相変わらずの呑みっぷりね。……師のペテレーネとは大違いね。」
「あら、カーリアン様に大将軍じゃないですか。どうしたんですか?」
自分達のテーブルに近付いて来たカーリアンとファーミシルスに気付いたシェラザードは尋ねた。
「あの時、大使館にあったお酒が全部なくなったせいで決着がつかなかった勝負……ここで付けましょうか♪」
「……そうね。ここなら大使館とは比べ物にならないくらいあるから決着は付けれるわね。カーリアンの言う通り、誰が最後まで残るか………勝負ね。」
「あら♪望む所です♪」
カーリアンとファーミシルスの言葉にシェラザードは嬉しそうな表情で答えた。
「ハハ、これは面白いものが見れそうだな。」
その様子をジンは笑いながら見ていた。そしてシェラザード達は呑み勝負を始めた。
「もう……揃いも揃って…………」
「あはは……でも、あの中で誰が勝つかちょっと興味深いですね。」
「ミントはシェラお姉さんが勝つと思っているよ!」
シェラザード達の様子を見たエステルは呆れ、クロ―ゼは苦笑し、ミントは嬉しそうな表情で言った。
「あれ?そう言えばアガットは?」
「アガットさんはその……食事をした後、『寝る』って言って会場を出て行っちゃった………」
首を傾げているエステルにティータは残念そうな表情で答えた。
「全く……少しは協調性ってもんがわからないのかしら?」
ティータの説明を聞いたエステルは呆れた表情で溜息を吐いた。
「フフ……でも、アガットさん。ティータちゃんのドレス姿を褒めていましたよ。」
「えへへ。凄く似合っているって言ってもらえたよ〜。」
「へ〜………珍しく素直になったのね。……で?スチャラカ演奏家(オリビエ)は?こんな華やかなパーティ、あいつなら間違いなく問題を起こしそうなんですけど……」
クロ―ゼとティータの話を聞いたエステルは驚いた後、ジト目になって尋ねた。
「オリビエさんならあそこの角の人と仲良く話をしているよ〜。」
「角の人……?」
ミントの言葉に首を傾げたエステルはミントが指し示した方向を見た。そこではオリビエとアムドシアスがお互いを見て、何かを会話していた。
(ア、アムドシアス!?なんでここにいるの!?)
エステルの身体の中にいたパズモはアムドシアスを見て、驚いていた。
(パズモ?知っているの?)
(ええ………かつての主――セリカの使い魔の1人だった”魔神”よ。セリカを逃がすために二度と現世に戻ってこれない”神の墓場”に残ったはずなのに………)
(へ〜……あの人も”魔神”なんだ………)
パズモの話を聞いたエステルは興味深い目でアムドシアスを見ていた。
「ほう……貴女も”美”を語るのか。」
「そういうお前も”美”を語るとはな。まあ、この我が語る”美”には劣るだろうが。」
「ほう……面白い。ならば問おう。美とは何ぞや?」
アムドシアスの言葉に不敵な笑みを浮かべたオリビエは尋ねた。
「フン。問われたのなら答えねば、ソロモンの一柱たる我の名が廃る。美とは”古”!”古”があるからこそ、今を輝かせる事ができるのだ!それ以外にどんな答えがあるのだ?」
アムドシアスは高々と言った後、不敵な笑みを浮かべてオリビエを見ていた。
「フッ、笑止……。」
アムドシアスの高々とした答えに対して、オリビエは両目を閉じて口元に笑みを浮かべた後、両目を開き高々と言った!
「真の美―――それは愛ッ!」
「……なにッ!?」
オリビエの答えを聞いたアムドシアスは驚いた!
