いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した
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 第四十五話 『悲しみの乙女』

 

 

 アサキムとの戦いが起きる少し前に遡る。

 海鳴市にある一つの幼稚園に一人の少年がやってくる。

 黒髪黒目の純日本人。

 どう見ても醤油の国の人柄の少年は幼稚園の職員室に向かい、そこで待機していた職員の一人に声をかける。

 

 「すいません。うちのアリシアを迎えに来まし…」

 

 「お巡りさん!あの少年です!」

 

 と、同時に職員室の陰に隠れていた警官に取り押さえられた。

 

 「確保ぉおおおお!」

 

 「なんでぇえええ!?」

 

 「観念しろ。幼女誘拐監禁調教羨ましいぞこの野郎っ!の罪で君を逮捕する!」

 

 「後半部分にめっちゃ私情入っている!?というか、身に覚えが無さ過ぎる!」

 

 「本当にないと言えるのか?」

 

 「…くぅ」

 

 残念ながら完全に否定できない少年。

 彼と一緒に暮らしている少女は時々違法すれすれの甘えん坊ぶりと言動をするのだ。それこそ、世間一般の人が見れば『犯罪』レベルに近い。

 しかし、すぐに反論することが出来なかった反応はまずかった。

 

 「午後四時十六分、容疑者の少年をたい…」

 

 「待って待って!自己弁護ぐらいさせて!」

 

 それから容疑者Tの自己弁護と被害者(ある意味、加害者?)の幼女Aの取り調べが始まった。

 以下、取り調べの調書である。

 一時、取調室と化した職員室で行われたことである。

 警官と対面するかのように椅子に座らされた少年。そして、その横に少年を兄と呼びはするものの、髪や瞳の色。顔のつくりまで全く似ても似つかない少女が座らされていた。

 

 「…お兄ちゃんとフェイトと一緒にペアルックをしたかったんだよ」

 

 「うん。どんな格好をするのか気になるんだが?」

 

 「そもそも三人なのにペアなのか?」

 

 「クリスマスらしい格好だよ♪コスプレってやつだよ♪」

 

 警官が取り出したのはアリシアが幼稚園で今日というこの日まで自作していた物が詰まった袋だった。

 それは一見するとサンタの担ぐ袋にも似ていて、アリシアもその袋もコスプレの一部だという。

 

 「で、その道具がコレかね?」

 

 高志を取り押さえた警官がその袋から取り出されたのは黒い

 

 

 鞭。

 

 

 「いきなり我が家の最大NGウエポンが出た!?」

(フェイトとプレシアが見たらトラウマを発動させるぞ!)

 

 「…クリスマスのらしさが微塵にも感じられないな」

 

 「何言っているの。サンタとトナカイには必須でしょ?」

 

 「赤い服のご老人は自分の相棒に鞭を打つような所業はしない!」

 

 「お前の血が役に立つのさ〜♪」

 

 「鼻!」

 

 少女の恐ろしい替え歌に黒髪の兄(他称)は訂正を加える。

 そもそも血では帰り道の道標にしかならない。しかも、雪が降ればその雪に血が埋もれていくのでほぼ無意味に終わる。

 そもそも血が出るほど叩き付けるのか、この鞭を?

 

 「…次だ。これは?」

 

 「うん。赤い何かで染めたミニスカサンタスーツだよ♪」

 

 「何かって、何だ?」

 

 ふいっ。と、高志から目を逸らすアリシア。

 

 「………」

 

 「…無言!?正直に答えてアリシア!このままじゃ俺達冷たい壁の中に放りこまれることになる!」

 

 「…鑑識に回すべきか?」

 

 そう考えながらも警官は淡々と業務をこなしていく。

 

 「次にこれ。なんだが…」

 

 警官は最後の物を取り出す。

 それは、何かに打たれてボロボロになったトナカイのスーツ。

 

 「まさかの使用後?!」(もしや、あの紅いサンタスーツの染料は…)

 

 「被害者は何処だ?」

 

 「同じクラスの春君。この前、私に告白して断られたのを逆恨みしてきたからトナカイスーツを叩き付けて鞭で打ったの」

 

 「正当防衛だな」

 

 「このトナカイスーツのダメージを見る限り、かなりの数を打ちこんでいますが!?」

 

 少なくても五、六発では済まないだろう。

 しかし、警官はそれを無視して調書を記していく。

 

 「お兄ちゃんは細かい事は考えないで。いつも通り私をこの鞭で調教すればいいんだよ」

 

 「毎日やっているみたいに言わないでくれる!ほら、お巡りさんがこっちを見ている!」

 

