インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#77 |
新学期初の実機授業の翌日―――9月4日。
『そろそろ文化祭の時期だ。出し物を今日の十八時までに決めて私の所に持って来い。』
なんていう千冬の言葉を受け、一年一組では終業のSHR後に残り臨時クラス会議を行い、盛り上がっていた。
クラス代表である一夏が司会進行を行い、書記として任命された箒が板書していたのだが……
『織斑一夏&篠ノ之箒とホストクラブ』
『織斑一夏&篠ノ之箒とツイスター』
『織斑一夏&篠ノ之箒とポッキー遊び』
『織斑一夏&篠ノ之箒と王様ゲーム』
「却下。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
一夏の言葉に教室中からブーイングが上がった。
「なんで!」
「どうして!」
「名案ばかりなのに!」
「当たり前だ。そもそも、一夏はともかくなんで私まで勘定に入っている。来週には元に戻るんだぞ。」
疑問の声を上げるクラスメイトたちに箒がそう言うが、
「ほら、戻るのに必要なエネルギーを蓄える作業をちょろっと滞らせれば二週間や三週間くらい大丈夫でしょ?」
そう返され、クラスメイト達に事情を話した事を後悔した。
「とにかく、((クラス代表|いちか))が却下と言っているのだから却下だ。こう、もっとまともな意見は―――む、ラウラ、なんだ?」
箒が説教モードに入ろうとした時、教室の後ろの方から手が上がり中断になる。
「出し物の提案なのだが―――執事&メイド喫茶はどうだ?」
予想外の展開にクラスが固まった。
『まさか、あのラウラが?』と。
「客受けは良いだろう。飲食店ならば経費の回収が行えるし、休憩所としても機能させることができるから需要は少なくない筈だ。」
いつもの淡々とした口調だが、周囲が持つ『ラウラ・ボーデヴィッヒ』のイメージからかけ離れていて現実感が物凄く薄い。
確かに、冷氷の如き一面と重度のマザコンで空に『母様』と甘える子猫のような一面があることをクラスメイト達はよく知っているが、コレは流石に予想外であった。
予想外すぎてフリーズした教室。
それを打破したのは校内放送を告げる『ピンポンパンポーン』という音だった。
『一年一組の織斑くん、篠ノ之さん。生徒会室まで出頭してください。繰り返します―――』
「生徒会から、呼び出し?」
箒は思わず言う。
それに合わせてようやく硬直状態を脱したクラスの面々も首を傾げる。
「ええと、呼び出しが掛ったから行ってくる。セシリア、クラス代表権限でこの会の議長に任命するから企画を進めておいてくれるか?」
「え、ええ。お安いご用ですわ。」
「頼む。それじゃ。」
セシリアのその場を任せて一夏と箒は教室を出る。
「ええと、生徒会室は――――――何処だっけ?」
教室を出てから、生徒会室の場所を知らない事に気がついた。
「―――そんな事だと思ったから、迎えに来たよ。」
背後から声を掛けられて、二人は振り向く。
そこには、ここに居る筈の無い人物―――四組代表の簪がさっきまで教室に居た筈の本音を従えてそこに居た。
「正確には、本音に案内させるのが不安だから、かな?」
ついて来て、そう言って簪が歩き始め、トタトタと歩く本音に続き一夏と箒も歩きだした。
* * *
「忙しい処に呼び出したりして、悪かったわね。」
「いえ………」
「私は更識楯無。簪の姉で、この学校の生徒会長を務めさせてもらって居るわ。」
簪とは顔つきが似ているのに印象が違う二年生がそう名乗った。
「向こうは会計の布仏虚。残りは知ってると思うけど副会長の簪ちゃんと書記の布仏本音。」
「はぁ………」
続いて紹介される他の面々。
簪と本音はよく知ってる面々だが、長めの髪の毛を後頭部で結って前髪をカチューシャで上げた三年生は初めて会うが……
「布仏………って事は?」
「ええ。本音の姉よ。」
「成る程。」
箒は一人納得の声を上げた。
なんとなく、『似てる様で似てないのに、似てないようで似てる』。
そう思って居たから。
「え、こほん。そろそろいいかしら?」
「ああ、すみません。」
楯無が咳払いをすると一斉に話を聞く体勢になる。
「それで二人を呼んだ理由なんだけど―――」
真面目な顔になった楯無に二人も自然と背筋が伸びる。
「二人とも、剣道部を辞めて生徒会に入ってもらえる?」
「――――――はい?」
一夏と箒は自然とそんな声を上げていた。
最近は専用機持ちとしてのやることが多くて週に一、二度しか出れていないが正式に剣道部に入部届けを出して所属していたのだ。
が、それを生徒会が『辞めろ』と言うとは?
