澪ちゃんの髪 |
「律ー。そろそろ勉強するぞー」
「んー、この特集読んでから」
今日は、テスト前日。
私は例のごとく澪の部屋に居た。
テスト前日に澪に泣き付いて、勉強教えてもらうのは中学時代からの恒例行事。
「…」
スタスタスタ‥
‥バッ
「あー!!読んでる途中だったのにー!!」
「ダーメッ!何しに来たんだっ!!」
ゴチンッ☆
「ぁいたーっ!!!」
私がテスト勉強そっちのけで読みふける雑誌を澪が取り上げ、拳骨を落とす‥‥
‥コレも、恒例行事。
私は観念して渋々雑誌を片して、勉強の準備に入った。
カリカリカリ…
シャーペンが走る音が澪の部屋を支配する。
カリカリカリ…
さっきまでは澪セレクトのBGMが流れていたが、私がBGMについて話し始めちゃって勉強にならない、と言う理由で無音になった。
カリカリカリ…ペラッ…
シャーペンが走る音。たまにノートや教科書をめくる音。
カリカリカリ…
「ながら勉強」があまり良く言われない理由がよくわかる。なるほど、無音だとすこぶる勉強に集中出来た。
カリカリカリ…
「…っし、と」
シャーペンを置く私。
「ん?」
「いっこ終わりー!」
私は澪から「まずコレ解いてみて」と、手渡された澪お手製の簡易問題集を終わらせた。
集中してただけあり。我ながら早目に解き終えた…気がする。
「ホントか〜?」
澪は半信半疑、と顔に書いて問題集を手に取り、添削する。
「…」
「…」
無言で添削する澪…と、あぐらを掻き凝視する私。
「……出来てる」
「っしゃ!」
思わずガッツポーズ!!
「じゃ、次の問題集ね」
「へ?」
「誰がコレで終わり、なんて言った?」
「あ、あぁ」
「こんなので良い点取れたら苦労しないぞ?」
「は、はい‥」
「…とりあえず、一休みするか。問題解くの意外と早かったしな、律」
「やれば出来る子ですからっ!!」
思いっきし、ピース!!
「はじめからやってくれよ…じゃ、ジュース持って来るから」
「はーい‥」
私はふぅー‥と、一息付いた。
休憩中。
テスト勉強の反動で、雑談に花が咲く。
「澪ー」
「何?」
「澪って髪、綺麗だよね」
私は素直な感想を投げ掛けた。
「な、なんだよいきなり…」
予想通り狼狽える澪。まぁ、いきなり誉めたんだから。当たり前だよな。
「唯達もよく言ってるからさー。あらためて見て、なるほど綺麗だなーって、思ってさ」
「ぁ、ありがとう…」
少し頬を赤らめる澪。かわいい。
「‥でさ、澪。髪型、変えないのか?」
「…へ?なんで?」
「ほら、この前唯達と話したじゃんかー。みんなでイメチェンしてみようって」
「あぁー、したねぇ」
「そんで、何かイイ髪型とか、思い付いた?」
「私は……このままでいいかな…」
「ふーん。なんで?」
「べ、べつに‥ずっと、この髪型だし」
私のなんで?に対して澪がやけに反応した。
「あぁー。イメチェンだとかなんだかんだの時、唯達が「澪ちゃんはこのままが一番だね!!」って、言ってたもんなぁ」
「うん。ソレもあるけど…」
澪の発言が尻すぼみになった。
「けど?」
「…」
「なんだよ」
「…」
「唯達以外から、誉められたとか?」
「…ま‥まぁ、そんな所…」
「へー。誰から?」
「…べ、別にいいだろ?」
「なんだよ。教えてくれてもイイじゃんかよー」
明らかに澪の様子がおかしい。
「そんな隠すよーな話じゃないじゃんか」
「じゃあ……誰だか、当ててみなよ」
「んー‥‥和?」
「いや、違う」
「じゃあー‥憂ちゃん?」
「ううん、違う」
「なら、純ちゃん?」
「違う……ってか、そんなに話した事ない」
「そっかー。あ、さわちゃんか!」
「嫌だ…じゃない、違う」
「えー、じゃあ堀込先生!!」
「違うよ」
「えー!?分かんないよ!!クラスの誰か?」
「違うなぁ」
「あーもう!!聡!!」
「違うよ」
「えーとーじゃあ、ナンパされて言われたーとか?」
「違うって!!律だよ!!」
………へ?
