仮面ライダーエンズ 第二十一話 北斗神拳と番長と偽りの天才
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街のどこかの廃墟。

「ひぃっ!やめてくれ!」

拘束台に縛りつけた男性に、いかにもといった感じの悪人面をしたもう一人の男性が、嫌らしい笑みを浮かべながら近付いていた。

「心配するな。この実験が成功すれば、お前のパンチ力は倍になる。」

「し、失敗したら!?」

「死ぬ。」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

この男性は、悪人面の男性が行っている、とある人体実験をやめさせるために乗り込んできたボクサーなのだが、返り討ちにあって逆に実験台にされてしまったのだ。

「だから心配するなと言っている。俺が失敗することなど、万に一つもありえん。事実、俺はまだ一度も失敗していない。」

(そう、失敗と呼べるものはな…)

男性の実験で死んだ者は、何人もいる。だが、彼にとってそれは失敗ではないのである。

(ここでこの男が死のうと、それは失敗ではない。俺の拳法の完成には必要な犠牲なのだ)

彼はこの実験を通して、歴史の闇に葬られた、とある拳法を復活させようとしているのだ。

(そう、俺の『北斗神拳』を完成させるためにな!)

「行くぞ!」

「や、やめて!!」

ボクサーに向けて手を伸ばす男性と、やめるよう懇願するボクサー。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟に、ボクサーの悲鳴がこだました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロストグラウンド学園。

「…」

ルルーシュは新聞を読んでいた。彼は家で新聞を読めなかった場合、学園に新聞を持ってきて読む。

「…はぁ…」

と、ルルーシュはある記事を読んで、ため息を吐いた。そんな彼に、スザクは心配そうに声をかける。

「どうしたのルルーシュ?」

「…この記事だ。」

ルルーシュはスザクに、自分が読んでいた新聞の記事を見せた。そこには、とある有名なボクサーが行方不明になったことが書かれている。

「またか…」

スザクは考え込んだ。

 

実は少し前からこの街で、スポーツ選手や運動神経のいい者、身体が丈夫な者などが行方不明になる事件が相次いでいる。中には死体となって発見される者もおり、その場合は頭や腹、心臓など、身体の一部が内側から爆発したかのような、不思議な死に方をした姿で見つかっていた。

「お前も気を付けろ。」

ルルーシュはスザクの運動神経のよさを知っているので、いつこの親友が狙われるかわからず、気が気でない。

「うん。気を付けるよ」

スザクは自分の親友の気遣いに、笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。

 

ピーポーピーポーピーポー…

 

パトカーのサイレンが鳴り響く街角で、とある男性の死体が発見されていた。あのボクサーのものだ。ボクサーは右腕を失った状態で死んでいる。それも、内側から弾け飛んだかのように。

 

 

その死体を見つめるのは、周囲の野次馬と明らかに違う、学ランを着た大男。大男は死体をじっと見ている。やがて、

「チッ!」

舌打ちをして事件現場から遠ざかっていった。

「アミバめ…!!」

捨て台詞を吐いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟。

「ふむ…」

悪人面の男性は、何か考え事をしていた。すると、

「アミバ様。」

名前を呼ばれて、男性は振り向く。そこには、彼の前にひざまずく黒衣の男性が。

「あのボクサーの死体が発見されたようですが…」

「構わん。所詮、壊れた木人形(デク)だ。これまでと同じように捨て置けばいい」

悪人面の男性、アミバは、自分の実験に強制的に参加させられ、そして命を散らしたボクサーに何の感心も持ってはいない。どうせ使い捨てだし、使いものにならなくなった以上、いつまでもこだわっていたところで仕方ないのである。

「しかし、こうも壊れやすいとな…」

だが、彼が自分の技を完成させるためには、より丈夫な実験台、すなわち木人形が必要だ。

「やはり奴のような…」

そこでアミバは一人の男を思い出す。

「金剛のような人間でなければ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇魔とレスティーは、いつものように街を散策していた。と、

