混沌王は異界の力を求める 1 |
その荒野は、別段特に目立った建築物があるわけでも、特徴的な目印があるわけでもなかった。強いて上げるなら、断崖を列車の線路が通っている程度。誰の所有地とも知れぬ、枯れ草が伸び放題のその地には時折、砂塵を含んだ風がふく以外に、今この瞬間まで何の変化も無かった。
なんの前触れも無く荒野の虚空が裂け、そこから刺青の入った人の足が生えた。そしてその足に引かれるように。
腰が
腕が
肩が
そして頭が
次々に現れた。全てのパーツが出揃ったとき、そこ一つの人型が現れていた。
その人型――――人修羅は、今まで閉じていた目をゆっくり開き。問うように呟いた。
「さて、ちゃんとついたかな?」
辺りには人間どころか蜥蜴一匹居ないのだ、その問いに答えが出されるはずなどなかったのだが
「うんオッケー、ちゃんとベルゼブブの行った世界についてるよ人修羅」
何も無い虚空から、答えを出す声がした。そこには何も無いはずなのにだ。
だが人修羅はそれが当たり前だとでもいう様に歩きながら姿の見えない、その声の主――――ピクシーと会話を始めた。
「血気盛んな奴らはどうなったと思う?最後まで連れて行ってくれってごねてた奴ら」
「うー…ん、人修羅が行ったときにはもう殆どいじけるか何かぶつぶつ言ってたんだけどね、フラロウスだけ暴れてたんだけどさ、スカアハとウリエルに連行されて行くのがギリギリ見えたかな」
歩いていく人修羅に虚空からの声もしっかりとついて来る。
「ああ、またフラロウスか……あの暴れたがり屋も困ったもんだな」
「でも人修羅、なんで今回は私たちだけなの?いつもみたいに何人連れて行けばよかったでしょ?」
「今回の目的は、あくまで交渉のみだからな。今のところは支配する気は無いしな。いつもみたいにアルシエルやらオオミツヌやらを連れて行ったら、怯えて襲い掛かってくるかもしれない、それで自棄起されてレリッ……クだっけ?を隠されたり壊されたりしたら面倒だからな」
「でも、だったらでっかい奴らじゃなくてさ、もっと小さくて、可愛い仲魔を連れて行けばいいじゃん」
「いや、今回は俺達二人、例外はお前のみ。まぁ必要になったら呼ぶよ、適材適所でな、交渉が強奪に変わったりしたときとかにな」
そんな雑談をしながら人修羅は歩を進める、だが人修羅は自身が歩く先に何が在るのかなど全く知らない。別に特定の場所に着くことが目的で歩いているわけではない。動き回ることが目的なのだから。
「でもほんとに来るの?こんな事してるだけで」
こんな事というのは今、人修羅が((行|おこな))っている歩くことである。だが、ただ単に歩いている訳ではない。
人修羅は歩きながら自身の魔力を辺りに撒き散らしながら移動しているのだ、無論全力ではないが。
これには訳がありこの世界の人間に自分を見つけてもらう為だ。
ベルゼブブの行ったアマラ経絡は、一つだけ問題点があった。辺りに致命的なまでに人気が無いのだ。ベルゼブブがこの世界の人間に接触出来たのは偶然でしかなかった。
どうやって人を見つけるか。実はそんな会議がアマラ深界最下層で行われていたのだ。
ガブリエル曰く「根気よく待つ」だが下手をしたら、永劫に気付かれないという事もありえる為、この案は却下された。
スサノオ曰く「周囲を破壊して無理やり気付かせる」だが行く世界には交渉に行くというのに、討伐対象にされる様なことはしたくない、ゆえにこれも却下。
意見も出尽くし、あーでもない、こーでもないと言っている最中に、ふとセイテンタイセイが思いつきの案を言った。
「力全開にしときゃ向こうから来んじゃね?」
「「「「「……………………」」」」」
会議は終わった。何人かの悪魔は「猿如きに劣るとは…」とアマラ深界の壁を殴りつけていたが。
「この世界の空気は中々に魔力が溶け込んでいるようだしな、魔法を使える者が居るはずだろう」
「時間がたっても来なかった場合は?」
「そのときは規模を広げるだけ――ん?」
そのとき、人修羅は自分の特性である『心眼』が警告を鳴らしたのに気付く。意識を走らせると確かにまだ離れてはいるが此方に向かってくる複数の気配を感じる。だが『心眼』が警告するのだ、友好的な相手ではないだろう。
(人間じゃないな……悪魔か?)
