優しき魔王の異世界異聞録・弐 〜奇跡? 盟友との再会〜
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運命とは皮肉なものである。

もし運命の女神と言う存在がこの世に存在するのなら、その頬を思いっ切り張り倒しても罰は当たるまい。

それ程にルイズの困惑は大きかった。

 

「・・・はあ、まさかまたこの姿になってしまうなんて夢にも思わなかったよ」

 

晴れて自分の使い魔(実際はパートナーだが)を召喚し、その貴族然とした立ち振る舞いに内心喜びを隠しきれなかったルイズ。

本当ならば珍しい幻獣などが欲しかったのだが・・・それでもパートナーを得たと言うのは実に嬉しい事、それも他の使い魔を魅了する程の存在なら尚更だ。

これでいつも自分の事を馬鹿にしてくる、家同士のライバルとも言える人物に対して優位に立てる―――そう、思っていた。

 

だが現実はどうだ?

契約を終わらせた自らのパートナーは何処かの王族と言っても過言ではない容姿の外見から自分と同じ位か少し下程の年頃の少年へと姿を変えてしまった。

幾ら自らの蔑称とも言える称号が“ゼロのルイズ”であったにしても、これはあんまりではないだろうか?

 

「・・・な、のよ・・・」

 

ルイズは自然と口から小さく呟いていた。

現実の辛さ、使い魔の変化・・・そして何より、自分だけ何故このような状況になるのかへの憤り。

耐え続けていた彼女は多くの事柄や起こった現実に直面した事により限界など当に過ぎていたのだ―――寧ろ良く此処まで我慢出来たとも言える。

 

「何なのよ!? 何で私ばっかりこうなるのよ!?

私は・・・私は・・・わたしは、こんなところで・・・う、ううう、うわあああああああああん!!!」

 

我慢の限界が来たのだろう、ルイズは烈火の如く泣き出した。

自分ばかり何故このような事になってしまうのか? 父や姉はメイジとしても一流なのに、何故自分だけが?

失敗ばかりしていれば父も姉も自らを見限るだろう、そうなればどうすれば良いのかなど解らない。

そんな思いがルイズにはあった。

 

一方、行き成りルイズが泣き出した事にアークはもといコルベールもオスマンも困惑の色を隠せない。

このような状況になる事は誰も読めなかったのであろう、暫しの間呆然としていたが・・・気を取り直すや否や急いで相談を始める。

 

「ど、どうしましょうオールド・オスマン!? まさかミス・ルイズが泣き出すだなんて・・・」

「う、うむ・・・どうやらミス・ルイズは相当に切羽詰っていたのかも知れぬのぅ」

「ぼ、僕の所為ですかね? いや、でも僕もなりたくてこの姿になった訳ではないですし・・・」

 

だが、所詮『泣いた子と地頭には勝てぬ』と言う言葉がある。

幾ら考えてもルイズを泣き止ませる理由は考え付かない、特に女心などと言うものを全く理解出来ていない故に年中ベルフェリアやらアスモからからかわれていたアークにはどうして良いのかなど解る筈も無かった。

 

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そのままカオスな空間が続くかと思っていた、まさにその時―――

 

『五月蝿ぇ!!! こっちが良い気持ちで寝てんのに何処の馬鹿だゴラァ!!!?』

『・・・貴方の怒声の方が五月蝿いですよ、何事ですか全く』

 

何処からとも無く声がした。

それはルイズやコルベールやオスマンにとっては聞き覚えの無い、アークにとっては誰よりも聞き覚えのある声。

そしてその声はアークの目の前に散らばっている八つの柱駒の方から聞こえた。

 

と、次の瞬間。

八つの柱駒の内の二つ、紫の球の装飾の付いた『正義の柱駒』と青の菱形の装飾の付いた『誠実の柱駒』が眩い光を放つ。

そして光が収まると・・・其処には二人の人物が立っていた。

 

「オイ小娘、さっきからギャアギャア五月蝿ぇのはテメェか!?」

 

そう切り出したのは蛮族のように上半身裸で筋骨隆々の漢。

問われたルイズも最初は行き成り現れた蛮族然とした人物の姿に呆気に取られるも、小娘扱いされた事に憤り、泣き止むと怒鳴る。

 

