IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「どっこいしょ・・・ふう・・・・・」
お守りの在庫補充のためにあっちへこっちへ右往左往した俺はようやく一段落することができた。社務所に裏に置いて
あった長椅子に腰かける。
俺が二回目にぶつかったあと、弾はすぐに神社から出ていった。
(さあて、次会ったときはどんな間違え方をしようか・・・・・)
そんなことを考えながら頭の後ろで手を組む。アイツのツッコミ、面白いからなぁ。
帰ったと言えば、織斑先生も行ってしまった。
なんでもIS学園の教師の新年会があるそうだ。
去り際、『ラウラの巫女姿をもう少し笑ってやりたいところだったが、私にも正月の楽しみがある』とか言ってた。
もしかたら、先生も巫女やりたかったのか?
「そしたら一夏が大変なことになりそうだけどな・・・・・・・」
「瑛斗・・・・・」
「ん? あ、簪か」
独り言を言ってたら声をかけられた。そこには巫女装束に身を包んだ簪がいた。
「お前も休憩か?」
「うん・・・あの・・・・・こ、これ・・・」
差し出された手にはペットボトルのお茶が。きっとそこの自販機で買ったんだろう。
「くれんの? 俺に?」
聞くと簪は無言でコクリと頷いた。
「サンキュ。喉渇いてたところなんだ」
俺はありがたくそのお茶をもらう。
「んぐっんぐっ・・・・・ぷはあっ。あんがとよ。ほら」
「ふぇ!?」
俺が返したボトルを見て少し飛び上がる簪。
「? どうした? お前が買ったんだ。全部飲むなんて野暮なことしねえよ」
「え・・・・・? えぇ?」
困惑顔の簪。だけどその目は欲しいと訴えてる。
「お前も売り場の方で大変だったろ? 遠慮すんなって」
「あぅ・・・うん・・・・・」
伸ばしかけた手を引っ込める動作を二回して、簪はペットボトルを受け取った。
「こ・・・・・これって・・・か、か・・・かん・・・・・」
ペットボトルを握る手をぶるぶる震わせて目をぐるぐるさせている。顔も火が出そうなくらい真っ赤だ。
「ど・・・どうした?」
「! な・・・なんでも・・・・・ないっ」
一度深呼吸して、なにかを決意したような表情でペットボトルを口につけた簪。
コクン・・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
お茶を飲んで、そのまま簪の動きが止まる。
「か、簪?」
「・・・・・・・・・えへ」
「ん?」
「えへ・・・えへへ・・・・・」
赤くなった頬を隠すように頬を押さえて笑い始める簪。
「どうした? なんか変なモンでも入ってたか?」
「ううん・・・・・。なんでも、ない。お手伝い・・・してくる」
「お、おお・・・・・」
スキップしそうなくらい軽い足取りで簪はまた神社の方へ向かって歩いて行った。
「なんだったんだ・・・・・?」
首を捻っていると、今度は一夏がやって来た。
「あ、いたいた。瑛斗」
「おー、どうした?」
「次の仕事だぞ。台所に来てくれ」
「台所? 重いもんでも運ぶのか?」
「さあな。来てからのお楽しみだ」
「なんか含みのある言い方だな」
「いいから。早く行くぞ」
「わかったよ。そう急かすな」
俺は立ち上がって一夏の後について行った。
「雪子さーん。瑛斗連れてきましたー」
家に上がって廊下を進む。
「あ、二人とも。こっちよ。こっち」
台所から顔を出した雪子さんが手招きして俺と一夏と台所へ誘導する。
「それで、手伝いってなんですか?」
台所に入ると、大きな台の上には食材がごろごろ。
「二人とも、お料理できる?」
「料理、ですか?」
俺はきょとんとする。
「できなくは・・・・・ない、ですね。一応授業でやりましたし」
「あら、よかったわ。それじゃあ、一夏くんはそこの黒豆を火にかけて、瑛斗くんは煮しめの準備を手伝ってちょうだ
い」
「え?」
何を頼まれたのかいまいち把握できない。
「はい。わかりました」
一夏は頷くとそこにあったエプロンを着けて、水を吸っている鍋いっぱいの黒豆を火にかけ始めた。
「え、えっと? これは・・・・・?」
「だから、おせち作るのを手伝って欲しいのよ。あなたたちが作ったって聞いたら、みんな驚くわよ? 結構量がある
から頑張って!」
柔らかい笑みを浮かべながら言う雪子さん。俺はぐいぐいと背中を押されて材料の前へ。
「ほらほら、早くしないと日が暮れちゃうわ」
「は、はあ」
「飾り切りの仕方も教えてあげるから、頑張りましょうね?」
「わ、分かりました」
そんなわけで調理スタート。
(この人、控えめそうなのに結構グイグイくるな・・・・・)
女性のしたたかさ? 的なものを感じつつ、雪子さんに切り方を教えてもらう。
「まず蓮根は花の形ね。こうやって、慎重にやるのよ」
「こ・・・こうですか?」
見よう見まねで蓮根を花の形に切る。
「そうそう。瑛斗くん器用ねぇ」
「そ、そうですか? 一夏、見ろ。俺が切った」
「おー、すごいな。初めてとは思えないぞ」
「ドヤァ・・・・・」