「その理由なんだけど、コレを見てもらえる?」
楯無が差し出した手紙を二人は受け取る。
「なんですか、コレ………」
「嘆願書よ。」
「たんがんしょ?」
「そう。要約すれば『剣道部はズルい』『ウチの部にも男子を寄越せ』っていう。」
楯無が指さす方向にはそんな嘆願書が山を成していた。
確かに、一夏が所属していて、今は男になった箒が所属している剣道部は見方次第では男子を二人も抱えていると言える。
「だから、他の部を納得させるためにあなた達には剣道部から生徒会に移籍してもらうことにしたの。もちろん剣道部の稽古に出てもらうのは構わないけど、時々『生徒会の仕事』として他の部を廻ってもらう事に成るわ。」
楯無の説明に、一夏はなんとなくだが納得しつつあった。
一方、
「事情は判りました。この件について拒否権は?」
「無いわ。公共の福祉の為には個人の権利は制限されるって知ってるでしょ?」
「成る程。つまりは強制力のある措置だと言いたいのですね。」
「そう言う事になるわね。」
「剣道部の不動部長は?」
「納得は出来ていないようだけど、理解はして了承してくれたわ。」
箒はいくつかの質問を投げかけた後、少し考えるようなそぶりを見せた後で、
「判りました。私については従います。」
「オレも従います。」
箒の宣言に続き、一夏も言う。
「ありがと。それじゃあ、篠ノ之さんは本音と一緒に書記、織斑くんは庶務に就任。オーケー?」
「はい。」
「判りました。」
「よろしい。それで、最初の仕事なんだけど、文化祭の二日目。生徒の招待客が来る日なんだけど二人には警備と演武をお願いしたいの。」
満足げに頷いた楯無は続けて仕事の話に入る。
「警備と、」「演武?」
「そう。詳しい内容なんだけど―――」
楯無が説明を始め、一夏と箒はそれを聞きながら生徒手帳のメモページにメモを取る。
打ち合わせが、始まった。
* * *
「………と、言う訳で一組の出し物は喫茶店に決まりましたわ。」
職員室でセシリアは一夏の代理として千冬にクラス会議の結論を伝えに来ていた。
「ふむ、また無難な物を選んだな。――――――と、言いたいところだが、どうせ何か企んでいるのだろう?」
「なんでも、メイドと執事の格好で給仕をするつもりだそうですわ。」
「成る程、コスプレ喫茶か。で、発案者は誰だ?田島か、それともリアーデか?まあ、あの辺りの騒ぎたい連中だろう?」
「ええと………」
にやにやと笑う千冬にセシリアは『誰が発案したのか』を告げる事を少しばかり躊躇った。
「…ラウラさん、ですわ。」
「……………」
きょとん、とした千冬。
なんとも居心地の悪い緊張感にあふれた沈黙が流れるが、そうは長く続かなかった。
「ぷっ……ははは!ボーデヴィッヒか!それは意外だ。しかし……くっ、はははっ!あいつがコスプレ喫茶?よくもまあ、そこまで変わったものだ。」
瞬きを二度したあと、噴き出して大爆笑を始めた千冬。
「そんなに意外なのですか?」
「それはそうだ。私はあいつの過去を知っている分、可笑しくて仕方がない。ふ、ふふふ…あのアイツがコスプレ喫茶……ははっ!!」
周囲の先生も目をきょとんとさせて眺める中、千冬はひとしきり笑った後目じりにたまった涙を拭う。
「んっ、報告は以上か?」
「はい。」
「では、この申請書に必要な機材と使用する食材などを書いて来週中には提出しろ。ああ、何もお前がと言う訳ではない。折角居るクラス代表にでもやらせておけ。」
「判りました。それでは、失礼しますわ。」
一礼してセシリアは職員室を辞す。
だが、セシリアが教室に戻っても一夏たちはまだ帰ってきていなかった。
会議を解散させた後、隣からやってきた鈴も交えてセシリア、ラウラ、シャルロットは一つ机を囲む。
「一夏さん、どうしたのでしょうね。」
「荷物は置いてあるから戻っては来るのだろうが………」
「生徒会に呼び出されるって、アイツ今度は何をしでかしたのかしら。」
「むしろ、厄介事に巻き込まれて居そうだよね。」
「確かに。」
一夏たちが戻ってきたのは四人が原因詮索に飽きて好きなお菓子についての話が盛り上がり、ひと段落ついた頃だった。
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#77:本番二週間前 | ||
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