「誰が小娘よ、誰が!?」

「あぁ!? テメェ以外に誰が居るんだゴラァ!? ピィピィ泣きやがって耳障りで仕方ねぇんだよ、このクソガキが!!」

「く、くくくくく、クソガキですってぇぇぇぇ!? 平民の癖に貴族に向かって・・・!!」

「だから耳障りだっつってんだろうが!! クソガキじゃ無けりゃアレだ、小便臭ぇ尻の青いガキで充分だボケが!!!」

「な、ななな、なんですってぇぇぇぇ!? そ、其処に跪きなさい、アンタのような腐れ平民、ぶっ飛ばしてやるんだからぁぁぁぁ!!!!!」

 

―――凄まじい罵詈雑言の応酬である。

そんな筋骨隆々の漢とルイズの姿を見ながら一つ溜息を吐いて周囲を見回し、子供化したアークの姿を見つけたもう一人の人物が声をかける。

まあ言うまでも無くこの二人はアークが良く知っているルキフェールとマーモンの二人だったのだが。

 

「・・・やれやれ、マーモンにも困ったものですね。

所で何ですかアークその姿は? それと此処は一体何処ですか? 私達は確かフォルトゥナの森で次元の歪みを調べていた筈でしたが?」

 

一瞬呆気に取られていたアークだったが、正気を取り戻す。

何処からルキフェールやマーモンが現れたのかは理解出来ないが、それでも知らないような世界で知り合いの姿を見つければ幾分か落ち着けると言うものだ。

 

「う、うん・・・まあ僕の姿や此処が何なのかについては僕に解る限りの事で良いなら説明するよ」

「フム、結構―――ならば何時までも馬鹿騒ぎをしている場合ではありませんね」

 

そう呟くとルキフェールは騒いでいるマーモンとルイズの方を向く。

そして間髪入れずマーモンの方に向かって掌を向けると―――

 

「ライトニング」

 

マーモン一人に対して凄まじい雷光を降らせたのだ。

 

「「「な・・・せ、先住魔法!?」」」

 

杖も持たずに魔法を使ったルキフェールを見てルイズ、コルベール、オスマンが驚きの声を揃って上げる。

此処は室内、更に何重もの魔封と魔防処理を施してあるが故、本来ならば高位のメイジであっても魔法など放てない筈だ。

なのにそんな場所で簡単に、杖も使わず、周囲の壁を焦がす程の雷光を放てるこの人物は一体何なのだろうか?

・・・更にそんな魔法を受けたマーモンは無事なのだろうか?

 

ちなみに此処で補足しておこう。

この世界に存在するメイジ、つまり魔法使いは貴族階級として豪勢な生活を送っているのだが実は杖が無ければ魔法を使う事が出来ない。

杖を使わずに使う魔法を“先住魔法”と言い、これらはハルケギニアなどに古くから住んでいるエルフ達と言った一部の種族位しか使う事が出来ないのだ。

(遥か昔は人間も普通に杖無く魔法を行使出来ていたのだが、此処には色々な事情があり現在では杖のような“媒介”がないと魔法は使えない)

 

放たれた雷光の量は少なくとも無事でいられるようなものではなかった。

コルベールとオスマンは驚きと共に警戒し、その手にはいつの間にか杖が握られていたのだ・・・。

 

―――だが。

 

「・・・テメェ、何すんだルキフェール」

 

其処には傷一つどころか焦げ跡一つも存在しないマーモンが立っていた。

その姿にルイズら三人は更に驚く―――先程の魔法は少なくとも魔力だけで言えばトライアングルクラスの魔力を有して居た。

なのにそれを喰らって傷一つ無いとは信じられない話である。

 

尚、此処でもう一つ補足しよう。

メイジの使う魔法はそれぞれ四系統魔法(火・水・土・風)というものが存在する。

これらの属性を一つの魔法に対し幾つ同時に融合して使えるかというのがメイジの強さを表すのだ。

(一系統のみはドット、二系統はライン、三系統はトライアングル、四系統はスクウェアなど融合出来る属性が増えれば増えるほど強くなっていく)

 

さて話を戻そう。

魔法を喰らって傷一つ無かったマーモンに対してルキフェールは当然の事ように口を開く。

 

「何時まで子供と遊んでる心算ですかマーモン、取り敢えずは現状を理解する事が最優先の筈ですよ」

 