「愛するが故に人は美を感じる!愛無き美など空しい幻に過ぎない!気高き者も、卑しき者も愛があればみな、美しいのさっ!」
「くっ、小賢しいことを……。だが、我に言わせてもらえば愛は非常に不安定なもの!愛は感情があってこそ成り立つものだ!草木等、そういった物に感情がある訳がない!そのようなものより、古代より受け継がれているものがあるからこそ、世界は美しく輝いているのだ!」
オリビエの言葉を聞いたアムドシアスは一瞬言葉を詰まらせた後、すぐに立ち直って高々と言い返した。
「むむっ……」
「ぬぬっ……」
そしてオリビエとアムドシアスは睨みあった後
「「フッ。」」
お互いは不敵な笑みを浮かべた後、アムドシアスは言った。
「まさか異世界の人間で美をめぐる好敵手がいるとはな……我はソロモン72柱の一柱、”一角候”アムドシアス!芸術と美を愛する魔神!人間――名は何と言う?」
「オリビエ・レンハイム。愛を求めて彷徨する漂泊の詩人にして狩人さ。フフ、貴女とは話が合いそうだ♪美と芸術の素晴らしさ……語り合おうではないか!」
不敵な笑みを浮かべて見られたアムドシアスにオリビエはアムドシアスと同じように不敵な笑みを浮かべて答えた後、高々と言った。
「面白い……!今までお前のような、美と芸術を語り合える者がいなかったのだ………存分に語り合おうではないか!」
「………………まさか変態仮面(ブルブラン)に続く馬鹿が増えるなんて…………頭が痛いわ…………もし、3人が揃ったらどうなるか……予想もしたくないわ…………」
「あ、あはは………」
呆れた様子でオリビエとアムドシアスを見ているエステルの言葉にクロ―ゼは苦笑した。
「うふふ、みんな似合っているじゃない♪」
そこにドレス姿のレンがエステル達に近付いて来た。
「あ、レンちゃん。」
「わあ………レンちゃん、凄く大人っぽい………!」
レンのドレス姿にティータは感嘆な声をあげた。
「うふふ、そうかしら?」
ティータの言葉を聞いたレンは上品に笑った。レンの髪型は普段の肩にかかる髪を纏め、短いポニーテールにし、まさに一国の王女が着るのに相応しく大人の雰囲気も纏わせ、自分の髪の色に合うような黒のヘアバンドをしていて、漆黒のドレスを着ていた。
「4人共、パーティーはどうかしら?」
「あたしはまだ来たばっかりだけど………なんか雰囲気があんまり固くないわね………まるで親戚の人達がみんな集まって、仲良く話しているみたい……」
「ええ……どこか暖かい雰囲気を感じますね………」
「うん………みんな親切な人達ばかりだね!」
「えへへ…………孤児院で誰かの誕生パーティーを開いた時の雰囲気に似ていて、ミントにとっても凄くなじみやすいよ!」
レンに尋ねられたエステルが言った言葉にクロ―ゼは頷いた後、眩しそうなものを見るような目で仲のいい様子で腹違いの姉や兄と話しているプリネやリフィア達、周囲を見ていた。また、ティータやミントも嬉しそうな表情で頷いた。
「うふふ、だから言ったでしょ?そんなに大した事ないパーティーだって。ま、たっぷり楽しんでいって、一生の思い出にするといいわ♪」
そしてレンはセオビットを見つけ、セオビットに近付いた。
「セオビットお姉様!どうかしら、レンのドレスは♪」
「あら。結構似合っているじゃない。……ま、この私に比べればまだまだだけど。」
「む〜……まだ大人じゃないからいいもん!……うふふ、それにしてもセオビットお姉様は普段の姿なのに、周りの人達と比べて、全然違和感がないわね♪」
セオビットの言葉に頬を膨らませたレンは尊敬するような眼差しでセオビットを見ていた。
「ふふっ……当然よ………………………(まさかシルフィエッタが選んだ服が役立つ日が来るなんて………ね…………今思えば、私が幼い頃からシルフィエッタの方が、親らしいことをしていたわね………シルフィエッタにとって私は故郷を苦しめている男に犯されて孕み、仕方なく産んだ娘だというのに………少しは気遣ってあげるべきだったわね………)」
レンに答えたセオビットはどこか後悔したような表情をして黙って考えていた。
「?どうしたの、セオビットお姉様。」
「………ちょっと……ね。(ふふっ……それにしても本当に賑やかで暖かいパーティー………父様に惚れ、父様の使い魔になったのがきっかけで、この私が”人の輪”に混じり、安らぎを感じるなんてね………不思議な気分……)」
首を傾げて尋ねたレンの疑問を誤魔化して答えたセオビットはかつての自分を思い出して、遠い目をしながら静かにワインを飲んでいた。
「さて……と。あたしもちょっと食べてくるわね!」
「ええ、わかりました。」
そしてエステルはクロ―ゼ達から離れた。
「えっと……確かこんな仕草でいいんだったわよね……?………うん!美味しい!さすが皇家が開くパーティーだけあって、みんなご馳走ね!」
