IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第九話
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「ではこれよりISの基本的な飛行実験をしてもらう。織斑、天加瀬、オルコット。試しに飛んで見せろ」

 

お花見で見た桜の木もすっかり緑に変わり、四月も終わりに近づいたころ。俺は鬼教官・織斑先生の指導のもと、今日もISの操縦を学んでいた。

 

「早くしろ。熟練したIS操者は展開まで一秒とかからないぞ」

 

これ以上待たせると何が起こるか分からないのでさっさと自分のISを展開する。

あの後、一夏も専用機『白式』をフィッテングさせ、一次移行まで済ませていた。ISはフィッティングすると展開していない通常時は、アクセサリーのような形状の『待機状態』という形態になるのだが、一夏の場合ガントレット、いわゆる防具のような形状だった。

一夏の体が粒子に包まれ、白式が展開する。横を見ると、セシリアも展開が終わっており、俺との試合で破損したビットも、すでに修復されていた。

 

「よし、飛べ」

 

指示通りすぐさま飛び上がる。セシリアは代表候補生だけあってさすがに早い。それに俺、一夏と続いた。ちなみに今回俺はフレームをつけてはいない。

 

「何をやっている。スペック上の出力では白式の方が上だぞ」

 

織斑先生からお叱りを受ける一夏。この前急上昇、急降下を習ったのだが、一夏はなんとなく感覚をつかめていないようだった。

 

「一夏さん、所詮イメージはイメージ。自分がやりやすい方法を模索するほうが建設的でしてよ」

 

セシリアが一夏に助言をする。経験の多いセシリアの言葉には、毎度のことだが少し感心してしまう。

 

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ」

 

「俺が開発者の観点から説明してやってもいいぞ?」

 

「・・・長くなりそうなので遠慮しとく」

 

まぁぶっちゃけ説明しだしたらちょっとした講義になってしまうので冗談ではあったのだが、こういうのは正直操縦する分には知らなくていいことではある。

 

「ま、『なんで浮いてるんだ?』って思うより『ISだから浮いている』でいいじゃないか」

 

一夏はなんだか腑に落ちそうにない顔をしていたが、この答えが一番の正解だと思う。あれこれ悩むよりこういうものだと受け止めておいたほうがいい。

 

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りてこい!」

 

いきなりどこかで聞いたことがある大声が通信回線から入ってくる。地上を見ると、箒が山田先生のインカムを奪ってどなっていた。これは想像だが、今の状況が仲間はずれな気がしてイラついているのだろう。

 

「織斑、天加瀬、オルコットの順に急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上10センチだ」

 

「了解。じゃあ先行くぜ」

 

そう言って地面に向かっていく一夏。結構スピードをだしてるな。

 

「奏羅さん、よろしければ今度、放課後に指導をして差し上げましょうか?」

 

突然のセシリアのお誘い。初めて会った時とは別人のように接してくれるのは、余計ないざこざがないのでありがたいが、少し戸惑ってしまうときもある。

 

「確かに、理論ではわかってても実践はまた違うからなぁ。お言葉に甘えようかな」

 

その言葉に顔を輝かせるセシリア。俺に指導できることがそんなに喜ばしいことなのだろうか? やっぱり放課後友達と何かしたことないんじゃないかこの子。

 

「で、では、第三アリーナを貸し切って、ふたりき――」

 

彼女がこれからの予定を話そうとした時、突如大きな音が響いた。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろといった。グラウンドに穴をあけてどうする」

 

織斑先生の怒声の通り、グラウンドには一夏を中心にぽっかりと大穴があいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片づけておけよ」

 

その言葉に一夏はきょろきょろと周りに助けを求めていた。箒は目があった瞬間にわれ関せずと顔をそらし、セシリアに至ってはすでにいなかった。その後、俺に浴びせられる手伝ってくれよと言わんばかりの視線。

 

「わかった。そのかわり、今度何か奢れ」

 

「さすが奏羅!」

 

しかし、一夏の歓喜もつかの間、

 

「あ、天加瀬くんは私についてきてくれませんか? 身内の方からお荷物が届いているんです」

 

と山田先生の言葉によって一夏は一気に地獄へと突き落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが奏羅くんへの荷物です」

 

山田先生が一つの包みを俺に差し出してきた。それを受け取るとものすごく興味津々な顔でこちらを見ている。

 

「一応、安全のため中身を確認させていただいたんですが、それ、私にいただけませんか!」

 

ものすごく興奮した顔で近づいてくる山田先生。って、顔がものすごく近いんだけど。

 

「な、なんで俺の荷物を欲しがるんですか! あと、顔が近いです!」

 

俺に突っ込まれ、顔を真っ赤にしながらあわてて離れる先生。山田先生がここまで興奮するとは、この中にいったい何が入っているのだろうか。

 

「す、すいません。あ、後で貸してくれるだけでもいいんです」

 

「あ〜もう、わかりましたから! とりあえず、部屋に戻りますよ!」

 

そう言って山田先生から急いで離れた。このまま捕まっていると、周りから変な誤解を受けかねない。

そのまますぐに寮の自分の部屋に戻ると、俺は包みの中身を机の上に広げてみた。

 