人修羅が脚を止めて考える間にも気配は四方八方から迫ってくる、だが人修羅は逃げようとしない。何が来ようと自分の前には芥子粒同然と理解しているからだ。
(来た来た…!)
若干嬉しそうに、直ぐそこまで来た気配に人修羅は眼を向ける。その瞬間、草陰から何かが体当たりを仕掛けてきた。
「フッ!」
人修羅は咄嗟にバックステップで回避行動を取る。そしてすれ違う瞬間に、襲ってきた相手の姿を確認する。飛び出してきたそれは機械の体に複数の目やコードのついたカプセル型やボール型の兵器。
人修羅は知らないが通称『ガジェット・ドローン』と呼ばれる機械兵器だった。
「ビットボール……みたいだけと違うな、マシンの系統じゃないのかな?」
「多分違うよ、そいつらからマガツヒの匂いが全くしないもん、たぶん会話しても無駄だね」
かなりの数に囲まれているというのに人修羅は余裕綽々でピクシーと会話をしている。
「そもそも口も訊けそうにないし、会話も交渉もできないだろ。ならまぁとりあえず」
ピクシーと会話を続ける人修羅の右手にいきなり魔力で出来た刃が出現した。
「攻撃してきたんだから敵でしょ?さっさと倒したらいいんじゃない?」
人修羅が右手の刃を振りかぶる。
「それが一番かな」
そして地面に刺すように叩きつけるその瞬間、人修羅を中心とした紅蓮の衝撃波が発生する。
『ヒートウェイブ』
衝撃波は辺りの地面を削り飛ばし砂煙を起しながらガジェットをも同様に食い散らす。
その一撃で人修羅を囲んでいたガジェットは全てただの鉄屑へと変貌した。
砂煙が晴れたとき地面は乾いた土を存分にさらけ出し、わずかに生えていた木々も根こそぎなぎ倒されていたが、人修羅は何も無かったかのように歩き出した。
「お疲れ様〜」
ピクシーの間延びした声がする。
「やれやれ、人間探してるのになんであんなのが出てくるのかね」
人修羅はガリガリと頭を掻きながら言う。
「でもさ、今ので魔力も散ったしそろそろ気づいた人間が来るかも知れないよ!」
「だといいがな、っと!」
そのとき再び『心眼』が気配を知らせる、しかも今度は間違いなく人の気配。だがいくら視線を左右に動かしても人影など全く見つからない。
(何処だ……?)
人修羅は自分の『心眼』が教えた情報に間違いなど無いことを知っている。ならば……
(上…?)
天を見上げると、二人の人影があった。どうやら上空の人影二人は此方に視線を向けていたらしく、降下してくると地面に降り立ち、名乗った。
「時空管理局機動六課、ライトニング分隊隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。先程の
戦闘の一部始終を見させて頂きました」
降りてきた二人のうち金髪のツインテールの黒い服に白いマントの女性が名乗ると、隣にいる彼女と同い年ぐらいの桜色の髪をポ二ーテールにし、同じく桜色の服に薄い桃色のマントの女性が続けて喋りかけてきた、
「同じく機動六課ライトニング分隊副隊長のシグナムだ。悪いが御同行願おう」
人修羅はその言葉を聞くと、微かに笑いを浮かべる。
今こいつ等は隊長、副隊長と名乗った、ならば以前ここに来たベルゼブブと接触した人間と関わりが有るかもしれない。
それに『心眼』知らせたということは、少なくとも自分に友好的な感情を持っていないのは確実だろう。ならばここは素直に従った方が良い。
だが、人修羅は言った。
「断る、と言ったら?」
人修羅がフェイト、シグナムと接触する、少し前――――
時空管理局、古代遺物管理部、機動六課総部隊長「八神はやて」は、先日の出来事を綴った一枚の書類を片手に、考え込んでいた。
「発見されたレリックを回収に向かうも、巨大な蠅型のアンノウンに強奪される……か」
古代遺物ロストロギア――――「レリック」過去に数度発見された、超高エネルギー結晶体であるこの物体は、周辺地域を巻き込む超規模な災害を生むものとして、第一級捜索指定がかかっており、自身の部隊である機動六課はこのレリックへの対策部隊として設立された。
だが、部隊を設立する二年前、そのころからこの世界「ミッドチルダ」には、多種多様な生き物が出現するようになっていた。非殺傷設定にも関わらず血を流すそれらは神出鬼没で何処からかいつの間にか現れる為、時空管理局内では
「アンノウン」と呼ばれていた。