「はいはい。ドヤ顔してる場合じゃないわよ。まだまだあるんだから」
「はーい」
それからしばらく作業に没頭し、だんだんとコツをつかみ始める。
「・・・・・ねえ? 一夏くん」
さらに時間が経ったころ、調理しながら雪子さんが一夏に話しかけた。
「なんですか?」
「箒ちゃんのこと、どう思ってる?」
「箒、ですか?」
さといもの皮むきに悪戦苦闘している俺も突然の話題に聞き耳を立てた。
「ええ。男の子たちから見たらどんな風に見えてるのか気になったの。親戚と言っても家族だもの」
「そうですね・・・・・まあ、いいやつですよ」
「あら? それだけ?」
「いや、それだけってわけじゃないですけど・・・・・・・、変わったなぁ、って思います」
「変わった?」
「はい。学園に入学して久しぶりに会ったときはアイツ、他人を寄せ付けない感じがあったんです。なんだか、自分か
ら壁を作っていたような、そんな感じ。だけど今は学園のみんなとも普通に話せてるし笑った顔も見ます。だから、変
わったなぁって」
「そう・・・・・。瑛斗くんは?」
「俺ですか? 俺は・・・・・」
うーん、箒のことをどう思っているか、か。確かに、初めて会ったときとはずいぶん変わったよな。
「やっぱり・・・俺も、変わったな、って思います」
「うふふ。二人とも同じなのね」
雪子さんは嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、そんな変わった箒ちゃんとこれからも仲良くしてあげてね?」
にっこりとした雪子さんの笑顔に、俺と一夏も笑顔で頷いた。
それからも料理は進み、すべての工程を終える頃は丁度夕食時となっていた。
「さてと、飲み物も行き渡ったわね? それじゃあ、今年も頑張るわよ! かんぱーい!」
「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」
楯無さんの音頭で、俺たちは手に持った飲み物の入ったコップを掲げて飲んだ。
「みんな今日はありがとうね。本当に助かったわぁ」
雪子さんがお礼の言葉を言ってくる。
「いいんですよ。気にしないでください」
「いい経験でしたわ」
「なんだかんだ言って、最終的にはアタシたち結構ノリノリだったしね」
「うん。僕巫女さんの衣装なんて初めてだったよ」
「部隊のものに自慢できるな」
「楽しかったなぁ〜!」
みんな口々に今回の出来事の感想を言う。
「・・・・・・・・・・・・」
「あら? 簪ちゃん? どーしたの?」
楯無さんが簪に声をかける。
「え? あ・・・・・ううん。なんでもないよ?」
「そう? じゃあなんでそんなに大事そうに空のペットボトルを横に置いてるのかしら?」
「え・・・・・? あ・・・あ!」
気づいた簪は咄嗟にペットボトルを隠す。
「な、なん、でもない・・・・・! なんでもない、の!」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
簪以外のメンツが首を捻る。
「ほ、ほら! 食べないと・・・なくなっちゃう・・・・・!」
と言って簪は箸を動かして煮しめを食べる。
「あ」
俺は思わず声を出す。
「?」
「あ、いや。今お前が食った蓮根、俺が切ったやつだったなって」
「切った・・・? 瑛斗が・・・・・?」
簪の疑問に、雪子さんが答える。
「ここに並んでる料理はねぇ、ほとんど一夏くんと瑛斗くんが作ったのよ」
「「「「「「「「え!?」」」」」」」」
女子たちがおせちに目を落とす。
「二人ともすごい手際が良くて。一つ教えたら十は学んでたわ」
「いやいや。十はいきませんよ。八くらいですって」
俺と一夏と雪子さんであはははと笑っていると、じぃっと料理を見てる女子たちに気づいた。
「一夏の料理・・・また上達している・・・・・」
「まさか瑛斗までここまでのレベルだったとは・・・・・・」
「瑛斗さん・・・侮れませんわ・・・・・」
「すごいなぁ・・・・・」
「ほう・・・さすが私の嫁だ・・・・・」
「すごい・・・・・」
「二人ともやるわね・・・・・」
「お兄ちゃんの料理・・・こんなにすごいんだ・・・・・」
「お、おい? みんな?」
「どうした?」
一夏と二人で少したじろぐ。
聞くのが微妙に怖かったが、聞いてみた。
「もしかして・・・不味かった・・・・・か?」
「「「「「「「「そんなことない!」」」」」」」」
全員同時にそういうと、みんなすごいスピードで箸を動かし始めた。
「そ・・・そっか。よかった」
「そいつは何より――――――――」
ほっとしたのもつかの間、
「うおお!? もう半分以上ねえっ!」
「ま、マジかよ! みんなペース凄すぎ!」
自分たちで作った料理だ。俺たちだって食ってみたい。
「負けんな一夏! 俺たちも行くぞ!」
「お、おお!」
そんなわけで俺たちも激戦区へ箸を伸ばす。
「あらあら、みんな元気ねぇ」
雪子さんのそんな声が聞こえたときには、俺と一夏の箸は見事に弾かれていた。
『バー・クレッシェンド』。