「げっ・・・ これって・・・」

 

入っていたのは一つの手紙と、梱包材に包まれたCDだった。なんとなく想像がついたが、とりあえず手紙を広げてみる。

 

『奏君、元気してる? あなたの家のお隣さんの旭ちゃんですよ〜。』

 

案の定、旭からの手紙。この時点で多少イライラしてきたが、とりあえず続きを読む。

 

『奏君がIS学園で夢を追いかけている間、私も自分の夢に向かって、一生懸命進んでいました。そして、四月の初めに念願かなって歌手になることができました』

 

そう、最近になって知ったのだが、俺の幼なじみでもある旭は歌手として、アイドルとしてデビューしたのであった。初めて見たとき驚いたが、この学園でもファンが多いことにも驚いたのを覚えている。

 

『今回、私のファーストアルバムが発売することになったので、レコード会社にお願いして、本来五月の中ごろに発売するCDを特別に一枚作ってもらったの』

 

なるほど、これがそのCDか。って、山田先生が貸してほしいって言ったってことは、あの人旭のファンなのかよ・・・。俺は梱包材をあけ、CDのケースを開く。

 

「ん? なんだこれ?」

 

中から一枚の写真が出てきた。いやな予感を感じながらそれを表にすると、

 

『アルバムにつかうジャケットの写真を実際に焼いたので、奏君にあげます。今のとこ世界に二枚しかないから大事にしてね。写真にキスしてもいいよ〜』

 

しない。これは断言できる。しかし、これを送ってくるとか明らかに俺が反応に困るのを想像してたに違いない。

 

「とりあえず、データをMP3に移して、データで山田先生に貸してあげるか」

 

さすがに幼なじみが送ってきてくれた品物は大切に扱いたいと思うので、こういう方法をとることにした。今のとこ俺の持ってるこれ一つなので、なんかもったいない気もする。

 

「なんか、先越された気分だなぁ・・・」

 

幼なじみの活躍に、なんとなく遠くなった間隔を覚えながら、俺は写真を眺めていた。

 

「奏羅さん、いらっしゃいますか?」

 

げっ、セシリア。この写真を見られたら変な誤解をされそうだ。俺は急ぎつつ、丁寧に写真やCDをかたずけると、セシリアが待つ扉の前へと何事もなかったかのように向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。ここがそうなんだ・・・」

 

夜、IS学園の正面ゲートに小柄な体に不釣り合いのボストンバックを持った少女が立っていた。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットをあさってくしゃくしゃになった紙を取り出した。

 

「本校舎、一階総合事務受付・・・って、だからそれどこにあんのよ」

 

少女は多少いらいらしながらまた上着のポケットに紙を突っ込んだ。そして、「自分で探せばいいんでしょ、自分で探せば」と呟きながら、足を動かしていた。しかし、最初はイライラしていた思考も、しばらくして、ある男子のことに変わっていった。

 

(元気かな、あいつ)

 

中国人の彼女が日本に戻ってくる最大の思い出になっているのがその男子だった。

 

「だから・・・でだな・・・」

 

ふと声が聞こえる。その声の方向をみると、一人の女子がIS訓練施設から出てくるところだった。

 

(ちょうどいいや。場所きこっと)

 

声をかけようと、アリーナのほうへ小走りに向かうと、

 

「だから、そのイメージがわからないんだよ」

 

その声に少女の足が止まる。男の、それもよく知っている声にすごく似ている。たぶん、同一人物。

 

「いち―」

 

再会に胸を躍らせながらその男子に声をかけようとした少女は、一人の女子の声を聞いて言葉が止まってしまった。

 

「一夏、いつになったらイメージが掴めるのだ。先週からずっと同じ所で詰まっているぞ」

 

「あのなぁ、お前の説明が独特すぎるんだよ。なんだよ、『くいって感じ』って」

 

「・・・くいって感じだ」

 

「だからそれがわからないって・・・おい、待てよ箒!」

 

(誰? あの女の子。なんで親しそうなの? っていうかなんで名前で呼んでんの?)

 

沸きあがる疑問に、先ほどの高鳴りは消え、代わりにひどく冷たい感情と苛立ちが、胸の内を満たしていた。

それからすぐ、少女は総合事務受付を発見する。アリーナのすぐ後ろに本校舎があるからだ。

 

「ええと、手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、凰鈴音(ファン・リンイン)さん」

 

愛想のいい事務員の言葉も、今の彼女には届いてはいない。

 

「織斑一夏って、何組ですか?」

 

「ああ、噂の子? 一組よ。凰さんは二組だから、お隣ね。そうそう、あの子一組のクラス代表になったんですって。やっぱり、織斑先生の弟さんなだけあるわね」

 

鈴音は事務員の姿を冷ややかに見ながら、質問を続ける。

 

「二組のクラス代表って、もう決まってますか?」

 

「決まってるわよ」

 

「名前は?」

 

「え? ええと・・・聞いてどうするの?」

 

鈴音の様子を少しおかしく思ったのか、事務員は戸惑いながらきき返した。

 

「お願いしようかなと思って。代表、あたしに譲ってって――」

 

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