 「逮捕だ」

 

 ギラリと銀色に光る手錠を持った警官は椅子から腰をあげようとする。

 それを見た高志は慌ててアリシアに前言撤回を求める。

 

 「でも、今夜はクリスマスイヴ。だから、いつもとは逆に今夜は私とフェイトでお兄ちゃんをこの鞭で叩いてあげるね♪」

 

 「断固拒否!」

 

 「死刑だ!」

 

 ギラリと光る手錠から、同じくギラリと黒く光る何かに持ち替える警官。

 その目は血涙で赤く染まっていた。

 

 「あんたMだったんか!?」

 

 高志は警官が上げた罪状の頻度が酷くなったことを受けて、それを提訴した。

 

 「それ以前にロリだ!」

 

 が、幼女に鞭で打たれるという事に嫉妬したお巡りさんはもっと酷かった。

 

 「誰か、誰か助けてくださぁああああい!もう俺一人でこの混沌と化した場をツッコミきれなぁあああああいっ!」

 

 職員室の中心で高志は叫んだ。

 

 

 

 「…全くひどい目にあった」

 

 あの後、((保護者|プレシア))にも来てもらい、何とか事なきを得た。

 プレシアは事が済んだら俺にアリシアを預けて、アースラに向かって行った。

 

 「ごめんね。お兄ちゃん。でも、反省も後悔もしていない」

 

 「形だけの謝罪はいらない!」

 

 全く誰に似たんだろうか。

 …俺か?

 似たようなセリフを以前どこかで言ったような気がする。

 

 「にゃああああ、反省しますうううう」

 

 だが、それはそれ。高志はアリシアを右腕で抱っこしながら、左手で頭頂部をグリグリと押し付ける。

 かくいうアリシアも実は結構我慢している。

 高志達が管理局と接点を持ったことにより、高志はアリシアを抜きにした実践訓練が大幅に増えた。

 まあ、その成果もあってか。スフィア無しでもアサキムにダメージを与えられる技が出来た。

 

 

 ノットバニッシャー。

 

 ガンレオンの持つライアット・ジャレンチに搭載された((鋼の杭|バンカー))を相手に打ち込む技だ。技の元になったのはゲームの中に出てきたガンレオンとは違うのロボットの技だ。ガンレオンの使う技と類似点が多かったのでプレシアと相談してそれが使えないかと相談してみた所、どうにか形になった技だ。

 その威力はマグナモードを使わない状態のガンレオンの最大の攻撃力を持っている。

 ただ、この技。かなり条件が付く。

 まず、高志の全魔力(スフィア抜き)だと二回から三回しか使えない。

 射程が短い。相手を固定しないといけない。足元をしっかりと踏みしめなければならない。と、かなり条件が狭まる。

 最初の二つはライアット・ジャレンチで相手を捕獲できれば解決されるが、最後の足元固定が厄介なのだ。

 空中でこの技を放とうとしても、そのバンカーが出た勢いで相手を貫く前に踏ん張りがきかないから自分から離れていってしまうのだ。

 ローラースケートをつけて壁を押す感じといった方が分かりやすいだろうか?

 空戦のスキルを持っていない俺と適性の無いガンレオンだとマグナモードでも使わない限り効果は発揮されないだろう。

 

 

 そのこともあってか高志がアリシアに構っていられる時間も削られた。

 だから、クリスマスイヴという無礼講な日にアリシアは思いっきりタカシに甘えようと思って行動を起こした。

 普段ならおんぶでアリシアを抱えるのだが、今回は正面から抱えるだっこ。アリシアの最大の『構って』のサインである。

 最近アリシアにも構っていなかったので高志もそれを了承した。

 先になのは達にはやてへのクリスマスプレゼント(以前の飴の村正ブレード)を渡しておいて正解だった。と、一人思う高志だった。

 

 「にしてもだ。あれはやりすぎだ」

 

 「…ぶー」

 

 「…まあ、今日ぐらいはたくさん甘えてもいいぞ。ただし世間体に傷がつかない程度にな」

 

 『傷だらけの獅子』のスフィアもまさかこんなことまで傷つきたくはないだろう。

 『(社会的に)傷だらけの獅子』。

 …うん。これは歴代の獅子達が聞いたら泣くな。

 

 「無理!」

 

 

 その言葉に全獅子が泣いた。

 

 

 「清々しいまでに言い切ったお前には、俺がはやての所でプチパーティーをしている間アースラでお留守番をしてもらう」

 

