英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 271 |
翌日、王国軍兵士、エステルとミントの護衛部隊であるメンフィル兵、そしてイーリュン教の信者の協力によってボース市の復興が始まった。
〜遊撃士協会・ボース支部〜
「そっか、もうマーケットの修復作業が始まってるんだ。」
「昨日の今日だというのにずいぶん手回しがいいのね。」
ボース市が復興され始めている事にエステルやシェラザードは明るい表情をしていた。
「うむ、メイベル市長がずいぶんと頑張っているようじゃ。ラヴェンヌ村への援助物資もすでに搬送され、イーリュンの信者達やメンフィル兵達も復興に向かったそうじゃ。みな、不安を感じながらも精一杯頑張っておるようじゃな。」
「王都と連絡を取ったのですが昨夜、お祖母さまが声明を発表されたそうです。竜の脅威に対する速やかな対策と、被害地への援助を約束され、そして同盟国――メンフィル帝国から惜しみない援助の申し出があり、それを受けた事を宣言されました。」
ルグランの説明に補足するようにクローゼも説明した。
「そっか、さすが女王様!」
「フフ、さすがお父様ですね。事件が起こった昨日の内に既にアリシア女王と連絡を取っていたなんて……」
クローゼの話を聞いたエステルやプリネは明るい表情で頷いた。
「フッ、エレボニアのお偉方にも見習ってほしいところだね。何しろ、民を安堵させるよりもパーティの方が大事と来ている。」
「ま、それを言うなら共和国も同じようなものだ。互いの縄張りを意識しすぎて役人の腰がどうも重いからな。」
オリビエの言葉にジンは呆れた表情で頷いた。
「ふふ、それが小国ならではのフットワークかもしれません。メンフィルに関してはエステルさんやプリネさん達がいらっしゃったお蔭ですし………いずれにせよ……これで竜対策への準備は万全に整うと思います。」
2人の話を聞いたクローゼは苦笑した後、言った。
「まずは王国軍のお手並みを拝見ってわけね。えっと、あたしたちは国際空港にいけばいいのよね?」
「うむ、第1発着場に午前10時にとのことじゃ。今が9時くらいじゃから買物をする余裕はあるじゃろう。」
エステルの疑問にルグランは頷いて答えた。
「そっか……」
「でも、ボースマーケットはさすがに営業していないのよね?」
「マーケットの商人は現在、ホテルに避難しておる。商いもしておるそうじゃから買物はそこで済ませるがいい。」
「ふふ、なるほどね。」
「空港に向かう前に、訪ねてもいいかもしれんな。」
そしてエステル達がギルドを出ようとした時
「あの………エステルさん。私とツーヤは今朝ロレントを出発した護衛部隊の指揮がありますので、私とツーヤはボースに残っています。」
「マスターの言う通り、リウイ陛下かシルヴァン陛下がいらっしゃらない限り、護衛部隊の方達の指揮権は基本、あたし達という事になっていますので………」
「そっか………確かにそうよね。わかったわ。」
プリネとツーヤの説明を聞いたエステルは頷いた。
「えっと………ママ。ミントもボースに残るよ。」
「何で?」
「もしかしたら、ママ達が王国軍の作戦を見学している間に依頼が入るかもしれないし………」
「うむ。ミントの言うとおり、朝から既に依頼がいくつか来ておる。」
ミントの説明にルグランは頷いて答えた。
「そっか。じゃあ、そっちは頼んだわよ、ミント!」
「うん!」
「それじゃあ、私はミントちゃんを手伝いますね。一人じゃ大変だと思いますし。」
「ありがとう、リタちゃん!」
リタの申し出にミントは笑顔で頷いた。そしてプリネ達を残してギルドを出たエステル達は空港に向かった。
〜ボース国際空港〜
「あっと……遊撃士の皆さんですよね?まもなく、軍の艦艇がこちらに到着する予定です。向かって右手にある第1発着場でお待ちください。」
空港に着き、受付にエステル達が名乗り上げると受付は場所を指示し、エステル達は指示された場所に向かった。
