いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第四十四話 闇の書の餌
クリスマスイヴの夜。
海鳴の上空で。
爆音と滑空音。そして、悲しみに暮れる声があった。
『…やめ、てぇ。やめてえ』
それから数分も見ないうちにアサキムを除く全員は満身創痍になっていた。
なのはとフェイトも合流は果たすもののアサキムが無尽蔵とも思える黒い炎に追い詰められていた。
「…めぇ。ぜ、たい。ぶっ、つぶし、てやる」
「く。…がはぁ」
特に守護騎士の二人は酷い有様だった。
アサキムに喉を持ち上げられるかのようにヴィータに、地面に剣を突き刺して何とか立っているシグナム。
あまりの力の差。だが、絶望するわけにはいかない。自分達の後ろにははやてがいるのだから…。
『お願いや!二人を!私の家族をこれ以上…』
「…ふっ」
ドフ。
モニター越しに響くはやての訴え。
だが、その思いとは逆にアサキムはヴィータの胸に開いた手を突き入れる。
「が、あ。…は、やて」
ずるりと抜き出されたその手には紅に光るヴィータのリンカーコアが握られていた。
そして、それはアサキムの頭上に浮遊していた闇の書に取り込まれる。
[蒐集]
「はやてぇええええええええ!」
ヴィータの悲鳴が途切れる頃には彼女の姿は闇の書に取り込まれていく。そして、それは地上にいたシグナムにも降りかかる。
ドンッ。
「が!?」
シグナムの腰に黒い炎の烏が襲い掛かる。
その衝撃で体を宙に浮かび上がらせたシグナムに別の角度からもカラスたちが襲い掛かる。
ドドドドドドドドドドドッ。
「う、ぐ、ぐああああああああ!」
まるで少しずつ打ち上げられていくように、そして、アサキムの元に運ばれていくかのようにシグナムが嬲られていく。
「シグナム!こんおぉおおおおおお!」
「させないよ」
「くぅ!」
フェイトがシグナムに襲い掛かっている烏を追い払おうとするとアサキムの放つ光線で助けに行くことが出来ない。
「アサキムゥウウウ!」
「援護するよ!アクセルシュート!」
クロウが光の槍を銃口の前に出現させて突撃を刊行するクロウの後ろからなのはが援護射撃を行う。
なのはの打ち出した光弾がアサキムの召喚した烏を打ち落とし、クロウの突撃コースを開ける。
「アサルトコンバットパタ、ガァッ!」
「クロウくっ、あう!」
だが、なのはが打ち出した魔力弾よりもアサキムの烏の方が多い。
烏とぶつかるたんびに魔力弾は相殺さていく。
なのはは生来。大量の魔力量を保持している。が、アサキムはスフィアとシュロウガを所有している。
消費していくだけのなのはに、スフィアの力で魔力が自動的に魔力が供給されていくアサキムは減っただけの炎の烏を…。いや、それ以上の炎の烏を呼び出し襲い掛からせる。
その為二人もまたシグナム程にではないが炎の烏によって足止めを食らう。
「…く、くそう」
「…なんで、こんなに力があるのに。こんなことを…」
ふと、なのはが零した言葉にアサキムは反応した。
「((こんな力|・・・・))があるから。だよ。…さて」
アサキムは眼前で群がっている炎の烏の群れに手を入れると、その烏たちは今まで貪っていた騎士に飽きたかのように霧散していった。
「…あ」
騎士甲冑がボロボロになり見るも無残になったシグナムの頭を無造作に掴み、この場を見ている全員に見せつけるように持ち上げる。
「見ているかい。はやて。今からこの騎士を壊す。可能な限り最大の苦痛と時間をかけて!」
『やめ、て。やめてぇええ』
「そうだ、はやて。もっとだもっと、絶望に涙しろ。自分の苦しみを享受しろ!君は幸せになどなれない存在だという事を!」
はやての呻きとアサキムの無慈悲な言葉を耳にしたシグナムは虚ろだった瞳に怒りの炎を灯らせて、力任せにレヴァンティンを振りぬく。
「…お、おおおおおおおおおおおおっ!!」
ガアンッ!