 「嘘嘘!嘘です!我慢します!世間体に傷がつかない程度に甘えます!」

 

 甘えているという感覚は持っていたらしい。

 と、高志がそんなことを考えていると結界が張られた。と、同時にクロノが空からこちらに向かって飛んで来るのが見えた。

 

 「クロノ?どうしたんだ、そんなに慌てて?」

 

 「高志!闇の書の騎士達とアサキムがなのは達と交戦中なんだ!君も来てくれ!」

 

 そこからはアリシアとユニゾン。ガンレオンは展開しないままクロノに現場となった海鳴の病院まで運んでもらうことになった。

 途中でユーノと合流。そして、アサキム達との戦闘を陰で見ながら、アサキムの隙を覗っていた。

 …マグナモードは使いたくない。

 俺はその一心でアサキムの隙を覗っていた。

 そうこう考えている間に闇の書の騎士達はアサキムにやられていく。

 非情なまでのスフィアへの執着。ゲーム越しに見てきたとはいえアサキムの本物の執念を垣間見た。

 

 『悲しみの乙女』と『闇の書』の因果関係。

 その呪いと騎士達とはやての関係を聞かされた。

 

 くそっ!すぐそばに俺はいたじゃないか!…それなのに!

 家族と離ればなれになるのは嫌だ!それなのに俺は…。アリシアとプレシア。そして、フェイトのことが脳裏を横切った所為であいつの家族を助けるという事よりもそっちを優先させた。

 俺は、はやての家族を見殺しにした!

 

 「…ちくしょう。ちくしょうっ」

 

 ごめん。はやて。

 家族を失う『痛み』を俺は知っていたのにお前を助けられなくて。

 

 「こんちくしょぉおおおおおっ!!」

 

 だからせめて、お前の仇だけは取らせてほしい!

 力任せにアサキムを氷の柱に叩き付けて固定する。そして、ライアット・ジャレンチで再びアサキムを抑え込む。

 

 「ノットバニッシャアアアアア!!」

 

 ズドォンッ!

 

 「…ぐあぁっ」

 

 二回目のノットバニッシャーを受けてアサキムの操るシュロウガの鎧にひびが入る。

 この調子でなら勝てる。そう確信した時だった。

 

 キィイイイインッ。

 

 突如、耳鳴りのようなつんざく音がこの辺り一帯に広がる。

 

 (わふぅっ。なに!?心がざわざわする?)

 

 「これは…」

 

 クロウとアリシアが突如鳴り響いた音に真っ先に反応を示す。

 そして、追い詰められていたはずのアサキムの表情が歓喜の物へと変わる。俺はそれを見てぞっとした。

 同時にこの空間にいる全員である場所を注視していた。

 

 「…うああああああああああ!」

 

 そこにはアースラに収容されたはずのはやて。

 そして、その体を闇の書に取り込まれ消えていくザフィーラ。

 二人の間に不気味に浮かぶ闇の書があった。

 

 「…『悲しみの乙女』が目覚める」

 

 そう、アサキムが呟いた瞬間にはやての体に幾数物の入れ墨のようなものが奔る。

 はやての体は痙攣をおこしながら成人の女性的な躰月に変化し、髪の長さや瞳の色彩などまるで別人に変化していく。

 闇の書は俺とクロウが見覚えのある物へと変化すると、銀の髪を有した女性へと変化したはやての腕に納まる。

 

 「…また。繰り返すのか。だが、その前に我が主の願いを叶える」

 

 「「あれは…。ガナリーカーバー?!」」

 

 バルゴラというロボットが持つ近・中・遠距離で対応できる棺桶にも似た武器へと変化した闇の書。

 その中央に淡く光る緑色の光が一層と輝くと同時に、先端には赤紫色に染まった光が収束していく。

 

 「やばいっ!クロノ逃げろぉおおおお!」

 

 間違えようがない。今、あの女性が撃とうとしているのはこの世界で言う収束砲。

 その狙いは俺とアサキムに定められている。が、その射線上にはクロノがいる。

 

 「レイストレイターレイト…」

 

 ズオオオオオオオ。と、不気味なチャージ音を鳴らしながらガナリーカーバーの先端に浮かぶ光はその輝きを増していく。

 そして、

 

「フル、バースト!」

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 その光は彼女の叫びに答えるかのごとく膨張しながら俺とアサキム。そして、クロノの影を呑みこむように海鳴の夜空に一閃を描いていった。

 

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第四十五話 『悲しみの乙女』
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魔法少女リリカルなのは 悲しみの乙女 傷だらけの獅子 コメディー アサキム・ドーウィン 

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