〜第1発着場〜
「うーん、軍の飛行艇はまだ到着していないみたいね。」
「一応、買物をするくらいの時間はあるみたいだけど……どうするの、エステル?」
「うーん、それじゃあ、軍艦が来るまで待たせてもらうことにしましょ。」
シェラザードに尋ねられたエステルは考えた後、結論を出して答えた。
「迎えに来る軍の飛行艇ってあのゴツイ装甲の飛行艇よね?」
「警備飛行艇ですね。軍の主力艦艇ですから多分、そうだと思います。」
エステルの疑問にクローゼは頷いて答えた。
「火力、積載量、機動性の全てにおいて高い性能を持つ王国軍の警備飛行艇……。10年前に開発されてから様々な改良がなされたそうね?」
「はい、基本性能の向上に加えて様々な追加兵装を加えることが可能になっています。哨戒機、偵察機、攻撃機……。各艦艇の兵装を変えることで柔軟な艦隊編成を目指すという構想に基づいていると聞きました。」
シェラザードの確認の言葉にクローゼは頷いた後、説明を補足して答えた。
「ふむ……。さすがは飛行船先進国だ。共和国にも飛行艦隊はあるが、張子の虎に近いからなぁ。」
「フッ、それは帝国でも同じさ。飛行艦隊もあるにはあるが、やはり主力は戦車師団だからね。」
「私の国はもともと小国ですからね。軍事力はありませんよ。でも、戦争がない分それでいいですけどね。」
ジンとオリビエの話を聞いたクローゼが苦笑したその時
―――まもなく第1発着場に王国軍所属艦艇が着陸いたします。関係者以外の立ち入りはどうかご遠慮ください
飛行場にアナウンスが入った。
「おっと、来たわね。あ、あれ?なんか聞いたことのないエンジン音のような気が……」
「これは……」
近くに降りてくる飛行艇のエンジン音らしき音を聞いたエステルは首を傾げ、クローゼは驚いていた。
「あ!」
そしてエステルたちが上を向くと、王室所属の巡洋艦、『白き翼』―――『アルセイユ』が降りてきた。
「あ、あはは……。あたしたちを乗せる船って『アルセイユ』のことだったんだ。」
「昨日、ユリアさんに連絡した時はそんな話は出ませんでしたけど……」
降りて来た『アルセイユ』を見たエステルは苦笑し、クローゼは驚いた表情で話した。
「よぉ、エステル。」
「みんな、久しぶりだね〜!」
その時、『アルセイユ』からナイアルとドロシーが出てきた。
「へ……」
「あなた達は……」
一方ナイアル達を見たエステルとクローゼは驚いた。
「へへ、妙なところで再会するじゃねーか。」
「よろしくね〜、エステルちゃんたち!」
「ど、ど、ど……どうしてナイアルたちがアルセイユに乗っているのよ!?」
「……それは私の方から説明させてもらうよ。」
ナイアル達がアルセイユに乗っている事に驚いて声を出したエステルの疑問に答えるかのようにユリアがアルセイユから出てきた。
「あ、ユリアさん!」
「ユリアさん……どうして。昨日は、アルセイユが来るなんて教えてくれませんでしたよね?」
「ふふ、殿下を驚かせたくて秘密にしておりました。どうも申しわけありません。」
「もう……ユリアさんったら。では『アルセイユ』を使うのはお祖母さまの計らいなのですね?」
ユリアの話を聞いたクローゼは苦笑した後、尋ねた。
「ええ、ご推察の通りです。」
「えっと……どうして女王様が?」
クローゼの疑問に頷いたユリアにエステルは尋ねた。
「名高き新鋭艦を投入すれば竜の出現に怯える人々の不安を減じられるのではないか……。そのようなご配慮というわけだ。」
「あ、なるほど。」
「フッ、さすがはアリシア陛下だ。そちらの記者諸君がいるのも同じような理由なのかな?」
ユリアの話を聞いたエステルは納得し、オリビエは感心した後、ナイアル達に尋ねた。
「ま、そういうことだ。今度の竜の出現はインパクトが大きすぎるからな。ウチの報道を通じて国民の動揺を防ぎたいらしい。」
「ナイアル殿、くれぐれも……」