上品な仕草で食事をしたエステルは料理の美味しさに目を輝かせた。
「あ、あの娘がエステルだよ!」
「そうなんだ……こんばんわ、エステルさん。」
そこにペルルと宙に浮く魔槍に乗った少女――リタがエステルに話しかけて来た。
「えっと……誰??」
リタに話しかけられたエステルは首を傾げた。
「フフ、初めまして。私の名はリタ。冥き途の見習い門番をしているリタ・セミフ。プリネちゃんの話だとパズモ達と契約しているそうですね?パズモやテトリ、ニルは元気にしていますか?」
「へ……?もしかして3人と知り合いなの??」
「ええ。」
エステルの疑問にリタは可愛らしい微笑みを見せて頷いた。
「そうなんだ……じゃあ、せっかくだし………パズモ!テトリ!ニル!」
そしてエステルはパズモ達を召喚した。
「フフ……久しいですわね。」
「うん、久しぶり、ニル。パズモとは本当に久しぶりね。」
(……そうね。まさかここで貴女と会うとは思わなかったわ………)
「…………………………」
ニルとリタ、パズモが懐かしそうな表情で話している中、テトリはこっそりどこかに向かおうとしたが
「あれ?テトリ、どこに行くの??昔の仲間なんでしょ?」
「ぴえっ!?」
エステルに声をかけられたテトリはギクリとした後、恐る恐るリタを見た。
「フフ……テトリも久しぶりね。」
「あ、あはは……そ、そうですね………」
リタに微笑まれたテトリは冷や汗をかきながら答えた。
「ねえ……久しぶりに会った記念に蜜をなめさせてもらえないかな?最近テトリの蜜が恋しくなってきたの。」
「ぴ、ぴええええ〜!勘弁して下さい!」
ジワリジワリと近づいて来たリタを見たテトリは悲鳴を上げた。
「フフ……せっかくリタ達から逃げて来たのに、まさかここで会うなんて、どこまで運がないのかしら?あの娘は。」
その様子を見ていたニルは苦笑していた。
「ねえ。気になったんだけど、パズモ達の仲間って事はセリカって奴と一緒に戦っていた仲間なの?」
「仲間……というのは少し違いますね。私は主を支える使い魔だったんですから。」
「ふ〜ん……貴女ってセリカって奴の元・使い魔だったんだ………あれ?ちょっと待って。確かニルの話だとセリカって奴は使い魔で魔神や飛天魔、それに幽霊を使い魔にしていたって聞いていたけど……貴女、どう見ても魔神や飛天魔には見えないわよね?ま、まさか……ゆ、幽霊……?」
リタの話を聞いたエステルはある事に気付き、恐る恐るリタに尋ねた。
「ええ。私はその幽霊ですよ。」
「……………………え”…………………………」
リタの答えを聞いたエステルは信じられない表情をした。
「う、嘘………本当にゆ、幽霊なの…………?」
「フフ……そんなに疑うならこれでどうですか?」
身体を震わせて尋ねるエステルの言葉に微笑んだリタは魔槍だけ浮かせて、自分の姿を消した。
「ひ、ひえええええ〜!ま、まさか本当に幽霊がいるなんて………!……でも、幽霊といっても可愛いわね。これなら大丈夫かも。」
「フフ………そう言って貰えるとなんだか、嬉しいですね。」
エステルの答えを聞いたリタは姿を現した後、微笑んだ。そしてエステルはかつての仲間同士、話す事もあるだろうからパズモ達をその場に残して、サエラブを召喚し、サエラブと共にある人物達の所に向かった。
「やあ、エステル。俺達に何か用かな?」
自分達に近付いて来たエステルにウィルは尋ねた。
「あ、うん。以前リフィアに頼まれてあたしに棒を作ってくれたでしょ?その時のお礼が言いたくて……本当にありがとう!あの棒、今でも大事に使っているよ!」
「ハハ……別にお礼なんていいよ。俺は”工匠”として当たり前の事をしただけだし。……でも、ま。使い手にそんなに大事にされているのなら、作ったかいはあるよ。」
エステルにお礼を言われたウィルは笑顔を浮かべて答えた。
「全くもう………領主になった今でも、よくそんな事をする暇がありますわね……」
「そうね。ウィルみたいなユイドラ領主は前代未聞じゃないのかしら?」
(フッ。何年経ってもお前は変わらんな。)
呆れて溜息を吐いているフィニリィの言葉にエリザスレインは頷いた。また、サエラブは口元に笑みを浮かべた。
「そういえば……セラウィさんって、”闇夜の眷属”なの?耳が尖っているみたいだし。」
「フフ、私の事も呼び捨てでいいですよ。……それと私は”闇夜の眷属”ではなく、”エルフ”ですよ。」
エステルの疑問にセラウィは微笑みながら答えた。
「へ〜…………エルフってよく森の中で住んでいるってお伽噺で聞いた事があるけど……実は違うの?」
「いいえ。エステルの言う通り、エルフは通常森の中で生活しています。ユイドラ近辺にある私の故郷――レイシアメイルも森の中ですし。」
「そうなんだ……あれ?もしかしてセラウィってエルフの中でも変わり者なの??」