「皇魔!」

音無が声をかける。日向やゆり、かなでや直井も一緒だ。

「デザイアを捜してるんでしょ?」

「あたし達も手伝うわ。」

ゆりとかなでが協力を申し出る。以前の皇魔なら断っていたが、

「助かる。」

今の皇魔は快く了承した。すると、今度は日向が、ある人物の存在に気付く。

「おい。あれ、金剛じゃねぇか?」

日向が見たのは、学ラン姿の大男、金剛晄だった。当の金剛はと言えば、

「この男を知らないか?」

道行く人に写真を見せながら、人捜しをしている。だが、金剛の人相があまりにも恐ろしく、また大男で威圧的なため、

「い、いえ!知りません!!」

こんな具合に避けられていた。

「そうか…」

肩を落とす金剛。そこへ、

「金剛!」

日向が声をかけた。

「お前達か。」

「一体どうした?誰かを捜しているようだが…」

直井が尋ねる。

「私達も捜してる相手がいるし、ついでに協力しましょうか?」

さらに尋ねるゆり。それに対して金剛は、

「…お前達なら…」

と考えるような素振りをする。

「私の超能力を使えば、誰が相手でもすぐ見つけられるわよ?」

レスティーは進言した。今彼女が自分で言った通り、彼女の超能力を使えば、誰を捜していようとすぐ見つけられる。

「…」

金剛は答えない。

「何を悩んでおるか知らんが、さっさとしろ。こちらもあまり時間がない」

催促する皇魔。その催促を受けた結果かどうかはわからないが、金剛は話し出す。

「…お前達は、アミバという男を覚えているか?」

彼の口から飛び出したのは、アミバという人物名。

「アミバ?」

音無を含めた全員が考える。先に思い出したのは、かなで。

「あの退学になった男子のこと?」

退学になった男子。その言葉を聞いて、音無も思い出す。

「ああ!あの天才天才言ってた拳法マニアか!」

退学になったうえに拳法マニア。レスティー以外の全員が思い出していた。

 

ロストグラウンド学園ではよほどのことがない限り、退学処分を決められたりはしない。アミバは、そのよほどのことをしたのだ。

 

アミバがやったのは、様々な拳法を学び、学んだ拳法を道場破りや、無抵抗な一般人に使用したこと。

「奴は退学させられたあともそれを続けていたんだ。俺はアミバを止めるために挑み、倒した。」

しかし、金剛に倒されたアミバは、

『俺は必ずお前を倒す!かつて世界最強を誇った伝説の暗殺拳、北斗神拳を蘇らせてな!!』

と捨て台詞を吐いて行方を眩ました。

「北斗神拳?」

かなでは訊く。金剛は拳法、北斗神拳について説明した。

「北斗神拳とは人体の急所、経絡秘孔(けいらくひこう)を突いて、内部破壊を引き起こす一子相伝の暗殺拳だ。」

だが実際はそれだけではなく、外部からの破壊はもちろんのこと、遠距離戦や極地戦など、ありとあらゆる状況に対応しており、また戦いの中でさらなる奥義を編み出し、常に進化する。しかし、

「北斗神拳は、既に伝承者の絶えた存在しない拳法だと聞いている。」

皇魔が言った通り、この世界では既に伝承者が一人もいなくなっており、存在しない幻の拳法となってしまっていた。一子相伝の拳法であることも原因だが、それは仕方ない。北斗神拳はあまりにも強力すぎるのだ。この世界では過去に北斗神拳の伝承者が、たった一人で数多くの戦争に介入し、平定したという記録がいくつも残っている。

