インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#78
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[side:一夏]

 

文化祭の出し物決定から土日を挟んだ週明けのその日、オレたちは文化祭まで二週間を切ったというのにいつも通りの授業と訓練の日々を過ごしていた。

 

と、いうのも入学式当日から授業をやるほどIS教育に力を入れまくり、教室の掃除をする時間すら惜しんで授業に充てるIS学園(というより各国上層部と国際IS委員会)が『文化祭の準備』なんかに時間を割くことを許すハズも無く『ほぼ業者に丸投げだから』という事情がある。

 

なんでも、十八日を半休にして業者を入れ一気に施設の用意をするらしい。

 

 

何故に高等学校相当の学校の文化祭に業者が入るのかと言うと、ここがIS学園だからとしか言えない理由がある。

 

設立当初、文化祭や体育祭、部活動といった特別活動はもちろん、ISに関わらない普通教科すら『無駄な時間』として教育課程から外されそうになっていた。

しかし、設立する側の理事長や教職員が大反対。

『一般常識は必要』『課外活動は心身の成長に必要』『協調性やコミュニケーションスキルが育たないと危険』『行事はモチベーション維持や気持の切り替えになる』等々の理由を並べたてて不要論者を黙らせ、一般教科の授業や部活動、文化祭などの行事の開催を認めさせたとか。(現生徒会長談)

 

その代わりとして体育祭はISを使った実戦系イベントとして開催する事と文化祭の準備・片付け期間は二日以内に抑える事がになったらしい。

故に文化祭では準備に業者が入り生徒は殆どする事がないのだ。

 

うちのクラスで言えば教室の改装と材料調達は業者任せ。

こんどの休みにセシリア主催、セシリアの所の執事やメイドさんを講師に招いた執事・メイド講座があったり、メニュー策定があるが、メニュー策定は担当に任せたし執事服やメイド服の調達はラウラが窓口になって動いている。

 

故に、今のオレたちと箒には『やるべき仕事』がないのだ。

 

と、まあ。

そんな理由でオレと箒は警備と演武(と言う名の第四世代機同士での模擬戦闘)の為の訓練をする為に空いていた第四アリーナを生徒会の名前(と権力)を使い、借り切ったのだが―――

 

 

「((流動的射撃機動|シューター・フロー))での((円状制御飛翔|サークル・ロンド))?」

 

「そう。射撃型の((戦闘動作|バトル・スタンス))を勉強しておくのも無駄にはならない筈だよ。」

 

久々に訓練を見てくれる事になった空にそう告げられて顔をひきつらせていた。

 

ちなみに、ひきつらせているのは空のセリフに対してではなく、アリーナ中央部に墜落しているどこか見覚えのある操縦者と水色のISが原因で。

 

「とりあえず、設定はPICとスラスターの制御を全部マニュアルに、あとは照準関係も全部カットね。」

 

とりあえず、落着物の事は置いておいてオレたちは設定変更の為にディスプレイを表示させる。

 

と言っても、PICとスラスターはいつも((半自動|セミ・オート))なので大差ないハズ、

 

 

―――と、思っていたら。

 

 

「ぅわぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

「わ、わ、わ、きゃ―――ぐえっ!」

 

墜ちる墜ちる。

 

やり始め、円状機動に専念している間はまあ問題ないのだけれどもそこから射撃をしようとするとあっという間にバランスを崩す。

 

砲撃の反動をPICで打ち消そうとしたら誤ってスラスターを噴射したり、

反動を打ち消すには出力が強すぎてすっ飛んだり、

反動で回転した挙句にアリーナの外壁に突っ込んだり、

避けようと加速しようとしたら失速して墜落したり。

 

普段している『刀を振る動作』とは違って射撃による反動を殺す操作はイメージがし辛い。

 

箒の場合、紅椿の射撃兵装は二振りの刀。

けれど『それだと意味がない』という有り難いお言葉から舞梅の頃から登録されているらしい((対物狙撃銃|アンチ・マテリアル・ライフル))を使っているのでなおさらだ。

 

わざわざ反動の大きな銃を選ばせる処がなんとも『空らしい』と言える。

 

 

 

撃っては墜ち、撃ってはぶつかる。

その繰り返し。

 

 

 

とはいえ、何度も何度も失敗すれば多少は慣れてくる。

 

撃つ瞬間に僅かに減速するが失速や墜落はしない程度に慣れてきた頃に空が―――

 

 

「ほらほら、遅いとハチの巣だよ!」

 

 

そう、いい笑顔でガトリングガンを撃ち始めた。

 

その銃口の先に居るのは、オレと箒。

否応なく加速させられ円軌道を描くように飛びながら逃げ回るしか無くなる。

まさに命がけの実((戦|・))的指導。

 

