真恋姫†夢想 弓史に一生 第三章 第十一話 一刀の心
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〜一刀side〜

 

聖の部屋で、事のあらましを聞いた後の部屋への帰り道。

 

俺は、芽衣さんと奏さんの後ろに付いて帰っていた。

 

「あまりに唐突過ぎて信じられん…。でも、信じざるを得ない証拠がいくつも挙がってるわけだし、これは事実か…。まて、夢の可能性も!!? …ならば、芽衣さん!!」

 

「えっ!! どうしたんですかいきなり大声出して!! 何かあったんですか!?」

 

「あっ、ゴメン。そういうわけじゃ…。」

 

「もう…吃驚させないでください〜。 それで、どうしたんですか?」

 

「悪いけど、俺の頬を抓ってくれないか?」

 

「…変態ですか??」

 

「違います!!」

 

「じゃあ、虐げられるのが好きなんだな一刀は…。」

 

「決め付けないで!!!」

 

「じゃあなんだって言うんだい?」

 

「俺の居た国…天の国では、疑わしいことがあった時は、頬を抓って、痛かったら現実、痛くなければ夢って判断するんだよ。」

 

「へぇ〜…。天の国って言うところは変わってるもんだね。」

 

「そうですね〜。じゃあ、抓って差し上げればよろしくて?」

 

「はい。」

 

「じゃあ、あたいは反対の頬を抓ってあげるよ。」

 

「両方!!?」

 

「この方が、痛みは倍になるからしっかり判定できるんじゃないのかい?」

 

「そっ…それはそうかもしれないけど…。」

 

「じゃあ、芽衣。いっせぇ〜ので抓るよ。」

 

「はい♪」

 

「ちょっ…ちょっとま…。」

 

「「いっせぇ〜の!!」」

 

「いやぁあああああああ!!!!!!!!!」

 

……。

 

「これで、分かったかい?」

 

「ひゃい…。 あはりやひた…グスッ…。」

 

「それは良かったですね〜。」

 

「(この二人どSだ…。容赦ねぇ!!!!)」

 

「どうかしましたか〜?」

 

「何でも無いです…でも、痛かったって事は現実…。じゃあ、この世界で俺は生きていかないといけないのか…。ねぇ、芽衣さん?」

 

「はい〜?」

 

「どうして、聖は賊を殺すんだ? 話し合いの線も俺はあると思うんだけど…。」

 

「先ほど聖様に、その甘い考えは捨てろと言われたはずでは??」

 

「そうだけど…。でも、納得できない!! 邪魔だから殺すって言うのはどうかと思う。」

 

「お頭だって殺したくて殺してるわけじゃないよ…。お頭は少しでも多くの人が、手に手をとって暮らせる平和な世界にしたいと最初から言ってたさ…。でも、賊を従えさせるには、力を見せて力で屈服させないといけないんだ。でなければ…あの村の様に…。」

 

「…何かあったの…?」

 

「この前の事です。  ――――ということがありました。」

 

「それを聖一人で!!!?」

 

「はい、お一人で…。」

 

「…。でも、聖は俺にそんなことを言わなかった!! 言ってくれれば、少しは…。」

 

「じゃあ、言ったところであんたは、『それならしょうがない。』とか口にでもすんのかい? だったら、あんたの最初の意志はどこに消えた??」

 

「…。」

 

「聖様も相当悩んでいたそうです…。しかし、あの方は多くの人を救う為の必要悪という結論に落ち着いたようです。」

 

「それで、二人は納得してるのか…。」

 

「…本音を言うなら、納得できないこともあります。しかし、それがこの世界なのです。理想のために犠牲がないということはありません…。戦えば犠牲は出るのですから…。」

 

「お頭が天下を統一してくれれば犠牲なんてものは出なくなる。なら、少しでも犠牲を少なくするよう努力するのがあたいたちの仕事だよ…。」

 

「でも、一番それを心に固く誓っているのは聖様ですけどね…。」

 

「どうやって?」

 

「そうですね〜。疲れているとは思いますが、明日、朝早くに起きて、庭に行くと良いと思いますよ。」

 

「えっ!?それどういう…。」

 

「それでは、私達はこちらなので。」

 

「じゃあな、一刀。」

 

「……。」

 

その後、俺は寝台の上で一人考えた…。

 