さらに厄介なことにそれらは高い知能を持ち、実力では明らかに劣っているにもかかわらず、体躯、能力、種族が明らかに違うものでも、即座に優れた連携をとり、これまでに幾つもの魔道師チームを壊滅させていた。
「フゥー……」
はやては、座っている椅子の背もたれに背を預け一息つくと、悩みの根源である、先日のレリック回収の際に出現した大型アンノウンの事件を思い出した。
「車両内、及び上空のガジェット反応、全て消滅!」
機動六課の新人メンバーの初陣となった、あの任務は実にシンプルな内容だった。レリックを運んでいた列車をガジェットの群れが襲撃し、列車の支配を奪ったのだ。
任務の内容は、レリックの確保、全ガジェットの破壊、及び列車の緊急停止という単純でわかりやすい任務だった。
無論、途中で多少の問題はあったけれども、任務に支障が出るほどではなく、むしろ新人達の心構えやデバイスの使い方を試すには
絶好の任務だった、さらに「スターズ」「ライトニング」の両隊長も前線に出ており、まず失敗など起きないはずだった。だが。
「レリックもスターズ3が無事確……!?」
通信士の「アルト・クラエッタ」が目の前のメインモニターを見て眼を見開く。スターズ3の「スバル・ナカジマ」スターズ4の「ティアナ・ランスター」に
重なるように巨大な魔力反応が現れたからだ。
「スターズ3!スターズ4!直ぐにその場から離れて!そちらの上空に巨大な魔力反応が…」
間に合わない。スバルとティアナを写していたモニターが一瞬で轟音と共に砂煙に飲まれる。
「スターズ3!!スターズ4!!」
「ティア!大丈夫!?」
スバルは腕の中のティアナに問う、その驚異的な反射神経でスバルは自身のいる列車の天井を
巨大な質量の何かが突き破るのを確認した瞬間に、ティアナを両手で抱えて安全位置まで一気に
回避したのだ。だがティアナを抱える為に抱えていたレリックケースを放り出さねばならなかった。
「…ん、大丈夫、有難う」
腕の中のティアナを開放する。ティアナは衝撃に少し揺さぶられたようだが、直ぐに立ち上がったところを見ると問題はなさそうだ。
そのとき列車上空から降ってきて、その質量で列車の走行すら止めた「何か」が動いた
「スバル!」
「うん!」
両者は自身の武器を構え、砂塵の中で動くそれの姿を捉える。だが砂塵がはれたとき両者は言葉を失った。
「………え?」
「何……あれ…アンノウン…なの?」
自分達が先ほどまで居たところに居たのは、十メートルを越えようかという巨大な、蠅王とでも呼ぶべき存在の姿があった。
「ッ!こちらスターズ4、現在、大型アンノウンと思われる存在の襲撃を受けました、応援をお願い
します!」
別ポイントに居るライトニングの「エリオ」と「キャロ」それに周囲を飛び回っているはずの隊長達にも連絡する。
「了解!」
そのとき、蠅型アンノウンが動いた。
「ティア!あいつレリックを!」
見ると巨大な蠅王は二本目の腕にレリックケースを引っ掛けており、さらに背の髑髏が画かれた薄翅を徐々に羽ばたかせており、今まさに飛び立とうとしている。
「逃がさない!」
スバルは即座に両足に装備している自身のデバイス「マッハキャリバー」のローラーを軋らせ、走る。
「リボルバァァァ……キャノンッ!!」
そして、こちらに背後を向けている蠅王の背に右手のもう一つのデバイス「リボルバーナックル」を叩きつける。
「ティア!」
「解ってる!クロスファイヤー……シュートッ!!」
スバルが蠅王から距離を取った瞬間、間髪居れずティアナがカートリッジを二発消費し、自身の銃型デバイス「クロスミラージュ」から連続して弾丸を蠅王の頭に打ち込む、しかし。
「効いてない!?」
蠅王は倒れるどころか怯みもせず、それどころか何も感じていないかのように翅を震わせ飛び立った。
「スピーアアングリフッ!!」
その瞬間、増援要請を受け飛んできたエリオが、飛び立った蠅王の顎先を突撃槍のデバイス「ストラーダ」の魔力噴射によって加速したエリオがその穂先を叩きつけた。
エリオの一撃は蠅王の意識を揺さぶったようで、飛んでいられずに再び地上に着地する。
「フリードッ!ブラストレイ!」
そこを更にエリオを乗せてきたキャロの召喚竜の「フリードリヒ」が炎の砲撃による追撃を打ち込む。
(皆!もう少し持たせて私達も直ぐに向かうから!)