だが、そうなってみると今までの醜態が嘘のように体が動く。

 

『人間は命がけの状況ほどよく学習する』とはよく言ったモノだ。

死にたくないから、必死になって覚えようとするのだから。

 

 

とはいえ、スラスターに回せるエネルギーは有限だし、荷電粒子砲のエネルギーも有限。

箒の対物狙撃銃の弾も有限だ。

 

いつまでも逃げて居られる訳では無く、足が止まればガトリングガンの弾幕に叩きのめされる事に成りかねない。

 

 

『箒、空を((撃墜|おと))そう。』

 

プライベートチャンネルを繋ぎ、そう伝える。

 

『どうするのだ?』

 

そうすぐに返事が返ってくる処を見ると箒も似たような危機感を抱いていたらしい。

 

実戦的訓練中の空は本気で容赦がない。

だから、スラスターエネルギーが底をついたくらいじゃきっと終わりにしてくれない。

 

だから、空に一撃を入れて訓練を中断させるしかない。

 

『砲撃と同時に瞬時加速。』

 

『成る程。そう言う事か。―――私が先に動く。タイミングは荷電粒子砲の発射と同時だ。』

 

『了解。―――チャージ完了。行くよ、箒。』

 

『ああ。』

 

 

 

プライベートチャンネルを切り、それまで通り、箒に向けて荷電粒子砲を構え―――――発射の直前に砲口を薙風を纏った空に向けた。

 

白い閃光が走り、紅がそれを追うかのように飛び出す。

 

「むっ?」

 

ガトリングガンを格納し、荷電粒子砲を避けた空に箒が振り被った空裂を振りおろす。

同時に発生する斬撃が飛ぶがそれも簡単に避ける空。

 

だが、その背後には零落白夜の発動準備を整えたオレが居る。

そうなるように箒と位置を合わせて仕掛けたのだから当然といえば当然だが。

 

(獲った!)

 

瞬間的な逆噴射で円状飛行を止めて、((瞬時加速|イグニッション・ブースト))で距離を詰める。

 

 

「甘いよ。」

 

だが、空はそんな不意打ちまがいな攻撃で墜ちてくれるほどやさしくは無かった。

 

空は数歩分下がる事でオレの斬撃をかわす。

 

―――オレ達の予想通りに。

 

空の回避先に向かって箒が雨月の突きと空裂の斬撃を放つ。

 

更には展開装甲も攻撃用エネルギー刃の展開とスラスターに回して一気に距離を詰めてゆく。

 

その間にオレは距離をとって荷電粒子砲をのチャージを開始。

 

今までの牽制用の低出力ではなく、一撃必殺を狙った最大出力の一発を用意する。

 

 

箒が一撃離脱をして、一瞬でもオレから意識が離れたら――――

 

だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

『ガギン!』と金属と金属がぶつかり合う音が響く。

 

雨月の刺突レーザーを体をずらすことで回避した空は続けて放たれようとした空裂による斬撃を展開した大鋏で受け止めていた。

 

力を込めて振り下ろそうとする箒と、それを押さえて足が止まる空。

 

そこにはオレみたいなへっぽこ射撃手でも((命中|あて))られるような状況が作り上げられていた。

不幸中の幸い、降って湧いたチャンスにオレは照準を微調整。

 

空に直撃、箒はギリギリで回避できる位置に合わせる。

 

荷電粒子砲は何時でも撃てる程度にエネルギーが集まり、砲口が僅かに輝いている。

 

(当ったれぇぇえ!!)

 

心で叫びながら、トリガーを引く。

 

キュイン、と最後のひと押しが掛けられて砲口から閃光が走る。

 

 

その閃光は迷うことなく直進し―――――箒に直撃した。

 

「ぅわぁっ!」

「あっ!」

 

ギリギリの所で拘束する手を緩める事で、箒の側の力を利用して位置を入れ替えた空。

ハサミが腕部固定式のチェインガンに換装され至近距離からの連射が箒を襲う。

 

紅椿が動かなくなるのに、五秒と掛らなかった。

 

 

「さて、」

 

箒を撃墜した空が、オレの方に視線を向ける。

 

「作戦は良かったけど、ちょっとツメが甘かったかな?」

 

言いながら、空はチェインガンを収納すると一丁の銃を取り出した。

 

 

その銃は、見覚えがあった。

 

六月の学年別トーナメント。

 

当時射撃兵装が一切なかったオレの白式の切り札として貸してもらった携行式の荷電粒子砲――――『((荷電粒子銃|ビーム・ライフル))』。

 

 

その火力は一般に普及している大型レーザー銃の倍以上という、まさに化物の様な銃。

 

