英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 293 |
〜赤の飛行艇内〜
「わわっ……。これってレーダーよね。光が3つ、近づいてきてるわよ!」
一方飛行艇の中の席に座っているエステルは目の前にあるディスプレイに写った画面を見て慌てた。
「ああ、追っ手だ。何とかして撒く必要がありそうだな。」
「ヨシュアって……飛行艇の操作ができたんだ?」
「一通りはね。ただ、この船には武装が積まれていないんだ。あまりいい状況じゃない。」
「そっか……。って、なんでわざわざ武装がない船にしたの?」
ヨシュアの話を聞いて頷いたエステルはある事が気になって尋ねた。
「……この船だけ整備中でセキュリティが甘かったんだ。緊急の事態だったから選んでいる余裕がなくてね。」
「緊急の事態って……。あの……ひょっとして……あたしが”グロリアス”に捕まっちゃったこと……?」
「………………………………。お喋りは終わりだ。揺れるから気を付けて。」
気まずそうな表情で尋ねるエステルに答えず、ヨシュアは警告した。すると銃撃の音がした後、飛行艇が揺れた!
「わわわっ……」
3機の飛行艇はエステルとヨシュアが乗っている飛行艇を執拗に追い、攻撃していた。
「くっ……まずいな。」
「追撃してきているヤツ、なかなか上手いわね……」
「”結社”の強化プログラムで操縦技術を修得したんだろう。応用は利かないけれど一方的な展開になると手強い。」
「そっか……。でも、応用が利かないってことは何かアクシデントが起これば―――」
ヨシュアの説明を聞いて溜息を吐いたエステルが呟いたその時、外で何かが命中したような爆音がした!
「あ、当たった!?」
「いや……この船じゃない!」
慌てて言ったエステルの言葉にヨシュアは驚いた表情で否定した。
エステル外を覗くとがエステル達を追っていた3機の飛行艇の内の1機を撃墜した飛行艇――”山猫号”がエステル達の乗っている飛行艇の隣に飛んで来た!
「あ、あれって!?」
「”山猫号”……どうして?」
「……ヨシュア!そこにいるのはヨシュアだよね!?」
山猫号の登場にエステルとヨシュアが驚いたその時、スピーカーからジョゼットの声が聞こえてきた。
(この声……)
ジョゼットの声を聞いたエステルは不機嫌そうな表情になった。
「ああ……ここにいる!どうして君たちがこんな所にいるんだ!?とっくにリベールを発ったと思ったのに……!」
一方エステルの様子に気づいていないヨシュアは信じられない様子で尋ねた。
「へへ、あんたが困ってないか兄貴たちが心配しちゃってさ。それであのデカブツの様子を遠くから伺っていたんだ。」
「へへ、よく言うぜ。必死な顔で頼んできたのは誰だったかな〜っと。」
「キ、キール兄!」
「ま、俺たちも”結社”には色々と借りがあるからな。リベールを発つのは借りを返してからにするぜ。」
ヨシュアがスピーカーに尋ねるとジョゼット達、カプア三兄妹の声が聞こえた。
「……そうか……。ありがとう、助かるよ。」
「へへっ……せいぜい感謝しなよね!」
「しかし、さっきから見てると反撃してないみたいだな。何か問題でもあるのか?」
ヨシュアの官舎の言葉にジョゼットは答え、キールはある事を尋ねた。
「武装を外した船しか調達できなくてね。ちょっと困っていたんだ。」
「そうか……」
「ど、どうしよう……」
「……よーし、こうなったらこのまま二手に分かれるぞ!一隻だったら振り切れるな?」
ヨシュアの話を聞いたキールとジョゼットは考え込んでいたが、ドルンはある事を提案して尋ねた。
「うん……問題ない。」
尋ねられたヨシュアは頷いて答えた。
「おーし、女神の加護を!」
「ヨシュア……気を付けてよね!。」
そしてエステルとヨシュアが乗った赤い飛行艇と山猫号は二手に分かれ、追手も二手に分かれてそれぞれ追って行った。
〜数十分後〜
「エステル、レーダーは?」
「うん……もう光は消えたみたい。完全に振り切れたみたいね。」
数十分後、追手を振り切ったヨシュアはエステルに尋ねた。
「そうか……。………………………………」
「……………………………………」
