緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 6話
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四月××日 バスジャック後の週明け

 

この前から、飛牙は報告書と睨めっこをしていた。

 

……『武偵殺し』。そこに辿り着くまでの道筋がここにあるはず。飛牙は持ち前の勘が上手く働かないのを感じながら、ただ画面上のデータを睨んでいた。

 

過去起きた武偵殺し事件と見られるモノは計五件。死者は遠山(とうやま) 金一(きんいち)という武偵ただ一人。

パターンは分かっている。一回目は比較的小規模、二回目は中規模、三回目はシージャックという大規模なものだ。遠山武偵もこれで死亡している。

四回目は『キンジ』のチャリジャック、五回目は『キンジ』達が解決したバスジャック……。

 

「…こんなに簡単な事件なのか?」

 

何時も飛牙はここで何か引っ掛かる。この事件はキンジ、もっと言えば遠山家の者を狙った事件かと最初は考えた。だが、犯人は理子達探偵科(インケスタ)の高ランカーや、単独調査している怜那にも分からないほど証拠を残していかない。そんな犯人が、果たしてこんな見え透いた犯行予告などしていくものだろうか?

 

(ま、考えてても仕方ねぇか。一応怜那には追跡を命じたんだから、後は結果次第だな)

 

ふう、と飛牙は報告書から目を外した。

 

初日のチャリジャック、あれは介入出来なかった事を暫くは悔いていた。

続くバスジャックは、彼の暇を埋める為には充分過ぎるイベントだった。結局アリアは今日国に帰るらしい。キンジとの下らない契約も切れたようだ。ここ最近のキンジに覇気がなかったのは、それが原因かもしれない。

 

ここ最近起こっている『面白い事』…『武偵殺し』は全てキンジを中心として起こっていると言っても過言ではないかもしれない。だが、どこか引っ掛かる部分がある。

 

…中心点と犯人の目標は果たして一致するのか?

 

何度考えても行き着くのはこの疑問だ。いっそ考えるのを止めようか、飛牙が考えたその時だった。

 

『…飛牙!緊急事態です!遠山氏が神崎氏を助けに羽田空港に……!』

 

 

 

 

 

 

 

飛牙は気付かされた。全てはこの時の為の伏線。三回目で遠山金一…キンジの兄を殺したのも、ここ最近の事件でキンジ『とアリア』を中心に狙ったのも、全ては俺を、怜那を、如いては調査していた者に狙いはキンジと気付くように誘導させるためのブラフ。最終的に犯人はキンジを殺す気かもしれない。だが…

 

今回の目的は『アリア』だった。

 

 

 

 

 

 

「…お前は学校にて待機。通信科にて俺をサポートしろ」

 

『……了解。無理をなさらずに。』

 

「…ハッ。俺を誰だと思ってやがる」

 

『…了解。御武運を。』

 

はあ、と一息つき、ヘルメットを掴むとそのまま車庫へと急ぎ足で歩を進める。

この緊迫した状況の中でも、彼はその顔に歪んだ笑みを消そうとはしなかった。いや、より一層笑みを深くしているようにも見えた。何時もの装備、登校時と何ら変わらない姿で、まるで遊びにでも行くように彼を乗せたバイクは爆音と共に発進した。

今晩は生憎の雨。空には厚い雲がかかっており、星も月も見えない暗闇の世界だった。

 

「ックックック…。良いねぇ…。最っ高の舞台じゃねぇか…」

 

既に脳内でアドレナリンが分泌されつつあり、気分がやや昂揚しているのを心地良く感じながら、彼はバイクを走らせた。

 

 

 

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アリアの乗る飛行機に搭乗するには、羽田空港に着いた時間はギリギリだった。飛牙は窓口で武偵証を見せると、そのままアリアの乗る飛行機へ駆けた。

バイクで爆走していた時から耳には怜那からの通信が流れていたのでここまでスムーズに行動に移せた訳だが、旅客機の中に入ると通信を切らざるを得ない。つまり中からは完全に個人での行動になる。

 

「武偵だ!緊急事態が発生したんで、ちいとばかし乗らせてもらうぜ!」

 

「ぇ…こ、困りますぅ〜」

 

飛牙は飛行機に駆け込み、入り口付近でオロオロしていたCAに話しかけた。だが、返ってきた言葉は非常にマヌケな、少しキャラを作ったような声だった。

 