「…わ、私?」
「ッ………」
澪は「言っちゃった」みたいな顔をして。無言で頷いた。
みるみる間に、顔が赤くなってった。
「……私が?いつ?」
茶化して言った事はあるかもしれないが、はっきりと憶えてはいない。
「…さっきも誉めてくれたけど………小学校の時だよ」
「しょ、小学校!?」
「……うん」
そりゃあ、憶えてないわ………。
「……ってか、なんでそんな昔?」
「…………」
澪は顔を赤くしたまま、テーブルを見つめ
「…………嬉しかったんだよ‥‥」
小さな、小さな声で。白状した。
『きれいなかみだねー!!』
「‥‥って、私が澪に、言ったの?」
「…うん」
確かに言った気がしなくも……ない。
「嬉しかったのか……っつーか、あん時って澪の事。からかってばっかじゃなかったか?」
「確かにその時は、ね…」
小学校時代。私は澪にちょっかい出してはからかったり、ちょっかい出してはからかったりして。
その度に泣かして。その度に困惑しながらも、宥めていた。懐かしい……。
「‥その時は、って?」
何か、質問してばっかだな、私。
「…………」
澪は、黙り込んだ。言いたくないらしい。
「言わなきゃ勉強しないぞー」
「……わかった」
私も、黙り込んだり、弱っている時の澪の扱いは慣れたもんだ。
「………髪切ろう、とか髪型変えよう、とか考えるとさ。律のその言葉思い出してさ…」
澪はテーブルを見つめたまま、耳まで赤くなっていた。
「なんか……嬉しくなって。やっぱ、このままで良いや…って」
言い終えた澪は、完全に「恋する乙女」の表情だった。
「……」
心の底から恥ずかしそうにしている澪だが………私も、恥ずかしい。
何より、小学校の時の私の言葉がそんなに心に残ってるとか‥‥‥嬉しいし、照れ臭い。
…………。
無言の二人。
そりゃそうだ。澪は恥ずかしいし、私は照れ臭いし嬉しいし……何も言えない、とはこの事か?
…が、私は何とかしなきゃ、と思うタチである。
「みーおちゅわんっ♪」
だきっ
「わぁっ!!」
私は、澪の背中に抱き着いた。抱き着いた勢いで、綺麗な髪が頬に当たる。鼻先で踊る。いい匂い。
「わたしゃ嬉しいよ…あの時の私の言葉を今まで憶えててくれたなんてさぁ…」
「………うん‥‥」
……あれ?
「……私も、嬉しいよ?律…」
……澪の乙女モードが、戻らない。
………仕方が無い……。
するっ
私は、澪の胸に手を回した。
「あーんなにちっちゃかった澪ちゃんもーこーんなにおっきくなってぇー」
もみっ
揉んでみた。
ゴチーンッ☆
「ーっていたぁ―――い!!!」
「‥律!テスト勉強の続きやるぞ!!早くジュース飲め!!」
顔は赤いままだが‥‥いつもの澪に戻った。
「はぃ…」
私はテーブルの前に正座し。ジュースをストローでじゅるじゅる‥と、飲み干した。
翌日‥‥と、いうか。テスト当日。
昨日はなんだかんだで、みっちりテスト勉強。澪のサプライズ発言からの嬉しさもあり、私の勉強ははかどった。
色々ありつつ……‥澪も、私の勤勉さに感心しきりだった。
朝、いつもの待ち合わせ場所に行くと澪が待っていた。
「みーおちゅわんっ♪おはよっ!」
「あ、おは」
だきっ
「わぁっ!」
ゴチンッ☆
朝からコレですか…。
「何も、殴らなくても…」
「いきなり抱き着かれたら殴るに決まってるだろ!」
「…昨日は抱き着いても殴らなかったクセに……」
「‥‥ぅ、うるさい!!さ、行くぞ!」
「ふぁい…」
私は、澪と並んで歩きながら
「澪ちゃん、綺麗な髪だねっ☆」
からかってみた。
「……ぅ、うるさいっ‥!」
澪は、拳骨どころか。顔を真っ赤にして。足を速めた。
やっぱり。昨日判明したこの言葉には‥‥弱いらしい。
「ま、待てってば!!」
「……」
私は、無言で先を歩く黒髪の美少女の背中に……心の中で。言ってやった。
……‥きれいなかみだね!
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説明 | ||
律ちゃん視点ですー。 何故秋山澪は黒髪ロングなのか? 考えてみた。 っていう、作品。あんなに頑なに黒髪ロングなのには理由がある筈!!ってコトで。 pixiv版はコチラ→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=296592 |
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