「そんなトンでも拳法を復活させようってのか…」

「もし復活させたら…」

日向と直井がそこまで言いかけて、

「間違いなく使うだろうな。アミバはそういう男だ」

皇魔が断定した。レスティーはアミバを知らないので、皇魔に尋ねる。

「アミバって、そんなにひどい性格なの?」

「奴が退学になったのは今から二年前…貴様が復活する前のことだから知らんだろうが、あれはひどかった。」

当時まだ荒んでいた皇魔ですら嫌悪している。相当ひどい人間だということを理解した。

 

そこへ、金剛は衝撃的な事実を告げる。

 

「奴はもう北斗神拳を使っている。」

 

「なっ!?」

「どういうこと!?」

音無とゆりは驚いた。

「お前達も知っているだろう?最近起きているスポーツ選手の連続行方不明事件…あれはアミバの仕業だ。北斗神拳を使いこなすためには、秘孔の位置を把握し、正確に突く技能が必要とされる。奴はスポーツ選手を誘拐して、その実験台にしているんだ。運動神経の高い健康な人間ほど、実験台に適しているからな」

「へぇ、あれが…」

「なるほど。肉体の一部が内側から弾け飛んでいる死体も、北斗神拳の内部破壊によるものだとしたら合点がいく。」

レスティーと皇魔は納得した。

「お前達にも協力してもらいたい。」

本来なら自分一人で捜すところだが、金剛としても余談を許さない状態である。

「よしわかった。協力しよう」

協力を了承したのは、皇魔だった。

「皇魔!?」

「お前!?」

「皇魔くん!?」

三人で驚く音無、日向、ゆり。

「そうか、助かる。」

金剛は安堵の表情を見せた。

「レスティー。早速やれ」

「え、ええ…」

皇魔が積極的に協力することが予想外だったため、レスティーは少したじろぎつつ、テレパシーで訊く。

(どういう風の吹き回し?)

(アミバの欲望を探知して、デザイアが現れる可能性がある。奴には餌になってもらうのだ)

(…ああ、そういうこと…)

「じゃあ金剛くん、アミバの顔写真を見せて。顔さえわかれば見つけられるから」

「よし。」

納得したレスティーは、超能力を使ってアミバの探知に入る。

(…結局、 タダじゃ動かないってことね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レスティーの力を借りてアミバの居場所を見つけ出した一行は、これ以上被害者を出さないため、アミバのアジトに乗り込んでいた。結局音無達もついてきたのだ。ちなみに、もしもの時を考えて、しおんと克己にも連絡してあるのだが、まだ来ていない。

「ここにアミバがいるのか…」

「陰湿なあいつにはお似合いな隠れ家だな。」

音無と日向は、廃墟を見上げて言った。

「それより気を引き締めろ。」

しかし皇魔は廃墟の様相になど目もくれず、一同に注意を促す。

「…いるぞ。」

次の瞬間、

 