エステルの答えを聞いたヨシュアは頷いて黙り、エステルも黙った為、その場は静寂に包まれた。
「え、えっと……。あの空賊たち、けっこう気のいい連中だったみたいね。まさかあのタイミングで助けに来てくれるなんて……。すごく見直しちゃったわ。」
やがてエステルが勇気を出して話し始めた。
「そうだね……。契約上の関係だと割り切っていたけど……人と人の関係はそう単純じゃないらしい。」
「あはは……今さら何を言ってるんだか。顔を突き合わせてれば仲良くなったり、ケンカしたり、色々とあるわよ。それが人の付き合いでしょ?」
ヨシュアの言葉を聞いたエステルは苦笑した後、尋ねた。
「ああ……。でもそれは、僕の生きてきた世界では当たり前じゃなかった。」
「あ……」
「殺すか、殺されるか。奪うか、奪われるか。僕は君と出会うまでそんな事ばかり繰り返してきた。」
「で、でも……。お姉さんとレーヴェと一緒にいて幸せだった頃もあるのよね……?」
ヨシュアの話を聞いたエステルは恐る恐る尋ねた。
「……レーヴェが話したのか。………………………………。その記憶はあるけどまるで他人事みたいなんだ……」
「え……」
ヨシュアの言葉を聞いたエステルは呆け
「心が壊れた時……僕はハーメルの思い出は自分の物じゃなくなった。人であることを辞めて人形になったからだと思う。」
「………………………………」
「姉さんが死んだ時の記憶もはっきりと覚えてはいるんだ。あの時、僕と姉さんは待ち伏せしていた男に襲われた。男は僕を殴り飛ばして……姉さんの上にのしかかった。」
「…………ッ………………」
そしてヨシュアの話を聞いて顔を青褪めさせた。
「幼い僕は、それが意味することは分からなかったけど……それでも嫌な感じがして男の背中に掴みかかっていた。もみくちゃになった挙句、すぐに弾き飛ばされたけど……。いつの間にか、僕の手には男の銃が握られていた。」
「………………………………」
「思えば、あの時から僕には人殺しの才能があったんだろう。教わりもしないのに銃のセーフティを外した僕はためらうことなく引金を引いた。喉に穴を穿(うが)たれた男は不思議そうな顔をしてから口から血を吐いてうずくまった。そこで僕は、ようやく自分が人を撃ったことに気付いた。」
「………………………………」
寂しげな笑みを浮かべて語るヨシュアの話をエステルは悲しそうな表情で何も返さず、聞いていた。
「でも、男はまだ死んでいなかった。血走った目でヒュウヒュウと喘(あえ)ぎながら軍刀を抜いて躍りかかってきた。獣に襲われた時のように僕は身を竦(すく)めて目を閉じたけど……衝撃はなく、柔らかいものにぎゅっと抱きしめられていた。」
「………………………………」
「目を開いた時、そこには微笑む姉さんの顔があった。いつの間にか男は倒れ……呆然としたレーヴェがいた。レーヴェに支えられた姉さんはハーモニカを僕に渡して……そしてゆっくりと目を閉じた。」
「………………………………」
ヨシュアの話をさらに聞いたエステルは辛そうな表情になった。
「……よく覚えているだろう?でも、こんな風に話してても僕はあんまり哀しくないんだ。他人の日記を読んでいるような……そんな不思議な違和感しかない。そしてそれは……君と一緒にいる時も同じだった。」
「………え………………」
そして唐突に自分の事を出されたエステルは呆けた声を出した。
「君の暖かさに触れて確かに僕は変われたと思う。君と共にいることに喜びを覚え、君を愛しく思うようにもなった。だけど僕は、どこかそれを他人事のように感じていたんだ。」
自分の言葉に呆けているエステルにヨシュアは寂しげに語った。
「―――それは多分……本当の僕が感じていたんだと思う。虚ろで空っぽな……できそこないの人形みたいな僕が。」
その後2人を乗せた飛行艇はルーアン地方のメ―ヴェ海道の海辺に着水した………………
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第293話 | ||
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