英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 外伝〜始まりし最後の”実験”〜
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エステル達がボースに向かったその頃、所々包帯が巻いてあるルシオラがロレントにある『四輪の塔』の一つ、『翡翠の塔』の頂上に到着した。

 

〜翡翠の塔・頂上〜

 

「『翡翠の塔』―――どうやら……報告通りみたいね。」

頂上に到着したルシオラは光っている台座に近づいた。

「王城の封印区画と連動した『デバイスタワー』の一角……。表と裏を利用した『第二結界』……。ふふ、教授もよく調べたものね。」

不敵な笑みを浮かべたルシオラが呟いたその時、赤い飛行艇が塔の横に止まった。

「よお、待たせたな。」

「ふふっ、お疲れさまだったね。」

そして飛行艇からヴァルターとカンパネルラが出てきた。

「あら……貴方たちが来るなんて。てっきりレーヴェが迎えに来ると思ったのだけど。どういう風の吹き回しかしら?」

出てきた2人を見て意外そうな表情をしたルシオラは尋ねた。

「ふふ、レーヴェなら教授のお供をしているところでね。そこで僭越ながら僕たちがお迎えに参上したというわけさ。」

「まー、次の段階までやる事も無くなっちまったしな。ヒマ潰しに来させてもらったぜ。」

「ふふ、物好きなこと。しかし、教授とレーヴェが同行しているということは……。ついに最後の実験が行われるということかしら?」

2人の説明を聞いたルシオラは口元に笑みを浮かべた後、尋ねた。

「クク、らしいな。『福音計画』もいよいよ次の段階ってわけだ。」

「人形と猟兵の仕上がりも上々だ。これで『β』が完成したらずいぶん忙しくなると思うよ。……それにしても君、一体何があったんだい?髪をバッサリ切ったようだけど………」

「………切ったのではなく、切られたのよ…………」

カンパネルラに尋ねられたルシオラはリウイと戦った時を思い出し、顔を青ざめさせて身体を震わせながら答えた。

「………見た所、殺り合ったみたいだが………その時に切られたのか?あの小娘共程度にお前が遅れをとるとは……クク、お前も落ちぶれたものだな?それとも奴らがそこまで力を付けたのか?」

「いいえ………相手は”剣皇”よ………」

不敵に笑っているヴァルターにルシオラは静かに答えた。

「何……!?」

「へえ………まさか”剣皇”が出てくるなんてねぇ………まさか、君。”剣皇”の関係者に手を出したのかい?」

ルシオラの答えを聞いたヴァルターは驚き、カンパネルラは驚いた後、尋ねた。

「そんな事をした覚えはないわよ……さすがに”剣皇”達に出てこられたら、私の命も危ないから、メンフィルの関係者には手を出していないのに………こっちが聞きたいぐらいだわ。」

「クク……まさか”剣皇”と殺り合うとはな………俺も殺り合いたかったぜ。」

「………やめておきなさい。”剣皇”と戦いなんてしたら、殺されるだけよ。逃げるのに必死でここまでやられたんだから……実際戦ってみてわかったわ。”剣皇”達は私達とは次元が違いすぎるわ。”剣帝”が手酷くやられたのも頷けるわ。」

不敵に笑っているヴァルターを見たルシオラは疲れた表情をして答えた。

「ハハ。君も災難だったね。……まあ、無事に戻ってきて何よりだよ。お疲れ様♪」

そしてルシオラは飛行艇の中に入っていった。

 

〜飛行艇内〜

 

「―――最後の実験ということは『あれ』が相手だったかしら。さすがに教授やレーヴェでも一筋縄では行かないでしょうね。」

「クク、そうかもな。なんと言っても伝説の存在だ。強さの次元が違うだろうぜ。……しかしカンパネルラよ。てめえらしくねえじゃねえか。」

ルシオラの話に不敵な笑みを浮かべて頷いたヴァルターはカンパネルラを見て、指摘した。

「あらら、何がだい?」

ヴァルターの指摘にカンパネルラは口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「いつものてめえだったら喜んで教授に同行してるはずだ。それをしないってことは他に面白いネタがあるんだろう?とっとと吐いちまいな。」