「フフ………まあ、確かに私はエルフの中でも稀有な存在です。私は人間とエルフの共存を模索し、長からユイドラへの使者を任命された事がきっかけでウィルと出会いましたから。」
「そうだね。まさかあの時酒場で出会ったエルフが俺の伴侶になるなんて、あの時の俺は思っていなかっただろうしね。」
「私もですよ、ウィル……」
そしてセラウィとウィルは見つめ合った。
「あ、あはは……夫婦仲はとてもいいようね……」
「見ているこっちが恥ずかしいですわ。」
(……全くだな。少しは周りの目を気にしてほしいほどだ。)
「フフ………その様子なら2人目の子供がいつ、できてもおかしくないんじゃない?」
ウィルとセラウィの様子を見たエステルは恥ずかしそうに笑い、フィニリィは溜息を吐き、サエラブはフィニリィの言葉に頷き、エリザスレインはからかうような表情で2人を見た。
「ハハ……そういえば、エステル。君のお陰でユイドラを守れたよ。」
「へ?それってどういう事??」
首を傾げているエステルにウィルはディアーネ達との戦いがあり、エステルの依頼がきっかけでリフィアやリウイ達がユイドラの応援に来て、そのお陰で戦いに勝てた事を説明した。
(ぬう………まさか我の不在の間にそんな戦いがあったとは………クッ。我も知っていたら、駆けつけたものを………)
「永恒はあたしと契約し、あたし達の世界にいて、知らなかったんだからしょうがいないでしょ。」
無念そうに語るサエラブにエステルは苦笑しながら言った。
(………そうだな。それで?その魔神はどうなったのだ?お前の事だ。滅してはいないのだろう。)
「ディアーネなら、あそこにいるよ。」
サエラブの疑問にウィルは笑いながらリフィアにこき使われているディアーネに視線を向けた。
「全く……なぜ我にこんな事をさせる。このような事、使用人がする事だろうが!」
ディアーネは不満の表情を見せながら、リフィアやエヴリーヌに酒や料理を浮かせて、持って来ていた。
「お主は余の使い魔になったのだ!即ち余の下僕!下僕をどう使うかは余の勝手だ。……御苦労だったな。その酒の中から好きなのを選んで呑んでもよいぞ。」
「フン!」
リフィアの言葉に鼻をならしたディアーネは適当に選んだ酒を自分でグラスに荒々しく注ぎ、呑み始めた。
「エヴリーヌ、貴様もそうだが、カファルーもだ!まったく………何を考えて、人間の小娘に従うようになったのだ、あ奴は!どいつもこいつも魔神の誇りを忘れおってからに………!」
「カファルーにはカファルーの考えがあると思うよ?……ディアーネは全然変わらないね。一時期はリウイお兄ちゃんの下で戦っていたんでしょ?まだ、お兄ちゃんの考えが理解できないの?」
「フン!あの時は我がリウイ王に敗北したから、仕方なく従っていたまでの事!」
エヴリーヌに尋ねられたディアーネは鼻を鳴らして答えた。
「やれやれ……どうやらお前には余自ら、色々と教育せねばならぬようだな……全く……エヴリーヌより手間がかかる奴だな。」
「何だと!?」
呆れた表情で溜息を吐いて言ったリフィアの言葉に反応したディアーネはリフィアを睨んだ。
「リフィア、エヴリーヌをディアーネと一緒にしないでくれる?エヴリーヌの方が大人なんだから。」
「フン!我等”深凌の楔魔”の中で一番幼い言動をしていた貴様にだけは言われる筋合い等ないわ!」
「ほう………それならば、余達メンフィルが掲げる”共存”もすぐに理解できるのだな?お前の言っている事を言いかえれば、お主より幼いエヴリーヌが”共存”を理解したのだから、エヴリーヌより成熟しているお主なら当然、”共存”を理解した事にとれるぞ?それとも先ほどの言葉を撤回するのか?誇り高き魔神が。」
エヴリーヌの言葉を聞いて鼻を鳴らしたディアーネにリフィアは口元に笑みを浮かべて尋ねた。
「ぬぐっ………おのれ………!」
(フフ……リフィア、ディアーネを完全に手玉にとっているね。)
リフィアの言葉を聞いて言葉を詰まらせたディアーネは悔しそうな表情でリフィアを睨み、その様子を見ていたエヴリーヌはリフィアを感心していた。
「……という訳さ。リフィアがディアーネを使い魔にしたお陰で、丸く収まったよ。」
「あはは………まさか、リフィアも使い魔を手に入れていたなんてね……それも最初が魔神だなんて、さすがはリフィアね………」
ウィルの説明を聞いたエステルは苦笑していた。そしてエステルは昔の仲間と色々と話したいであろうサエラブに気を使って、ウィル達から離れた。
「フウ……………」
広間から少し離れ、バルコニーに出たエステルは溜息を吐いた後、夜空を見上げた。そこに2人の人物達がエステルに近付いて来た…………
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