皆にからフェイトの念話が届く、だが蠅王は待とうとはせず動く。
「煩わしい人間どもじゃのう…」
火の粉や黒煙を振り払い、蠅王が幾重にも攻撃を受けたにもかかわらず傷一つないその姿を表す。だがその巨大な紅い副眼だけは先ほどと違い、爛々と赤光を放っていた。
「アンノウンが喋った!?」
今までに発見されたアンノウンは喋るということはなく、吠えるか唸るかしかなかっただけに、低い声で言葉を作る蠅王に一同は一瞬動揺する。
「オ゙オ゙ォォォォォォ!」
その一瞬の隙で蠅王が吼える。そしてその蟲の腕を振りかざし、手に持つ巨大な髑髏をあしらった杖「骸の杖」から膨大な光が漏れる。その瞬間、周囲に豪風が吹き荒れる」。
(みんな!下がって!!)
近くまで来ていたのか、なのはかフェイト、どちらかの念話の叫びが聞こえた。我にかえった新人達は、風を纏う蠅王から一気に距離をとる。
「散れい」
『マハザンマ』
蠅王から放たれた豪風は周囲の全てを吹き散らす、それは例え線路や列車の残骸も例外ではない。
「オ゙オ゙ォォォォォォォォォォォ!!」
そして風は更なる破壊を生む。風圧により周囲の崖や地面そのものを削り破壊する。
破壊の風が収まった頃には既に蠅王の姿は、機動六課のレーダーでも捉えることはできなかった。
「フゥー……」
二度目の息をつき、はやては天井を見上げる、そのとき。
「やっぱり何か対策を講じるべきですよー」
同じ部屋で作業をしていた、彼女のユニゾンデバイスの管制人格「リインフォースU」が喋りかけてきた。
彼女も先日の事件に居合わせており、蠅型アンノウンの姿も目撃している。
「せやけどなぁ見てみい、あのとき測定されたあのアンノウンの推定ランクを「SSS」やで?隊長クラスの遥か上や、アンノウンの性質が解ってもいない現状だと対策のしようがないんよ」
だがリインは納得がいかないかのようにで食い下がる。
「でも、この間は護送中のレリックが目的みたいだったから、まだよかったですけど、次にあのアンノウンが現れたら今の私たちじゃ良くて半壊、悪くて全滅ですよ?」
「でもな、かといって本局に増援を頼むことも出来へん。私たちの機動六課は結構危うい位置にあるんよ」
そこで、二人とも次に発す言葉が見つからず沈黙してしまう、だがその沈黙は直後に勢い良く開かれたドアによって破られた。
「はやてちゃん!!」
沈黙を破った張本人。橙の髪をサイドテールにまとめた女性「高町なのは」は肩で息をしながら、はやての名を叫んだ。
「なのはちゃん!? どうしたん!!」
突然の来客に驚きつつも、そのただ事ではない様子に、はやては何事かと尋ねる、しかしなのはは。
「すぐにモニタールームに来て! 早く!!」
それだけを告げると自身はすぐに走っていってしまった。
「あんなに慌てて……何でしょうか一体?」
「行けば解る、行くでリイン!!」
「はい! はやてちゃん!」
二人も急いでモニタールームへ向かった。
「なんや………これ!?」
モニタールームの扉を開いたはやては、まず目に入ったメインモニターを見て愕然とした。
モニターの八割が台風の如き魔力の渦で何も見えなくなっていたのだ。そしてその横に表示された「S」の字を見てさらに愕然とした。
通信士のアルトが報告する。
「先ほど、このような反応が何の前触れも無く出現しました。魔力の出本は不明!」
言葉を失ったのは一瞬、はやては直に指示を飛ばす。
「現状確認!!このポイントは何処や!」
「先日のレリック回収作戦、及び蠅型アンノウンの出現ポイントと同一です!」
その報告に一瞬言葉に詰まるが直に次の言葉を発す。
「誰かこの場所に向かわしたか!?」
「はい!フェイト隊長、及びシグナム副隊長の二名が向かいました!」
よし。
「二人と通信は可能やな?」
その言葉にもう一人の通信士「ルキノ・リリエ」が答える
「問題ありません!直に繋げます!」
直後にメインモニターの左下にフェイト達との通信画面が展開される
「フェイト隊長!」
(フェイト隊長!)