「やだなあ、ヴァルター。僕ってそんなに信用ないかな?」

「クク、信用してるさ。てめえのナンバーと同じくらいな。」

「No.0―――ふふ、信用ゼロというわけね。」

不敵な笑みを浮かべ言ったヴァルターの言葉にルシオラは妖しい笑みを見せて頷いた。

「やれやれ、2人ともキツイなぁ。ま、見物したいのは山々だけどあいにく急ぎの用事があってね。あの方に『方舟』の使用許可を頂くつもりなのさ。」

「クハハ!マジかよ!よりにもよってあんな化物を投入するとはな!」

「『紅の方舟』―――グロリアス。まさかとは思うけど……リベールを焦土と化すつもり?」

カンパネルラの説明を聞いたヴァルターは笑い、ルシオラは真剣な表情で尋ねた。

「ふふ、それは教授とレーヴェ次第だと思うよ。そんな訳で、この後すぐに出かけなくちゃならなくてね。実験の顛末は、帰ったらゆっくり聞かせてもらうさ。」

 

 

〜霧降り峡谷〜

 

一方その頃、ワイスマンとロランスが霧降り峡谷を登って最奥に入っていた。

「……これは……」

ロランスは目の前にいる”ある存在”を見て、驚いた。

「フフ……。やはりここにいたようだね。見たまえ、レーヴェ。何とも優美な存在じゃないか。」

「………………………………。本当にこんなものを使って『実験』を行うというのか?」

ロランス――レーヴェはワイスマンに真剣な表情で尋ねた。

「君の危惧も当然だ。だが、『β』を仕上げるにはどうしても必要なデータだからね。」

レーヴェの指摘にワイスマンは頷いた後、説明した。

「…………おぬしらは………………」

その時、ワイスマン達の目の前にいる”ある存在”の声が響いた。

「おお……起こしてしまったようだね。20年ぶりのお目覚めかな?」

「………………………………」

「お初お目にかかる。私の名は、ゲオルグ・ワイスマン。『身喰らう蛇』を管理する『蛇の使徒》』を任されている。」

「………………………………。……去れ……。おぬしが漂わせるその力……どことなく懐かしい気がするが……おぬしの目は気に入らぬ……。昏(くら)い悦(よろこ)びにしか生を見出せぬ……歪んだ魂の匂いを感じるぞ……」

自己紹介をするワイスマンを”ある存在”は睨みながら警告した。

「フフ、お誉めにあずかり光栄だ。しかし残念ながら貴方に拒む権利はないのだよ。女神の至宝に関わる話だからね。」

「…………なに…………?」

「レーヴェ、見せてやりたまえ」

「………………………………」

ワイスマンに促されたレーヴェは”ある存在”に見えるように”ゴスペル”を懐から出した。

「…………それは…………!」

”ある存在”はゴスペルを見て、驚いた声を出した。

「1200年前の記憶が甦ったかね?レプリカに過ぎないがなかなか良く出来ているだろう?」

「…………おぬしら…………。……まさか『輝く環』を!!」

「フフ、そのまさかだ。」

”ある存在”の言葉に答えたワイスマンは異空間より杖を取り出した。

「それでは―――最後の『実験』を始めよう。」

 

〜同時刻・ラッセル工房〜

 

