英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 301 |
その後アルセイユは”翡翠の塔”の上空に到着した。
〜アルセイユ・ブリッジ〜
「”翡翠の塔”上空に到着した。」
「は〜、さすがに速いわね。到着まで30分もかからなかったんじゃない?」
ユリアの報告を聞いたエステルは感心した様子で呟いた。
「えへへ、そのくらいだと思うよ。定期船の3倍近くのスピードが出ているはずだから。」
「なるほど……」
「フフ、私達の世界にもあれば、すぐに他の国に行けますね。」
嬉しそうな表情で語るティータの説明にエステルは頷き、リタは微笑んで答えた。
「”翡翠の塔”の屋上はどのようになっていますか?」
「今、ディスプレイに出そう。」
ヨシュアに尋ねられたユリアはディスプレイに”翡翠の塔”の黒い球体に包まれた屋上の様子を映し出した。
「な、なにあれ……」
「例の”ゴスペル”が生み出す黒い波動に雰囲気は似とるが……」
「じゃが、波動と違って広がらずに塔の屋上を包み込んでおる。いずれにせよ、これ以上は近づかない方が賢明じゃろう。」
ディスプレイで翡翠の塔の様子を見たエステルは驚き、ケビンは真剣な表情で考え込み、博士は忠告した。
「ユリアさん。地上に降りるにはどうすればいいんですか?」
「あいにく”アルセイユ”が着陸できそうな場所がなくてね。滞空状態でリフトを降ろすからそれに乗って降りてほしい。」
「リフト?」
「榴弾砲を出す時などに使われる貨物用のリフトです。船倉に設置されているんですよ。」
ヨシュアの疑問に答えたユリアのある言葉に首を傾げているエステルにクローゼは説明した。
「そっか……」
「それじゃあ、塔の内部を調査するメンバーを選ぼうか。」
そしてエステルとヨシュアはクローゼ、ケビン、リタをメンバーに選んだ。
「メンバーも選んだ事だし、行こうか。」
メンバーを選び終えたヨシュアはエステルを見て言った。
「………ん〜、ちょっと待って。その前にやる事があるのを思い出したから、先にそっちをやっておくわ。」
「?何をしたいんや、エステルちゃん。」
エステルの言葉を聞いたケビンはエステルに尋ねた。
「すぐにわかるわ。ユリアさん、アルセイユに通信器って付いている?」
「勿論、付いているが………どこと通信するのだい?」
エステルの疑問に頷いたユリアはエステルに尋ねた。
「あはは………まあ、見てて。とりあえず通信器を借りるわね。」
ユリアに尋ねられたエステルはブリッジに装着されてある通信を使って、会話が全員に聞こえるように設定し、ある場所にかけた。
「…………こちらメンフィル大使館、執務室。」
するとブリッジ内にある人物の声が響いた。
「!メ、メンフィル大使館!?それにこの声って…………!」
「エ、エステル………!?」
ある人物の声を聴いたクローゼは驚き、ヨシュアは驚いた表情で通信機を持っているエステルを見た。そしてエステルは息を大きく吸った。
〜メンフィル大使館・執務室〜
一方エステルが通信をする少し前、リウイはリベール各地の情報が書かれてある書類を真剣な表情で読んでいた。
「………リベール各地で戦いが始まったようだな。」
「………離れてはいますがロレント地方でも戦いが始まっているようね。……あなた。どうするの?」
リウイが呟いた事にリウイの傍にいたイリーナは頷いた後、尋ねた。
「…………救援要請も来ていないし、今は静観だ。それにエステルと奴の娘の護衛部隊全員をグリューネ門に向かわせた所、2人は”剣聖”に預けたと聞く。”剣聖”なら我が兵達を効率よく、使いこなせるだろうしな。」
「フフ、それにしてもあなたったら、エステルさんによっぽどの恩義を感じているのね。頼まれてもいないのにエステルさん達の護衛部隊全員を出すなんて。」
「………あいつには返しきれない借りがある。………その一部を返しただけだ。」
微笑みがら言ったイリーナの言葉にリウイは静かな口調で答えたその時、執務室に備え付けてある通信器が鳴った。そしてリウイは通信器を取って話した。
「…………こちらメンフィル大使館、執務室。」
「…………………………」
「……?おい、繋がっているぞ。一体誰だ?」
通信相手から返事が返って来ない事に首を傾げたリウイが尋ねたその時
「こら―――――――――っ!!」
なんとエステルの怒鳴り声がリウイの耳に響いた!