「ヒャッハー!!」

「イィィヤッホォォォ!!」

「グフフフ!!」

突然人相の悪い男が三人、廃墟から飛び出してきた。

「この場所を知られたからには、生かして帰すわけにはいかねぇ!!」

「アミバ様の命令だ!!恨みはないが死んでもらうぜ!!」

「悪く思うなよ?悪いのはお前らなんだからな!!」

口々に叫ぶ男達。日向は驚く。

「こいつら…行方不明になった連中だぜ!ニュースでやってたから知ってる!」

「何ですって!?」

「なぜそんな連中がアミバに味方している!?」

ゆりと直井も驚いた。

「それは俺達がアミバ様から恩を受けたからよ!」

理由を教える男A。金剛は察した。

「やはり北斗神拳を使われて、パワーアップしたのか…」

「北斗神拳って、暗殺拳じゃないの?」

かなでは妙に思う。殺すための拳法を使われて生きているうえに、パワーアップしているなど確かにおかしな話だ。

「経絡秘孔には人体を内側から破壊するだけでなく、人体の機能を活性化させる効果もある。」

「グフフフ…その通りよ。俺達はアミバ様に秘孔を突いてもらい、究極の力を手に入れたのだ!」

「そしてアミバ様の実験で生き残った者は全員能力を高められ、アミバ様のしもべになっている。貴様らに勝ち目などないわ!」

男Bと男Cは金剛が言ったことを肯定し、飛び掛かってきた。

「下がれ!」

皇魔は音無達を下がらせ、男達の前に立ちはだかる。男Aは金剛に襲いかかった。

「俺はアミバ様に秘孔を突かれ、常人の数倍の腕力を得た!ひねり潰してやる!!」

金剛の肩に掴みかかり、そのまま押し潰そうとする男A。しかし、

「ど、どういうことだ…!?」

金剛の身体はびくともしない。

「それで終わりか?」

「な、何を〜!!」

男Aは金剛から挑発され、さらに力を強める。だが、やはり金剛は少しも堪えていない。

「ぬんっ!」

「おわっ!」

逆に投げ飛ばされる男A。真上に飛ばされた男Aは重力に従って落下し、

「らぁっ!!」

タイミングを合わせた金剛に殴られる。

「ぐばぁっ!!」

男Aは壁に叩きつけられ、気絶した。

 

男Bは皇魔に襲いかかる。

「俺が得たのは敏捷性(びんしょうせい)!常人より数倍早い俺のスピードに、ついてこられゴバッ!?」

全てを言い終える前に皇魔から裏拳を喰らい、男Bは男Aの上に重なるようにして飛ばされ、気絶した。

「貴様の動きなど止まって見えるわ。」

 

「俺は常人の数倍の握力を持つ!捕まったら死ぬぜ!うおっ!?身体が動かねぇ!?」

「なら先にこっちが捕まえればいいわけね。」

「てめえ何を…あっ!!うぎゃああああ!!」

男Cを金縛りで捕らえたレスティーは、男Cの脳に精神干渉波を流し込み、気絶させてから男A、Bの上に重ねるように、念動力でぶつけた。

 

「…すごいわ。」

三人の強さを素直に賞賛するかなで。そこへ、ようやくしおんと克己が到着した。

「遅くなってすまない。」

「俺達にも協力させてくれ。」

こうして二人の戦士を迎えた一行は、アミバのアジトへ乗り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトへ乗り込んだ皇魔一行は、次々に襲いかかってくるアミバの手下の相手をしていくのだが、

「俺は常人の数倍のキック力を得た男!てめえら全員蹴り殺じっ!?」

「俺のダッシュ力は常人の数倍!俺にぎゃっ!!」

「俺のパンチ力は常人のっ!!」

「俺のジャンプりょっ!?」

「俺のっ!!」

「俺ばっ!!」

「おっ!!」

現れるのに比例して、次々倒されていく。ちなみに皇魔は常人より遥かに強いため変身していないが、音無と克己、しおんでは敵わないため、変身して戦っている。耐久力も常人の数倍になっているらしいので、問題ない。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に一行は、アミバのもとにたどり着いた。