「っ!?」
不意の一撃であった所為か、シュロウガの兜の部分がシグナムの一撃を受けてはじけ飛ぶ。そして、そこに追撃を加えようとシグナムはレヴァンティンを振り降ろす。
「…シグナム」
「な?!ヴィー…」
ドンッ。
…ことは出来なかった。
シグナムの方に向き直ったアサキムの顔は病院で見た優男風ではなく、先程蒐集されたヴィータの表情だったからだ。
そして、レヴァンティンの代わりにアサキムの持つ剣がシグナムの腹部に刺さっていた。
「…か、は」
「所詮、君達は『闇の書の餌』だ」
ヴィータの表情が歪み、空中に消えていくと同時に現れたアサキムの顔は凄惨な笑みを浮かべていた。
『シグナァアアアアアアアアアムッ!』
[蒐集]
いつの間にかアサキムの横に浮かび上がってきた闇の書にシグナムはヴィータ同様に取り込まれていく。
「あ、るじ。はや、て。もうしわけござい」
シュンッ。
シグナムの言葉は最後まで言い切ることは無かった。
『あ、ああ、あああああああああああああ!』
はやての悲鳴がモニター越しに響き渡る。
なのはとフェイトはその悲鳴を聞いて歯を食いしばる。
クロウの方は圧倒的な戦力差に戦意が今にもくじけそうになっていた。
「…さて、闇の書も残りあと僅か。あとは…」
「おおおおおおおおおおおおおっ!」
シグナムが闇の書に吸収されたことを確認すると。その中身の内容を確認し始めたアサキムに突如、青白い光の塊が直撃した。
「…そういえば、まだいたね。守護騎士は全部で((四体|・・))だったからね」
『ザフィーラ!』
褐色の肌に白の髪を有した筋骨隆々な男性がアサキムに殴りかかっていた。
不意打ちとも思える一撃にアサキムは魔力で作り上げた障壁でその一撃を防いでいた。が、ザフィーラの一撃はそこでは終わらなかった。
「縛れ、鋼の軛!」
海鳴の地面から何重もの青白い刃が作り主たるザフィーラごと貫かんばかりに襲い掛かる。
それを見たアサキムは再び障壁を張るが下方から突き上げてくる魔力の刃全て防ぐことは出来ず幾本か、その身に着けた黒い鎧に突き刺さる。
それは障壁を張らず、また全開でその攻撃を行ったザフィーラにも同様である。
「…ぐぅ」
「自分もろとも自爆攻撃とは恐れ入る。盾の守護獣。だが!」
[蒐集]
「ぐ、ぐあああああ!」
「それだけでは僕に勝てないよ」
闇の書に命じて今度はザフィーラも吸収しようとした。その時だった。
「ならば((それ|・・))に追撃を加えるまでだ!デュランダル!」
[オーケー、ボス]
ガガガガガガガガガガガガッ!
アサキムの左後方からクロノが現れ、その手に握られた新たなデバイスデュランダルによって、アサキムの鎧に突き刺さっている魔力の刃を丸飲みするかのように、氷の濁流がアサキムに迫る。
そして、
「やるぞ、アリシア!」
(うん!ライアット・ジャレンチ・Nモード!)
その氷の濁流の上を疾走する獅子がいた。
ジャコン。
その手にした巨大なレンチの先端は大きく開かれ、その開いた口の中には巨大な鋼色の杭が現れた。
ガキィンッ!
氷の橋で地上との接点を持ったアサキムに追いついた高志はその大きく開いたジャレンチでアサキムを掴む。
「貫け!ノットバニッシャァアアア…」
(シュゥウウトォッ!)
ライアットジャレンチだけではなく、ガンレオンの関節部分からも余剰となった魔力を帯びた水蒸気が噴き出す。そして、
ズドンッ!
一瞬の間をおいてからライアットジャレンチから勢いよく吐き出された鋼色の杭がアサキムの鎧を打ちぬいた。
「…ぐあっ!?」
「不意打ちばっかりですまないな。アサキム。だけど…お前に勝つにはこれしかないんだ!ユーノ!他の皆の救助を!クロノ!援護を頼む!」
「うん!頑張って!僕は皆の手当てに向かうから!」
あたり一面が氷の網に覆われたかのような空間になった海鳴の空の上で高志はアサキムにさらに一撃を加えるため、チェインデカッターを手に取り、アサキムに斬りかかる。
その間にもユーノは傷だらけになったザフィーラを抱きかかえ、クロノはデュランダルを使いアサキムの周辺に分厚い氷の塊を生み出す。
「任せろ!足場と足止めは僕がサポートする!だから、思いっきり叩きのめせ!」
そして、氷の海となった空中で『傷だらけの獅子』と『知りたがりの山羊』はぶつかり合い始めた。
同時刻。闇の書内部にて。
…ッ。
泣いているのか?我が主。
悲しまないでください。あと、あと少し力を溜めたら私は復活します。ですからその時まで耐えてください。
必ず、必ずやあなたのその願いを叶えてみせます。
この…『悲しみの乙女』の力で。
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