「っ!?……………エステルか。一体何の真似だ。」
エステルの怒鳴り声に顔を顰めたリウイは気を取り直した後、通信相手――エステルに尋ねた。
「さっきはよくもあたしを驚かせてくれたわね…………!」
「………一体何の事だ?」
怒りを抑えた様子で語るエステルの言葉の意味が理解できなかったリウイは尋ねた。
「そんなの勿論、あたし達の護衛部隊の件に決まっているでしょーが!」
「………その件は王都でお前がこちらにかけた時に説明したが。」
「あたしが言っているのはあたし達に前持った知らせもなく、そんな事をするなって、言ってんの!!心臓が止まるかと思ったぐらい、驚いたんだからね!?」
「…………それで要件はなんだ?確かお前たちは今、”四輪の塔”の異変の調査と解決に向かったとプリネから聞いたが。」
怒鳴り声のエステルに溜息を吐いたリウイは尋ねた。
「ええ、リウイの言う通り、今”アルセイユ”にいて、今から行く所よ。それで要件だけど、リウイ。あんた今、暇よね?」
「………今は政務書類をある程度片付けて、休憩している所だが。」
「それを暇って言うんでしょーが!そんなもん、いつでも片づけられるでしょ!そんな事より今のロレントの状況………わかっているんでしょ!?」
「………勿論知っているが、それがどうかしたか。言っておくがリベールより救援要請も出ていないし、俺達は戦うつもりはないぞ。それにお前達の護衛部隊がいれば戦力として十分だろうが。」
エステルの言葉にリウイは静かな口調で答えた。
「何も兵をもっと出せとは言っていないわ。……リウイ、あんた自身やカーリアン達”個人”が戦ってって言っているの。」
「…………何?」
「あんたやカーリアン達が戦えば、わざわざ兵を出さなくてもロレントの戦いはあっという間に終わるでしょ?あんたの”友人”としての頼みよ。」
「悪いがその頼みは断る。わざわざ俺達が出る必要はないだろう。」
「…………へ〜。相手がラピスとリンの記憶を受け継いだあたしとわかってて断るの〜?」
「………………」
エステルの言葉と声の雰囲気から何か嫌な予感を感じたリウイは警戒した表情で続きを待った。
「………イリーナさんにフォルマ隧道であんたとラピス、リン………3人でイチャイチャした事を話してもいいの?」
「なっ…………!」
エステルの言葉にリウイは驚き、イリーナを見た。
「?どうしたのですか、あなた。」
一方見られたイリーナは首を傾げて尋ねた。
「……………それは過去の話だし、イリーナは元々王族だ。話された所で特に問題はない。」
イリーナの問いには返さず、リウイは表情を戻して答えた。
「まあ確かにそうかもしれないけど、ホントにいいの〜?あたしの勘だと、内心かなり嫉妬して、あんたに怒りの気持ちを抱くと思うわよ〜?」
「………なぜ、そう思う。」
「そんなの勿論、乙女の勘に決まっているでしょ!そりゃイリーナさんは元々お姫様だから、”王”のあんたが他の女の人と仲良くしてもある程度理解しているだろうけど、イリーナさんだって乙女なんだから!乙女の気持ちを男のあんたがわかる訳ないでしょーが。」
「………………………………」
エステルの説明を聞いたリウイはイリーナが記憶を取り戻し、ある日ユイドラの戦いで使い魔にしたセオビットの事でイリーナにどういう出会いがあって使い魔にした経緯を尋ねられ、そしてセオビットが出て来てあっさり話し、それを聞いて嫉妬したイリーナの機嫌を直すために、数日間苦労した日々を思い出して黙り込んだ。ちなみにセオビットはその時のイリーナの凄味のある笑顔を見ると、突如恐怖感が襲ってきて、リウイの身体の中に逃げるように戻り、エヴリーヌのようにイリーナを怒らせない事を心の中で誓っていた。
「で?戦うの?戦わないの?」
「……………………………現在ロレントで起こっている戦。その戦は俺個人やカーリアン達が出て、手伝ってやる。それでいいな?」