その言葉にマーモンは渋々とルキフェールの方へと歩き出す。

途中、目線の先に子供化したアークが居た為驚いていたが、この場所が何処なのかと何故アークが再び弱体化したなどを知る為には彼に聞くのが一番だと思ったのだろう。

対してアークは若干身体にダルさの様な物を感じながらもオスマンやコルベールから聞いた事を二人に説明するのだった。

 

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「成る程、事情は良く解りました」

 

穏やかな口調でアークの説明を聞き終わった後にルキフェールは口を開いた。

しかし明らかにその口調とは裏腹に彼のルイズを見つめる眼は鋭く、まるで氷の如く冷たい。

冷静でありながら何処かではルキフェールも憤っているのだ・・・彼は古くからのアークの友人であり、自分が巻き込まれた事よりも友が巻き込まれた事に怒りを感じていた。

特にこの世界の力有る者と力無き者との明確な違いや差別については気分の良い話ではない。

 

「アークがそちらのレディに協力したいと言うのならば私から言うべき事など何もありません。

―――元々アークは自分で決めた事は私達が何を言おうが変える様な事は決してしない愚か者ですからね、説得しても無駄でしょう」

 

ルキフェールの言葉にルイズ達は胸を撫で下ろす。

もし此処でルキフェールやマーモンが敵対し自分達の命を狙ったのなら、正直な話生き残れるとは到底思えない。

先程の先住魔法然り、それを喰らって傷一つ無い事もまた然りである・・・マーモンが鋭い眼で睨んでいたのは正直肝が冷えたが。

 

「そ、そうか・・・ではアーク殿、ミス・ヴァリエールの事を・・・『ただし一つ、条件があります』・・・ぬ、何じゃねルキフェール殿?」

 

ある意味では絶対凍土に近いような学長室。

全ての話が終わったのでいざ解散と行こうとした矢先、ルキフェールがオスマンの言葉を遮る。

 

「アークがあのように弱体化してしまったのは貴方方の落ち度。

故に今後、全力を以って事態の改善に望んで貰いましょう・・・それを約束して貰えるのならば、私達も出来る限りの事をする事を約束します。

・・・勿論拒むも自由ですがね」

 

やけに含みを持たせたルキフェールの言葉に背筋に寒いものを感じるコルベールとオスマン。

 

「ち、ちなみにじゃが・・・拒んだ場合、一体どうなるのかな?」

 

恐る恐るそう聞くオスマンをルキフェールは真顔のまま見つめる。

その後ろに居たマーモンが首を回し、肩をゆっくりと回しながらさも当然の事のように答えた。

 

「そん時は心配要らねぇよジジイ、この魔法学院とやらがトリステインとか言う国共々“地図から消える”ってだけの事だ」

 

その瞬間―――唯でさえ背筋に寒気を感じていたコルベールとオスマンは部屋の温度が急降下したように感じる。

マーモンは続けて『冗談だ』などと言ってはいたが、少なくとも今の凄まじい殺気を纏った言葉は明らかに冗談には聞こえない。

ルキフェールは沈着冷静、マーモンは豪放磊落な性格をしているが・・・友であり、自ら達を率いるアークに何らかの事を科したであろう者達を許す程穏やかではない。

そして少なくとも彼ら二人が冗談でそんな事を口走ったのではない事をオスマンの長年の勘が感じ取っていた。

 

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「さて、話は終わりました・・・では私達は行きますよ、アーク?」

 

全ての話を終わらせ、アークの方に顔を向けるルキフェール。

ルイズが何かを言おうとしているような表情をしていたがそんな事などどうでも良い。

正直な話悪気は無いにせよ勝手に召喚をした挙句に勝手にアークの力を奪い、そして使い魔などとして使おうとしている輩の顔を見ているのは気分が悪かった。

 

だが、不意にそこでルキフェールの表情が変わる。

やけに静かだと思っていたので気にはなっていたのだがアークの方を見て明確にその理由を理解した。

何とアークは学長室の隅で壁に寄り掛かりながら座り込み、肩で大きく息をしていたのだ。

 

「どうしたのですかアーク・・・?