右手が((銃把|グリップ))を、左手が((補助銃把|フォアグリップ))をそれぞれ握りしめ、ぴたりとオレに照準が合わせられる。

 

 

レーザーとは違い、加速した粒子が飛んでくる荷電粒子砲は零落白夜じゃ防げない。

ラファールのように防御特化パッケージが有れば話は別かもしれないが、白式に((防御特化パッケージ|そんなもの))は無い。

 

―――つまり、避けるしか無い。

 

 

がしゃん。

 

空の手の中の銃が音を立ててエネルギーパックを装填する。

 

こちらも、スラスターに荷電粒子砲を撃った後に残った僅かなエネルギーを背中のスラスターに回していつでも((瞬時加速|イグニッション・ブースト))が出来るように構える。

 

空がトリガーを引き、キュイン――とエネルギーパックから解放されたエネルギーが吼く。

「っ!」

 

同時にオレは地表スレスレを匍匐前進するかのような姿勢で((瞬時加速|イグニッション・ブースト))をかける。

 

ギリギリで上を通過する青白い閃光。

 

「でぇぇぇぇぇい!」

 

近づきながら雪片を展開し、瞬間的に零落白夜を発動させて斬りかかる。

 

あれだけの大威力砲は連射が効かないと相場が決まっている。

いや、連射したら銃身が持たないだろうしエネルギーの問題もある。

 

もう一丁があったとしても、収納もしくは放棄して次のを出すまでに、斬れる!

 

「あぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!」

 

だが、

 

『がしゃん。』――キュィン。

 

「ッ!」

 

再びの装填音。そして続くエネルギーが解放された時の音。

 

雪片が空に届くより早く、ライフルが火を噴きオレは成すすべなくその直撃を受けた。

 

 * * *

 

 

「エネルギーが切れそうになってたんなら、そう言えば良かったのに。」

 

無事、オレ達二人を撃墜した空だったが、((円状制御飛翔|サークル・ロンド))中の凶行の理由を問うてきたので答えたらそう言った。

 

「流石に、弾切れ、エネルギー切れになったら補充させるよ。休憩も必要だろうしね。」

 

そう言ってきた空にオレも箒もがっくりと肩を落とす。

 

「でも、まあ怪我の功名って処かな?」

 

満面の笑みを浮かべる空にオレ達は首を傾げる。

 

「いい動きしてたよ。とてもじゃないけどPICとスラスターと照準を((全部自力|マニュアル))で制御してるとは思えないくらいに。」

 

「あ!」

 

そう言われてオレと箒は気が付いた。

 

((円状制御飛翔|サークル・ロンド))から流れに合わせて襲いかかったために設定はそのまま。

つまり、スラスターとPICと照準その他諸々、普段は使って居る物もマニュアルにして使って居た。

 

そんな中でPIC制御どころか何気ない動作一つが命取りになるような対強敵戦をやらかし、それなりに喰らい付けたと言う事は無意識ながらも出来ていたという事になる。

 

「まあ、今回は火事場の馬鹿力的な物だろうから、それを安定して出せるようになる事が当座の目標かな。」

 

「…ああ。」

「はい。」

 

空が釘をさしてくるがそんな事は百も承知だ。

多分、それは空も判っているようで満足げに微笑むだけでそれ以上は言ってこない。

 

「文化祭の演武、楽しみにしてるよ。」

 

『今度何か奢るね』なんて言いながら空はアリーナを出てゆく。

その背中がちょっと煤けて見えたからきっとこれから書類仕事なんだろう。

………千冬姉のサポートとかの。

 

「で、だ。」

 

空を見送って、オレはアリーナの中央に視線を向ける。

 

「アレ、どうする?」

 

「………さあな。」

 

そこでは相変わらずの状態で我らが生徒会長どのが墜落したままの姿を晒していた。

 

「………とりあえず、簪に連絡をしておくとしよう。」

 

「………そだね。」

 

それから程なくして、簪さんと虚さんが担架を持ってやってきて墜落した会長を回収して行った。

 

その時見た会長の顔はまるで魂が抜けているかのような、端的に無礼とかそういうのを無視して言えば間の抜けた((表情|かお))をしていた。

判り易く言えば、埴輪?

まあ、そんな感じの所謂間抜け面だ。

 

そして、それを見てすぐに思い立った。

『………ああ、そうか。空に心を折られたんだな』と。

 

簪さんと虚さんに運ばれて行く会長を見送る。

 

なんとなくだが、敬礼しながら。

 

――――――無茶しやがって。

 

脳裏には気負いなく笑う会長の姿が浮かんでいた。

説明
#78:本番十二日前




―――誰かこの話の絵を書いてくれる人居ないかな。
動画でも可。
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