IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第三十八話 〜臨海学校〜 |
クロウと千冬がカフェを出てしばらく歩くと、意外な人物に出会った。
「あ、クロウ!あれ、千冬姉も?」
「おう、一夏」
「な、何故クロウがいるのだ?」
そこには一夏と箒がいた。互いに姿を見て驚いている。
「いや、俺は千冬に誘われたんだよ」
「へえ、クロウもなのか!俺も箒が誘ってくれたから一緒に来たんだよ!!」
饒舌に喋る一夏とクロウ。対して箒と千冬は黙り込み、目で会話していた。
「「・・・」」
「それで、今日は何を買いにきたんだ?」
「ああ、俺は水着を買いに来たんだけど、クロウはもう買ったのか?」
「「・・・(コクッ)」」
二人が頷くと、それぞれのパートナーを急かし始める。二人はいきなり会話が中断され、戸惑うばかり。
「ほら一夏、もう行くぞ。早く品物を買いに行かなければ」
「ええ?別にいいだろ?」
「クロウ、行くぞ。買い物は効率よく、素早く行うのが基本だ」
「いや、俺は別にゆっくりでいいんだが・・・」
男二人の抵抗も虚しく、それぞれ引きずられていくクロウと一夏。千冬は一夏達が見えなくなると、離してくれた。唐突に引きずられ、意味が分からない、という顔をするクロウ。
「なあ千冬、何かあったのか?」
「とにかく次の店に行くぞ!次はどこに行きたいんだ?」
「・・・まあいいか。じゃあ次は小物とかアクセサリーを売っている所に行こうか」
「よし、行くぞ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって千冬!!」
意気揚々と歩き出す千冬の隣にクロウが並んで歩く。
〜店内〜
クロウと千冬は買い物の最後として、アクセサリーショップにいた。クロウはそこで黒のハーフフィンガーグローブとループタイを選ぶ。クロウは満足げな顔をしていた。
「おし、これで完璧だ」
「クロウ、その服装は?」
「ああ、俺がよく前の世界で着ていたやつだ。やっぱ慣れた服装の方がいいな。千冬は何か買うものとかないのか?」
「ああ、私も少し見てくる」
言うと、店の中を見回る千冬。クロウは会計に行ってから、千冬と合流した。クロウが千冬の所に行くと、彼女は一つのブレスレットを見つめている。
「(これは・・・クロウの物に似ているな。付けたらお揃い・・・)」
「千冬、それがいいのか?」
「ひゃっ!?い、いや、何でもないぞ!?」
千冬が見つめていたのは、銀色に装飾されたシンプルなブレスレットだった。
「それが欲しいのか?じゃあ俺が買ってやるよ」
「そ、それは本当か!?」
赤面する千冬だが、当のクロウは全く気づかずに素の返事を返す。
「ああ、今日買い物に付き合ってくれ礼だ。結局俺ばかり買っていたしな」
クロウは千冬が見つめていたブレスレットを手に取り、レジへと向かう。千冬はその後ろをうつむいてついて行った。
〜IS学園・寮〜
クロウと千冬は買い物を終え、学園に帰ってきていた。クロウはひとまず大量の荷物をベッドに放り投げ、そのまま自分もベッドに腰掛ける。千冬も部屋に備え付けてある椅子におずおずと座った。
「しかし、今日は本当にいい買い物が出来たな。感謝するぜ、千冬」
「いや、感謝される様な事でもない。それに私もお前からこれを貰ったのでな、礼を言う必要は無い」
千冬は左手にある銀色のブレスレットをなでる。そのブレスレットは、クロウのブラスタの待機状態と似ており、知らない人間が見たらお揃いの物だと思う程だった。
「それでは私は部屋に戻る。明日は遅刻などしてくれるなよ」
「おう、じゃあな」
千冬は自分の荷物を持ち、教師らしい一言を残してから部屋から出ていく。クロウは置いてある荷物をそのままに、ベッドに寝転がる。そのままクロウは眠りに落ちていく。
「・・・さて、寝るか。来週の臨海学校、どうなることやら」