・・・!? これは酷い熱だ・・・馬鹿な、一体何が?」

 

座り込んでいたアークを抱き上げようとしてルキフェールは驚愕する。

何とアークは全身中から凄まじい高熱を放ち続けているのだ―――その熱の所為で体が衰弱し、立っている事もままならなくなったのだろう。

皆が会話に夢中になっていたが故、アークの体調の変化を誰もが気付けていなかった。

 

それだけではない。

アークを抱き上げようとした際にルキフェールは彼の“変化”に気付いた。

それはアーク自身の肉体から他を震撼させる程に強力だった筈の魔力が殆ど枯渇し、感じられなくなっているという事だ。

 

魔族とは人間とは違い、魔力の源となる“魔素”をその身に取り込み生命力へと変える。

それは言うなれば人間が食事をする事、空気を吸う事と同義であり、これが出来ないというのは簡単に言えば人間が何日も絶食&断水&不眠してる状態と同じだ。

本来ならばハルケギニアには魔法を人間が使う為に濃度の濃い魔素が存在している―――だがそれはあくまでもこの“ハルケギニア”にとってであり、アークにとって見れば全くと言って良い程に魔素が足りていないのである。

 

だがそれだと辻褄の合わない事がある。

同じようにルキフェールもマーモンも魔素を生命力へと変えている者達だ。

だがそれでありながらアークとは違い魔力が枯渇するような様子は一切無い、これは一体どう言う事なのか?

(アークはこの世界に召喚されて一日も経っていないのに魔力が枯渇しかけていると言う事は彼よりも若干魔力保有量が少ない七魔王は少なくとも何かしら身体に影響が出ている筈である)

 

そこでふとルキフェールが気付く。

今まではアークと共にいた故に気付けなかった己達の変化を。

 

「(・・・おかしい。

目の前のアークの魔力は枯渇し掛けていると言うのに、何処からとも無くアークの魔力を感じる。

しかもこれは一体どう言う事でしょうか? 直ぐ近くに二つ、それ以外には弱々しく六つの魔力が存在している・・・二つは明らかに強大なものなのに。

いや、それ以前にこの強大な魔力が細分化されているような感覚は以前にも何処かで・・・)」

 

色々な疑問が脳裏に湧いては消える。

しかし今は緊急事態、ゆっくりと考え事をしている暇などあるまい。

そんなルキフェールの心境を感じ取ったのであろう、マーモンが近くで困惑しているルイズに言葉を飛ばす。

 

「オイ小娘、とっととアークを休ませられる場所に案内しろ」

「えっ!? ふ、フンだ!! 何で私が無礼な蛮族みたいな奴に命令されなきゃならないのよ」

 

先程まで自分の事をクソガキだの小娘だのと言っていたマーモンの言葉に返すルイズ。

やはり貴族の生まれでと言う自負が彼女にそのような態度を取らせているのだろう―――そんな事を言っている場合ではないと言うのに。

先程までのやり取りを垣間見れば、そのような事を言えば痛い目を見ると言う事を彼女は理解出来ていないのだろうか?

だが、そんな不遜な態度のルイズにマーモンは頭を下げると言う。

 

「さっきは悪かった、この通りだ。

だが今コイツ放って置いたらコイツは魔力の枯渇で消滅しちまう・・・だから頼む、アークを休ませられる場所に案内してくれ」

 

その姿に流石にルイズも、コルベールも、オスマンも驚いた。

少なくともこの学長室内にいる者達をものの数秒程度で永久に黙らせれるであろう程の殺気を放っていながら、彼は苦しんでいるアークの為に頭を下げたのだ。

そして気付いた・・・目の前のこの乱暴そうな蛮族のような漢は、大切なものの為ならば己の信念を曲げる事を厭わない“本当の漢”だと言う事を。

 

「・・・あ〜もう、解ったわよ!!

急いで着いて来なさい、私の部屋がこの近くにあるから!!」

 

一方のルイズは不機嫌ながらアークを小脇に抱えたマーモンと顎に手を添えて考え事をする仕草を取っていたルキフェールを自分の部屋に案内する為に学長室を急いで出た。

確かに自尊心が強いルイズだが、状況的に冗談ではない事も理解出来たし、マーモンが言った通りアークが消滅してしまってはそれこそ気分の良いものではない。

例え姿が変わってしまったとしても、彼は己の使い魔・・・いや、パートナーなのだから。

 

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騒動が起こり、学長室からアーク達が出て行った後―――

学長室に残されたオスマンとコルベールは大きな溜息を一つ吐くと額の汗を拭う。

正直、彼ら二人が室内に居ただけで生きた心地がしなかった。

 

