英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 305 |
〜紅蓮の塔・屋上〜
「くっ………あれだけの傷を負って、よくあんな動きができるわね……というか、リタ、見た目は可愛いのに容赦ないわね……」
自分達の攻撃が回避したヴァルターをエステルは睨んだ後、冷や汗をかいてリタを見た。
「フフ……敵に手加減する必要なんてないよ?エステル。」
エステルに見られたリタは可愛らしい微笑みを浮かべた。
「さすがに手強いな……」
一方ヨシュアは警戒した表情でヴァルターを睨んでいた。
「(チッ。どうなってんだ?俺の攻撃を一切受けていないようだが………)……どうやら功夫だけはそれなりに練っていたようだな。だが、動きが愚直すぎるぜ。古ぼけた”泰斗流”なんぞにいつまでも固執してるからだ。」
ヴァルターはエステル達と共にいるリタに視線を向けた後、心の中で舌打ちをし、油断なく構えているジンを見て言った。
「ふふ……」
「……何がおかしい?」
急に笑い出したジンを見たヴァルターは眉を顰めて尋ねた。
「あんたは確かに天才だが、肝心な事が分かっていないな。師父もさぞや無念だっただろう。」
「ほう……。てめぇ、ジジイの代わりに俺に説教しようってのか?」
「そんな大それた事は考えちゃいないさ。だが、拳を交えてみて一つ分かったことがある。今の俺が、あんたに勝つのは難しいだろうが……代わりに負けもしないだろう。あんたの拳じゃ俺は倒せんよ。」
「………………………………。クク……面白れぇ。まさかてめえの口からそんな台詞を聞けるとはな。ヒマつぶしに味見するだけのつもりだったが、気が変わった。」
ジンの説明を聞いたヴァルターは少しの間黙った後、不敵に笑い、そして身体全体にすざましい気を練り始めた!
「構えろ、ジン……。格の違いってヤツを思い知らせてやる……」
「………………………………」
ヴァルターの言葉に応えるかのようにジンも同じようにその場で身体全体にすざましい気を練り始めた!
(ど、どうしよう!?)
(これは……入り込めなさそうだ。)
2人の様子を見たエステルは慌ててヨシュアを見て尋ね、尋ねられたヨシュアは真剣な表情で2人を見て答えた。そして2人は1対1の戦闘を始めた!2人の戦闘はすざましい攻防が繰り広げられ、周りの柱も破壊されるほど2人は常人では決して見えない”達人”同士の戦いを繰り広げていた。
「クク……でかい口を叩くだけあってなかなか粘るじゃねえか……」
油断なく戦闘の構えをしているヴァルターは凶悪な笑みを浮かべてジンに言った。
「あんたこそ……それだけの天賦の才を持ちながらどうして武術の闇に引きずられた!そのまま師父の元で励めば正道の極みに至れただろうに!」
一方ジンはヴァルターを睨んで怒鳴って尋ねた。
「フッ、てめぇがそれを言うか。どうやらジジイの死んだ原因がてめぇだと分かっていねえようだな。」
「……な……!?」
ヴァルターの話を聞いたジンは驚いた。
「クク、顔色が変わったな。万が一、お前が勝ったらそのあたりの話をしてやろう。賭けるのはてめぇ自身の命だ。」
そしてヴァルターはさらにすざましい気を練り始めた。
「………………………………。……いいだろう。この命、賭けさせてもらうぞ。」
一方ジンも少しの間黙った後、決意の表情になり、ヴァルターのようにさらにすざましい気を練り始めた。
(ジ、ジンさん……)
(だめだエステル……これは止められない。)
ジンを心配しているエステルにヨシュアは警告した。
「コオオオオオオッ……!」
「はああああああっ!」
2人が激突しいようとしたその瞬間、何かの武器が2人の間に割って入り、何かの武器はその場で廻っていた!
「なに……!」
「偃月輪(えんげつりん)……まさか!」
目の前に現れた武器にヴァルターは驚き、同じように驚いたジンは攻撃が来た方向を見た。そこには東方に伝わる武器――偃月輪を片手に持ったキリカがいた。そしてジンとヴァルターの間に回っている偃月輪はキリカのもう片方の手に戻った。
「キ、キリカさん!?」
「どうしてここに……」
キリカの登場にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「ツァイス市の防衛戦がやっと終わってくれたから。受付をウォンに頼んで少し様子を見に来ただけよ。」
「よ、様子を見に来たって……」
「あの『裏の塔』を1人で登ってきたのですか……」
(………ほう。まさか裏方の人間で”達人”クラスの人間がいるとはな………)
「………驚きました。塔の中にいた敵達はそれなりの強さを持つ敵ばかりでしたのに………」
キリカの答えを聞いたエステルは引き攣った笑みを浮かべ、クローゼとサエラブ、リタは驚いていた。そしてキリカはジン達に近づいた。
「キリカ、お前……」
「クク……相変わらずだな。様子を見に来たついでにジジイの仇を討ちに来たのか?」
一方ジンは真剣な表情で見つめ、ヴァルターは不敵な笑みを浮かべて尋ねた。
「まさか……。勝負の結果だったのでしょう。どうして私が父の決意を踏みにじらなければならないの?」
「………………………………」
「キリカ……」
キリカの答えを聞いたヴァルターは黙り込み、ジンは何とも言えない表情をした。
「私がここに来たのは6年前、居なくなった誰かに伝えるべき言葉があったから。ただ、それだけのためよ。」
「伝えるべき言葉……だと?」
キリカの話を聞いたヴァルターは眉を顰めた。
「ええ……。……ねえ、ヴァルター。どうして私を私として見てくれなかったの……?」
「!!!」
キリカの言葉を聞いたヴァルターは驚いた!