「うん、お願いね。それとこの会話はアルセイユにいるみんなにも聞こえるようにしてあるから、誤魔化そうと思っても無駄だからね。最後に言っておくけど、他にも一杯あるからね〜。」
そしてエステルは不穏な言葉を最後に言い残して通信を切った。
「……………(まさか、受け継いだ記憶をそういう風に使ってくるとは…………)………………………」
一方通信器を置いたリウイは表情には出さず、心の中で頭を抱えていた。
「あなた?相手はエステルさんだったようですけど、一体何を話されたんですか?」
リウイの様子に気づいていないイリーナはリウイに尋ねた。
「………現在ロレントで起こっている戦いの援護だ。……ただし”メンフィル帝国”としてじゃなく、”俺達個人”としての戦闘の参加を頼まれた。」
「フフ、そうですか。他でもないエステルさんの頼みなら構わないと思いますが………それよりあなた?さっき、エステルさんに何か言われて私(わたくし)を見たようだけど……一体何を言われたの?」
「……………大した事ではない。」
イリーナに尋ねられたリウイは一瞬固まったが、すぐに気を取り直して表情を変えずに答えた。
「(この人ったら、もう……………この様子だとまた、私以外の女性に関する事ね………跡継ぎを産まずに逝ってしまった私にも責任があるし、”皇族”だから仕方ないのはわかっていますけど、それでもあなたにはずっと私を見ていて欲しいんですからね?フウ………早くリウイとの赤ちゃんが欲しいわ………その為にも一杯抱いて貰わないと…………フフ、覚悟していて下さいね、あなた?)……………今度エステルさんに会った時、どうやってあなたの考えを変えさせたかを尋ねる必要があるみたいですね、あなた?」
「…………………………」
イリーナは心の中で溜息を吐き、凄味のある笑顔でリウイを見つめ、見つめられたリウイは黙り込んだ。
〜アルセイユ・ブリッジ〜
「じゃ、行きましょうか!」
一方通信を切ったエステルはヨシュア達を見て言った。
「「「「………………………」」」」
しかしヨシュア達は何も言わず、固まっていた。また、ブリッジ内にいる仲間やユリア達も固まっていた。
「ん?どうしたの?」
その様子を見たエステルは尋ねた。
「エ、エステルさん。リウイ陛下にとんでもないことをしてしまった事を自覚していないんですか………?」
そしてクローゼが引き攣った笑みを浮かべて、遠慮気味に尋ねた。
「とんでもない事…………ああ、リウイを脅した事ね。リウイにはあれぐらいのお灸を据えるのがちょうどいいのよ。イリーナさんがいるくせに、次々とイリーナさん以外の女の人と関係を持つんだから。」
「フフ、それを言ったら主も他人事ではないかもしれませんね。」
(………それにしてもあの”覇王”を脅すなんて、とんでもない娘を彼女にしたもんやな。)
(ハハ………勿論それは自覚していますよ。ただ今回の行動は予想外過ぎますよ…………ハア…………)
エステルの説明を聞いたリタは微笑み、ケビンはヨシュアに小声で耳打ちをし、ヨシュアは苦笑した後、疲れた表情で溜息を吐いた。
「ハア………先生が知ったら、卒倒するわよ…………」
「お、お姉〜ちゃ〜ん………」
「さすがはカシウスの娘といった所か。あの”覇王”を脅すとは。」
「1国の王を脅すとか、無茶苦茶な奴だな。」
「ハッハッハ。既に旦那を超えた存在になったんじゃないか?」
(……………エステル君には本当に驚かされるな………)
一方シェラザードは呆れた表情で溜息を吐き、ティータは引き攣った笑みを浮かべ、博士は感心し、アガットは呆れ、ジンは笑って感心し、ユリアは目を閉じて心の中で驚いていた。
その後エステル達はリフトを使って、地上に降りた……………
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第301話 | ||
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