夜天の主とともに 15.主の願いと幼き騎士の誓い |
夜天の主とともに 15.主の願いと騎士の誓い
はやてside
ジリリリリリリッ!!
カチッ。
「ん‥‥‥朝かぁ…」
目覚ましを止め目をこすりながら起きる。ぼんやりとしたまま横で寝ているヴィータを見る。すやすやと気持ちよさそうにウサギのぬいぐるみを抱いたまま寝ている。
(こういうところがかわえかったりするんよなぁヴィータは)
ほっぺをつんつんしたら可愛らしげな声を出すからついついこれやってしまんや。最近ではひそかにやみつきだったりする。
「ヴィータ、朝やで起きや」
「う〜ん‥‥あと一週間‥‥」
「そこはせめて五分やろ‥‥一週間ってもはや二度寝で済ませていいか疑問やって」
朝一番の天然のボケに突っ込みを入れたけどまだムニャムニャ言ってる。多分これは起きそうにないな。
「まぁあとで自分で起きて来るやろ。私もそろそろ起きよかな」
慣れた動作で車椅子に乗るとリビングに向かう。リビングにはすでにシグナムとシャマルが来ていた。新聞読んでいたシグナムとその横に座っていたシャマルが私に気づく。
「おはようございます主はやて」
「おはようございますはやてちゃん」
「二人ともおはよう」
シグナム
みんなのリーダー的存在で頼もしい存在。なかなか主と呼ぶのを癖なのかやめられへんみたいだけど私のことをいつも親身になってくれてる。そして胸がでかい。以前お風呂に入った時に隙を見て揉まさせてもらったんやけどあれはすごい。また揉まさせてくれへんやろか‥‥。
シャマル
お姉さん的存在で率先して家事などを手伝ってくれる優しくシグナム同様に私のことを一番に思ってくれてる。たまに空回りすることもあるがそこも含めていいところだと思う。料理?だけはさせへんけどな。あのまま続けてたらたぶんいつか死人が出るわ。あとシャマルも胸がでかい。ここ重要やで。
ヴィータ
妹的存在で言葉は乱暴なことが多いけど根はすっごく優しくて素直な子で元気な子だ。時々背伸びして大人ぶろうとするところもあったりして可愛かったりする。最近は近所のおじいさん、おばあさんたちとゲートボールしとるらしい。毎回楽しそうに話しとるからええなぁと思う。
「はやてちゃん、ヴィータちゃんはどうしましたか?」
「まだ眠いみたいやわ、もうぐっすり」
「ヴィータのやつまたか」
「ええんやない?あれはあれでかわええんよ。けん君とザフィーラは?」
「それならあそこで‥‥」
指差された方を見ると庭の方ですでに日課となった特訓をやっていた。
「ハァッ!」
「くっ!なにくそ!」
朝っぱらから二人ともよくやるんやね。やってるんは組手?とかいうのらしいけど私にはよぉわからん。にしても魔法ってすごいんやなぁ。あのけん君が元気良く動き回ってるんやもん。
「そこだぁ!!」
「ふっ、甘い!!」
「ふべっ!?」
あっ、けん君がふっとんだ。
「ふむ、もうこれぐらいにしおこう」
「はぁはぁ‥‥ありがと、ザフィーラ」
「お前は筋がいい。私が教えた拳と蹴りでの戦い方、堅い守りをどんどん覚えていっている。だが、まだ動きに無駄や甘いところなどが多々あるようだ」
「はぁはぁ、じゃあまたよろしく」
「心得た」
ザフィーラ
いつも冷静で落ち着いてる我が家のペット的存在。あの毛並フカフカしとって気持ちええんよなぁ。わんこって言うと狼だって反論するんやけど、わんこと狼って何が違うんやろ?
