病みつき六課 プロローグな1日(朝) |
ランニングから帰ってきてすぐに俺はシャワーを浴びて、制服に着替えると今日の仕事を確認するため、自室に向かった。
俺の部屋の前には彼女、フェイトさんが立たずんていた。微動だにせず、熱心に扉を見ている。
少し怖いと思いながらも近づいて、声を掛ける。
「何か用ですか?フェイトさん」
フェイトさんは俺に気付くと、近づいてくる。
「おはよう、今日はランニングの時間早かったんだね」
「はい、この間から急に早くなって……」
朝のランニングには関係ないはずなのに、悔しそうな顔をするフェイトさん。
「そっか……
あなたも迷惑だよね。
朝から無理矢理走らされるなんて。
いくら隊長格の人はあなたに何でも我が儘言える権利があるって言っても。
それを朝練前の走りに付き合えなんて」
何故か嬉しそうに笑いながら俺を見てきた。怖くなったから、目線を下げて目を合わさないようにする。
「い…いえ、迷惑じゃないですよ
シグナムさんも普段事務関係の仕事しかしない俺を気遣って誘ってくれたんでしょうから」
時間が早いのは嫌だけど、そんなことも言ってられない。
シグナムさんが早くするって決めたんだから。
「……そっか
君は優しいし、嫌だなんて我が儘言えないよね」
優しい笑みを浮かべながら、頭一つ分ぐらい小さい俺の頭を軽く撫でてくれた。
少し嬉しい。
顔を上げると彼女の顔が近くに、いや、近づいてくる。
「私には何を言っても良いんだよ
あなたの我が儘を何でも聞いてあげる
だって、私は――」
「2人共何やってるんですか?」
鼻先が触れ合いそうになったぐらいに互いの顔が近くなったその時、彼女――キャロが後ろから声を掛けてきてくれた。
「おはよう、キャロちゃん」
このタイミングに便乗するように顔を彼女に向けながら、軽く挨拶を返す。
「おはようございます、お兄ちゃん、フェイトさん」
キャロちゃんが言ったお兄ちゃんとは俺の事だったりする。
少し前のことだ、好きに呼んでいいと言ったらこんな呼称が付いた。
「……おはよう、キャロ」
不満そうにキャロちゃんに返事をしながら、俺の隣に立つフェイトさん。
「フェイトさんはお兄ちゃんに何をしようとしたんですか?
お兄ちゃんが嫌がる事をしたら駄目なんですよ」
キャロちゃんはそう言うとフェイトさん同様俺の隣に立ち、手を取ってくる。
それに満足したのか嬉しそうに笑ってくれた。
子供の笑顔は嫌いじゃないから、ちょっとした満足感に包まれた。
そんな俺とは反対に、フェイトさんは軽くキャロを睨んでいる辺り不機嫌なんだろう。
「別に彼が嫌がる事なんてしてなかったよ
彼も私も嫌な事じゃなかったよ
むしろ、私達の邪魔をしてきたキャロの方が彼は嫌がってるんじゃないかな?」
先程の笑顔は何処へやら、互いに互いを睨み合い、間に俺が居なければ今すぐに取っ組み合いの喧嘩が始まりそうなぐらい不穏な空気を感じる。
口を挟むのにも勇気を振り絞らなければいけないほどの緊迫を感じているのは俺だけか、2人は平然と話し合う。
「そんなことないですよ
お兄ちゃんはきっと嫌がってました
お兄ちゃんは誰にでも優しいから何も言わなかっただけです
そんなお兄ちゃんに無理矢理キスしようなんて、お兄ちゃんが可哀想だと思わないんですか」
「無理矢理キスした覚えはないよ?
可哀想に感じたのはキャロが邪魔したからだよ」
更に睨みを強くするのを目で見る、このままじゃ本当に危ない!!
「えーと、キャロちゃんは朝練はいいの?そろそろ始まる時間だけど」
少しでも場の空気が収まればよかれと思い言ってみたのだが、思いの外反応は濃く、彼女ははっとした顔をする。
「今日のお兄ちゃんの朝はなのはさんと一緒にFWの朝練を見ることに変わったことを伝えに来たんです」
「私もそれを伝えに来たの」
それだけ伝えるためにきたんなら念話とかで、いや、きっと口で伝えたかったんだろうな。
「わかった、それじゃ行こっか」
嬉しそうに傾きながら手を引っ張ってくれる彼女を横目にこんな朝早くから部屋の前で待たせてしまっていた片方の彼女を見る。
「フェイトさんも、また後で」
「……お兄ちゃん」
掴まれていた手が徐々に痛くなる。
睨み合いの時に比べたら幾分ましたが、軽く睨まれていた。
「キャロちゃんもありがとう、わざわざ伝えに来てくれて」
軽く頭を撫でると次第に痛みが和らいできた。
頬を紅くする
「お兄ちゃんのためなんだから、別にいいよ
お兄ちゃんが私を誉めてくれるなら、お兄ちゃんが私の傍に居てくれるなら、お兄ちゃんが喜ぶなら、私は、何だってやるよ
お兄ちゃん」
ここまで言ってくれた人に目を背けてしまう。
真っ直ぐ目を見てきてくれたにも関わらず、それに逃げるかのように、背く。
説明 | ||
これは、彼を巡る物語――― 自分の行動を邪魔されて、他人の行動を邪魔する――― これは、そんな物語 『人間を愛することは必然だ』 |
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