〜臨海学校・当日〜
「「「海だ〜!!」」」
女子生徒達がバスの窓から見える海に大はしゃぎしている。現在、一年一組の面々は、臨海学校に向かうバスの中だった。クロウ達はバスの最後列で固まって、トランプで遊んでいる。
「くっそー!また負けた!!」
「全く、嫁は状況判断が出来ていないな。もっと鍛えなければ、戦場で生きてはいけないぞ?」
叫んでいるのは一夏。先程から負け続けであった。敗者に鞭打つ様な言葉をラウラが投げかける。
「ラ、ラウラ。それはさすがに言い過ぎじゃない?」
シャルロットが苦笑いをしつつ、一夏をフォローする。しかし意外な事に、クロウがラウラの言葉を肯定した。
「でも、ラウラの言っている事もあながち間違ってはいないがな。戦いにおいて、状況判断ってのは結構重要な要素だ。まあその辺は指揮官がいれば、上手くやってくれるだろうさ」
「さすがクロウさんですわね。その様な経験がおありで?」
クロウの言葉に興味を持ったのか、セシリアが聞いてくる。一夏も、興味津々といった顔でクロウの言葉を待っていた。
「ん、まあな。でも前の世界では優秀な指揮官が何人もいたんでな。俺が考える様な事はあまりなかったかな」
クロウ達が話している間に、バスは目的地へと到着する。千冬の号令で、生徒がわらわらとバスから降り、整列した。
「さて、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさない様に、注意しろ」
千冬の言葉の後に続き、「よろしくお願いします」と挨拶をする一年生。挨拶が終わると、それぞれ割り当てられた部屋へと荷物を持っていく。自分の荷物を掲げ、旅館の中にはいろうとしていたクロウに声がかかる。
「ね、ね、ね〜。くろくろ〜」
「は?」
クロウが聞き覚えの無い声を聞き、そちらを振り向くと、そこにはだぼだぼの制服を着た眠そうな顔をした女子生徒がいた。
「今の“くろくろ”ってのは何だ?」
「え〜それは〜くろくろの事だよ〜」
戸惑っているクロウを助けるべく、一夏が説明してくれる。
「ああクロウ、その子は布仏 本音さんって言って、人の事をあだ名で呼ぶんだよ」
「んで、“くろくろ”ってのが俺のあだ名か?」
「うん、そうだよ〜?」
何故か語尾に疑問符をつけて肯定する本音。クロウとしては、あだ名で呼ばれるのは少しトラウマがあったのだが。
「(まあ、あのあだ名じゃないだけマシか・・)んで布仏、何か聞きたい事があるのか?」
「のほほんって呼んでよ〜、それでくろくろとおりむ〜の部屋ってどこ?」
「いや、俺は知らん。なあ一夏、お前知っているか?」
そういえば知らされていなかった、と思いつつ一夏に振るクロウ。一夏もクロウと同じく首をひねっている。
「いや、俺も知らないんだよ。しおりにも書いてないみたいなんだ」
「織斑、ブルースト。お前達の部屋はこっちだ、ついてこい」
クロウと一夏が困っていると、千冬が二人を呼ぶ。一夏とクロウは本音に別れの言葉を言って千冬の後をついていく。旅館の中に入りしばらく歩くと、千冬が一つのドアの前で立ち止まった。
「ここがお前たちの部屋だ」
千冬が部屋の扉を開けると、そこは二人で使うには十分すぎる位の広さを持った和室だった。外側の壁にある窓からは海が見渡す事が出来て、とてもいい眺めだった。疑問に思ったクロウが千冬に問いかける。
「なあ千冬、俺と一夏だけにしては広すぎないか?」
「ああ、実は隣は私と山田先生の部屋でな。ここしか空きが無かったのだ。理由としては、就寝時間を無視する女子に対する対策として、お前と一夏を隣の部屋にしたという訳だ」
「なるほどな。一夏は人気者だからな、おいそれと来られない様な配置にしたってわけか」
「そういう事だ、広いのは気にするな。さて、今日はもう自由時間だ。後は好きにしろ」