「・・・コルベール君、どう思うかね彼らの事を?」

 

オスマンの言葉にコルベールは正直に思った事を返す。

 

「正直な話、恐ろしいですね・・・あの二人を少なくとも相手をしたいとは思いません。

どのように魔法を唱えても、どのように戦おうと策を練っても・・・自分が一撃で殺される姿しか想像出来ませんでした」

 

「フォッフォッフォ、ワシも同じじゃよコルベール君。

それにの、実は先程の会話の途中で秘密裏にディティクトマジック(能力を測る為の魔法)を彼ら二人に使って見たのじゃが・・・」

 

そこで一度言葉を切るオスマン。

確かにディティクトマジックは使ってみた、それで少なくとも彼ら二人の魔力を調べる事が出来ると思っていた。

だが・・・ディティクトマジックが示したのは・・・。

 

「彼ら二人の魔力・・・“計測不能”であったよ」

「なっ!? け、計測不能・・・!? オールド・オスマンの魔力を以って調べたのにですか!?」

 

信じられない事である。

オスマンはメイジの中でも名を知らぬ者の方が少ない程に高名な人物だ。

実年齢は100歳とも300歳とも言われ、自ら魔法を使う事など殆どないが少なくともそこらのメイジが束になって挑んだとしても勝てないとされる猛者でもある。

そんな人物をしてかの二人は“計測不能”な魔力の持ち主だという・・・それではどう想像してみても自分が殺される姿しか思い浮かばない訳だ。

 

「じゃがのうコルベール君。

思うのじゃが・・・ワシは彼らがその力をワシらに向かって振るう事は今はないじゃろう、あくまでも“今は”じゃがな」

 

その呟きにコルベールもゆっくりと頷く。

思い返してみれば彼らは最初からルイズの召喚した使い魔であるアークの事に対してのみ自ら達に殺意を向けていた。

それはつまりアークに何かあれば生かしては置かないという意思表示であり、それ以外についてはその驚異的な力を振るう事は決してしないという事でもある。

つまり彼らはオスマンらがアーク自身を利用するという愚かな行為をしようとしない限りは何もする心算はないという事だ。

 

「フム・・・あれ程の者達に慕われるアーク君とは一体何なのじゃろうな?」

 

様々な憶測がオスマンの頭の中に浮かぶがどれもパッとしない。

そもそも貴族だと自分達が勝手に思っていただけであり、本当はどのような身分の存在なのかさえ解らないのだ。

 

だがオスマンはこうも思う。

アークのような分別を少しでもハルケギニアの貴族達が持っていれば、貴族と平民などと差別されるような現実は起こらなかっただろう。

それだけに惜しく、それ故にオスマンはアークという人物について興味を持つようになっていた。

 

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一方その頃―――

ルイズの部屋に寝かされたアークはマーモンとルキフェールの尽力もあり何とか落ち着きを取り戻していた。

しかし結局の所、マーモンとルキフェールが補充していく魔力は直ぐに枯渇してしまい状況が改善されたとはお世辞にも言えない。

 

「チッ、どうなってんだ一体? 俺達はこれだけ魔力をアークに送り込んでいても何ともねぇってのによ」

 

マーモンはそう言いながらアークの額に手を添え、己の魔力を送り続けている。

これによってアークの顔色は少しは良くなっているようだが、少しでも気を抜けば再び魔力がゼロの状態となり酷い高熱に魘され苦しむ事となるだろう。

マーモンが魔力を送り続けている間、ルキフェールはやはり顎に手を当てて考え事をし続けていた。

 

「(アークのみが魔力が枯渇し、私達は何ともない。

そして弱々しい六つのアークの魔力に二つの明確な魔力・・・この辺りがこの状況を改善する切欠となる事は間違いないと思うのですが)」

 

しかし、考えても考えても答えには結び付かない。

そもそも不思議なのは弱々しい六つの魔力は一箇所に纏まっている様に感じられるが、残り二つの魔力は直ぐ近くにあるように感じられるのだ。

しかし探ってみても魔力の気配が近くにあると言う漠然としたものしか感じ取れないのである。

 

―――だが、不意にその事を解明する為の光明が現れた。

それはふとしたルイズの一言であり、それは種明かししてしまえばなんて事の無いような事だ。

 

「ねえ、一つ聞かせて貰って良いかしら?」

 

その言葉にルキフェールは無言で続きを促す。

元はといえばこの状況を引き起こしたのは悪気はなかったにせよこの少女が原因だ、しかしこのような想定外の現状では少しでも他の意見を取り入れる事も必要だろう。

 

「その・・・アンタ達の手の甲に入ったその絵は何なの?