はやてから通信が入る、そのときフェイトは既に台風の中心である人物を目視していた。
「八神二佐、おそらく巨大魔力反応の主と思われる人物を視認しました」
(人物? つまりこのあいだのあのアンノウンじゃないわけやな)
通信先の六課本部に安堵の空気が広がるのが解る、だがフェイトは渋い顔を崩さず言った。
「たぶんもっと厄介かと」
その言葉で通信先の空気が安堵から緊に一瞬で切り替わる。
フェイトは対象の人物へと視線を戻した、遠目でよくは分からないが恐らく自分達と同い年くらいの男性だろう、でも……
(どうゆうことや?)
はやてが尋ねてくる。
「確信を持っていえる訳じゃないんだけど、何か……何かおかしいんです」
(おかしい?)
「はい」
何が、とははっきり言えない。だが魔力を発し歩いている彼を見ているだけで、今すぐに彼に背を向け、この場から逃げ出したくなる。これまで幾つもの鉄火場を潜り抜けてきた自分がだ。だがシグナムも同意見のようで、フェイトは自分がおかしかったわけではないのだと安堵する
通信先のはやてにその旨を伝える、はやては少しの間考え込んでいたが直ぐに言った。
(わかった、出来ればでええから同行をお願いしてもらえるかな、危険や、と判断したら直ぐにその場から離れな)
「はい、了か「テスタロッサ!!」
はやての言葉に答えたそのとき、隣のシグナムが鋭い声とともに地上を指差した。見ると先ほどの男性がかなりの数のガジェットドローンに囲まれていた。
(いつの間に!)
まったく気付かなかったことを歯噛みしながら直ぐに、ガジェット破壊のために降下しようとしたとき。
囲まれていた男性が動きを見せた。それは唯、男がいつの間にか手にしていた光る棒の様なものを地面に突き刺しただけだったが。
「――――ッ!!」
男性が棒を突き刺す瞬間フェイトとシグナムは、脳が掻き毟る様な警告を走らせるのに素直に従い、さらに上空へと飛んだ。そのおかげで男の発生させた衝撃波にも暴風にも巻き込まれるようなことは無かったが、攻撃の爪痕を全体から見ることになった。地面は陥没し捲れ上がり、まるで隕石でも落ちたかのようだった。フェイトとシグナムはその惨状に目を見張った。
(あれだけの攻撃をノーチャージで!?)
一種の恐怖とともに攻撃を放った主を見る。すると彼は自分達に気付いたようでこちらを見上げた。
(シグナム、無理かもしれないけど、とりあえず話と同行をお願いしてみよう)
念話でシグナムに指示を出すとシグナムは頷きの形を作った。フェイトも頷き返し二人はこちらを見上げている男の前へ降り立った。不思議と先ほどまで感じていた威圧感はいつの間にか霧散していた。
「時空管理局機動六課、ライトニング分隊隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。先程の
戦闘の一部始終を見させて頂きました」
続いてシグナムが。
「同じく機動六課ライトニング分隊副隊長のシグナムだ。悪いが御同行願おう」
男はこちらの言葉に対し哂い、言った。
「断る、と言ったら?」
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