そう言い残し、外に出ていこうとする千冬。一夏はまだ窓の外の景色に見入っており、千冬が出ていく事に気づかない。
「千冬はどうするんだ?」
「私は他の先生方との連絡やら、確認やらがあるのでな。だ、だが・・・」
「ん?どうした?」
そこまで言うと、言葉が止まる千冬。クロウは疑問に思い顔を見るが、何故か少し赤くなっている。
「ちゃ、ちゃんと後で泳ぎには行くからな。ま、待っていてくれ」
「ああ、分かった」
クロウの言葉を聞き、部屋から出ていく千冬。クロウは窓から海を眺めている一夏に声をかける。
「おい一夏、遊びに行こうぜ」
「あれ、千冬姉は?」
「ああ、千冬はまだ仕事があるらしいからな。今日はもう自由時間らしいから、遊んで来いってよ」
「おし!じゃあ行こうぜクロウ!!」
一夏は自分の荷物から、海パンやら、タオルやら、サンダルやらを取り出し始める。クロウも自分の分を取り出し、二人一緒に部屋から出ていった。
〜浜辺〜
旅館の別室で着替えたクロウと一夏はそのまま海へと向かう。
「うおおお!!海だ!!あちっ、あちちっ!!」
一夏がサンダルを履かずに浜辺に足を踏み入れる。時期は夏、浜辺の砂は太陽によって熱くなっていた。飛び跳ねながら慌ててサンダルを履く一夏。対してクロウは素足のまま浜辺に入っていった。
「お、おいクロウ、熱くないのか!?」
「ああ、この位じゃ熱いとは言わないぞ?」
裸足のまま浜辺に立つクロウ。なぜだか一夏は尊敬の眼差しでクロウを見る。サンダルを履き終わった一夏は浜辺で準備体操を始める。浜辺では既に多くの生徒が遊んでいた。海で泳ぐもの、ビーチバレーをするものなど様々だった。
「さてと、俺はゆっくりしているからお前は目一杯楽しんで来い」
そう言いながら、パラソルの下でビーチチェアに寝転ぶクロウ。下には黒いトランクスを履いているのだが、上半身は水辺で着るタイプのパーカーを羽織っており泳ぐ気ゼロであった。
「あれ、クロウは泳がないのか?」
「ああ、俺はのんびりしているさ。ほら、来たぞ」
「い、ち、かぁぁーーー!!!」
「って、うわあ!?」
いきなり走ってきてそのままの勢いで一夏に飛びかかるのは、鈴だった。オレンジと白色の水着を着ている。
「な、何すんだよ鈴!降りろって!!」
「別にいいじゃないの。ほら、早く海に行きなさい!!」
鈴に急かされる一夏。周りでは、鈴をうらやむ声が上がっており、さすがにマズイと感じたのか一夏がクロウに助けを求める。
「ク、クロウ!何とかしてくれ!!」
「はあ〜、まったく。ほら、鈴も降りて普通に一夏と遊んで来い」
「まあ、しょうがないわね」
諦めてするすると一夏から降りる鈴。しゃべっているクロウ達に人影が近づいていく。
「あ、みんな。ここにいたんだ」
「おう、シャルロッ・・・ト・・・」
クロウ達に声をかけたのはシャルロットであった。挨拶を返すクロウだったが途中で言葉が尻すぼみになってしまう。しかしそうなってしまうのも致し方なかった。
「「「・・・・・・」」」
シャルロットの隣には、バスタオルを数枚体中に巻きつけ完全にその姿を覆い隠している誰かがいたのだ。さすがのクロウもこんな人間、お目にかかった事が無いので、困惑を隠せない。
「なあシャルロット、そいつ誰だ?」
一同の疑問を代弁する一夏。シャルロットは笑いながらバスタオル人間に話しかける。
「ほら、大丈夫だから出てきなよ」
「だ、大丈夫かは私が決める・・・」
「あれ?今の声ってラウラなの?」
鈴がバスタオル人間の正体に気づく。今の声は確かにラウラのものだった。
「おいラウラ、何でそんな格好しているんだ?」
「ク、クロウ。これは・・・」
「とにかくそのバスタオルを取れ。そのままじゃ遊べないぞ?」
「わ、分かりました・・・」
クロウの提案に大人しく従うラウラ。全てのバスタオルを取ったラウラは顔を赤く染めていた。
「ど、どうだ。笑いたければ笑え・・・」