「ふん、なかなか早かったな金剛。そろそろこっちからもお前を迎えに行こうと思っていたところだ」

しかし、アミバは自分にとっての因縁からか、金剛しか見ていない。

「アミバ…!!」

金剛は怒る。その様子を見て、アミバはいやらしい笑みを浮かべた。

「俺はお前のそういう顔が見たかったんだ。実にいい顔だぞ、金剛番長。」

「…アミバ、どういうつもりだ。」

「ん?何のことかな?」

「とぼけるな!俺を倒したいなら、直接俺を狙えばいい!なぜ関係のない連中まで巻き込む!?」

それを聞いたアミバは大笑いしてから答える。

「お前だってわかっているだろう?北斗神拳を完成させるためには、秘孔を突く技能が必要だ。俺は木人形を使ってそれを練習していたにすぎない」

「木人形!?誘拐してきた連中のことを言ってるのか!?」

「お前、人の命を何だと思ってんだ!」

ダークプリキュアとビーツは激怒した。まさか実験台にされた者達が木人形などと呼ばれているとは思わなかったからだ。

「知らんな。この天才の役に立てたのだから、むしろ喜ぶべきだろう?」「こいつ、二年前とちっとも変わってない!陰険で陰湿で最低なやつ!」

金剛に倒されたにも関わらず全く態度を改めないかつてのクラスメイトに対し、嫌悪感をもよおすゆり。

「何とでも言え!俺は天才なんだ!」

だが、アミバはゆりからの罵倒を何とも思っていない。それどころか、

「…そうだ、俺は天才だ。どんな拳法も、誰よりも早く習得できる天才なのだ。」

陶酔し始めた。

「だが、誰も俺の才能を認めようとせず、俺に奥義を授けなかった。貴様らに俺の気持ちがわかるか!」

そしてそれを怒りに変えるアミバ。

「だから俺は北斗神拳を完成させ、今まで俺を見下してきたやつらをひざまずかせてやるんだ!天才の俺ならできる!」

北斗神拳を完成させる本当の目的を明かしたアミバは、再び嫌な笑みを浮かべ、一同を見下す。

「もう一度言う。俺は天才だ!!天才は、何をやっても許されるのだ!!」

だが、

 

 

「知ったことか!!」

 

 

金剛が叫んだ。

「ひっ!?」

その圧倒的な気迫に圧され、アミバは黙る。

「自分が強くなるために他人の命を犠牲にする…」

いつしかゆっくりと歩き出していた金剛は、

「それじゃあスジが通らねぇよなぁ!?」

さらにアミバを威圧。同時に、金剛の両腕が太くなり、黒く変色して硬質化した。

「だっ、黙れ!お前のような凡人が、俺に勝てるか!!」

「どう見ても凡人じゃないだろ。」

「しかも負けたんじゃ…」

「うるさい!!くらえ!!」

ポーカーとかなでから水を差されつつ、アミバは近くの壁に向かって駆け出し、壁を蹴ってその勢いで金剛に飛びかかり、

「鷹爪三角脚!!!」

蹴りを放つ。対する金剛は、

「打舞流叛魔(ダブルハンマー)!!!」

巨大化と硬質化した両腕で拳を放った。結果は、

「がぶぁっ!がっ!あばっ!!」

金剛の勝利。アミバは近くの壁に激突した。

「…弱っ!」

「しかも何だ鷹爪三角脚って。要するに三角飛びからのキックだろ」

「うぐぐ…!!」

レスティーとポーカーからダメ出しを受け、アミバは悔しがる。

「これまでだな。観念しろ」

「くそぉ〜!!」

言い放つ金剛。

 

その時、

 

「ほう、これは見事な欲望だな。」

 

どこからともなく、怪人態のコレクが現れた。

(来た!)

誰が来るかはわからなかったが、デザイアが出てくるという予想が見事に的中した皇魔。

「な、何だお前!?」

「鍛え上げた肉体…研鑽された技…それもまた」

アミバの質問に答えずセルメダルを取り出したコレクは、アミバの額にメダルの投入口を出し、

「立派な武器だ。」

セルメダルを投げ入れた。誕生したシードはすぐにアミバを取り込み、アミバそっくりのシード、アミバシードへと姿を変える。

「ふはは!力がみなぎるぞぉ!!」

「む?シードを内側から乗っ取ったのか?」

通常人間を取り込んだシードの性格や人格は、取り込んだ人間のものが反映されるのだが、どうやらアミバシードの場合はアミバがシードの人格を乗っ取ったらしい。

「俺は天才だ!!」

(…才能は関係ないだろう。これは貴様の欲望の問題だ)

シードは強い欲望を持った者に寄生し、取り込む。だがさらに強い欲望を持つ者は、内側からシードを支配し、操ることができる。まぁ普通そこまで強い欲望の持ち主はいないし、もはや執念や怨念と言える類いになるのだが。