「……へぇ。ま、俺がこの機に乗るのは残念ながら決定事項だ。分かったらさっさと飛ばしやがれ」

 

語尾を強めてそう言うと、さっと踵を返して旅客機の奥へと向かった。飛牙の後ろからやや尖ったぼやきが聞こえてきた。

 

−−−−もう!武偵が割り込んで来るなんてマニュアルに書いてなかったですぅ…。

 

(…へぇ。遠山はまだ来てねえのか。ま、多分間に合うんだろうがな)

 

CAが故意に言ったのか否かは分からないが、CAが放った言葉から必要な情報を取り出し、まだキンジが来ていない事を読み取る。事前に怜那から客室を伝えられていた飛牙は、CAに振り返る事もなく一直線にアリアの客室へと向かった。

 

この機は、謂わば貴族様専用旅客機だ。何せこの機の券は片道20万をゆうに超す。部屋は完全個室で、個室にはシャワールーム、機内にバーが設けられている。

が、飛牙は特に動揺する事は無かった。飛牙達の資産なら苦無くこの機に搭乗する事が出来るし、そもそも飛牙家地下のガレージには先日のヘリやジェット機が格納されている。20万など、それらの維持費等々に比べれば雀の涙である。尤も、金銭管理は全て怜那が担っているのだが。

 

(しっかし…無駄に内装が派手だな。そこまでして豪華な気分を味わいたいのか?)

 

貴族と呼ばれる人々に対して他愛もない疑問を抱きつつ、飛牙はアリアの客室前に着いた。搭乗口付近が騒がしくなったので、恐らくもう一人の武偵…キンジが乗り込んで来たんだろう。

 

「…役者は揃ったな。さて、楽しい劇の始まり、か?」

 

ニヤリ、と一瞬だけ邪悪な笑みを浮かべ、飛牙はアリアの個室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

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「よう」

 

アリアの部屋に入るやいなや、開口一番飛牙は右手を挙げて、簡単な挨拶をした。

 

「なっ……。何であんたがここにいるのよ!?」

 

「悪いな。この劇に特別ゲストその1として参加しちまったもんで、楽屋が用意されてねぇんだ。暫く貸してもらうぞ」

 

「意味分かんないわよ!どういう事か説明しなさい!」

 

「それは……」

 

アリアの怒鳴り声をどこ吹く風と受け流しつつ部屋に入った飛牙は、通路から聞こえてくる足音に気が付いた。

 

「お前の王子様にでも聞くんだな」

 

「は?何を言って……」

 

飛牙の言葉の意味をはかりかねたアリアの言葉は、突如として部屋に乱入してきた者によって阻まれた。

 

「大丈夫か!アリア!」

 

肩で息をしつつ、例のCAを隣に従えたキンジは飛牙に気付かずに、目を見開いているアリアを直視した。

 

「キ、キン………」

 

キンジ!と言いたかったのだろうアリアの言葉は、先程飛牙の放った爆弾を思い出し、急激に顔を赤く染める。

 

「〜〜〜〜〜っ!/////」

 

アリアは反射的に立ち上がり、近くにあったテレビのリモコンをキンジに向かって全力で投げつけた。肩で息をしているキンジは、それに気付かなかったのか体が反応しなかったのか、綺麗な直線を描いて飛来してくるリモコンを避けることなく、ゴン!という鈍い音と共にリモコンの角が額ど真ん中にクリティカルヒット、鮮血を流しながら後ろに倒れた。

 

 

 

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意識を失ったキンジが目覚めるのはそれから少しの事だった。怒鳴り散らすつもりだったアリアも多少は罪の意識を持ったのか、落ち着かない様子で座席に座っていた。

 

「…で?何であんた達がここにいるのよ?」

 

「いや、その前に…。確か…紅月だったか?ここで何をしていたんだ?」

 

「わりいが俺達はお前と神崎を始業式後から追跡調査していた。今回はお前が気付いたおかげで『武偵殺し』の目的に気付けた訳だが…」

 

飛牙はそこで一旦話を止めると、少し思案した後に笑みを浮かべた。

 

「安心しな。今回はお前等の味方だ」

 

「私を無視して勝手に話を進めるな!」

 