けん君
言わずもがな私の一番の友達で幼馴染。からかったりされたりするけどいつも相手のことを思ってくれてる。料理に関しては認めとるけどちょいちょい対決したりする。
なんやいつのまにかけん君がずいぶんと逞しくなっとる。魔法のことはよぉわからんしプロに聞こう。
「なぁ二人から見てけん君どうなん?見込みあるん?」
「はい、健一の成長速度、吸収力は目を見張るものがあります。まだ私たちほどではありませんがすでにかなり強いと思われます」
「魔力量がAA+あるっていうのも要因の一つだとおもんですけど適正が高かったんだと思います。稀にいますからそういう子」
「へぇ〜けん君すごいんやなぁ。でもなんであんなに頑張るんやろ?」
「主はやてのため、だそうですよ」
「えっ?私?」
なんで私の名前がここで出てくるんや?全然思いつかへん。
「なんでも主はやてにどんなことがあっても守れるようになりたいだとのことですよ」
シグナムにそう言われて私は少し考え込んだ。ん〜そういえば前にそんなことを言われた気がするけど、あれが本当だったと思うと恥ずかしくなってきた。
「はやてちゃん顔赤いですよ?どうかしました?」
「ななな、なんでもあらへんよ。それより朝ごはん食べよか。シャマルはヴィータを、シグナムは庭におる人ら呼んできて」
赤くなって火照った顔をごまかすようにいそいそと台所へ行った。あとでけん君にこの仕返しさせてもらわなあかんな。
「それにしても‥‥」
守護騎士のみんなとけん君が来てからこの家はほんとに騒がしくなった。けど、その騒がしさは嫌な感じなんかやなくむしろ私が待ち望んだ心地よさがある。
その夜
その日は久しぶりに雲一つないきれいな夜空が広がってたからシグナムに抱えてもらって庭まで出てもらうことにした。
「きれい‥‥」
「はい、私もここまできれいな夜空を見たのは初めてのような気がします」
私を抱えるシグナムも夜空一面に広がる星の数々を見て感嘆してる。それも束の間シグナムは急に真面目な顔をして黙った。
「‥‥‥‥‥」
「どしたん?」
「主はやて本当に良いのですか?」
「なにがや?」
「闇の書のことです。あなたが命令さえすればあなたにお仕えする我々ヴォルケンリッターはすぐにでもページを蒐集します。そうなればあなたは大いなる力を得るでしょう。きっとこの足も治るはずですよ」
この足が治る。それは私が叶って欲しいこれまでの願いの一つでもあった。闇の書のことをよく知ってるシグナムがそういうやからきっと治るんやろう。元気動き回ってたけん君を見た時もやっぱりいいなぁって思った。でも‥‥
「あかんって言うたやろ。闇の書のページを集めるにはいろんな多くの人に迷惑かけなあかんのやろ?それにこれは私の勘やけどそれって違法行為なんやない?」
「それは‥‥‥仰る通りです」
「なら尚更アカンよ。私はみんなに犯罪者になって欲しいないしそこまでしてこの足を直そうとは思ってへん。な?」
「…はい」
もう一度夜空を見上げた。そしてシグナムたちが来てからずっと心の内に秘めていた気持ちを伝えた。
「私は‥‥今のままでも十分幸せや」
その言葉にシグナムが軽く目を見張る。あいかわらずわかりやすいなぁ。
「父さん母さんはもうお星さまやけどそんな中でも出会いはあった。遺産の管理もおじさんがやってくれとるしな」
「お父上のご友人…でしたか?」
「うん、会ったことはないんやけど何度かお手紙もらったりもしとるよ。そやからおかげで生活に困るようなことは今までなかった。それに‥‥」
シグナムに向き直って首元へ体を寄せる。シグナムの体は暖かい。体温とは別に私が欲しかった家族の温かみが感じられる。
「今はシグナムがおって、シャマルがおって、ヴィータがおって、ザフィーラがおって、そんでけん君がおるからな。あとこれはお願いや」
「なんでしょうか?」
「現マスター八神はやては闇の書の力なんて何も望んどらん。ただ一緒に普通の人みたいに暮らしたいだけや。できる?」
「‥‥はい、騎士の剣にかけて」
そうやって物思いにふけているとリビングからドタドタと誰かが走ってくる音がした。元気よく走ってきたのはヴィータとその後ろで妙に落ち込んだけん君だった。
「はやて、アイス食べてもいい?」
その言葉にシグナムと顔を見合わせると思わず私は苦笑いしてしまった。シグナムにいたっては呆れ顔や。
「お前夕飯あれだけ食べてまだ食べるのか?」
「いいんだよ、はやてと健一の料理はギガうまだからな」
「そう言ってもらえるとうれしいわ。ありがとぉな、ヴィータ」
そう言って頭を撫でた。こうするとヴィータはすっごい笑顔になるんよな。そんで、その後ろで負のオーラを放ってるけん君がおるんはなんでやろ?