「さぁ金剛!かかってこい!」

「てめえがどんな力を得ようと、俺はお前を叩き潰す!!じゃないとスジが通らねぇ!!」

金剛を挑発するアミバシードと、それに応えて突進する金剛。

「歪劉怒斗零羅(ワイルドトレーラー)!!」

金剛はアミバシードに、ラリアットを喰らわせる。このラリアット、歪劉怒斗零羅の威力は、打舞流叛魔よりも上だ。

 

 

 

しかしアミバシードはこれを正面から受け止め、しかも耐えた。

 

 

「何!?」

これには金剛も驚きを禁じ得ない。

「とった!」

歪劉怒斗零羅のパワーが収まった隙にアミバシードは金剛の背中へ両手を回し、指を突き刺した。

「ぐうっ!?」

「ハッハッハ!秘孔・戦廱(せんよう)を突いた!もはやお前の身体はピクリとも動かん!これでお前は俺の木人形だ!!」

秘孔を突いたことによって金剛の動きを封じたアミバシードは、これみよがしに金剛をいたぶる。

「どうした?ああ〜ん?動いてみろ!!」

「くっ…!!」

動けない金剛。さらにいたぶりながら、アミバシードは勝ち誇る。

「これがアミバ流北斗神拳だ!!お前など相手にならん!!」

「なら、余の相手をしてもらおう。」

「あん?」

アミバシードが見た方向には、エンズの姿が。

「貴様が人間のままなら手出しをするつもりはなかった。だが、シードになった以上は余の相手をしてもらう。」

「…いいだろう。俺は元々、お前が気に入らなかったんだ!いつも気取りやがって!お前も俺の木人形にしてやる!」

「行くぞ!!」

戦いを始めようと駆け出すエンズ。

 

だが、その動きは突然止まってしまう。

 

「あ…あ…」

 

何が起こったのか、どういうわけなのか、エンズは呆けたように棒立ちになっている。

「皇魔?皇魔!」

ビーツが呼び掛けるも反応はなし。ただ呻き続けるだけだ。

「何だ?ふざけてんのか!!」

これに怒ったアミバシードはエンズに拳を振るう。

「皇魔!」

そこでビーツとポーカーが飛び出し、アミバシードを弾き飛ばした。

「どうしたんだよ皇魔!!」

「みんな!皇魔くんと金剛くんを守るわよ!!」

ビーツが再び呼び掛け、ゆりが号令を掛けて、メンバー全員での戦いが始まる。ビーツ、ゆり、かなではアミバシードに挑み、ポーカー、ダークプリキュアはコレクと戦い、日向と直井は銃で援護。しかし、コレクとアミバシードの実力は思いの他高く、しかもエンズと金剛を狙ってくるので、かなりキツい。

「どけぃ!!」

「がっ!」

「ぐあっ!」

ビーツとポーカーを弾き飛ばすアミバシード。そして、

「鷹爪三角脚!!」

再び鷹爪三角脚を、今度はエンズに向けて放った。

「皇魔!!」

「皇魔くん!!」

「!!」

ビーツ、ゆりが叫び、かなでが目を見張る。

 

 

 

だが、アミバシードの蹴りがエンズにダメージを負わせることはなかった。

 

 

エンズがアミバシードの足を掴み、壁に叩きつけたからだ。

 

「ぶばっ!あっ…がっ…!!」

のたうち回るアミバシード。

「…」

コレクは攻撃の手を止めて、エンズを見つめる。

(奴の雰囲気が変わった…)

今仕掛ければ自分も返り討ちに合う気がする。いや、そのまま倒されそうな気がする。なぜかそう考えたコレクは、引き上げていった。

「馬鹿な!!な、何故ぇぇ!?」

金剛に続いてエンズにまで技を破られたことが信じられず、アミバシードは狼狽する。

 

 

そんな彼の全身に何の容赦もなく拳を打ち込んだエンズは、最後にアミバシードの顔面に拳を叩き込んで、こう言う。

 