聖も悩んでいたとは言え、賊を手に掛けたのは事実。

 

しかも、感情の高ぶりによる殺人衝動…。

 

いくらその村人達に情が移っていて、家族みたいに思っていたとしても、その家族を殺されたとしても、それじゃあ、現代の殺人鬼と変わらないじゃないか…。そんなのを肯定するなんて…やっぱり出来そうにない。

 

翌日、俺は日が昇っていない朝方に庭の方に足を向ける。

 

「うぅ〜。眠い…。一体ここに何があるって言う『ビュッ!!』んっ…??」

 

覗いてみると、そこでは聖が、刀を両手に持って素振りをしていた。

 

上段に構えてからの袈裟切り、そのまま刀を上に跳ね上げ、続けざまに反対の袈裟切り。

 

体を正面に直してから、半身にした状態で突き、薙ぎ、体を差し替えながらの切り上げ、踏み込んでの上段。

 

その姿は熟練の剣士を彷彿とさせ、その技の磨きぬかれた姿を目の当たりにする。

 

実家が剣道場だった俺は、その姿に懐かしくもあれ、段違いのレベルに驚いていた。

 

「んっ?? 誰だ、そこに居るのは?」

 

「うっ!!! …悪い、覗き見するつもりは無かったんだが…。」

 

「何だ、一刀か…。どうした? 眠れなかったか?」

 

「いやっ、芽衣さんたちが、ここに来れば聖の覚悟が分かるって言ってたから…。」

 

「…覚悟ね…。」

 

「それって、この鍛錬なのか? 誰もこれ以上傷つけさせないようにするための…。」

 

「いやっ、この鍛錬は俺の趣味だから違うんじゃねぇか…。多分、この刀の方だろうよ…。」

 

「あれっ!!? この刀って…逆刃刀…。」

 

「そう。これ以上、味方にも相手にもあんまり犠牲は出したくないものでね…。命を奪う必要が無いときはこっちの方が何かと便利なのさ…。」

 

「じゃあ、前の賊も…?」

 

「いやっ、あれは…俺の幼さもあるんだろうな…怒りで正気になれなかった…気付けば全員を刃の方で切ってたよ…。 でも、あの出来事は俺に覚悟を与えてくれた…。この世界を統べるための覚悟をな…。 一刀…お前は俺を軽蔑するか?」

 

「事情は芽衣さんたちからも聞いたから、大体は分かってる…。 俺も家族を殺されたら怒りで正気を失うと思う…。しょうがないなんて言葉で終わらしたくは無いけど、これを次に活かせるなら…より多くの人を救うことに繋がるなら…必要悪なんじゃないかって思うこともある…。でも、やっぱり俺は許せない…。殺人は立派な犯罪であって、どの時代でも容認されるべきことではないよ!!」

 

「ふっ…。お前はそんなことまで考えなくて良いんだよ。お前はその自慢の正義心を前面に押し出してりゃ良い。」

 

「聖は必要悪だと割り切っているんだろ?」

 

「割り切ってるって言うと、どうかと思うこともあるがな…。でも俺は、そうしておかねぇと前には進めそうにないんだよ。これから先、俺みたいな現代の平和に慣れて、戦いというものから目を背けている人は特にな…。」

 

「聖…。俺は聖の考えが間違ってるとは思わない。でも、殺人は良くない!! だから俺、聖の役に立ちたい!!聖のために人殺しをしなくて済む様な方法を考えたい!! 助けてくれた恩もそうだし、これから俺がいることで少しは助けになれるかもしれない。だから、俺を聖の部下にしてくれ!! 頼む…。」

 

「…俺に部下はいねぇよ。いるのは仲間だけだ…。それでも良いか?」

 

「…あぁ!!」

 

「じゃあしっかり頼むぜ、俺の片腕として…そしてツッコミ担当として。」

 

「はっ!!? どういうこと??」

 

「いや〜…。どうもこっちだと言葉が通じないことが多すぎて…。ボケても流されるんだよね。」

 

「じゃあボケなきゃ良いじゃん!!」

 

「ボケたいときもあるんだ!!」

 

「小学生か!!!」

 

「おぉ〜良いツッコミだ。これからもその調子で頼むな。」

 

「良くないわ!!!!」

 

「はっはっはっ。面白い面白い。」

 