「そっかそっか。そう感謝してるんならなんで俺が大事に取っておいた『翠屋のとろけるプリン』をなぜ食った?やっとのことで予約できて届いたのに‥‥」
「あたしの前にプリンがあった。ただそれだけだ」
なるほど、けん君が落ち込んでる理由はそゆことね。あそこのプリンはおいしいって聞くしな。ん?今聞き捨てならんこと言われた気がする。
「ちょいまち。けん君いつの間にそないなもん予約しとんや?」
「(ギクッ)い、いや〜言ってなかったけ?」
「一言も聞いとらんな。どゆことか説明してもらおか?あとヴィータ、アイス食うんやったら少しだけよ」
スキップしながら台所駆けていくヴィータを横目に落ち込んでいた顔から一変、けん君はなにか墓穴掘った時の表情をして俯く。
「て‥‥」
「て?」
「撤退ッ!!」
「あっ、逃げた。シグナム、ゴー!!」
「了解です」
「は、はやて。ずるいぞそれ!?」
「これも戦略のひとつや!!」
「ならば…ザフィーラ!乗せて!!」
「だが断る」
「そんな〜!」
リビングの中をけん君が逃げ回りそれをシグナムが追う。それをシャマルとヴィータがソファーに座って笑いザフィーラがやれやれといった感じで眺める。
(おじさん私今…幸せやで)
はやてsideend
深夜、誰もが静かに寝静まる中はやてはムクリと起き上った。
「ん、喉乾いた‥‥」
半分寝ぼけたまま車椅子に乗り移りリビングに向かった。リビングに入ると台所へそのまま直行し水を飲んだ。
喉を潤わす冷たい水に一瞬ブルリと体を震わす。そして寝なすために部屋に戻ろうとするとふと何かが((空 | くう))を切る音が聞こえた気がした。
どこから聞こえるのかと部屋を見渡すとそれは庭からだった。そこには健一がジェットナックルを装備してシャドーボクシングをしていた。空を切る音は健一の拳が突き抜ける音のようだった。
「けん君何しとるん?こんな夜中に」
「あっはやて。ゴメンもしかして起こした?」
窓を開けて声をかけたはやてにやっと気づいたかのような反応をする健一。シャドーを止めはやてに向き直る。
「ん〜ん、ちゃうよ。私はただ喉乾いただけや。そんな動いとって喘息大丈夫なん?」
「喘息ならシャマルさんにいつもより長めに治癒魔法かけてもらった。もう少しで切れるころだったからそろそろ切り上げようかと思ってたけど」
「ふ〜ん。ねェひとつ聞いてもええ?」
「なに?」
「シグナムから聞いたんやけど私をどんなことがあっても守れるようになりたいかららしいな。それホンマ?」
そう言った後ではやては自分の顔が赤くなるのを感じた。何を自分は聞いているんだと。その問いに健一は何の迷いもなく答えた。
「うんホントだよ。俺がはやてを守れたらって思ってる。まぁそんな事態になることないと思うし、ただ今までのように一緒にいれたらなって思ってさ。」
どっちみちまだまだ未熟だけどね、と恥ずかしげに頬を掻く健一を見てはやては少し胸が熱くなった。なぜだか無性にドキドキする。
「じゃ、じゃあ未来の騎士さんに誓いでも立ててもらおかな」
「はい?」
「け、けん君が騎士になるんやったら私はそのあ、主になるんやし」
「‥‥わかった。まだ騎士じゃないけど誓わさせてもらうよ」
そう言って健一ははやての前まで行くとその場で跪いた。
「ちょ、けん君そこまでせんでもええよ!?」
「な、何事も形から入る。いつも二人で言ってたろ?……俺だって恥ずかしいんだぞ」
「そやけど、〜〜〜〜〜〜ああもうええやったろやないか」
はやてはいつもの調子でいる健一を前にしていると恥ずかしがっている自分が馬鹿らしくなったのか半ばやけくそになりながらも続行することにした。
「私、時野健一は騎士の拳にかけて八神はやてをどんなことがあろうとお守りすることを誓います」
「私、八神はやては時野健一を騎士として認めその誓いを聞き届けることとする。ってこんな感じでええんやろか?」
「いいんじゃないか?お互いまだ未熟なんだしさ。でも誓ったんだからそうなれるように頑張るよ。」
「頑張ってや、私の((騎士 | ナイト))様♪」
幼き主と幼き騎士のささやかだがとても大切な誓いの言葉が静かな夜の闇に溶けていった。
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