ずっと気になってたのよね、何だかさっきから光り続けてるし・・・使い魔のルーンとは違うみたいだけど・・・」

 

そう言われてルキフェールは自らの手の甲に目を向ける。

 

「なっ・・・これは・・・?」

 

手の甲で光り輝いていたもの。

それは絵などではない、まるで最初から手の甲に存在していたかのように埋め込まれている『正義の柱駒』だった。

更にそれから放たれている魔力を感じ、ルキフェールはその手の甲に埋め込まれた正義の柱駒がアークの明確な魔力を放っている事を理解したのだ。

・・・それと共にまるでノイズのような、言うなれば水の中に入った不純物のような魔力も共に感じた。

 

そしてそこでルキフェールは理解した。

アークの身体に起こっている不調、自らに埋め込まれた正義の柱駒、其処から感じるアークの魔力。

強弱あれど八つ存在するアークの力・・・そもそもこの八つと言うのが状況を知る為のポイントであったのだ。

 

「マーモン、貴方の手の甲に『誠実の柱駒』が埋め込まれていませんか?」

「あぁ? んなモンが俺の手の甲に埋め込まれてる訳・・・ありやがった」

 

マーモンの手の甲にも柱駒が埋め込まれていたのを見てルキフェールは確信した。

つまりアークの今の状態は、かつて勇者達によって魔力を八つの柱駒に奪われて弱体化した時と同じなのだ。

 

そもそも考えてみれば最初の時からおかしいと思っていた。

何故か自分自身に実体のようなものを感じず、まるで幽体か精霊かのようになってしまったかのように感じていたのだ。

更に近くに感じるのに存在が調べられないアークの魔力の出所・・・それは何を隠そう、己自身達がアークの八つに分かれてしまった魔力の内の一つによって顕現されていたが故。

まさに『灯台下暗し』―――現状を調べんとしたが、逆に焦りのようなものが原因で近くにあるものに気付けて居なかった。

 

「成る程、そう言う事でしたか・・・。

確か、あのオスマンと言う老人の話では本来ならば使い魔として召喚される筈の存在は一人ないし一匹のみ。

しかし私達の場合はアークとの繋がりが強過ぎたが故に強引に召喚されてしまい、それが原因で肉体を何らかの理由で一緒に召喚された柱駒に封印されてしまったと言う事ですね」

 

本来前にも書いた通り柱駒とは魔力の蓄積装置、もしくは封印装置として機能するものだ。

しかし強大な魔力を封印し続けてきた為かかなり繊細な物であり、強引な召喚が切欠でその力が暴走していたとしてもおかしくはない。

それらによって本来は有り得ない“使い魔多重召喚”が実現してしまった事によって、使い魔契約の儀とやらが暴走してしまったのだろう。

更に使い魔のルーンとやらをアークに刻んだ事により共に召喚されていた八柱駒がより暴走し、それによって八つの柱駒にアーク自身の膨大な魔力が分散してしまった。

よって柱駒の中に封印されていた者達がその魔力を受け取ってしまい、結果柱駒を媒介に外に出ている事によってアーク自身の魔力を枯渇させる原因となっているのだ。

 

そこでルキフェールは考える。

と言う事は他の柱駒にもアークの魔力は分散してしまっており、それらが覚醒していないが故に彼は弱体化しているという事。

それはつまり―――残りの六つの柱駒にも“誰かしらが封印されている”と言う事だ。

 

「(やれやれ・・・本当に面倒な事になりましたね)」

 

ただそれでも、アークの今の現状を何とかする方法が見つかっただけでもマシだろう。

そんな事を考えながらルキフェールは自らの多分当たっている憶測をどう説明するべきか迷いながらもマーモンとルイズに説明する為に知恵を絞るのであった。

 

―――その手の甲に埋め込まれているかのように見える柱駒の装飾は鈍く輝きを放ち続けていた。

 

 

説明
〜これは異世界にて戦友との再会を果たした大魔王の物語〜
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神羅万象全般 ゼロの使い魔 クロスオーバー その他 

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