「わーってますって。機密は記事にはしませんよ。ただ、公正さを保つためにもある程度は突っ込みますぜ。」
「……了解した。」
ナイアルの言葉にユリアは静かに頷いた。
「フン……。時間通りに来たようだな。」
そしてさらにモルガンがアルセイユから出てきて、エステル達に姿を見せた。
「あ、モルガン将軍……」
「同行を認めてくださって感謝しているわ。」
「まあ、女王陛下のご意向もあったからな。誤解のないように言っておくが、おぬしらはあくまでオブザーバーの身にすぎん。基本的には、我々の作戦を眺めてもらうだけにしてもらうぞ。」
「うん、それでいいわ。軍の作戦でケリが付くならそれはそれでオッケーだし。」
「せいぜいお手並みを拝見させてもらいますぜ。」
モルガンの言葉にエステルとジンは頷いた。
「フン……まあいい。姫様、どうぞこちらへ。ブリッジに案内しますゆえ。」
「ですが……」
モルガンに言われたクローゼは遠慮して断ろうとしたが
「王家の船に、姫様を客人としてお乗せするわけには参りませぬ。クルーの士気にも関わりましょう。」
「……分かりました。」
モルガンの説明を聞き、静かに頷いた後モルガンと共に一足先にアルセイユに乗り込んだ。
「うーん、相変わらず素っ気ないヒトよねぇ〜。いい加減、遊撃士を認めてくれてもいいのに。」
「フフ、頑固な方だから態度をいきなり変えるのを良しとしないのだろう。君たちの案内は私がさせていただくよ。あらためて―――ようこそ、遊撃士諸君!王室親衛隊所属、巡洋艦、『アルセイユ』へ!」
そしてエステルたちが乗り込むとすぐさまアルセイユは離陸した。
「遅かったか……!」
「い、行っちゃった……」
アルセイユが離陸して少しすると発着場にアガットとティータが駆け込んだ。
「もう少し早めに起きて出発しとくんだったな。仕方ねぇ、竜の観察はエステルたちに任せておくか。」
「そ、そーですね。でもでも……あうう。一度、『アルセイユ』に乗ってみたかったなぁ……」
アガットの言葉に頷いたティータ肩を落として残念そうな表情になって言った。
「なんだ。またメカフェチかよ?」
ティータの様子を見たアガットは呆れた表情で尋ねた。
「だってだって、見所が満載らしーんですよ?新型エンジン8基を格納するエンジンルーム……。高度な情報処理機能を備えた次世代型ブリッジ……。は〜、あこがれちゃいます。」
「ったく……。目をキラキラさせやがって。」
「えへへ……。でも、アガットさん。これからどうするんですか?」
アガットの言葉に照れたティータはアガットに尋ねた。
「そうだな………依頼もそれなりに溜まっているようだし、あいつらが帰ってくるまで少しでもこなしておくか。あいつらの代わりにミントがあの幽霊娘と共に頑張っているらしいしな。」
「あ、そっか。ミントちゃんとリタちゃんも既に依頼の対応に向かったって、ルグランお爺さんも言っていましたものね。」
アガットの言葉にティータは頷いた。
「アガットさん!」
その時、飛行場の受付がアガット達に近づいて来た。
「よお、テッド」
「受付のお兄さん……?」
「あ〜、やっぱり間に合わなかったみたいですね。今なら導力通信が通じますけど、『アルセイユ』に連絡しますか?」
アガット達に近づいた受付は苦笑した後、尋ねた。
「いや……別にいいさ。しかし、わざわざ俺たちが乗れたかを確認しに来たのかよ?」
「あ、それもあるんですけど……。実は、昨日の最終便でアガットさん宛の速達物が届いていたのを見つけたんです。」
「俺宛ての速達物だと?」
受付の言葉にアガットは首を傾げた。
「ええ、ラッセルという方からの小包なんですけど。」
「へっ……」
「お、おじいちゃんからの?」
受付の話を聞いたアガットとティータは驚いた。
アガットが受付から荷物を受け取ったその頃、アルセイユ内で作戦の具体的な説明が始まろうとした…………
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