ラウラは黒のレースをふんだんにあしらった水着に身を包んでいた。いつもストレートに下ろしている銀色の髪は左右一対のアップテールにしている。
「どうだ一夏?」
「あ、ああ。その、似合ってる。可愛いと思うぞ」
「なっ・・・!!う、うわあああああ!!!」
素直な感想を言う一夏だったが、その言葉に余程驚いた様で、一瞬たじろいだ後、元々赤くなっていた顔を更に赤くしてうつむき、駆け出してしまう。一夏はその背中に声をかける。
「あっ、おいラウラ!?・・・どうしたんだ、ラウラの奴??」
「さあね、それより一夏競争しましょうよ!先にあそこのブイまで泳いだ方の勝ちね、よーいどん!!」
鈴は海に浮かぶブイを指さした後、いきなり走り出す。不意をつかれた一夏は当然出遅れる。
「あっ、ずるいぞ鈴!待て!!」
遅れて一夏も駆け出し、後にはクロウとシャルロットが残された。
「本当に元気だな、あいつらは」
「ふふっ、そうだね。でもそんな事を言ってるクロウも、今は僕たちと同じ十五歳なんだよ?」
「ああ、そうか。ついつい忘れちまうな」
クロウとシャルロットが談笑していると、悲鳴の様な声が割り込んだ。
「クロウさん!?何をしゃべっていらっしゃいますの!?」
クロウとシャルロットが声の方向を振り向くと、そこには片手にビーチパラソルとシート。もう片手にはサンオイルを持っていた。こちらはブルーのパレオを着ており、何故かこちらに猛スピードで歩いてくる。
「シャルロットさん!何を話してましたの!?」
「んー別に?普通に話していただけだけど?」
シャルロットに食ってかかるセシリア。シャルロットは笑顔を崩さずニコニコしている。
「おうセシリア。お前は泳ぎにいかないのか?」
「ええ。私はビーチでゆっくりと過ごすつもりでしたので」
話しながら、パラソルを地面に突き立ててシートを組み立てるセシリア。何故かクロウの隣にシートを置き、クロウと並ぶように横になる。
「あの、クロウさん。一つお願いがあるのですが?」
「おう、何だ?」
「サンオイルを塗っていただけません?」
「・・・すまん、セシリア。最近耳が遠くなってな、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
「ええ、サンオイルを塗っていただけないかと」
先程と同じ言葉を、一言一言はっきりと繰り返すセシリア。セシリアの言葉を二度聞いたクロウは見事に固まっていた。そのままクロウが黙り込んでいるとしびれを切らしたのか、セシリアが急かす。
「さ、さあお願いしま 「何を言っているのかな?セシリア」・・・はい?」
セシリアの声に割り込んだのは、シャルロットだった。顔は笑ったままなのだが、その背後からは黒いオーラが出ている。
「行きのバスの中で決めたよねセシリア、今回の旅では抜け駆けは無しだって。僕はそれを守ろうと思ってたのにセシリアはそんな事するんだ、へぇ〜」
笑顔を崩さずに喋り続けるシャルロット。その笑顔が崩れないのが逆に恐怖の対象となり、セシリアはもちろん、クロウも若干ビビっている。
「シャ、シャルロットさん?」
「セシリア、ちょっと一緒にビーチバレーに行こうよ。もちろん一緒に行ってくれるよね?さあ行こうよ」
返答を待たずにセシリアの片腕をつかむシャルロット。その細腕のどこにそんな力があるのか?と疑いたくなるような勢いでそのままセシリアを引きずり、ビーチバレーのコートへと進んでいく。セシリアはシャルロットの勢いに気圧されているのか、ぼーっとしたまま引きずられていく。後に残されたクロウは一言呟く。
「・・・女ってのはやっぱり怖いもんだな」
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第三十八話です。 | ||
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