「…俺はすげ〜疲れるんだけど…。」

 

「まぁ、頑張れ。それはそうと…まだ時間はあるな…。一刀、お前確か家が剣道場とか行ってたな?」

 

「んっ? あぁ、そうだけど?」

 

「じゃあ、少しは剣を握ったこともあるだろ? その腕前を見せてくれよ。」

 

 

そう言うと、聖は刀ではなく、その腰に挿していた細目の剣を渡してきた。

 

俺はその剣を受け取ってみる。

 

細めの剣の割には意外と重く、銀色に鈍く光る刃筋が特徴的だった。

 

「まぁ、まずは振ってみ。」

 

「これ、意外と重いのな…。くそっ、振りにくい…。」

 

剣道の面打ちの練習見たく、剣を振ってはあげて、振ってはあげてを繰り返す。しかし、重みに慣れていないぶん体の重心が右に左にぶれる…。

 

「ふむっ。重さに慣れれば少しは見て取れるぐらいではあるのか…。一刀、お前の流派は?」

 

「え〜っと、確か北辰一刀流だったはず。」

 

「北辰一刀流か…。一刀にはぴったりだな…。でも、この世界に竹刀は無いから、まずはそれを振れる様になっとけ。そしたら、俺が指導してやるよ、北辰一刀流。」

 

「出来るのか?」

 

「まぁ、何でも…。そういうチート能力があるんで…。」

 

「何それ!!?? ずり〜!!!」

 

「しょうがないだろ? 俺だってたまたまなんだ。お前だって磨けば何か出るって。」

 

「例えば??」

 

「例えば…どMの才能とか?」

 

「嫌だ!! そんな才能いらん!!」

 

「まぁ、なんにせよ才能は誰にでもあるさ。さて、そろそろ日も昇ってきたし、朝ごはんが出来るだろ。」

 

「えっ、あっ!! 本当だ。もうあんなに日が…。」

 

「剣を振るのに夢中になってたからな…。あんまり張り切ってると明日辛いぞ。」

 

「だね。加減しとくよ。」

 

「そうしとけ。後、朝ごはん食べたら町に行くぞ。」

 

「何しに?」

 

「お前のもん買いにだよ。なんだ、水鏡塾の塾生のお下がりでも着るつもりかお前は? この変態。」

 

「それは勘弁してください。 …確かにこの世界で必要なものもあるし…。」

 

「この世界を見る、良いきっかけにもなるだろ。じゃあ、飯食ったら一刻後に門のとこな。」

 

「分かった。」

 

「あの〜…。 徳種さん…北郷さん…。朝ごはんの準備が…出来てます…。」

 

「…早くしないと冷める。」

 

「おっ!! おはよう、孫乾ちゃん、伊籍ちゃん。」

 

「君達が孫乾ちゃんに伊籍ちゃん? 俺の事知ってるんだ!!」

 

「はい…。 北郷さんの事は…簡擁ちゃんと水鏡先生から聞いてますので…。」

 

「…二人目の天からの来訪者。」

 

「まぁ、そういうところかな。俺は北郷一刀、よろしくね。」

 

「はい…。 私は孫乾と…言います。」

 

「…私は伊籍。」

 

「さて、顔合わせが済んだところで、朝ごはんを食べに行きますか。せっかくの朝ごはんが冷めたら勿体無い。」

 

「そうですね…。 では…参りましょうか。」

 

俺と聖は、朝ごはんの準備がされている食堂へと向かった。

 

今日のことで、少しだけ聖のことが分かった気がする。

 

あいつは優しかった。優しいが故に賊を殺す結果になったのだ。

 

俺が少しでもあいつの助けになれるなら、あいつの暴走に歯止めをきかす事が出来るのなら、それが俺の役割なんじゃないか…。そう思えたのだった。

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

昨日の告知どおり、今日一話あげます。しかし、夜遅くなってしまってすいませんでした。

前話では、遂に思いを遂げた娘が…。これで三人目ですね…。

今話は、その時の一刀sideの話を描いています。

作者の思う一刀の思想を描いてますが、どうなんでしょうね…。

私自身は一刀の思想は尊いと思いますが、やはり、現代人の平和思考が抜けない甘い考えだと思います。

所変われば世界も思想も変わるものだと、私自身は思います。
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