 

「北斗神拳奥義・懺悔積歩拳!!」

 

 

そしてその直後、

「あぐあ!あ、足が勝手に…!!」

アミバシードが後ろ向きに歩き出す。どうやら自分の意思で歩いているわけではないらしく、かなり慌てていた。

「こ、この先は確か…!!」

歩きながら背後を見るアミバシード。彼が行く先には、この廃墟のテラスがあった。ちなみに今いる階は、四階である。

「止めてくれ!あ、足を止めてくれ!!」

止まれず歩いていくアミバシードはエンズに懇願するが、エンズは黙っており、何もしない。

「くそぉ!何故天才の俺がこんな目に…!!」

そうこうするうちにテラスにたどり着き、あろうことかテラスの縁に立ってしまったアミバシードは、

「うわああ!!」

遂に地面に向かって落ちて行き、

 

 

「うわらば!!」

 

 

激突して真っ二つに裂けた。裂けたと言ってもシードの部分だけで、アミバ自体は死んでいないが、気絶している。

 

 

 

「な、何だよ、今の…」

目の前で起こったことが信じられない日向。殴られただけであんなことになったのだから、無理もないが。変身を解いた皇魔は、未だに動けぬ金剛の身体の一部に指を一本立て、

「ぬん!」

押し込んだ。

「…はっ!」

呪縛から解放されたかのように倒れかける金剛。

「動けるようになったのか!?」

「…ああ。」

金剛は直井の問いに答えた。ダークプリキュアは変身を解き、皇魔に尋ねる。

「どういうつもりだ?今度はお前がアミバの真似事か?」

「それに北斗神拳とか…」

かなでも参加する。と、

 

「違う。」

 

金剛が言った。

「違うって…何が?」

今度はレスティーが金剛に質問する。

「俺は北斗神拳について調べただけで、どんな技があるかなど見たこともない。だが、俺にはわかる。今皇魔が使ったのはアミバの真似事ではない!紛れもなく、真の北斗神拳だ…!!」

これには全員が驚いた。ポーカーが変身を解除し、代表して皇魔に問う。

「何でお前が北斗神拳を使えるんだ?」

「…わからぬ。頭の中に突然大量の情報が入り込んで来たと思った時にはすで…に…!」

そこまで答えて、皇魔はいきなり目を押さえた。

「皇魔!?」

ビーツが変身を解除して駆け寄ると、皇魔はゆっくり手を離す。

 

 

彼の目からは、涙がとめどなく溢れていた。

 

 

「何だ…これは…」

拭っても拭っても、涙は止まらない。

「何だこれは…涙が止まらぬ…!!」

涙を拭い続ける皇魔の背中に、レスティーが優しく触れて、心を読み取る。

「これは…心に哀しみを背負わされてる…!!」

皇魔の心の中には、深く重い哀しみが背負わされていた。

「哀しみって…」

かなでが呟き、それっきり一同は黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、駆けつけた警察によって、アミバ達は逮捕。行方不明事件は幕を閉じた。

 

皇魔曰く、彼は何の脈絡もなく突然北斗神拳が使えるようになったらしい。思わぬ戦力アップも計れ、事件も解決し、結果的にはプラスだったわけだが、皇魔が北斗神拳を使えるようになった理由はわからず、一同はそのまま解散となった。

 

 

彼らがその理由を知ることになるのは、この戦いからしばらく経った後である。

 

 

 

その時こそ皇魔は欲望の王、地上最強の生物と世界の運命を賭けて戦うことになるのだ…。

 

 

 

 

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次回はいよいよお待ちかね、ベリアル銀河帝国編です。お楽しみに

説明
最近皇魔のパワーアップ回ばっかりだなぁ…まぁ主人公だから仕方ないんだけど。ちなみに、ビーツとポーカーはキラーさんとのコラボでまとめてパワーアップさせます。
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