その店は正月というにも関わらず営業していた。
マスター曰く『お客様が飲みたいと思ったときに開いている店でありたい。が店のモットーです』である。
そしてカウンター席には二人の女性が。
織斑千冬と山田真耶。一年一組の担任と副担任である。二人の手にはビールが注がれたグラスが握られている。
「すまないな。わざわざ付き合ってもらって」
「いえ。お正月も相変わらずな私ですから。いつでもお相手しますよ」
IS学園の新年会を終え、ほかの担任たちは帰路についたのだが千冬は真耶を誘ってこの店に足を運んだのだ。
「それにしても、通達を聞いたときは驚きました・・・・・」
ビールを飲み、一息ついてから真耶は千冬に言った。
「まあな・・・・・」
新年会の開始直前。学園長からある通達があった。
『冬休み明けから、亡国機業の一員だった者が学園に転入してくる』
というものだ。
当然職員たちは理解できなかった。亡国機業のことはIS学園の職員となれば全ての人間が知っていたが、まさか学園に
来るとは想像もしていなかったからだ。
さらにもう二つの通達もあった。
一つは『その者は亡国機業に関しての一切の記憶を消去され、害はないと判断している』というもの。
そしてもう一つは『その者は監視の面も含め、織斑千冬の妹として扱い、一年一組に編入。専用機を所有する』というも
のだった。
二つ目の通達を聞いたとき、職員たちはどよめいた。
しかしそれは千冬の行動で収まった。
『私のことを、信じていただきたい』
千冬は教師たちの前で頭を下げたのだ。
「びっくりしました。まさか千冬さんが頭を下げるなんて、だれも想像しませんでしたよ」
「うるさい。あの時はああするしかなかったんだ」
クスリと笑った真耶から顔が赤くなったことを隠すように逸らす千冬。
「でも、それでみなさん頷いたんですから、千冬さんの人望の厚さってすごいで――――――――」
「マスター。ビールおかわり」
千冬は照れ隠しのようにマスターに顔を向ける。
「はい。すぐに」
マスターは事情は知らないがいつもと違う千冬の様子に顔を綻ばせた。
「なんだマスター。ニヤニヤして」
「いいえ。なんでもありませんよ」
言ってマスターはビールをグラスに注ぎ千冬の前に置く。
「それで、そのマドカさん、でしたっけ。は一夏くんたちと一緒なんですね?」
真耶は鞄から書類を取出し、目を落とす。そこには千冬とまったく同じ顔の少女の顔写真と、バイタルデータなどが記さ
れていた。
「ああ。今日は桐野たちと初詣に行っている。そろそろ家に帰って来るんじゃないか?」
「そうですか・・・・・。あ、それじゃあ桐野くんたちもマドカさんのことを受け入れてるんですか」
「そうだな。まあ、ラウラが一番大変そうだったがな」
「ボーデヴィッヒさんですかぁ・・・・・・。うふふ」
「どうした? 急に笑い出して」
「ふふ、いえ。やっぱり千冬さんはすごいなぁって思っただけです」
「すごい? なにがだ?」
「だって、先生方たちからだけじゃなくて、生徒からも信頼されてるじゃないですか」
「・・・・・・・・・・・・」
「私も、千冬さんみたいな先生になりたいです・・・。あ、これ私の今年の目標なんですよ」
真耶はグラスを手に持って少し揺らした。
「私なんてまだまだで、少しでもみなさんに――――――――」
「真耶」
「はい?」
千冬はぐっとグラスの中のビールを飲んでから真耶の顔を見た。
「お前は、私のようにならなくていい」
「え・・・・・?」
「ああ、いや。別にお前の考えを否定するわけじゃない。ただ、その、私なんて見習ってもいいことなんてないさ」
「・・・・・・・」
「・・・だがな、お前は生徒によく接している。そういうお前の姿が私は好きだ。私にはない優しさがある。真耶、お前
はきっと、いい教師になる。私なんかよりもずっと素晴らしい教師にな」
「千冬さん・・・・・・」
「・・・す、すまん。ちょっと酔いが回ってるみたいだ。今のは忘れてくれ・・・・・」
千冬は顔をかあぁっと赤くするとそのまま正面を向いた。
真耶はそんな千冬の顔を見て、またクス、と笑った。
「やっぱり、千冬さんはすごいですよ・・・・・」
そしてマスターに顔を向けた。
「マスターさん。おつまみの盛り合わせください」
「はい。わかりました」
カウンターの隅に移動するマスターを見てから千冬は真耶の顔を見た。
「・・・・・真耶?」
「今日は私が奢ります。時間はありますから、いろいろ話しましょう」
「・・・・・・・・ふふっ」
真耶の笑顔を見て、千冬も笑った。
「そうだな。よしマスター。ビール追加だ。こいつの分も」
「わかりました。すぐに用意いたします」
千冬の笑みを見て、マスターは笑い返して頷いた。
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正月編4! ちょっと駆け足気味 |
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