状況を理解した二人が話をしていると、しびれを切らしたアリアはキンジに向かって吠えた。

何で俺なんだ…と少しだけ頭を抱えそうになったキンジは、事のあらましを説明する。

 

『武偵殺し』の規則性。一回目のバイクジャック、二回目のカージャック、三回目のシージャックについては兄の事を伏せ、四回目のチャリジャック、五回目のバスジャック。

 

小中大規模の繰り返しでいくと今回が大…犯人が明確な殺意をもって殺しにかかる三件目であること。

 

そして、今回の犯人の目的はアリア。母に罪を着せアリアに宣戦布告し、今回殺しにかかることを。

 

全て話し終えた時、アリアばかりでなく飛牙も驚いていた。

何せ言葉の主は探偵科(インケスタ)Eランクのヘタレ昼行灯。先程のやり取りで何時ものヘタレだと気付いていた飛牙はより一層驚愕していた。

 

「お前…。今はヘタレの方だよな?どうなってやがる…」

 

ポツリと漏らした飛牙の言葉にキンジは驚き、そばにアリアがいるのも忘れて言及する。

 

「前もそうだったが…、紅月は俺のコレを知っているのか?」

 

「…いや、コレが指すモノは分からねえが…、お前が何らかのアクションで強化されるのは分かっている」

 

「…そうか」

 

またも置いてけぼりにされたアリアはそっぽを向き、やがて言葉に棘を入れてキンジに迫ろうとした。

 

その時だった。

 

 

 

ガガーン!

 

雷雲が近くにあるのか、雷の音が聞こえてきた。アリアは座席に両手を付き、今にも立ち上がらんとする中腰の微妙な体勢で固まった。

 

『−−−−お客様に、お詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、30分ほど遅れる事が予測されます−−−−』

 

遅れて流れた機内放送の後、旅客機は少しだけ揺れた。その揺れによりアリアは完全に姿勢を崩し、あわや床に倒れ込みそうになる。

 

だが、そこからのアリアの動作は並ではなかった。

 

ガガガーン!

 

「ひゃうっ!」

 

先程よりも一際大きな雷鳴が轟くと、あろうことかアリアは床に倒れ伏す数秒前にも関わらず右足で床を踏みしめ、続く左足を前に出し安定した姿勢へと持ち込む。続く右足で思い切り床を踏み、跳躍してベッドの中に潜り込んでしまった。

これだけの事をアリアは一秒かからずやってのけた。例えギャグ補正が幾らかかっていようとも、この行動力は評価に値するものであると、ベッドの中で小刻みに震えるアリアを呆れ顔で見ながら飛牙は考えた。

 

「…そういや、お前の付き人はどうしたんだ?」

 

此方はしてやったり顔で今の場面を見ていたキンジは、話題を変えようと飛牙に話を振ってきた。

 

「学校で待機させてある。閉所近接戦闘の苦手なアイツをここに連れてくる訳にはいかねえんだ」

 

「へえ…。レキといい蒼月といい、やっぱり狙撃科(スナイプ)は皆近接が弱いのか?」

 

「知ったこっちゃねえ。俺はまだ武偵になったばかりだし、戦場で狙撃兵をひん剥いて確かめる訳にもいかなかったしな」

 

「なっ…!お前、武偵経験が無いのか!?この前教務科(マスターズ)が出した超高難易度の急務ミッションを無傷でクリアしたし、バスジャックの時はヘリを操縦してまで俺達を支援した。任務に慣れているような気がしたんだけど、ならどうしてそんなに−−−−」

 

飛牙の爆弾発言に、キンジは有り得ないと詰め寄る。だがキンジの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

 

 

パン!パァン!

 

突然、音が機内に響き渡った。

それは銃声。アリアの客室にいた三人はそれまでの会話が嘘だったかのように態度を改め(と言ってもアリアは涙目だが)、自然にアイコンタクトを取り合った。

 

その時、ヒステリアモードでないキンジでも気付く程の異常が飛牙に起きていた(涙目のアリアは気付いていない)。

 

 

 

飛牙の瞳は、何時もの鮮やかな緑色から真っ赤に変色していた。

説明
6話です。かなり進行が速いですが武偵殺し戦です。

長くなりそうなので分けます。
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タグ
非ハーレム 銃火器 緋弾のアリア 

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