「貴方が父に何を言われたのか詳しいことは分からない。でも、それは私たちの付き合いに何の関係もなかったはずだわ。ましてや、ジンには尚更ね。」
「!?」
「………………………………」
キリカの話を聞いたジンは驚き、ヴァルターは黙り込んだ。
「……やっぱりそうだったのね。ヴァルター……馬鹿なひと。父がそういうことを考える人だとでも思ったの?」
「ジジイは関係ねぇ……俺自身のケジメの問題だ」
「ちょ、ちょっと待て……。ヴァルター!師父に何を言われたんだ!?それと俺と何の関係がある!?」
2人の会話に訳がわからなかったジンはヴァルターに尋ねたが
「るせえ……てめえに教える義理はねえ。」
ヴァルターは相手にせず、誤魔化した。
「ええ、ジンには関係ない。でも……私に話す義務はあったはず。そうしないで消えたのは怠慢以外の何物でもないわ。」
「………………………………」
「私は……私を私として見られない人に未練なんてない。何処へなりと消えればいいし、堕ちるなら堕ちればいい。私はあくまでギルドの人間として対処させてもらうわ。」
「……ククッ……。アーッハッハッハッ!」
キリカに睨まれたヴァルターは突如高笑いをした。そしてヴァルターが笑っていると”翡翠の塔”の時と同じように装置の機能も止まった。
「あ……!」
「戻るのか……!」
エステルとヨシュアが声を上げたその時、結界は解けた。
「クク……今回のお役目は完了か。……キリカ。最後に会えて嬉しかったぜ。」
結界が消えるのを確認したヴァルターは口元に笑みを浮かべてキリカを見て言った。
「私は嬉しさ半分、憂鬱半分ね。もう会うこともないでしょう。」
「ああ……後は俺とコイツの問題だ。しかしお前、こんな時くらいしおらしく振る舞えねぇのか?最後までキツく当たりやがって。」
「ふふ……そこに惚れていたのでしょう?」
「クク……違いない。」
キリカの言葉を聞いたヴァルターは不敵な笑みを浮かべた後、素早い動きで屋上の手すりの近くまで移動した。
「お、おい!?」
ヴァルターの行動にジンは驚いて声を上げてヴァルターに近づいた。
「……ジン。どうして俺とジジイが死合うことになったのか……それが知りたければ俺を打ち負かしてみせと。ジジイがてめぇに遺した『活人拳』をもってな。」
そしてなんとヴァルターは塔から飛び降りた!
「なっ……!」
「ちょ、ちょっと!?」
ヴァルターの行動に驚いたエステル達はヴァルターが飛び降りた所にかけよった。
「………………………………」
ヴァルターが飛び降りた後、ジンはその場で黙り込んだ。
「じょ、冗談でしょ!?”執行者”ってこの高さから落ちても平気なの!?」
「全員が全員じゃないけど……彼ほどの使い手なら無事でいても不思議じゃない。」
「ああ、外壁を抉(えぐ)ることで落下速度を落としやがった。凄まじい硬功と化勁だぜ。」
「まったく……人騒がせにも程があるわね」
驚いているエステルにヨシュアは説明し、ジンの説明にキリカは頷いた。
「キリカ……。どうしてヴァルターがここに来てると分かった?」
「分からないとでも思った?まったく……貴方といいヴァルターといい。男っていうのはどうしてこんなに不器用なんだか。」
「うぐっ……」
キリカに尋ねられたジンは返す言葉を失くした。
「………………………………(じー)」
一方エステルはジト目でヨシュアを睨んだ。
「……反省してるからそんな目で見ないで欲しい。」
(クク………自業自得だ。)
「うふふ…………」
「クスクス…………」
エステルとヨシュアの様子を見たサエラブは口元に笑みを浮かべ、クローゼとリタは微笑んでいた。
「さて、私用も済ませたし、私はそろそろツァイスに帰るわ。……武運を。次の塔でも気を付けなさい。」
「キリカさん……」
「ああ……分かってる。」
そしてキリカと別れたエステル達はアルセイユに戻った…………
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第305話 | ||
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