「なるほど、今度の『ゴスペル』は人の精神にも干渉してきたか……。そして霧の粒子を媒介に広範囲を掌握・コントロールする。ふむ……これで決まりじゃな。」

一方その頃、ラッセル博士はティータの報告書を読んでいた。

「博士、お邪魔しますよ。」

その時、カシウスが博士に近づいてきた。

「おお、カシウス。1ヶ月ぶりくらいじゃの。レイストン要塞から来たのか?」

「ええ、ようやく仕事が一区切りついてくれたのでね。陣中見舞いにお邪魔しました。」

博士に尋ねられたカシウスは頷いて答えた。

「それは……お孫さんのレポートですか?」

「うむ、今朝ほどロレントから届けられてな。このレポートのおかげでようやく確信が持てたわい。」

「『ゴスペル』の正体ですか。」

「うむ、あくまで仮説だがな。思考実験と『カペル』を使ったシミュレーションは千回以上行った。聞くか?」

「是非とも。」

「うむ、それでは―――」

カシウスの答えを聞いた博士は『カペル』に設置していた『ゴスペル』を取った。

「この『ゴスペル』が起こす『導力停止現象』じゃが……。お前さん、あの現象がどのようなものだと理解しておる?」

「『ゴスペル』の周囲にあるオーブメントに連鎖して起こる機能停止現象……。そのように捉えていますが。」

「半分正しくて半分間違っておる。お前さんが言った現象はどちらかというと導力魔法の『アンチセプト』に近い。内部の結晶回路をショートさせ一時的にオーブメントを働かせなくしておるわけじゃ。じゃが、『ゴスペル』が起こす現象はそれとは根本的に異なっていてな……。オーブメント内で生成される導力を根こそぎ奪い取るのじゃ。」

「つまり、『導力停止』ではなく『導力吸収』ということですか……」

博士の説明を聞いたカシウスは考え込んだ。

「うむ、内燃機関でいえばガソリンを抜き取るわけじゃな。」

「ふむ、確かにそれなら『アンチセプト』との違いも説明できそうですが……。いや……待てよ。それなら奪われた導力は『ゴスペル』に蓄積されるはず。」

「うむ、良い所に気付いたの。結論から言ってしまえば、周囲から奪われたはずの導力は『ゴスペル』内部に存在しなかった。それこそ1EPたりともな。」

カシウスの推測に頷いた博士は説明を続けた。

 

「周囲に拡散した可能性は?」

「無い。キレイサッパリとどこかに消えてしまうのじゃよ。」

「………………………………」

博士の説明を聞いたカシウスは目を細めて考え込んでいた。

「そして、エステルたちが出くわした一連の『新型ゴスペル』じゃが……。最新の導力技術では説明できない『あり得ない』現象を引き起こした。そのような現象をどうやって引き起こすのかは不明じゃが……。1つ確実に言えることがある。」

「それは……?」

「小さすぎるのじゃ。これまで起きた大規模な異常現象を発生させる機構を、掌大に収めるのは物理的に不可能だと断言できる。たとえ《結社》とやらが我々より遥かに進んだ技術を持っていてもな。」

「なるほど……何となく掴めてきましたよ。つまり、この『ゴスペル』は『端末』に過ぎないわけですね?」

「うむ……まさにその通り!『ゴスペル』そのものには異常な導力場の歪みのようなものを発生させる機能がある。その歪みは共鳴するように広がり、周囲のオーブメントから導力を奪う。そして奪われた導力は、歪みの中に吸い込まれて消滅する。いや、正確には消えたのではない。別の空間に送られたというわけじゃ。」

カシウスの推測に笑顔で頷いた博士は説明を続けた。

「そして、その別の空間にはあり得ない異常を引き起こせる『何か』が存在している……。つまり、そういうことですか。」

「うむ、間違いあるまい。『結社』は『ゴスペル』を通じてその『何か』が持っている力を引き出すことができるのじゃろう。まったく『福音(ゴスペル)』とは良く言ったものじゃよ。」

カシウスの言葉に真剣な表情で頷いた博士は説明をした後、ため息を吐いた。

「………………………………。だとしたら……『何か』の正体が気になりますね。遥かに進んだ技術で作られたオーブメントか、それとも……」

「それに関してはお手上げじゃ。色々な可能性が考えられるが、現状ではこれ以上確かめられん。さてカシウス―――10年前と同じことを聞くぞ。この現状を踏まえてわしに今後、何をして欲しい?」

「はは、警備飛行艇の完成をお願いした時と同じ言葉ですか。ふむ、そうですね……。………………………………」

博士に尋ねられたカシウスは苦笑した後、考え込み、そして答えを言った。

「『ゴスペル』が発生させるという異常な導力場の歪み―――その共鳴現象を防ぐ手段を開発して頂けないでしょうか?」

「ふふ、そう言うと思ったぞ。今取りかかっているいる発明もそろそろ完成する頃合いじゃ。それさえ終わればすぐにでも始められるじゃろう。」

 

カシウスの依頼に博士は明るい表情をして頷いた………………

 

 

 

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